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私を水の都へ連れてって
旅行は向かってる時が一番楽しい その10
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「では、ここからは私が先導しますねっ!」
エイクは乗ってきた馬に跨ると、さっそうと川沿いの旧道を進んでいく。
「ではぁ、我々もぉ~。」
スエンが手綱を握り、エイクに続く。
意気揚々としたエイクとは真逆で、
こちらの馬車はまるでお通夜だ。
「…川沿いにまっすぐなんだろ?
先導なんかいらないだろうがっ。」
神前が吐き捨てるように悪態をつく。
「しょうがないよ、負けたんだから…。」
道祖は悔しそうに俯いたままだ。
いや、エイクが先導してくれるのは、
別に料理勝負に負けたからとかではないが…。
あの後、エイクの草料理の正体が判明した。
いくらお嬢様育ちとは言え、
神前の言うような非常識なモノではなかった。
なんの事はない、
フライパンで炒めていたのはハーブで、
ポルフォとアテト鳥の臭みを抑え、
鍋に入れた草というのも、食用の野草だった。
そもそも、横でスエンが採点しているのに、
そんな料理を食卓に出させるワケがない。
携帯食料ではなく、現地で食材を調達したエイクの料理は、
どれも新鮮で美味しかった。
神前と同じサラダ一つとっても、
食用に栽培された野菜とは言え、鮮度が落ちた野菜と、
自生の野草とは言え鮮度は抜群の野草のサラダでは、
歯ごたえも瑞々しさも段違いだった。
道祖のスープも、
携帯食の干し肉を茹でて柔らかくしたモノより、
獲れたての肉のステーキの方がうまかった。
ハーブを使う一手間も、非常に良かった。
臭みの強い野生動物の肉に対して、非常に有用だった。
エイクの料理を食べた道祖と神前は、俯いたまま動かなかった。
神前のサラダは別にして、道祖の料理は決して悪くなかった。
前回の失敗を生かし、スエンの手際を盗み、
非常に美味しく、食べるタイミングもバッチリだったのだが…、
相手が悪かった。
「…お前の料理がこんなに美味しいとは…。
びっくりしたぞ…。」
「ふふ、ダンジョンでご一緒した時から私も成長してますからっ。
騎士団の遠征演習なんかで、屋外料理は鍛えられましたからね。
携帯食料が底を着く事も想定して、現地での調達も訓練の一環でしたし。」
「なるほど…。」
エイクは得意げに、誇らしげに、その巨大な胸を張る。
ただでさえ主張が激しいのだから、目の毒は自重して欲しい。
「それで、スエンさん。私の採点は?」
「そうですねぇ、90点、いえ、95点ですぅ~。」
「やったぁっ!ハヤト様、やりましたよっ!」
「お、おおっ、やったなエイクっ。」
エイクは俺の手を握り、嬉しそうに飛び跳ねる。
俺の目の前で巨大な果実がゆっさゆっさ跳ねている。うん、性の暴力。
エイクに先導され、馬車は川沿いの旧道を進む。
窓の外には、雄大なウール河が穏やかに流れる。
その水面は沈み始めた夕陽に染められ、
赤く燃えるように煌めいている。
「道祖も、惜しかったな。」
俺は馬車の席、隣で俯いたままの道祖に声をかける。
「ちょっとほっといてくれっ!」
神前がキレる。
いや、20点サラダのお前には言ってない。
道祖の様子を伺うが、俯いたままなので表情はわからない。
ただ、固く握られた両の拳からは、
悔しさが滲んでいた。
「道祖…。」
「…最後だったのに…。」
俺の呼びかけに、道祖が呟く。
やばい、このままだと泣いちゃうんじゃ??
「か、帰り道っ!帰り道があるさっ!」
俺はわざと明るい声で道祖を励ます。
「帰り道…。」
俺の咄嗟の一言に道祖が食いついた。
「そうか、そうだよねっ。
帰り道だってあるもんねっ。」
顔を上げた道祖は笑顔だった。
「ああ、そうさ、帰り道があるさっ!」
「…どうだかな。」
神前が水を差す。
「なんだよ、オマエ。そういう事言うなよっ。」
俺が神前を睨むと、
「ふんっ!」
神前はそっぽを向く。
か、感じ悪いなぁっ!
「お前ー…っ」
俺が声を荒げた瞬間、
「あぁ、ミュールの城門が見えてきましたよぉ~。」
スエンが御者台から振り返り、俺達に教えてくれる。
「おお、ついに着いたかっ!」
俺は座席から御者台に移る。
すぐ脇を流れる大河[ウール河]、そのウール河に架かる巨大な吊り橋[ミュール大橋]。
そのミュール大橋でつながれた東西に分かれた城塞都市[ミュール]の巨大な城壁。
全てが夕日に照らされ、燃えるように赤いその風景は、
印象派の絵画のようで…。
「キレイ…。」
道祖も座席から身を乗り出す。
「ああ…キレイだな…。」
俺も自然に同意する。
「ここはぁ、君の方がキレイだよ、ですよぉ~。」
「そ、そうか、なるほどっ!」
スエンはからかったのだろうが、俺はそのアドバイスに素直に感心する。
「イチャイチャ禁止ですよっ!?」
俺達を先導するエイクが馬上から振り返り、
大声で叫んだ。
つづく
エイクは乗ってきた馬に跨ると、さっそうと川沿いの旧道を進んでいく。
「ではぁ、我々もぉ~。」
スエンが手綱を握り、エイクに続く。
意気揚々としたエイクとは真逆で、
こちらの馬車はまるでお通夜だ。
「…川沿いにまっすぐなんだろ?
先導なんかいらないだろうがっ。」
神前が吐き捨てるように悪態をつく。
「しょうがないよ、負けたんだから…。」
道祖は悔しそうに俯いたままだ。
いや、エイクが先導してくれるのは、
別に料理勝負に負けたからとかではないが…。
あの後、エイクの草料理の正体が判明した。
いくらお嬢様育ちとは言え、
神前の言うような非常識なモノではなかった。
なんの事はない、
フライパンで炒めていたのはハーブで、
ポルフォとアテト鳥の臭みを抑え、
鍋に入れた草というのも、食用の野草だった。
そもそも、横でスエンが採点しているのに、
そんな料理を食卓に出させるワケがない。
携帯食料ではなく、現地で食材を調達したエイクの料理は、
どれも新鮮で美味しかった。
神前と同じサラダ一つとっても、
食用に栽培された野菜とは言え、鮮度が落ちた野菜と、
自生の野草とは言え鮮度は抜群の野草のサラダでは、
歯ごたえも瑞々しさも段違いだった。
道祖のスープも、
携帯食の干し肉を茹でて柔らかくしたモノより、
獲れたての肉のステーキの方がうまかった。
ハーブを使う一手間も、非常に良かった。
臭みの強い野生動物の肉に対して、非常に有用だった。
エイクの料理を食べた道祖と神前は、俯いたまま動かなかった。
神前のサラダは別にして、道祖の料理は決して悪くなかった。
前回の失敗を生かし、スエンの手際を盗み、
非常に美味しく、食べるタイミングもバッチリだったのだが…、
相手が悪かった。
「…お前の料理がこんなに美味しいとは…。
びっくりしたぞ…。」
「ふふ、ダンジョンでご一緒した時から私も成長してますからっ。
騎士団の遠征演習なんかで、屋外料理は鍛えられましたからね。
携帯食料が底を着く事も想定して、現地での調達も訓練の一環でしたし。」
「なるほど…。」
エイクは得意げに、誇らしげに、その巨大な胸を張る。
ただでさえ主張が激しいのだから、目の毒は自重して欲しい。
「それで、スエンさん。私の採点は?」
「そうですねぇ、90点、いえ、95点ですぅ~。」
「やったぁっ!ハヤト様、やりましたよっ!」
「お、おおっ、やったなエイクっ。」
エイクは俺の手を握り、嬉しそうに飛び跳ねる。
俺の目の前で巨大な果実がゆっさゆっさ跳ねている。うん、性の暴力。
エイクに先導され、馬車は川沿いの旧道を進む。
窓の外には、雄大なウール河が穏やかに流れる。
その水面は沈み始めた夕陽に染められ、
赤く燃えるように煌めいている。
「道祖も、惜しかったな。」
俺は馬車の席、隣で俯いたままの道祖に声をかける。
「ちょっとほっといてくれっ!」
神前がキレる。
いや、20点サラダのお前には言ってない。
道祖の様子を伺うが、俯いたままなので表情はわからない。
ただ、固く握られた両の拳からは、
悔しさが滲んでいた。
「道祖…。」
「…最後だったのに…。」
俺の呼びかけに、道祖が呟く。
やばい、このままだと泣いちゃうんじゃ??
「か、帰り道っ!帰り道があるさっ!」
俺はわざと明るい声で道祖を励ます。
「帰り道…。」
俺の咄嗟の一言に道祖が食いついた。
「そうか、そうだよねっ。
帰り道だってあるもんねっ。」
顔を上げた道祖は笑顔だった。
「ああ、そうさ、帰り道があるさっ!」
「…どうだかな。」
神前が水を差す。
「なんだよ、オマエ。そういう事言うなよっ。」
俺が神前を睨むと、
「ふんっ!」
神前はそっぽを向く。
か、感じ悪いなぁっ!
「お前ー…っ」
俺が声を荒げた瞬間、
「あぁ、ミュールの城門が見えてきましたよぉ~。」
スエンが御者台から振り返り、俺達に教えてくれる。
「おお、ついに着いたかっ!」
俺は座席から御者台に移る。
すぐ脇を流れる大河[ウール河]、そのウール河に架かる巨大な吊り橋[ミュール大橋]。
そのミュール大橋でつながれた東西に分かれた城塞都市[ミュール]の巨大な城壁。
全てが夕日に照らされ、燃えるように赤いその風景は、
印象派の絵画のようで…。
「キレイ…。」
道祖も座席から身を乗り出す。
「ああ…キレイだな…。」
俺も自然に同意する。
「ここはぁ、君の方がキレイだよ、ですよぉ~。」
「そ、そうか、なるほどっ!」
スエンはからかったのだろうが、俺はそのアドバイスに素直に感心する。
「イチャイチャ禁止ですよっ!?」
俺達を先導するエイクが馬上から振り返り、
大声で叫んだ。
つづく
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