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第1章 煙草と邂逅
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ようやく僕の呼吸が落ち着いた頃に、彼女はエントランスで僕の部屋のインターフォンを鳴らしていた。
慌てて煙草の火を消して、僕はモニター越しに映る彼女と目を合わせた。
相変わらず綺麗で、繊細そうな顔をしていた。
「どうして、ポチがここに……」
彼女の呼び名をぽそりと呟きながら、僕はオートロックの鍵を解除した。
僕の呼び名が「タマ」だったから、彼女の呼び名は「ポチ」。
ロマンチックにもほどがありすぎるな。
大人になってからそんなことを嘆いていたって仕方がないのだが。
今思えば、このときから既に僕の世界の何かが変わってしまう予感はしていた。
そして、ほとんど無意識のうちに僕は変化することが怖いと感じていた。
どこまでも惨めな僕の世界は、このままどこまでも惨めでいて欲しかった。
そうすれば多くを望まないままでいられるから。
そうすれば僕は夢を見続けられるのだから。
僕は夢を叶えたいのか、それとも夢を焦がれたいだけなのか。
果たして、僕の夢って一体なんなのだろうか。
そんな不安を感じるのは初めてで、なんとも言えない表情のまま僕は彼女を家に迎え入れることとなった。
「なんて顔してるのよ」
玄関に足を踏み入れるや否や、呆れるようにそう言って、ポチは僕を抱き締めた。
ただただ優しく、それでいて力強く。
彼女のそういうところに僕は惹かれたんだったっけ。
幼い頃の記憶が鮮明に脳裏に浮かぶ。
ぷかぷか、ぷかぷかと。
僕を纏う煙草の残り香が、まるで大人のようで途端に恥ずかしい。
何も変わりたくない、なんて言いながら、大人になる振りの煙草を燻らせているなんて。
「……お、かえり……ポチ」
羞恥を押し殺しながら、やっと紡ぎ出した言葉は、彼女のふわふわとした綿飴みたいな金の髪に吸収されてゆく。
そして、僕もまた彼女の背に腕を回した。
「ただいま、タマ」
彼女の声が僕の薄っぺらい胸板に響く。
彼女が少し照れているのが、僕の腕の中から伝わってきた。
こうして僕は、どことも知れない異国の地からようやっと帰ってきた幼馴染みの彼女と再会を果たしたのであった。
慌てて煙草の火を消して、僕はモニター越しに映る彼女と目を合わせた。
相変わらず綺麗で、繊細そうな顔をしていた。
「どうして、ポチがここに……」
彼女の呼び名をぽそりと呟きながら、僕はオートロックの鍵を解除した。
僕の呼び名が「タマ」だったから、彼女の呼び名は「ポチ」。
ロマンチックにもほどがありすぎるな。
大人になってからそんなことを嘆いていたって仕方がないのだが。
今思えば、このときから既に僕の世界の何かが変わってしまう予感はしていた。
そして、ほとんど無意識のうちに僕は変化することが怖いと感じていた。
どこまでも惨めな僕の世界は、このままどこまでも惨めでいて欲しかった。
そうすれば多くを望まないままでいられるから。
そうすれば僕は夢を見続けられるのだから。
僕は夢を叶えたいのか、それとも夢を焦がれたいだけなのか。
果たして、僕の夢って一体なんなのだろうか。
そんな不安を感じるのは初めてで、なんとも言えない表情のまま僕は彼女を家に迎え入れることとなった。
「なんて顔してるのよ」
玄関に足を踏み入れるや否や、呆れるようにそう言って、ポチは僕を抱き締めた。
ただただ優しく、それでいて力強く。
彼女のそういうところに僕は惹かれたんだったっけ。
幼い頃の記憶が鮮明に脳裏に浮かぶ。
ぷかぷか、ぷかぷかと。
僕を纏う煙草の残り香が、まるで大人のようで途端に恥ずかしい。
何も変わりたくない、なんて言いながら、大人になる振りの煙草を燻らせているなんて。
「……お、かえり……ポチ」
羞恥を押し殺しながら、やっと紡ぎ出した言葉は、彼女のふわふわとした綿飴みたいな金の髪に吸収されてゆく。
そして、僕もまた彼女の背に腕を回した。
「ただいま、タマ」
彼女の声が僕の薄っぺらい胸板に響く。
彼女が少し照れているのが、僕の腕の中から伝わってきた。
こうして僕は、どことも知れない異国の地からようやっと帰ってきた幼馴染みの彼女と再会を果たしたのであった。
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