17 / 19
第十七話 カラオケ③
しおりを挟む
「めっちゃ下手クソじゃんか!」
ど直球に海堂の歌を評価する部長は、げらげらと品の無い笑い声を上げる。大爆笑だ。
「それで何で勝負する気になったんだよ」
「うるせぇな。売られた喧嘩は買う主義なんだよ」
「馬鹿だ! 馬鹿がいるぞ結希!」
「そうですね」
「日野さん⁉︎ 否定して下さいよ!」
「海堂」
「はいっ、何でしょう」
「お前は馬鹿だよ?」
「酷いですね⁉︎」
事実は事実だと肯定する強さが、僕にはある。
それにしても、本当に下手だった。
僕ほどではないにしても、それは酷い歌声で、とても聴いていられる様なものではなかった。
僕ほどではないけど。
「ということで、アタシの勝利だ。隠したがっていた休んでた理由を教えるがいい」
「くそっ……どうせ、言ったところで誰も信じやしねぇよ」
「僕は信じるよ」
「日野さん……」
それは信じるさ。
何があったのかもう分かってるし、信じない筈がない。
「ほら、言ってみろよ、何があった」
「……実は、その二週間、俺は」
「「俺は?」」
「――――アイドルに、なっていたんだ」
まてまて。
そんな事、心の中でさえ言ってなかったぞ。
何がどうなってそうなった。
「お前なに言ってんだ?」
「……順を追って話す」
海堂によると、二週間前。
学校から家に帰宅したら急激な風邪の症状で倒れ、意識を失ったらしい。
そして起きたのは翌朝。
風邪の症状は治り、問題ないと学校に行こうとしたところ、異変に気付いたという。
自分が女の子になっていることに。
「俺は驚いた。こんな事が現実に起きていることに……じゃねぇ。それも驚きだったが、俺は無意識のうちに自分じゃ絶対しねぇ、おかしな事を立て続けにやらかした」
「何だよおかしな事って」
「……何つーか、キャピキャピな感じの服を着て、歌って踊って、動画サイトに投稿して……凄え人気アイドルYourTuberになったんだ」
「ぶほぉっ」
「笑ってんじゃねぇよ」
……どういう事だろう。
部長が矢田さんと結託して調合した薬は二つ。
性別が変わる薬と性格が変わる薬の、どっちかの筈じゃ…………ああ、そう言う事か。
「部長、ちょっと」
「ん? 何だよ」
「もしかして……両方とも?」
「気付いたか。そう、両方混ぜた」
「あんた、海堂をモルモットか何かだと思ってるんですか」
「んな訳ある」
「立派なマッドサイエンティストになれて良かったですね」
しかし、海堂もどうやったかは知らないけど元に戻れたみたいだし、とりあえずはもう気にする必要もないだろう。
「じゃあ、他に問題は無かったんだな?」
「まあ、それぐらいだけどよ。ただ腹痛くなって辛かった」
「腹痛って嘘じゃなかったのかよ」
「俺は嘘なんて吐かねえ」
「ウケる」
「何がウケんだコラ」
楽しそうに話す二人を見ていた僕は、ふとカラオケの画面を見た。
するとそこで流れていたMVが、僕の好きなアーティストの歌で、最近良く聴く曲だった。
僕は態々カラオケに来たんだから、その好きな曲を思いっきり歌ってみたくなり、リモコンを操作して曲を入れる。
この二人は僕の歌を聴いても逃げない、とても気の良い人達だ。
折角だから聴いてもらおう。
「歌います」
「……お前、何してんだ?」
「ひ、日野さん、俺、貴方の為なら地獄にだってお供します」
「諦めるな海堂! コイツ抑えろ、歌わせんな!」
「俺にそんなこと出来る訳ねえだろ!」
「やるんだよ、じゃないと――」
二曲目。
僕の歌を聴いた二人は気絶してしまったので、そのまま興が乗った僕は三曲目と四曲目まで歌い、久しぶりに楽しめた。
これだけ楽しいならまた三人で来てもいいかもしれない。
カラオケってそんなに悪くないものだなと、僕は思った。
ど直球に海堂の歌を評価する部長は、げらげらと品の無い笑い声を上げる。大爆笑だ。
「それで何で勝負する気になったんだよ」
「うるせぇな。売られた喧嘩は買う主義なんだよ」
「馬鹿だ! 馬鹿がいるぞ結希!」
「そうですね」
「日野さん⁉︎ 否定して下さいよ!」
「海堂」
「はいっ、何でしょう」
「お前は馬鹿だよ?」
「酷いですね⁉︎」
事実は事実だと肯定する強さが、僕にはある。
それにしても、本当に下手だった。
僕ほどではないにしても、それは酷い歌声で、とても聴いていられる様なものではなかった。
僕ほどではないけど。
「ということで、アタシの勝利だ。隠したがっていた休んでた理由を教えるがいい」
「くそっ……どうせ、言ったところで誰も信じやしねぇよ」
「僕は信じるよ」
「日野さん……」
それは信じるさ。
何があったのかもう分かってるし、信じない筈がない。
「ほら、言ってみろよ、何があった」
「……実は、その二週間、俺は」
「「俺は?」」
「――――アイドルに、なっていたんだ」
まてまて。
そんな事、心の中でさえ言ってなかったぞ。
何がどうなってそうなった。
「お前なに言ってんだ?」
「……順を追って話す」
海堂によると、二週間前。
学校から家に帰宅したら急激な風邪の症状で倒れ、意識を失ったらしい。
そして起きたのは翌朝。
風邪の症状は治り、問題ないと学校に行こうとしたところ、異変に気付いたという。
自分が女の子になっていることに。
「俺は驚いた。こんな事が現実に起きていることに……じゃねぇ。それも驚きだったが、俺は無意識のうちに自分じゃ絶対しねぇ、おかしな事を立て続けにやらかした」
「何だよおかしな事って」
「……何つーか、キャピキャピな感じの服を着て、歌って踊って、動画サイトに投稿して……凄え人気アイドルYourTuberになったんだ」
「ぶほぉっ」
「笑ってんじゃねぇよ」
……どういう事だろう。
部長が矢田さんと結託して調合した薬は二つ。
性別が変わる薬と性格が変わる薬の、どっちかの筈じゃ…………ああ、そう言う事か。
「部長、ちょっと」
「ん? 何だよ」
「もしかして……両方とも?」
「気付いたか。そう、両方混ぜた」
「あんた、海堂をモルモットか何かだと思ってるんですか」
「んな訳ある」
「立派なマッドサイエンティストになれて良かったですね」
しかし、海堂もどうやったかは知らないけど元に戻れたみたいだし、とりあえずはもう気にする必要もないだろう。
「じゃあ、他に問題は無かったんだな?」
「まあ、それぐらいだけどよ。ただ腹痛くなって辛かった」
「腹痛って嘘じゃなかったのかよ」
「俺は嘘なんて吐かねえ」
「ウケる」
「何がウケんだコラ」
楽しそうに話す二人を見ていた僕は、ふとカラオケの画面を見た。
するとそこで流れていたMVが、僕の好きなアーティストの歌で、最近良く聴く曲だった。
僕は態々カラオケに来たんだから、その好きな曲を思いっきり歌ってみたくなり、リモコンを操作して曲を入れる。
この二人は僕の歌を聴いても逃げない、とても気の良い人達だ。
折角だから聴いてもらおう。
「歌います」
「……お前、何してんだ?」
「ひ、日野さん、俺、貴方の為なら地獄にだってお供します」
「諦めるな海堂! コイツ抑えろ、歌わせんな!」
「俺にそんなこと出来る訳ねえだろ!」
「やるんだよ、じゃないと――」
二曲目。
僕の歌を聴いた二人は気絶してしまったので、そのまま興が乗った僕は三曲目と四曲目まで歌い、久しぶりに楽しめた。
これだけ楽しいならまた三人で来てもいいかもしれない。
カラオケってそんなに悪くないものだなと、僕は思った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
水曜の旅人。
太陽クレハ
キャラ文芸
とある高校に旅研究部という部活動が存在していて。
その旅研究部に在籍している花咲桜と大空侑李が旅を通して多くの人々や物事に触れていく物語。
ちなみに男女が同じ部屋で寝たりしますが、そう言うことはないです。
基本的にただ……ただひたすら旅に出かけるだけで、恋愛要素は少なめです。
ちなみにちなみに例ウイルスがない世界線でのお話です。
ちなみにちなみにちなみに表紙イラストはmeitu AIイラストメーカーにて作成。元イラストは私が書いた。
グリモワールと文芸部
夢草 蝶
キャラ文芸
八瀬ひまわりは文芸部に所属する少女。
ある日、部室を掃除していると見たことのない本を見つける。
本のタイトルは『グリモワール』。
何気なくその本を開いてみると、大きな陣が浮かび上がって……。
モナリザの君
michael
キャラ文芸
みなさんは、レオナルド・ダ・ヴィンチの名作の一つである『モナリザの微笑み』を知っているだろうか?
もちろん、知っているだろう。
まさか、知らない人はいないだろう。
まあ、別に知らなくても問題はない。
例え、知らなくても知っているふりをしてくれればいい。
だけど、知っていてくれると作者嬉しい。
それを前提でのあらすじです。
あるところに、モナリザそっくりに生まれてしまった最上理沙(もがみりさ)という少女がいた。
この物語は、その彼女がなんの因果かお嬢様学園の生徒会長を目指す話である。
それだけの話である。
ただキャラが濃いだけである。
なぜこんな話を書いてしまったのか、作者にも不明である。
そんな話でよければ、見て頂けると幸いです。
ついでに感想があるとなお幸いです。
君に★首ったけ!
鯨井イルカ
キャラ文芸
冷蔵庫を開けると現れる「彼女」と、会社員である主人公ハヤカワのほのぼの日常怪奇コメディ
2018.7.6完結いたしました。
お忙しい中、拙作におつき合いいただき、誠にありがとうございました。
2018.10.16ジャンルをキャラ文芸に変更しました
まる男の青春
大林和正
キャラ文芸
ほぼ1話完結となってるシリーズモノです
どれから読んでも大丈夫です
1973年生まれのまる男は小学校1年の頃から、ある理由でプロも通うボクシングジムで学校以外、ボクシング漬けだった。そして、中学校、友達に誘われて野球部に入る。運動神経は怪物だけど、常識のだいぶずれた少年と少し奥手な仲間たちの物語である
2年死ィ組 カイモン先生
有
キャラ文芸
先生vs現代教育、先生vsイジメ問題、先生vs理事長、先生vsPTA……
現代の悪化をたどる腐りきった教育問題をボクらの担任の先生がさらに悪化させる、衝撃の問題作がここに登場。
担任の先生の名は海電悶次郎、ひと呼んでカイモン先生!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる