上 下
121 / 224
私を水の都へ連れてって

旅行は向かってる時が一番楽しい その10

しおりを挟む
「では、ここからは私が先導しますねっ!」
エイクは乗ってきた馬に跨ると、さっそうと川沿いの旧道を進んでいく。
「ではぁ、我々もぉ~。」
スエンが手綱を握り、エイクに続く。

意気揚々としたエイクとは真逆で、
こちらの馬車はまるでお通夜だ。

「…川沿いにまっすぐなんだろ?
先導なんかいらないだろうがっ。」
神前が吐き捨てるように悪態をつく。

「しょうがないよ、負けたんだから…。」
道祖は悔しそうに俯いたままだ。
いや、エイクが先導してくれるのは、
別に料理勝負に負けたからとかではないが…。

あの後、エイクの草料理の正体が判明した。
いくらお嬢様育ちとは言え、
神前の言うような非常識なモノではなかった。
なんの事はない、
フライパンで炒めていたのはハーブで、
ポルフォとアテト鳥の臭みを抑え、
鍋に入れた草というのも、食用の野草だった。
そもそも、横でスエンが採点しているのに、
そんな料理を食卓に出させるワケがない。

携帯食料ではなく、現地で食材を調達したエイクの料理は、
どれも新鮮で美味しかった。
神前と同じサラダ一つとっても、
食用に栽培された野菜とは言え、鮮度が落ちた野菜と、
自生の野草とは言え鮮度は抜群の野草のサラダでは、
歯ごたえも瑞々しさも段違いだった。

道祖のスープも、
携帯食の干し肉を茹でて柔らかくしたモノより、
獲れたての肉のステーキの方がうまかった。
ハーブを使う一手間も、非常に良かった。
臭みの強い野生動物の肉に対して、非常に有用だった。

エイクの料理を食べた道祖と神前は、俯いたまま動かなかった。
神前のサラダは別にして、道祖の料理は決して悪くなかった。
前回の失敗を生かし、スエンの手際を盗み、
非常に美味しく、食べるタイミングもバッチリだったのだが…、
相手が悪かった。

「…お前の料理がこんなに美味しいとは…。
びっくりしたぞ…。」
「ふふ、ダンジョンでご一緒した時から私も成長してますからっ。
騎士団の遠征演習なんかで、屋外料理は鍛えられましたからね。
携帯食料が底を着く事も想定して、現地での調達も訓練の一環でしたし。」
「なるほど…。」
エイクは得意げに、誇らしげに、その巨大な胸を張る。
ただでさえ主張が激しいのだから、目の毒は自重して欲しい。

「それで、スエンさん。私の採点は?」
「そうですねぇ、90点、いえ、95点ですぅ~。」
「やったぁっ!ハヤト様、やりましたよっ!」
「お、おおっ、やったなエイクっ。」
エイクは俺の手を握り、嬉しそうに飛び跳ねる。
俺の目の前で巨大な果実がゆっさゆっさ跳ねている。うん、性の暴力。

エイクに先導され、馬車は川沿いの旧道を進む。
窓の外には、雄大なウール河が穏やかに流れる。
その水面は沈み始めた夕陽に染められ、
赤く燃えるように煌めいている。

「道祖も、惜しかったな。」
俺は馬車の席、隣で俯いたままの道祖に声をかける。
「ちょっとほっといてくれっ!」
神前がキレる。
いや、20点サラダのお前には言ってない。

道祖の様子を伺うが、俯いたままなので表情はわからない。
ただ、固く握られた両の拳からは、
悔しさが滲んでいた。

「道祖…。」
「…最後だったのに…。」
俺の呼びかけに、道祖が呟く。
やばい、このままだと泣いちゃうんじゃ??

「か、帰り道っ!帰り道があるさっ!」
俺はわざと明るい声で道祖を励ます。
「帰り道…。」
俺の咄嗟の一言に道祖が食いついた。

「そうか、そうだよねっ。
帰り道だってあるもんねっ。」
顔を上げた道祖は笑顔だった。
「ああ、そうさ、帰り道があるさっ!」
「…どうだかな。」
神前が水を差す。

「なんだよ、オマエ。そういう事言うなよっ。」
俺が神前を睨むと、
「ふんっ!」
神前はそっぽを向く。
か、感じ悪いなぁっ!

「お前ー…っ」
俺が声を荒げた瞬間、
「あぁ、ミュールの城門が見えてきましたよぉ~。」
スエンが御者台から振り返り、俺達に教えてくれる。

「おお、ついに着いたかっ!」
俺は座席から御者台に移る。
すぐ脇を流れる大河[ウール河]、そのウール河に架かる巨大な吊り橋[ミュール大橋]。
そのミュール大橋でつながれた東西に分かれた城塞都市[ミュール]の巨大な城壁。
全てが夕日に照らされ、燃えるように赤いその風景は、
印象派の絵画のようで…。

「キレイ…。」
道祖も座席から身を乗り出す。
「ああ…キレイだな…。」
俺も自然に同意する。

「ここはぁ、君の方がキレイだよ、ですよぉ~。」
「そ、そうか、なるほどっ!」
スエンはからかったのだろうが、俺はそのアドバイスに素直に感心する。

「イチャイチャ禁止ですよっ!?」
俺達を先導するエイクが馬上から振り返り、
大声で叫んだ。

つづく
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...