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第十三話 料理
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「レッツ、クッキング!」
ピンク色の生地に、デフォルメされた可愛い兎が描かれたエプロンを着た部長は、泡立て器を天に掲げて雄叫びをあげた。
やる気満々なのは結構だが、部長がまともな料理を出来るかとても心配です。
「何だその、コイツまともに料理出来んのかよみたいな視線は」
「ナンノコトデスカ」
「誤魔化すの下手くそか」
悪かったです、悪かったですから、泡立て器で殴ろうとするのはやめて。
「でも急に料理なんて。ここ家庭科室ですけど、料理研究部が使ってる筈じゃ」
「料理研の部長はアタシの幼馴染でな。言ったら快く貸してくれた」
「はぁ、そうですか」
部長の幼馴染なんて絶対まともじゃない同類か、正反対の真人間のどちらかに決まってる。今の所、部室を貸すくらいだから、前者の可能性の方が高い。絶対関わりなくない。
「それで、何作るんですか?」
「今日はだなぁ――これだ」
バッグから取り出された雑誌に載っている料理。それは、シチューだった。
「シチューですか。いいですね」
「シチュー好きなんだよアタシ。良く覚えとけよ」
「何故。というか、もしかしなくても僕も手伝うんですよね」
「当然だろ、何を今更」
ほれ、と。
紺色のエプロンを差し出され、受け取った僕は、大人しくそれを身につけて手を洗う。
仕方ない、やりますか。
「じゃあ、僕は野菜洗うんで、他の準備しちゃって下さいよ」
「やる気じゃん」
「そうせざるを得ないからですね」
「ふん、アタシと料理出来ることを光栄に思えよ」
「偉そうにしても大きくは見えませんよ」
「どこをを見て言ったこの野郎! 胸かぁ? おっぱいなのかぁ? ああ⁉︎」
怒る部長をスルーして、せっせと野菜を洗う。
色々言いつつも、部長も準備を進めていく。ぷりぷり怒ってはいるが手際は良い。
「ところで部長、普段から料理するんですか?」
「割とするぞ。こう見えて手先も器用でな。こういうのは得意だ」
「どう見ても不器用そうだからめちゃくちゃ驚いてます」
「それなら少しは表情を動かせ」
僕はあまり料理は得意じゃない。自分で作るより買った方が早いし、テレポートを使えば飲食店やコンビニに行く手間もない。色々あってお金はあるから必要な手間に思えないのが一番の要因だけど。身体には良くないんだよな。
だから素直に凄いと思う。
自分に出来ないことが出来る人というのは、それだけで尊敬出来る。
「まあ……部長を尊敬はちょっとなぁ」
「失礼な事をぶつぶつ言ってないで、野菜を切れ」
「分かりました」
言われて、まずは人参を切る。
ゴロゴロした一口サイズにカットすればいいだろう。
ガッ。
「っぶね」
人参を抑えていた指を危うく斬り落とす所だった。
どうも昔から刃物は苦手だ。
もう少し気を付けないと。
ガッ。
「あてっ」
今度は見事にスパッと切ってしまった。
やっぱり向いていないなと実感する。
しかしまあ、よく血が出てくるな。
思っていたより深めに斬りつけてしまったらしい。
「ま、いっか」
「いや良くねぇよ⁉︎ たまにお前凄い馬鹿になるよな! ちょっとこっち来い!」
いやいや、このくらい大した事な……馬鹿じゃないですから。
「馬鹿じゃないので」
「どうでもいいから早くこっち来い」
部長と向かい合って座る。
いつの間に用意したのか、テーブルの上には救急箱が置かれていた。
まるで僕が怪我すると分かっていたみたいに準備がいい。僕みたいな超能力者でもないのに、まるで先を見通しているみたいだ。
超能力者として少しだけ悔しい気持ちになる。
「結希がこうなる事を見通していたんだよ」
「僕の考えまで見通しました?」
「ああ? 何言ってんだ?」
「いえ、何でも」
大人しく部長に手を取られ、消毒を受ける。
「消毒染みるだろ」
「まあ、そうですね」
「結構深いから痛いだろうに、痩せ我慢するなって」
「いえ、痛みには慣れてますから」
「サラッと闇深いことを言うな」
「はぁ……」
「まあ? アタシみたいな美少女に手当てされれば、痩せ我慢もしたくなるよな」
「ソウデスネ」
「誤魔化すの下手くそか」
そんなことを話していると、何処からか何かが吹き上がるような音が――。
「部長! 鍋! 吹きこぼれ!」
「しまったああっ‼︎」
部長が急いで鍋の火を消す。
消すことは出来たが、辺りは吹きこぼれのせいで水浸しだ。
「どうします? 部長」
「はぁ……とりあえず」
バシッと。
僕の指に絆創膏が貼られると、部長はとても面倒くさそうに言った。
「帰るか」
「いや、流石にこれ片付けましょうよ」
「ぶぅーっ」
「ぶつくさ言わない」
「仕方ね。今日はもう片付けて帰るぞ」
「料理は?」
「また今度なー」
「何しに来たんですか」
ただ僕が怪我をしただけなんだけど。
それから二人でせっせと片付けを終わらせ、僕達は特に何かした訳でもないまま、帰路に着いたのであった。
「エプロンの汚れ落ちねえ」
「オチないですからね」
ピンク色の生地に、デフォルメされた可愛い兎が描かれたエプロンを着た部長は、泡立て器を天に掲げて雄叫びをあげた。
やる気満々なのは結構だが、部長がまともな料理を出来るかとても心配です。
「何だその、コイツまともに料理出来んのかよみたいな視線は」
「ナンノコトデスカ」
「誤魔化すの下手くそか」
悪かったです、悪かったですから、泡立て器で殴ろうとするのはやめて。
「でも急に料理なんて。ここ家庭科室ですけど、料理研究部が使ってる筈じゃ」
「料理研の部長はアタシの幼馴染でな。言ったら快く貸してくれた」
「はぁ、そうですか」
部長の幼馴染なんて絶対まともじゃない同類か、正反対の真人間のどちらかに決まってる。今の所、部室を貸すくらいだから、前者の可能性の方が高い。絶対関わりなくない。
「それで、何作るんですか?」
「今日はだなぁ――これだ」
バッグから取り出された雑誌に載っている料理。それは、シチューだった。
「シチューですか。いいですね」
「シチュー好きなんだよアタシ。良く覚えとけよ」
「何故。というか、もしかしなくても僕も手伝うんですよね」
「当然だろ、何を今更」
ほれ、と。
紺色のエプロンを差し出され、受け取った僕は、大人しくそれを身につけて手を洗う。
仕方ない、やりますか。
「じゃあ、僕は野菜洗うんで、他の準備しちゃって下さいよ」
「やる気じゃん」
「そうせざるを得ないからですね」
「ふん、アタシと料理出来ることを光栄に思えよ」
「偉そうにしても大きくは見えませんよ」
「どこをを見て言ったこの野郎! 胸かぁ? おっぱいなのかぁ? ああ⁉︎」
怒る部長をスルーして、せっせと野菜を洗う。
色々言いつつも、部長も準備を進めていく。ぷりぷり怒ってはいるが手際は良い。
「ところで部長、普段から料理するんですか?」
「割とするぞ。こう見えて手先も器用でな。こういうのは得意だ」
「どう見ても不器用そうだからめちゃくちゃ驚いてます」
「それなら少しは表情を動かせ」
僕はあまり料理は得意じゃない。自分で作るより買った方が早いし、テレポートを使えば飲食店やコンビニに行く手間もない。色々あってお金はあるから必要な手間に思えないのが一番の要因だけど。身体には良くないんだよな。
だから素直に凄いと思う。
自分に出来ないことが出来る人というのは、それだけで尊敬出来る。
「まあ……部長を尊敬はちょっとなぁ」
「失礼な事をぶつぶつ言ってないで、野菜を切れ」
「分かりました」
言われて、まずは人参を切る。
ゴロゴロした一口サイズにカットすればいいだろう。
ガッ。
「っぶね」
人参を抑えていた指を危うく斬り落とす所だった。
どうも昔から刃物は苦手だ。
もう少し気を付けないと。
ガッ。
「あてっ」
今度は見事にスパッと切ってしまった。
やっぱり向いていないなと実感する。
しかしまあ、よく血が出てくるな。
思っていたより深めに斬りつけてしまったらしい。
「ま、いっか」
「いや良くねぇよ⁉︎ たまにお前凄い馬鹿になるよな! ちょっとこっち来い!」
いやいや、このくらい大した事な……馬鹿じゃないですから。
「馬鹿じゃないので」
「どうでもいいから早くこっち来い」
部長と向かい合って座る。
いつの間に用意したのか、テーブルの上には救急箱が置かれていた。
まるで僕が怪我すると分かっていたみたいに準備がいい。僕みたいな超能力者でもないのに、まるで先を見通しているみたいだ。
超能力者として少しだけ悔しい気持ちになる。
「結希がこうなる事を見通していたんだよ」
「僕の考えまで見通しました?」
「ああ? 何言ってんだ?」
「いえ、何でも」
大人しく部長に手を取られ、消毒を受ける。
「消毒染みるだろ」
「まあ、そうですね」
「結構深いから痛いだろうに、痩せ我慢するなって」
「いえ、痛みには慣れてますから」
「サラッと闇深いことを言うな」
「はぁ……」
「まあ? アタシみたいな美少女に手当てされれば、痩せ我慢もしたくなるよな」
「ソウデスネ」
「誤魔化すの下手くそか」
そんなことを話していると、何処からか何かが吹き上がるような音が――。
「部長! 鍋! 吹きこぼれ!」
「しまったああっ‼︎」
部長が急いで鍋の火を消す。
消すことは出来たが、辺りは吹きこぼれのせいで水浸しだ。
「どうします? 部長」
「はぁ……とりあえず」
バシッと。
僕の指に絆創膏が貼られると、部長はとても面倒くさそうに言った。
「帰るか」
「いや、流石にこれ片付けましょうよ」
「ぶぅーっ」
「ぶつくさ言わない」
「仕方ね。今日はもう片付けて帰るぞ」
「料理は?」
「また今度なー」
「何しに来たんですか」
ただ僕が怪我をしただけなんだけど。
それから二人でせっせと片付けを終わらせ、僕達は特に何かした訳でもないまま、帰路に着いたのであった。
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