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私を水の都へ連れてって

閑話休題ー女王陛下と心配性なパパたち その2ー

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「あ。」
突然、カストラールが間抜けな声を上げる。

「な、なんだ、カストラール、突然。
びっくりするじゃないか。」
二人はびっくりして彼の方を見る。
「い、いや…そう言えばなんだが…。いや…、うーん…。」
カストラールが腕を組んで、言うかどうか悩んでいるようだ。
「どうした?武骨なお前が言い淀むなんて、らしくないぞ?」
「うむ…そうだな…。ウチの娘たちのことなんだが…。」
「ロイヒ殿とヴァルシ殿がどうした?」
そう、軍務大臣カストラール公爵の娘とは、
近衛騎士団のロイヒ団長、ヴァルシ副団長だ。

「その娘たちなんだが、ハヤト殿が召喚された際は、
一方的に召喚された上、先王にその…あの様な仕打ちを受ける様を見て、
気の毒に思ったのだろう、随分気にしていたのだ…。」
「ああ…。あの扱いはひどかったからな…。
先王を諌められなかったのは、我々の汚点だ…。」
「そうですっ!その汚点を濯ぐためにもっ!私をハヤト様の成婚をっ!」
「「それはまた、別の話です。」」
「チィッ」
二人にきっぱり否定され、エタールシアは舌打ちする。

「で、二人がどうしたんだ?」
「ああ、当初はそんな仕打ちにも負けず、徐々に力をつけていくハヤト殿を褒めたり、
その…悪からずは思っていた様に思えたのだが…。」
「ほうほう…それは…。」
「それはっ!恋ですわっ!」
エタールシアが玉座を立ち上がる。
「ハヤト様の真摯な態度、折れない心の強さ、
強くなろうとするひたむきな姿勢に、心打たれたんですよっ!」
「それはご自身の話でしょう?」
「はわぁぁ~~///」
アークストルフの指摘に、エタールシアは顔を真っ赤にして玉座にうずくまる。

「まあ、確かに二人のハヤト殿への哀れみの様な感情が、
母性や保護欲から恋心に変わることはあるかもしれんな…。」
顎を撫でながら分析するアークストルフにカストラールが、

「同じ様な事を、家内も言っていたが…その…魔族大侵攻の折りにな、
ウチの娘たちとハヤト殿が消えていた事があっただろう?」
「ああ…前線の3人が揃って消えて、戦線が大混乱した…。」

ー魔族大侵攻ー
幾度か繰り返された魔族による大侵攻。
前回の大侵攻の際には、既に戦力として十分成長していたハヤトも参戦している。
魔族を退けるのに大いに貢献し、この功績をもって陞爵した。
ただ、その際、前線を支えていたハヤト、ロイヒ、ヴァルシの3人が揃って消える事件が起こった。
原因は魔族の公爵アルノバルの術のせいであったが、3人が消えていた間、
戦線は大混乱に陥ったー。

「で、あの後からな…急に二人がハヤト殿の悪口を言うようになってな…。
何かあったか聞いてみたんだが、何も言わないのだ…。
ただ、あの男はケダモノだ、轡を並べるのは二度と御免だ、と…。」
「ふむ…よほど嫌な事があったのだろう…。」
「俺もそう思っていたのだが…。
その割に、今どうしているのかや、今どこにいるのか、どんな任務に就いているのかなどを、
やたら頻繁に聞いてくるのだ…。」
「ほうほう…。」

「恋ですわっ!」
カストラールの話を黙って聞いていたエタールシアが、
再び玉座を立ち上がる。
「それは、恋です!二人はハヤト様に恋しているのですっ!」
「こ、恋っ?!いや、二人はハヤト殿の悪口をー。」
「それはっ!素直になれない、乙女心ですっ!!」
「お、乙女心っ!!??」
エタールシアの迫力に、歴戦の戦士のカストラールも気圧される。

「元々悪からず思っていたハヤト殿を、
大侵攻の時に何があったかはわかりませんが、
急に嫌いになれないのです!
それが乙女心ですっ!」
「乙女心っ!!」
「いや、私、若い頃に付き合っていたある令嬢に、
突然振られた事がありますが…。」
「それも乙女心っ!」
「えぇっ?!」
おずおずと尋ねたカストロールの問いに、エタールシアが明快に答える。

「100あった愛情が、何かをきっかけにいきなり0になる、
それが乙女心っ!」
「お、乙女心…。わかる様で、全然わからん…。」
「というか…理不尽極まりないな…。」
「乙女心には、殿方は黙って従うしかないのですっ!」
「「はあ…。」」
エタールシアの熱弁に圧倒され、二人は無理やり納得する。

「そうか…。あの二人が恋をなぁ…。
ヴァルシはわからんでもないが…あの剣だ槍だのロイヒまでか…。」
「ふふ、なんだ、寂しいのか?」
感慨深げなカストロールを、アークストルフが茶化すが、
「いや、父親になり娘を持った以上、いつかはあると思っていた事だ、覚悟はしていたさ。
ただ、まあ、想像していたより、早かったかな?とは思うが…。」
カストロールの口元はわずかに笑っているが、心なしか瞳は潤んでいる様だ。
その顔は国を支える武人の顔ではなく、娘の成長を寂しくも喜ぶ父親の顔であった。

「ふむ、父親になり娘を持った以上…か。身に沁みる話だな。」
同じく娘を持つアークストルフの心に、カストロールの言葉が沁みる。
「我が娘、アルフリーヌも、いつかそんな相手が……ん??」
感慨深げだったアークストルフが首を捻る。

「あ…あのぉ、陛下…。」
アークストルフがおずおずと手を上げる。
「?どうしました?」
「いや…気のせい…いや、恐らく気のせいだとは思うのですが……。」
「??だから、どうしたのです?いつもの貴方らしくない。」
「そうだぞ、アークストルフ。いつもの歯に衣着せぬお前はどうした?」
歯切れの悪いアークストルフに、二人が焦れる。

「ああ、そうだな。いつもの私らしくないな…。では!」
アークストルフはコホン、と咳ばらいを一つして、
「実は、私の娘アルフリーヌも、先のダンジョン探索からですが、
ハヤト殿の動向を気にしたり、いつ屋敷に招待しようか、
招待した時のためのドレスを新調したいだの、会話がそんな事ばかりでして…。」
「ほほう…。」
「それはそれは…。」
カストラールとエタールシアがニヤリと笑う。
「他には、変わった所はありませんか?」
エタールシアがアークストルフに問いかけるのを見て、
カストラールの肩が小刻みに震える。
どうやら笑いを堪えているらしい。

「他…他にですか…。そうですねぇ…家ではよく窓から北の方を眺めてはため息をついております。
何か心配事でもあるような…妙に艶めかしいような…、
親の私でもドキッとするような、愁いを帯びた目で眺めておりますなぁ…。
ん?カストラール、どうした?」
カストラールの我慢は限界のようで、アークストルフに背を向けているが、
腹を抱えているのはバレバレだ。

「っふ。あ、アークストルフ…。我が国の北には何があるか知っていますか?」
女王も笑いを堪えるのに必死だ。口元がプルプル震えている。
「?お戯れを。私が地理に疎いボンクラにでも見えますか?
我が領土の北にはアルレンス領……ハヤト殿の…アルレンス領……?」
アークストルフの顔がみるみる青くなっていく。

「そ、それでは私はまだ、こ、公務があるゆぇ、執務室に、も、戻りますっ。
ふ、二人も、各々の仕事に、も、戻りなさいっ!」
「ははぁっ!」
カストラールが最敬礼で応えるが、アークストルフからは返事が無い。
玉座から腰を上げ、執務室へ向かう女王を、カストラールが頭を下げ見送る。
その横でワナワナと震えていたアークストルフが我に返り、
「へっ、陛下っ!も、もしかしてこれはっ?!
いや、アルフリーヌはまだ子供でっー。」
「あら、私がハヤト様とお会いしたのも、アルフリーヌさんと同い年位でしたよ?」
アークストルフの問いかけに、無情にもエタールシアは振り返りもせず答えると、
玉座の間を後にする。
その足取りは幾分軽やかに見えた。

「お、おいカストラールっ!これはどういうっ?!
いや、なんだその目はっ?!」
狼狽えるアークストルフに、カストラールは憐みの目を向けると、
ーガシッ!ー
カストラールは無言で、アークストルフの肩を組む。

「痛っ!なんだ突然っ!離せっ!こらっ!」
「まあまあ、いいじゃないか!そうだ、久々に飲みに行かんか?
そうだな、こんな時は市中の気取らない、安い場末の飲み屋がいいなっ!」
そう言うと、アークストルフの肩を強く引き寄せ、強引に玉座の間から連れ出そうとする。
「おい!なんだ、こんな時とはっ!どんな時だっ?!」
アークストルフの問いにカストラールは答えず、黙ってうんうんと頷く。
その瞳には、深い慈愛の色に満ち溢れており、
それが一層アークストルフの神経を逆なでする。

「~~~~~~~~っっっ!!!!」
アークストルフの声にならない声が、玉座の間に響いたー。

つづく

読了ありがとうございます。
次回からは温泉回です。

『異世界運送~転生した異世界で俺専用の時空魔法で旅行気分で気ままに運送業!のつもりが、ぶっ壊れ性能のせいでまさかの人類最強?!~』という小説を新たに書き始めました。
よろしければ、そちらもお願いします!

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