上 下
163 / 224
私を水の都へ連れてって

旅の終わり その2

しおりを挟む
「あの…ホントに着いてくるんですか?」
「なんじゃ、我の帯同が不服か?」
「いえ、不服とかじゃないですけど…。」
「我ナシでは街すら出られんかったではないか。」
「それは感謝してますけど…。」

ハヤトに別れを告げ宿を出た飛鳥達は、街を出るべく門へ向かった.
だが、まだ一番鳥も鳴いていない未明、門を開けてもらえるはずもなく…。
諦めて日が昇るまでドコかで時間をつぶそうかと思っていた所へ、
ウンディーヌが現れた。

彼女の口利きで門を開けてもらい、二人は街道沿いを進んでいたが、
なぜかウンディーヌが付いて来て、旅の同行を申し出たのだ。

「一体なんで、私達が街を出ようとしたのが、わかったんですか?」
「契約とはそういうモノだ。
契約した相手の事はなんとなく伝わってくるのじゃ。」
「…便利と言うかなんと言うか…監視されてるみたいですね。」
「そうじゃな、他の精霊に浮気せんよう、見張っとるのはあるかものぉ。
まあ、そう人を邪険にするものではないぞ?
精霊帝の我がおれば、何かと都合がよいぞ?」
「確かに…さっきの門では助かりましたけど…。」

「いやいや、大体アンタ人じゃないだろ。
それに、アンタは聖堂にいなきゃダメじゃないのか?」
ウンディーヌに流されそうな飛鳥を押しのけ、神前が口を挟む。

「我ら精霊はドコにでもおるし、ドコにもおらぬ。
実体を持つが、精神体でもある。
大聖堂には分御霊の精神体を置いて来た。
街での我の力は弱まるじゃろうが…ま、許容範囲じゃろう。」
「なんていい加減な…。」
「我も他の精霊帝同様、すこし肩の力を抜く事にしたんじゃ。
これもそなたの想い人、ハヤトと契約してしもうたからかのぉ?」
「さすが精霊たちのクズ彼氏…悪影響しかないな、アイツ。」

ウンディーヌは飛鳥を見ながら、ニヤリと笑う。
「その想い人から離れて旅に出るとは…。どういった心境なんじゃ?」
「それは…。」
少し言い淀んだ飛鳥にウンディーヌが、
「まあよい、旅の道すがら追々聞かせてもらうとしよう。」
良い旅の楽しみが出来た、とウンディーヌは笑う。

「それと飛鳥よ、その様な堅苦しい話し方は止せ。
そこな娘同様、ざっくばらんに話せ。」
「はぁ…わかりまし…。」
ウンディーヌが飛鳥を睨む。
この返事では納得してもらえないようだ。

「うん、わかった。」
言い直した飛鳥に、ウンディーヌはニコニコ顔で満足そうに頷く。

「さて、これからどうする?」
「このミュールの北、ボイサ山脈を越えると、
そなたらが来たハヤトが治めるアルレンス領がある。」
「ってコトは、北はナシだな。
それに、あの山道をもう一度は嫌だしな。」
「凛よ、まあ話は最後まで聞け。」
「…馴れ馴れしいな、アンタ。」
「ふふ、そなた程ではない。」
「ははは、言うじゃないかアンタ。嫌いじゃないぞっ。」
「ふふふ、そなたものぉ。」

『…意外と仲良し?』
思ったより楽しそうな二人を眺めながら、
この疎外感に一抹の寂しさを感じる。

「あの…お話の続きを…。」
「おお、そうじゃった。
北にはアルレンス領があるが、山脈にある山道に分岐点があっての。
そこをアルレンス領と反対に行くと、帝国へつながるのじゃ。」
「帝国…ボルワール帝国ですかっ?」
「…しゃべり方…まぁよいか。
そう、ボルワール帝国じゃ。異世界人と言うても、さすがに知っておったか。」
「そこは、飛鳥が一番行きたがった所なんだ。」
「ほお…。それがハヤトの元を出奔した理由か。
よし、ではボルワール帝国へ向けて出発じゃな。」
ウンディーヌは二人を先導し、歩き出そうとする。

「楽しそうだな。」
「ふふ、大聖堂を出るのも、まして旅に出るなど…。
何時方ぶりじゃろうと思うてな。」
ウンディーヌはかつて自分を連れ出した男の事を思い出し、
胸にほのかな温もりを感じていたー。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結 R18追放物】勇者パーティーの荷物持ち~お忍び王女とダンジョン攻略。あれ? 王女のダンジョンも攻略しちゃいました~

いな@
ファンタジー
「そろそろ行くか、みんな用意してくれ」  俺は食事がすんだ席から立ち上がりリュックを背負う。 「アイテール! もうお前には付いていけない!」 「え?」  そんなところから物語は始まります。  ほんのちょっと? エッチな物語、主人公とお忍び王女のいちゃラブ(ハーレム)冒険旅です。 『ざまぁ』対象者は、自業自得で落ちぶれていきます。 ※ノベルピア・ノクターンにもあります。 【★表紙イラストはnovelAIで作成しており、著作権は作者に帰属しています★】

異世界召喚されて神様貴族生活

シロイイヌZ
ファンタジー
R18です。グロテスクな表現や直接的な性描写などがありますので、不快に思われる方や未成年の方はお読みにならないようお願い致します。 『なんだよ。俺、こんなあっさり死ぬのかよ』 そう思って目を開けたら、目に飛び込んできたのは青空。 流れに任せて魔物と闘い、流れに任せて美少女たちとのハーレム生活。 異世界と現世を自由に行き来出来る上に、異世界で欲しい物も錬金術で思いのまま。 誰もが羨むような異世界生活とおっさんの快進撃が始まる! 本業の合間に細々と書いています。平日は出来るだけ更新したいと考えてますが、仕事が立て込んでいる時は更新が遅れることがあります。ご容赦ください。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界イチャラブ冒険譚

りっち
ファンタジー
 ちょっとした勘違いで、突如異世界にやってきてしまった1人の男。  転移した先は、炎と血で真っ赤に染まった、地獄のような場所だった。  辿り付いた世界で『ダン』と名乗り、手探りのような日々を送る中で、男は1人の少女と出会う。 「ダン。私は呪われているの。だからダンも近付いちゃダメ」  しかしダンは彼女の手を取り、彼女と寄り添い生きていくことを決意する。 「それでもニーナさんと一緒に生きていきたいと、思ってるんだ」  異世界転移したダンと、呪われた少女ニーナの出会いは、この世界に何を齎すのか。 ※タイトル通りイチャラブがメインです。  精神的に繋がった上でのヒロインとの肉体関係の描写があります。R-18シーンが苦手な方はご注意ください。  R-18シーンは直接的な表現は多々ありますが、直接的な単語はあえて避けております。ご了承ください。  ダンとヒロイン達のイチャイチャラブラブがメインのお話です。読んでもらえたら嬉しいです。  リアル事情が大きく変わったため不定期更新となります。更新時間は19時を予定しています。

【第2章完結】追放勇者はどこへ行く

音無響一
ファンタジー
パーティメンバーの思惑により、パーティから追放された最強勇者。 追放された後の彼の消息はどうなったのか。 勇者はどこへ行ったのか。 勇者は何をしているのか。 勇者は生きているのか。 そんな勇者のおバカでエッチな異世界ファンタジー。

処理中です...