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第2章 夏空の少女

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ミナミが帰った後、ポチは酷く不機嫌そうだった。

マグカップのこと以外にポチが不機嫌になる理由が思い至らなくて、僕は謝るしかなかった。

「ごめん」

それでもポチは不機嫌そうな表情のまま、何故か首を横に振るのだから、特に僕に謝って欲しいわけではなかったみたいだ。

故に僕は無力にも愚直に尋ねるしかなかったのである。
僕とミナミの怪しい関係以外に彼女が怒ることなどたった一つしかない。

「どうして君がそんなに怒っているんだ? 貶されたのは僕の歌詞で、僕の感性のはずだよ?」

つまり、ポチは僕の才能を信じ切っているのだった。
それはもう残酷なほどの純粋無垢さで。

僕の問いを聞いた彼女はため息をついて、そのままベッドルームへと足を運んだ。
追いかけないわけにも行かなくて、僕もまたベッドルームに足を踏み入れた。

彼女は僕の布団に包まりながら、ぼそぼそと何かを呟いている。
怪訝に思いながらも、僕は彼女の言葉に耳を傾けた。

「……私は……いつも誰かの言葉を借りているの」

君はちょっとだけ寂しそうにそう言って、それからこう続けたっけ。

「……だから、上手く歌えなくなっちゃったの。……ミナミさんが羨ましくて、自分が情けなくて、タマの歌も嫌いになっちゃいそうで……」

喉を震わせながらそう言う彼女を、僕は布団ごと抱きしめた。

歌えないカナリヤは、それでもまだ僕だけのカナリヤだから。

そしてこの時、不謹慎にも僕は少し安堵していた。

歌えないなら、彼女はもうどこにも飛んでいかないだろう、そんな邪心が僕を蝕んでいたのだから。
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