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第五話 台詞大会
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「好きな漫画の台詞大会ー!」
部室に着いたのと同時に、部長が開口一番そんな事を言った。
「漫画の台詞?」
「そうだ、漫画の台詞だ。結希、お前結構漫画見るタイプだったよな?」
「まあ、ニュータイプではありますけど」
「お前は超人なのか?」
「まさか通じるとは……しかし、何でまた」
僕は椅子に座りつつ彼女に問いかける。
桃色をベースにした所々水色のメッシュの入った髪を、左手でバサッと大きく払って、
「――行こうか同志諸君、撃鉄を起こせ!」
髪を靡なびかせながらそう言った。
うん、分かったよ。
分かったしカッコいいけども。
「カッコいいだろう」
「まあ」
「そうだ、カッコいいんだ。だから『やる理由はそれで十分だろう』?」
「……それも何かの漫画の台詞ですか?」
「は? いや、違うけど」
「ああ……そうですか」
何だ、素の彼女の台詞をちょっとカッコいいなと思ったことが、何となく悔しい。
「じゃあ次、結希の番な」
「ああ、やるんですか。そうですか……何か恥ずかしいな」
「恥は捨てろ。楽しめ」
いちいち部長の台詞がカッコ良く思えてきた。
いかんいかん。この人がカッコいいとか気の所為だ。
可愛いなら分かるけど、カッコいいはない。
「それじゃあ」
普段しないような何時もと違う声色で、キャラになり切って……。
「――最後まで希望を捨てちゃいかん。あきらめたら、そこで試合終了だよ」
「いや、何でだよ」
おっと、部長は何か不満らしい。
しっかりなりきってみたというのに、どこがいけなかったんだろう。
「何か問題でも」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ。いや、ある意味カッコいいけど、そうじゃない。しかも演技力凄えなお前。恰幅良く見えたもん、髭と眼鏡見えたもん」
「それはどうも」
こういう感じは好みではないらしい。
次はちょっと違う感じにしよう。
「じゃあ、次はアタシな」
「ええ、どうぞ」
部長は仁王立ちで腰に手を当て、言う。
「――撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ」
「気迫があってまあ、カッコいいですね」
「だろ? 次お前な。あれだぞ、ちゃんとカッコいい感じでな」
「任せて下さいよ。次は自信あるんで」
僕は立ち上がって雰囲気を作り上げる。
真剣な表情で、哀しそうに。
どうにもならない事を前にした、人間の心理を体現するが如く。
数秒かけて涙を流し、目の前の部長が完全にこちらに釘付けになったのを見て、タイミングを見計らって言葉を紡ぐ。
「――笑えばいいと思うよ」
「ぶふぅ⁉︎」
僕の渾身の台詞に、急に吹き出した部長。
何が面白いんだ。
「ひひっ、あはははっ! そっ、それは卑怯だろ! エヴァじゃん! なんでそこのシーンチョイスしてんの、お前はさっきからボケのつもりか⁉︎」
「ボケてませんよ、何ですか。僕の思うカッコいい台詞を否定ばかり」
「違う、違くてな、そうじゃないんだよ。まあ、もう分かった。結希はちょっと感性がアレなだけなんだな」
「アレってどれですか」
くそっ。そこまで言われたら次こそは絶対、カッコ良い台詞を言ってやる。
僕はスマホで検索をかける。
とりあえず、カッコいい男キャラの台詞を……。
「じゃあ次アタシな」
「どうぞどうぞ」
とりあえず、次の台詞を定めてから、僕は部長の方を静観する。
「――お前が信じる俺でもない、俺が信じるお前でもない。お前が信じるお前を信じろ」
……分かった、信じますよ。
次こそ自分の感性を信じて、カッコいい台詞を言ってやる。
「どうだった?」
「勇気貰いました」
「ん? おー、ん? そうか」
「それじゃ。次、いきますよ」
「おー、しっかりな」
僕はもう一度スマホの画面を見て台詞を確認。
女子的にカッコいい台詞三十選(恋愛漫画編)から選んだこの台詞なら、間違いない筈だ。
どんなシーンかは分からないから、適当に台詞に合った感じで。
「……ん? どうした結希」
僕は部長の側まで歩いて近づくと、そのまま彼女を見下ろす様にして、真剣な表情を作る。
ターコイズ色の綺麗な眼を見つめて、雰囲気はバッチリだ。
何時もはガサツで猿みたいな凶暴性を発揮する彼女も、今は大人しい。
そのまま軽く、彼女に微笑みながら、僕は普段よりも大分低い声で台詞を言う。
「――俺以外、誰も好きにならないで」
ーーーガララッ。
僕が台詞を言い終えるのと、部室の扉が開くのはほぼ同時だった。
「雨宮美兎到着ですー、遅くなりましたぁ…………はい?」
ぺたん、と。
尻餅をついてしまった部長は茹で蛸みたく赤くなった。かと思えば、唐突にやって来た雨宮の方を見て、更に真っ赤に染まり上がってしまう。
僕はその一連の流れを脳内で反復し、これは不味いなと理解すると、冷静に事態の収拾を計ろうとした……のだが。
「私はお邪魔の様ですので、二人でごゆっくり~」
「違う違う違う‼︎ 美兎待て、違うから! 結希もなんか言え!」
「笑えばいいと思うよ」
「ふざけんなよ笑えるか!」
雨宮の誤解を解くのも、なんか面倒くさい。
もうどうにでもなれと、大人しく席について読書を始める事にした。
それから暫く、部長が何故か僕によそよそしかった理由は、よく分からないままである。
部室に着いたのと同時に、部長が開口一番そんな事を言った。
「漫画の台詞?」
「そうだ、漫画の台詞だ。結希、お前結構漫画見るタイプだったよな?」
「まあ、ニュータイプではありますけど」
「お前は超人なのか?」
「まさか通じるとは……しかし、何でまた」
僕は椅子に座りつつ彼女に問いかける。
桃色をベースにした所々水色のメッシュの入った髪を、左手でバサッと大きく払って、
「――行こうか同志諸君、撃鉄を起こせ!」
髪を靡なびかせながらそう言った。
うん、分かったよ。
分かったしカッコいいけども。
「カッコいいだろう」
「まあ」
「そうだ、カッコいいんだ。だから『やる理由はそれで十分だろう』?」
「……それも何かの漫画の台詞ですか?」
「は? いや、違うけど」
「ああ……そうですか」
何だ、素の彼女の台詞をちょっとカッコいいなと思ったことが、何となく悔しい。
「じゃあ次、結希の番な」
「ああ、やるんですか。そうですか……何か恥ずかしいな」
「恥は捨てろ。楽しめ」
いちいち部長の台詞がカッコ良く思えてきた。
いかんいかん。この人がカッコいいとか気の所為だ。
可愛いなら分かるけど、カッコいいはない。
「それじゃあ」
普段しないような何時もと違う声色で、キャラになり切って……。
「――最後まで希望を捨てちゃいかん。あきらめたら、そこで試合終了だよ」
「いや、何でだよ」
おっと、部長は何か不満らしい。
しっかりなりきってみたというのに、どこがいけなかったんだろう。
「何か問題でも」
「そうじゃない、そうじゃないんだよ。いや、ある意味カッコいいけど、そうじゃない。しかも演技力凄えなお前。恰幅良く見えたもん、髭と眼鏡見えたもん」
「それはどうも」
こういう感じは好みではないらしい。
次はちょっと違う感じにしよう。
「じゃあ、次はアタシな」
「ええ、どうぞ」
部長は仁王立ちで腰に手を当て、言う。
「――撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ」
「気迫があってまあ、カッコいいですね」
「だろ? 次お前な。あれだぞ、ちゃんとカッコいい感じでな」
「任せて下さいよ。次は自信あるんで」
僕は立ち上がって雰囲気を作り上げる。
真剣な表情で、哀しそうに。
どうにもならない事を前にした、人間の心理を体現するが如く。
数秒かけて涙を流し、目の前の部長が完全にこちらに釘付けになったのを見て、タイミングを見計らって言葉を紡ぐ。
「――笑えばいいと思うよ」
「ぶふぅ⁉︎」
僕の渾身の台詞に、急に吹き出した部長。
何が面白いんだ。
「ひひっ、あはははっ! そっ、それは卑怯だろ! エヴァじゃん! なんでそこのシーンチョイスしてんの、お前はさっきからボケのつもりか⁉︎」
「ボケてませんよ、何ですか。僕の思うカッコいい台詞を否定ばかり」
「違う、違くてな、そうじゃないんだよ。まあ、もう分かった。結希はちょっと感性がアレなだけなんだな」
「アレってどれですか」
くそっ。そこまで言われたら次こそは絶対、カッコ良い台詞を言ってやる。
僕はスマホで検索をかける。
とりあえず、カッコいい男キャラの台詞を……。
「じゃあ次アタシな」
「どうぞどうぞ」
とりあえず、次の台詞を定めてから、僕は部長の方を静観する。
「――お前が信じる俺でもない、俺が信じるお前でもない。お前が信じるお前を信じろ」
……分かった、信じますよ。
次こそ自分の感性を信じて、カッコいい台詞を言ってやる。
「どうだった?」
「勇気貰いました」
「ん? おー、ん? そうか」
「それじゃ。次、いきますよ」
「おー、しっかりな」
僕はもう一度スマホの画面を見て台詞を確認。
女子的にカッコいい台詞三十選(恋愛漫画編)から選んだこの台詞なら、間違いない筈だ。
どんなシーンかは分からないから、適当に台詞に合った感じで。
「……ん? どうした結希」
僕は部長の側まで歩いて近づくと、そのまま彼女を見下ろす様にして、真剣な表情を作る。
ターコイズ色の綺麗な眼を見つめて、雰囲気はバッチリだ。
何時もはガサツで猿みたいな凶暴性を発揮する彼女も、今は大人しい。
そのまま軽く、彼女に微笑みながら、僕は普段よりも大分低い声で台詞を言う。
「――俺以外、誰も好きにならないで」
ーーーガララッ。
僕が台詞を言い終えるのと、部室の扉が開くのはほぼ同時だった。
「雨宮美兎到着ですー、遅くなりましたぁ…………はい?」
ぺたん、と。
尻餅をついてしまった部長は茹で蛸みたく赤くなった。かと思えば、唐突にやって来た雨宮の方を見て、更に真っ赤に染まり上がってしまう。
僕はその一連の流れを脳内で反復し、これは不味いなと理解すると、冷静に事態の収拾を計ろうとした……のだが。
「私はお邪魔の様ですので、二人でごゆっくり~」
「違う違う違う‼︎ 美兎待て、違うから! 結希もなんか言え!」
「笑えばいいと思うよ」
「ふざけんなよ笑えるか!」
雨宮の誤解を解くのも、なんか面倒くさい。
もうどうにでもなれと、大人しく席について読書を始める事にした。
それから暫く、部長が何故か僕によそよそしかった理由は、よく分からないままである。
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