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第2章 女の園に毒花が咲いた。

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「一緒に、逃げよう」

彼はそう言ったのだ。
慈しむように私を見つめながら。

その言葉に私は居てもたってもいられずに涙を流した。
悔しくて、悔しくて。

あの日の罪は消えやしないのに。
どうしたって私は彼を許せないのに。

彼の無神経さに、純粋さに、あの頃と変わらないその優しさに、辟易した。
あの頃の私はもういないのよ。

淫らにもなった。穢されもした。
残酷にも、冷徹にもなったのよ。

あれだけのことをして、何一つ変わっていない李凌が憎くて憎くて、それからほんのちょっとだけ羨ましかった。

だからこそ、私は微笑んで素直に頷いた。
だってこれはチャンスだ。

彼に復讐する最初で最後のチャンスなのかもしれないのだ。

「……私はずっと、ずっと、待っていたのよ。李陵、貴方だけを」

もしも貴方にもう一度逢うことが出来たとき、私は貴方に絶望を味わせてあげたいと思っていたの。
貴方が私に与えた以上の絶望を、ね。

李凌は私を抱き上げると、そのまま宮殿を飛び出した。

「白雪ーー!」

李麗の怒号が遠くから聞こえた。
悲しそうに叫ぶその声がどことなく愛らしく、そして嬉しかった。
いつの間にか随分と李麗に絆されていたらしい。

そんなことを考えている間に、李凌は私を抱えたまま馬に飛び乗った。

「捕まって」

私は彼の指示に従い、その首筋に腕を回した。
先程、李麗に折られた右腕が酷く痛む。

「……っ」

痛みを堪える為の吐息に李凌のものが反応した。
いくら腹違いといえども李凌と李麗はやはり兄弟なのだった。

人の痛む姿に興奮するなんて、とんだ変態ね。
そんな変態には少しサービスをしようかしら。

そんな風に思ったのは、李凌が相手だったからかもしれなかった。

馬の揺れに合わせて、私はこっそり腰を動かし始める。

布越しに李凌のそれが熱を帯びてくるのがわかった。
彼の体液と私の体液、それから李麗の残滓が混ざり合って、ぬちゃぬちゃとした音に昇華してゆく。

劣情と興奮と、嫉妬心が私をさらに高みへと昇らせていった。
李凌の厚い胸板に頭を預けて、甘い悩ましげな吐息を漏らす。

「……っはぁ、」

それに呼応するように、彼のものがさらに鋭く熱く凶器性をもって私の中に入ってこようとする。

そんな他愛もない挨拶程度の遊びに興じているうちに、目的の場所へと辿り着いたようだ。

「……着いたよ」

どこか名残惜しそうに彼はそう言った。
それから再び私を抱えあげて、馬から降りる。

そこは森の中だった。
真っ白な月の光が天から降り注がれ、木々達が神聖に煌めいている。

その木立の中、月の女神に祝福されたかのように神々しく、そしてどこか悲しげに1軒の館が建っていた。

「……綺麗」

思わず零した本音に李凌はふっと笑った。

「ここで一緒に住もう。もう誰も私たちを引き離したりはしないよ」

どこまでも甘美に満ちた彼の言葉に、私は皮肉な笑みを浮かべたのだった。
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