遊部のおかしな日常

木乃十平

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第八話 王様ゲーム①

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「第一回、王様げぇーむ!」

 僕は目の前に差し出された割り箸で作られたクジを見て思う。
 凄く嫌だ、と。

「嫌だ。俺はやんねえよ」

 どうやら同意見の奴がもう一人。
 遊部、四人目の部員である海堂は、睨みつける様に部長にそう言った。
 別に睨んでいる訳ではなく、元の目付きがそう思わせるだけなんだけど、それが原因で結構不良に絡まれたりしている。
 そして相変わらず、先輩に対する口調がなってない奴だ。

「生意気だな海堂。お前はアタシをもう少し敬え!」
「ざけんな、チビ」
「誰がチビだああっ!」

 水と油の如く反発し合う二人は、一緒に居るといつもこうなる。
 いつも来ない海堂が此処に居るのは、部活の更新書類の提出の為だ。
 うちの学校は全生徒に入部義務があり、一年毎に更新の手続きがある。
 そして海堂は遊部の人数合わせの為の幽霊部員。
 多くの部活が存在する学校故に、人を集めるのにも苦労する。ただでさえ意味のわからない部活だ。
 海堂は僕のツテで声を掛け、廃部を免れる為に在籍して貰っているのだ。

「お前、いい加減にしろよ⁉︎」
「何で一年早く産まれただけの奴を敬わなきゃなんねえんだ? そういう意味わからん理由で偉そうにする奴、俺は嫌いなんだよ」
「んぐぐぐっ!」
「部長、どうどう」

 部長がキレそうになっているので、落ちかせつつ、海堂に一言だけ注意することにした。

「海堂、本音でも後が面倒くさくなるから、余りそういう事言わないように」
「はい。すいませんでした、日野さん」
「だから何で結希には下手に出るんだよ! アタシは⁉︎ アタシ部長だぞ⁉︎」

 僕は再び部長を落ち着かせつつ、海堂にもう一言。

「付き合ってやってよ」
「分かりました。おい、そういう事だ。やってやるよ、おチビ」
「泣かす! 絶対泣かす! 王の命令には絶対逆らえないんだからな!」
「望むところだ」

 ヒートアップする二人の様子を見て、絶対今日も碌な遊びにならないなと思う。
 しかし、王様ゲームって泣かせる為にやるもんじゃないよね。

「ほらやるぞ」
「いや、ちょっと待って下さい。そろそろ来ると思うんで」

 僕は机の上に置かれた割り箸の束を手に持ちつつ、スマホで時刻を確認する。
 時間からしてそろそろ来る頃だ。

 ガララッ。

「すいませ~ん。遅れましたぁ」
「おお! 美兎、今日は来れたのか?」
「ええ、今日は習い事がない日なので~……ってあれ、もしかして王様ゲームですか?」
「そうだ、美兎もやるぞ!」
「私、一度やってみたかったんですよ~。参加させて貰いますー」

 もう一人増えて人数は四人。
 これなら一応、それなりに楽しめるゲームになる筈だ。
 僕は割り箸のクジを持って手を三人に差し出す。

「それじゃ、いきますよー。王様だーれだ」
「そおい!」
「ふん」
「えいっ」

 先ず最初の王様は――僕だ。

「流石、沢城さん。やはり貴方こそが王に相応しい」
「海堂、そういうのいいから」
「早く言えよ、命令」
「日野君、えっちなのはダメですよ?」
「いや、やらないよ」

 ん~、そうだなぁ。
 それじゃあ……

「一番と三番は一発ギャグ」
「アタシ一番だ。ツイてねぇ」
「沢城さんの命令ならば」

 部長と海堂は席を立つ。
 先ず部長から。

「――ドナルド○ックの真似」

 ということで、渾身のモノマネを披露。
 一発ギャグというよりモノマネなんだけど、まあ、いいか。
 顔の肉をたわませる程の、顔芸付きの力作であった為、何も言うまい。
 女の尊厳さえ遊びの為なら捨てられるとでも言うのだろうか。
 その心持ちに戦慄を禁じ得ない。
 流石、遊部の部長なだけはある。遊びの為なら己の可愛さすら投げ出す覚悟。いざとなったら逃げ出そうとか考えていた己を恥じる。もう退路は絶たれたと言っても過言じゃない。
 まだ始めの命令だというのに、下剋上を受けてしまった気分だ。

「流石はこの意味わからん部活の部長といったところか……少しだけ見直したぜ」

 海堂も僕と同じ思考に至ったのか、そんな事を言う。

「次は俺だな。行くぜ――そんなの関係」
「よし次行こう」

 僕は海堂が部長に負けじとブーメランパンツ一丁になる前に遮って、強制的に二回戦目へ突入させる。いや、古いなネタが。
 というか女の子も居るんだから、そこまではやらせられない。

「王様だーれだ」

 次の王様を決めるべくクジを再び引く。
 すると次の王に決まったのは……

「あっ、私ですぅ~」

 雨宮だった。
 彼女ならあの二人よりも、まともな命令をしてくれる筈だ。

「そうですねぇ……決めました! 一番と二番の人が――」
「一番は俺だな」
「二番は僕ですね」
「――ほっぺにチュウ、にしましょ~」

 一瞬にして場の空気が凍りついた気がした。
 悪魔の所業だよ、雨宮さん……アンタ悪魔だ。

「日野さん、俺は、いいっすよ」
「僕が良くない」

 世迷言を言う海堂と距離を置きつつ、どうにかこの事態を潜り抜ける方法を探るが――思いもよらぬ所からの助け船が現れる。

「んじゃあ、一回だけ拒否出来る様にするのはどうだ?」
「ええ~。莉里部長、それはないですよぉ」
「部長権限だ」
「もう、仕方ないですねぇ」

 真逆、部長がそんな特別ルールを許可するなんて思ってなかったから、素直に驚く。
 今回ばかりは本当に救われた。

「それじゃあ、パスで」
「よし、結希はもうパスは使えないからな」
「はい。助かりました部長」
「いいってことよ」

 何故僕に都合のいいルールを付け足したのかはよく解らないけど、今は助かったので甘んじて受け入れよう。

「王様だーれだ」

 三回戦目。
 次の王は、

「俺だ」

 海堂だった。

「クソッ! お前かよ」
「ふん、俺の命令に従わせてやる」
「でも、番号が分からないと従わせられませんよねぇ」
「それなら、全員に罰ゲームを」
「それだとお前の尊敬する結希まで苦しむが?」
「――なん、だと?」

 たまに抜けてるんだよな、海堂。
 別に僕はまだいいんだが、雨宮まで巻き込むことについては罪悪感ないんだ。

「仕方ない……沢城さん、番号を見せーー」
「それはルール違反! ダメだぞ!」
「それは良くないですよぉー」
「海堂、そういうことだよ」
「うぐっ……仕方ない、一番が腹筋を百回やる、で」
「僕だね」
「すいませんでしたあああッ‼︎」
「いやいいよ、別にこれくらい」

 即座に土下座する海堂を起き上がらせて、僕は腹筋を始める。

「本当に何でここまで対応が違うんだコイツ」
「まるで師匠と弟子みたいでカッコいいですよねぇ~」
「うん、美兎の感性は良く分からんな。んでもって結希、腹筋めっちゃ早いな」
「九十八、九十九、百――終わりました、次やりましょう」
「アタシはお前が良く分からなくなって来たぞ」

 何故か疲れた様子の部長に呆れられるようにそう言われた。
 とりあえず、僕の罰ゲームも終わったので、次の四回戦に移るとしよう。
 僕は再び割り箸を手にして、三人へ差し出した。

「はい、せーの」
「王様だーれだ」

 四回戦目。ここから僕達遊部の、波乱のゲームが幕を開けた。

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