3 / 19
第三話 たらい
しおりを挟む
ふわぁ、と。部室へ歩きながら欠伸を溢す。
「あらら、寝不足でしょうか。副部長」
同じ部活に所属している雨宮が、茶化すような口調で言ってくる。
だが別に、茶化している訳ではない。僕はよく知っている。
漫画の世界のお淑やかなお嬢様をそのまま現実に引っ張り出して来たのがこの雨宮美兎という奴なんだ。
「雨宮は今日は来るの?」
「ええ。今日は習い事がありませんから」
「そう」
中学の頃からの付き合いになるけど、相変わらず会話に困る相手だ。
いつも雨宮と二人になると会話が途切れてしまう。
それが居心地悪いという訳でもないんだけど。
一階の通路を渡って部室棟に渡り、そのまま廊下を真っ直ぐ行った、突き当たりの教室。我らが部室に到着する。
「もう部長居るかな」
「居ますよ、きっと」
僕は部室の扉を開ける。
雨宮より僕の方が先に扉を潜るがーー次の瞬間。
「あったっ⁉︎」
酷い衝撃を頭に喰らう。
い、いったいなんだ、敵襲か⁉︎
がらんっ! と、大きなたらいが僕の後ろで音を立てて倒れる。
成る程……大凡の検討はついた。
「あっはははっ! 引っかかってやんの。間抜けだなぁ、結希」
「大丈夫? 日野くん」
部長の高笑いと雨宮の思いやる対照的な態度。悪魔と天使にしか見えない。悪魔は当然、部長。
ああ、くそ。こんな悪戯にひっかかるなんて。最近の僕は平和ボケしているんだろう。
周囲の変化に鈍感になっては致命的だ。気を引き締めていよう。
思わず尻餅をついていた僕は立ち上がって、こんな事をした犯人であろう部長に異議を唱えることにした。
「部長」
「ふはっ、ひひっ、あははっ……ああ、何だ?」
「たらいを何度落とされた所で、僕は部長と同じ目線まで縮む事はありませんよ?」
プッチン――。
可愛らしくも確かな音が部屋に響いたのを、僕と雨宮は確かに聴いた。
「誰が、チビだーー誰がチビだこの野郎!」
憤慨する彼女を雨宮が宥める。
「莉里部長、落ち着きましょう。ね?」
「止めるな美兎! あいつはアタシを怒らせた!」
「怒らせるようなことをするからですよー」
「ええいっ! 止めるなああっ!」
「…………おチビ」
「がああああっ‼︎」
僕は更に一言。
火に油を注ぎ込むと満足して、テーブルに着き小説を開く。
雨宮が羽交い締めにしている部長の鬼の形相を尻目に、僕は小説の文字を目で追いかけ始める。あぁ、気分がいい。
「もー。日野君も悪ふざけが過ぎますよぉ」
「ふざけてないって。部長がふざけてるんだよ」
「こうなったら大変なんですからね?」
「うがあああっ‼︎」
確かに。
後で機嫌直すのが大変そうだなぁ、なんて能天気に考える。
翌日、その報復を受けることになるなんて露程ほども思っていない僕なのであった。
「あらら、寝不足でしょうか。副部長」
同じ部活に所属している雨宮が、茶化すような口調で言ってくる。
だが別に、茶化している訳ではない。僕はよく知っている。
漫画の世界のお淑やかなお嬢様をそのまま現実に引っ張り出して来たのがこの雨宮美兎という奴なんだ。
「雨宮は今日は来るの?」
「ええ。今日は習い事がありませんから」
「そう」
中学の頃からの付き合いになるけど、相変わらず会話に困る相手だ。
いつも雨宮と二人になると会話が途切れてしまう。
それが居心地悪いという訳でもないんだけど。
一階の通路を渡って部室棟に渡り、そのまま廊下を真っ直ぐ行った、突き当たりの教室。我らが部室に到着する。
「もう部長居るかな」
「居ますよ、きっと」
僕は部室の扉を開ける。
雨宮より僕の方が先に扉を潜るがーー次の瞬間。
「あったっ⁉︎」
酷い衝撃を頭に喰らう。
い、いったいなんだ、敵襲か⁉︎
がらんっ! と、大きなたらいが僕の後ろで音を立てて倒れる。
成る程……大凡の検討はついた。
「あっはははっ! 引っかかってやんの。間抜けだなぁ、結希」
「大丈夫? 日野くん」
部長の高笑いと雨宮の思いやる対照的な態度。悪魔と天使にしか見えない。悪魔は当然、部長。
ああ、くそ。こんな悪戯にひっかかるなんて。最近の僕は平和ボケしているんだろう。
周囲の変化に鈍感になっては致命的だ。気を引き締めていよう。
思わず尻餅をついていた僕は立ち上がって、こんな事をした犯人であろう部長に異議を唱えることにした。
「部長」
「ふはっ、ひひっ、あははっ……ああ、何だ?」
「たらいを何度落とされた所で、僕は部長と同じ目線まで縮む事はありませんよ?」
プッチン――。
可愛らしくも確かな音が部屋に響いたのを、僕と雨宮は確かに聴いた。
「誰が、チビだーー誰がチビだこの野郎!」
憤慨する彼女を雨宮が宥める。
「莉里部長、落ち着きましょう。ね?」
「止めるな美兎! あいつはアタシを怒らせた!」
「怒らせるようなことをするからですよー」
「ええいっ! 止めるなああっ!」
「…………おチビ」
「がああああっ‼︎」
僕は更に一言。
火に油を注ぎ込むと満足して、テーブルに着き小説を開く。
雨宮が羽交い締めにしている部長の鬼の形相を尻目に、僕は小説の文字を目で追いかけ始める。あぁ、気分がいい。
「もー。日野君も悪ふざけが過ぎますよぉ」
「ふざけてないって。部長がふざけてるんだよ」
「こうなったら大変なんですからね?」
「うがあああっ‼︎」
確かに。
後で機嫌直すのが大変そうだなぁ、なんて能天気に考える。
翌日、その報復を受けることになるなんて露程ほども思っていない僕なのであった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
水曜の旅人。
太陽クレハ
キャラ文芸
とある高校に旅研究部という部活動が存在していて。
その旅研究部に在籍している花咲桜と大空侑李が旅を通して多くの人々や物事に触れていく物語。
ちなみに男女が同じ部屋で寝たりしますが、そう言うことはないです。
基本的にただ……ただひたすら旅に出かけるだけで、恋愛要素は少なめです。
ちなみにちなみに例ウイルスがない世界線でのお話です。
ちなみにちなみにちなみに表紙イラストはmeitu AIイラストメーカーにて作成。元イラストは私が書いた。
グリモワールと文芸部
夢草 蝶
キャラ文芸
八瀬ひまわりは文芸部に所属する少女。
ある日、部室を掃除していると見たことのない本を見つける。
本のタイトルは『グリモワール』。
何気なくその本を開いてみると、大きな陣が浮かび上がって……。
モナリザの君
michael
キャラ文芸
みなさんは、レオナルド・ダ・ヴィンチの名作の一つである『モナリザの微笑み』を知っているだろうか?
もちろん、知っているだろう。
まさか、知らない人はいないだろう。
まあ、別に知らなくても問題はない。
例え、知らなくても知っているふりをしてくれればいい。
だけど、知っていてくれると作者嬉しい。
それを前提でのあらすじです。
あるところに、モナリザそっくりに生まれてしまった最上理沙(もがみりさ)という少女がいた。
この物語は、その彼女がなんの因果かお嬢様学園の生徒会長を目指す話である。
それだけの話である。
ただキャラが濃いだけである。
なぜこんな話を書いてしまったのか、作者にも不明である。
そんな話でよければ、見て頂けると幸いです。
ついでに感想があるとなお幸いです。
君に★首ったけ!
鯨井イルカ
キャラ文芸
冷蔵庫を開けると現れる「彼女」と、会社員である主人公ハヤカワのほのぼの日常怪奇コメディ
2018.7.6完結いたしました。
お忙しい中、拙作におつき合いいただき、誠にありがとうございました。
2018.10.16ジャンルをキャラ文芸に変更しました
まる男の青春
大林和正
キャラ文芸
ほぼ1話完結となってるシリーズモノです
どれから読んでも大丈夫です
1973年生まれのまる男は小学校1年の頃から、ある理由でプロも通うボクシングジムで学校以外、ボクシング漬けだった。そして、中学校、友達に誘われて野球部に入る。運動神経は怪物だけど、常識のだいぶずれた少年と少し奥手な仲間たちの物語である
2年死ィ組 カイモン先生
有
キャラ文芸
先生vs現代教育、先生vsイジメ問題、先生vs理事長、先生vsPTA……
現代の悪化をたどる腐りきった教育問題をボクらの担任の先生がさらに悪化させる、衝撃の問題作がここに登場。
担任の先生の名は海電悶次郎、ひと呼んでカイモン先生!
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる