上 下
2 / 2

第2話『心の目』(精神レベル測定装置)

しおりを挟む
 人間の精神を見透かし、支配することさえできれば、肉体をいちいち操らずとも、自動的に大勢の人間を悪魔の言いなりにさせることができる。
 ところが、人間の心を見るのは難しい。
 それを理解するにためは、『心の目』で見る必要がある。
 この国の首都にそびえる世界最大の「東京スカイツリー」と呼ばれる塔の展望台は、ガラス張りになっており、効率的な人間の精神測定には実に適した場所である。
 彼はそこで、悪魔の世界で通称『心の目』と呼ばれる装置を取り出し、見渡した。
 悪魔が開発した人間の精神測定のための装置で、人間の精神状態や精神性を具体的な数値で可視化させることができる。
 おまけに、地上でも違和感なく使えるように、地球全体で普及している通信端末に似せてある代物だ。
 人間たちにとっては、(人間の姿をした)悪魔が写真や動画撮影をしているようにしか見えないだろう。
 人間がそれとよく似た端末を手放せないように、その装置は悪魔たちにとっても必須アイテムである。
「低いな」
 地上約600メートルの高さにいながら、悪魔は残念そうに呟いた。
 数値が低ければ低いほど、(人間世界で言うと)精神レベルが高く善良な精神を持っているということになる。
 最もいい数値(人間にとっては低い精神レベル)が大きく示される仕組みになっているが、まだまだ『低い』。
 この国の政府機関の人間や要人を取り込めば、『殲滅計画』を効率的に進められそうだと考え、首都中心部の方角の数値を観測した。
「金銭欲」
「出世欲」
「虚栄心」
「執着心」
 この国で「煩悩」とも呼ばれる、人間にとって忌むべき欲にまみれている。
 大変素晴らしいことだが、まだ生やさしい。
 どれも「自分さえ良ければそれでいい」と言う、自己中心的な欲望である。
 協力を持ちかけたところで、『殲滅計画』に積極的に加担する意志を持ち続けるだろうか?
 悪魔側にとって面倒な協力者にならないだろうか??
 「悪魔に協力する代わりに『お前の望みを叶えてやる』」と誘惑したとして、そのような人間に限って、最初こそは目の前の欲望が満たされて満足するかもしれないが、後になると調子に乗って悪魔への要求をエスカレートさせてくるにちがいない。
 「人間は、悪魔が考えているよりも欲深い。よって、安易に『餌』を与えてはならない」
 悪魔は、地上に派遣される前の研修中に習った知識を反芻した。
 『餌』に食いつきやすい人間は操りやすいが、その量が天井知らずに増大するのは面倒だ。
 悪魔は改めて、人間の協力者探しの難しさを実感した。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

お漏らし・おしがま短編小説集 ~私立朝原女学園の日常~

赤髪命
大衆娯楽
小学校から高校までの一貫校、私立朝原女学園。この学校に集う女の子たちの中にはいろいろな個性を持った女の子がいます。そして、そんな中にはトイレの悩みを持った子たちも多いのです。そんな女の子たちの学校生活を覗いてみましょう。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...