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第1章 煙草と邂逅

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彼女は数年前のある日、どことも知れない外国へと旅立ってしまった。
いつ戻って来るかはわからない、なんて曖昧に微笑んで。

必死で引き留めようとする僕に、彼女は最後にこんな言葉を残したっけ。

「いずれ手放さなければならない場所に、大切なものは置かないわ」

あれは一体どういう意味だったのか。
今となってはもう知る術もない。

その後、たったの一度だけ送られてきた手紙はイギリスからのものだった。
僕は返事なんて来るわけがないと高を括ったが、それでもやっぱり彼女へ手紙を送り返さないわけにはいかなかった。

その頃に書いたあの詞は、確かデビューしたての三人組女性アイドルグループにくれてやったっけ。
それも、セカンドシングル曲だったかな。
もちろん、ヒットチャートにはならなくて。
程なくして、そのアイドルグループも解散となった。

誰に知られることもなく、誰に惜しむられることもなく、彼女たちはただ静かに沈んでいった。
僕の陳腐で有り触れた言葉たちと共にひっそりと心中していった。
今となってはグループの名前さえ、僕は思い出せやしない。

紡いだ言葉たちだけは、未練たらたらしく、痛むこの胸にしっかりと刻まれているというのに。

そのことがどうにも悔しくて、僕は煙草を吹かしながら鼻唄混じりに歌ってみた。
本当は君に捧ぐはずだったその歌を。

「手紙を出そう。永く永く続く夢路のための。あの子は今も元気でやってるか。胸が痛いや。どうしてだろう。真っさらな紙飛行機に想いを託して。あの子まで届くだろうか。あの街まで届くだろうか」

煙草に潰された嗄れた声は、凡劣たるこの歌によく似合っていた。

自分の作った曲に、否、正確には自分の綴った詞に、ただただ苦笑いするしかなかった。

その瞬間、何故か僕は彼女の声を聞いた。
たぶん、幻聴だろう。

「ねぇ! 良い歌じゃない」
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