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第一話
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私は眼前に佇む墓標に向けて手を合わせる。
此処に眠っている最愛の人の前で、私はいつもの笑顔を作って見せた。
上手く笑えているだろうか。なんて。そんな事を気にしても意味はない。でも、分かっていても気になってしまうのは、この下に眠る父に見られている気がしてしまうからだ。
そんな殊勝な性格をしていた事実だけは、少しだけ笑える。意外と健気な所があったのだから、少しは女の子らしさというものが残っているんだろう。
そんな事を此処で言えば、墓の下から笑い声が聴こえて来そうだ。なんか、想像しただけで癪に障る。
私は立ち上がって、地面に置いていた手桶と柄杓を手に取った。
「それじゃ、また来る」
一言だけそう言って、私はその場を立ち去ることに。
手桶のセットを返却し駐車場へ。
停まっている車が少ないのは今日がまだ平日の水曜日だからか、他に私みたく墓参りをする人は見当たらなかった。
そろそろ私も仕事を探すべきだろうか。と、思ってもない事を考えてみる。
こんな気の回らない人間を雇ってくれる所があるとしても、そもそも働く気がまず無いんだから、考えるだけ無駄だ。
「お待たせ」
一言、言葉を投げかけてから愛車に跨る。
原形がよく分からないくらいにカスタムされた愛車は、250ccの小柄なバイク。ブリテッシュな雰囲気のクラシックカスタムがなされたバイクのタンクを軽く撫で付けて、私はエンジンを掛ける。
――――ドッドッドッ
鼓動のように脈動する音が全身に響き渡り、私はその心地良さに身を委ね、アクセルを軽く捻った。
「さて、行こうか」
『――――もういいのか?』
どこからともなく、その声は聴こえて来る。
それは中世的だけど、どちらかと言うと女性的な、ハスキーな声。
聞き慣れたその声に私は、当然のように返答する。私の他に誰も居ない虚空に向けて。
「久しぶりに帰るんだし、色々見て回ろうと思って」
そうか、と。そんな一言が聞こえて、私はアクセルを煽ってから目的地へ向けて発進した。
ああ、もう、嫌だ。
そろそろ家出でもしちゃおっかな。
「それじゃ、千紗。留守番よろしくね」
「千紗ちゃん、午後に荷物が届く筈だから、受け取っておいてくれるかな」
「うん、分かった。いってらっしゃい」
お母さんと、幸助さんが家を後にする。
今日も二人は楽しそうに旅行へ出掛けて行った。
「いいなぁ、旅行。まあ、新婚だしね。楽しそうで何よりだよ」
自室に戻って直ぐに真新しいベッドにダイブする。
部屋を見渡せば、まだ未開封のダンボールが沢山。
この家に引っ越して来てもう一週間になるけど、わたしはまだ荷物の整理を終わらせられないでいた。
早く片付けないととは思ってるけど、中々、そんな気分にもなれない。
「はぁ……なんか、疲れちゃったなぁ」
新しい生活は多分、快適なんだと思う。
だって、基本一人だし。
気を遣わないで済むっていうのは気楽でいい。けど、そんな生活が一週間も続くと、鈍感なわたしだって何となく気付いてしまう。
「わたし、何で此処に来たんだろ」
気付いた事実を受け止めるだけの度胸もない。
あくまでも現実から目を逸らして、わたしは今日も一人でスマホと睨めっこ。
ほんと、意味のない毎日だな。
「…………やっぱり、家出しちゃおっかな」
度胸のないわたしには無理だと思っていたけど、こんな生活をするくらいなら、それもいいかもしれない。
それに、わたしが急に居なくなったりしたら、お母さんだってきっと……。
「――よしっ、やるぞ、わたし!」
ベッドから跳ね起きて、直ぐにキャリーケースを手に取り、服や日用品を乱雑に詰めていく。
思い立ったが吉日……ううん、大吉日ってね!
此処に眠っている最愛の人の前で、私はいつもの笑顔を作って見せた。
上手く笑えているだろうか。なんて。そんな事を気にしても意味はない。でも、分かっていても気になってしまうのは、この下に眠る父に見られている気がしてしまうからだ。
そんな殊勝な性格をしていた事実だけは、少しだけ笑える。意外と健気な所があったのだから、少しは女の子らしさというものが残っているんだろう。
そんな事を此処で言えば、墓の下から笑い声が聴こえて来そうだ。なんか、想像しただけで癪に障る。
私は立ち上がって、地面に置いていた手桶と柄杓を手に取った。
「それじゃ、また来る」
一言だけそう言って、私はその場を立ち去ることに。
手桶のセットを返却し駐車場へ。
停まっている車が少ないのは今日がまだ平日の水曜日だからか、他に私みたく墓参りをする人は見当たらなかった。
そろそろ私も仕事を探すべきだろうか。と、思ってもない事を考えてみる。
こんな気の回らない人間を雇ってくれる所があるとしても、そもそも働く気がまず無いんだから、考えるだけ無駄だ。
「お待たせ」
一言、言葉を投げかけてから愛車に跨る。
原形がよく分からないくらいにカスタムされた愛車は、250ccの小柄なバイク。ブリテッシュな雰囲気のクラシックカスタムがなされたバイクのタンクを軽く撫で付けて、私はエンジンを掛ける。
――――ドッドッドッ
鼓動のように脈動する音が全身に響き渡り、私はその心地良さに身を委ね、アクセルを軽く捻った。
「さて、行こうか」
『――――もういいのか?』
どこからともなく、その声は聴こえて来る。
それは中世的だけど、どちらかと言うと女性的な、ハスキーな声。
聞き慣れたその声に私は、当然のように返答する。私の他に誰も居ない虚空に向けて。
「久しぶりに帰るんだし、色々見て回ろうと思って」
そうか、と。そんな一言が聞こえて、私はアクセルを煽ってから目的地へ向けて発進した。
ああ、もう、嫌だ。
そろそろ家出でもしちゃおっかな。
「それじゃ、千紗。留守番よろしくね」
「千紗ちゃん、午後に荷物が届く筈だから、受け取っておいてくれるかな」
「うん、分かった。いってらっしゃい」
お母さんと、幸助さんが家を後にする。
今日も二人は楽しそうに旅行へ出掛けて行った。
「いいなぁ、旅行。まあ、新婚だしね。楽しそうで何よりだよ」
自室に戻って直ぐに真新しいベッドにダイブする。
部屋を見渡せば、まだ未開封のダンボールが沢山。
この家に引っ越して来てもう一週間になるけど、わたしはまだ荷物の整理を終わらせられないでいた。
早く片付けないととは思ってるけど、中々、そんな気分にもなれない。
「はぁ……なんか、疲れちゃったなぁ」
新しい生活は多分、快適なんだと思う。
だって、基本一人だし。
気を遣わないで済むっていうのは気楽でいい。けど、そんな生活が一週間も続くと、鈍感なわたしだって何となく気付いてしまう。
「わたし、何で此処に来たんだろ」
気付いた事実を受け止めるだけの度胸もない。
あくまでも現実から目を逸らして、わたしは今日も一人でスマホと睨めっこ。
ほんと、意味のない毎日だな。
「…………やっぱり、家出しちゃおっかな」
度胸のないわたしには無理だと思っていたけど、こんな生活をするくらいなら、それもいいかもしれない。
それに、わたしが急に居なくなったりしたら、お母さんだってきっと……。
「――よしっ、やるぞ、わたし!」
ベッドから跳ね起きて、直ぐにキャリーケースを手に取り、服や日用品を乱雑に詰めていく。
思い立ったが吉日……ううん、大吉日ってね!
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