遊部のおかしな日常

木乃十平

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第十七話 カラオケ③

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「めっちゃ下手クソじゃんか!」

 ど直球に海堂の歌を評価する部長は、げらげらと品の無い笑い声を上げる。大爆笑だ。

「それで何で勝負する気になったんだよ」
「うるせぇな。売られた喧嘩は買う主義なんだよ」
「馬鹿だ! 馬鹿がいるぞ結希!」
「そうですね」
「日野さん⁉︎ 否定して下さいよ!」
「海堂」
「はいっ、何でしょう」
「お前は馬鹿だよ?」
「酷いですね⁉︎」

 事実は事実だと肯定する強さが、僕にはある。
 それにしても、本当に下手だった。
 僕ほどではないにしても、それは酷い歌声で、とても聴いていられる様なものではなかった。
 僕ほどではないけど。

「ということで、アタシの勝利だ。隠したがっていた休んでた理由を教えるがいい」
「くそっ……どうせ、言ったところで誰も信じやしねぇよ」
「僕は信じるよ」
「日野さん……」

 それは信じるさ。
 何があったのかもう分かってるし、信じない筈がない。

「ほら、言ってみろよ、何があった」
「……実は、その二週間、俺は」
「「俺は?」」
「――――アイドルに、なっていたんだ」

 まてまて。
 そんな事、心の中でさえ言ってなかったぞ。
 何がどうなってそうなった。

「お前なに言ってんだ?」
「……順を追って話す」

 海堂によると、二週間前。
 学校から家に帰宅したら急激な風邪の症状で倒れ、意識を失ったらしい。
 そして起きたのは翌朝。
 風邪の症状は治り、問題ないと学校に行こうとしたところ、異変に気付いたという。
 自分が女の子になっていることに。

「俺は驚いた。こんな事が現実に起きていることに……じゃねぇ。それも驚きだったが、俺は無意識のうちに自分じゃ絶対しねぇ、おかしな事を立て続けにやらかした」
「何だよおかしな事って」
「……何つーか、キャピキャピな感じの服を着て、歌って踊って、動画サイトに投稿して……凄え人気アイドルYourTuberになったんだ」
「ぶほぉっ」
「笑ってんじゃねぇよ」

 ……どういう事だろう。
 部長が矢田さんと結託して調合した薬は二つ。
 性別が変わる薬と性格が変わる薬の、どっちかの筈じゃ…………ああ、そう言う事か。

「部長、ちょっと」
「ん? 何だよ」
「もしかして……両方とも?」
「気付いたか。そう、両方混ぜた」
「あんた、海堂をモルモットか何かだと思ってるんですか」
「んな訳ある」
「立派なマッドサイエンティストになれて良かったですね」

 しかし、海堂もどうやったかは知らないけど元に戻れたみたいだし、とりあえずはもう気にする必要もないだろう。

「じゃあ、他に問題は無かったんだな?」
「まあ、それぐらいだけどよ。ただ腹痛くなって辛かった」
「腹痛って嘘じゃなかったのかよ」
「俺は嘘なんて吐かねえ」
「ウケる」
「何がウケんだコラ」

 楽しそうに話す二人を見ていた僕は、ふとカラオケの画面を見た。
 するとそこで流れていたMVが、僕の好きなアーティストの歌で、最近良く聴く曲だった。
 僕は態々カラオケに来たんだから、その好きな曲を思いっきり歌ってみたくなり、リモコンを操作して曲を入れる。
 この二人は僕の歌を聴いても逃げない、とても気の良い人達だ。
 折角だから聴いてもらおう。

「歌います」
「……お前、何してんだ?」
「ひ、日野さん、俺、貴方の為なら地獄にだってお供します」
「諦めるな海堂! コイツ抑えろ、歌わせんな!」
「俺にそんなこと出来る訳ねえだろ!」
「やるんだよ、じゃないと――」

 二曲目。
 僕の歌を聴いた二人は気絶してしまったので、そのまま興が乗った僕は三曲目と四曲目まで歌い、久しぶりに楽しめた。
 これだけ楽しいならまた三人で来てもいいかもしれない。
 カラオケってそんなに悪くないものだなと、僕は思った。



 



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