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アルフラーデ王国連合と異世界勇者

現状確認する話 その2

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「で、あのお子様は誰なんです?」
「あれは、モータル王様の後妻のお子様です。」
カシネの質問にクサムが答える。
「モータル王の後妻の子?いや、そもそも結婚してたのか。」
俺が依然王宮を訪れた時には、傍に王妃はいなかったが…。
「はい、王は若い頃にご結婚なされました。
ただ、ご結婚まもなく、お亡くなりになりまして…。
大変仲がよろしかった、と聞いております。」
「なんだ、クサム殿も知らないのか。」
「はい、私が王宮に仕えるずっと前、もう30年は前の事ですから。」
「待て待て!前王妃の死後、そんな長い間一人だったのか?」
「ええ、臣下は皆、早く再婚なさるか、側室だけでも、と勧めたようですが、
頑として聞き入れられなかったとか。
それほど、前王妃を愛されていたのでしょう。」

「なるほど…。」
俺はあの男らしいな、と思う。
それほどの一途さ、俺には考えられない。
自分の軽薄さに少し胸が痛い。
ふと昨日の情事を想い出し、チェーレに目を向けると、
チェーレも同じ気持ちだったのか目が合ってしまい、
慌てて目をそらす。

「それほどの時間お一人を貫かれたのに、なぜ今更後妻を?」
カシネが不思議そうに尋ねる。
「跡取り問題か、さすがにさみしくなったか…。」
「両方、といった所ですかね。」
俺の推理をクサムが採点する。
「王ももう50歳、健康に問題はありませんがお世継ぎを、となるとそろそろ…、
というのが臣下の思いでした。」

「30年色恋から離れた男が見初めた女…。」
俺は件の王妃とはどれほどの美女なのか、と思いをはせる。
「あの日の事は、よく覚えています。」
クサムが遠い目をして話し出す。
「2年前、宮中晩餐会が開かれ、どこかの地方貴族が、
未亡人だった自分の兄嫁を連れて出席しておりました。」
「その未亡人が、現王妃?」
「左様です。その未亡人を見た時の王ときたら…。
驚きました、あの冷静で泰然自若の権化のような王が、
玉座から飛び降りて、あの方の前に駆け寄られたんですよ。」
「そんなに美人だったのウグッ?!」
不躾な質問にチェーレが俺の脇腹に一突き。
「美醜の事は恐れ多いので…。
ただ、老臣さえも声を失うほど、若くして亡くなられた前王妃に瓜二つだと…。」
なるほど、その未亡人に最愛の妻の面影を見た…と。

「…そこから、ご結婚されるまでは、1年もかかりませんでした。」
「早っ!王族ってゆーか、王様だろッ?!」
俺は驚いて大声を上げる。準備だけで1年以上かかるだろうに。
「私も含め、多くの臣下が熟考を進言しましたが、聞き入れられませんでした。」
「…まぁ、あの性格だからか、老いらくの恋なのか…。」
俺はあのゴツい男がメロメロになった様を想像し、笑いを噛み殺す。

「それで、その王妃は?」
「王が病に伏されたのがご成婚から半年ほどだったため、
王妃が何かしたのでは?との噂が宮中に広まりました。
そんな噂に居たたまれなくなった王妃は、
王宮の奥からめったに出てこられません。
王の看病のため、との事ですが、
あまり部屋には近づかれてはいないようです。」
なんとも悲しい話だな。

「しかし、マーフは皇太子どころか、王女でも王族ですらねぇじゃねぇか。」
「本来ならそうなのですが、王が非常にマーフ様を気に入られまして、
我々にも自分の実子のように接しろ、と。」

「いやいや、そういう事じゃないだろ?」
俺は先程、謁見の魔で玉座に座ったマーフの姿を思い出す。
「それは普段の日常の中での話で、玉座に座らせるような話じゃ…。」
「それは…。王が倒れた今、
王のその言葉を自分たちの都合の良いように解釈し、
マーフ様を傀儡に、自分たちが政権を握ろうとする者たちがおりまして…。」
「メチャクチャじゃないか…。」
「はい…魔王は現れるは、王は倒れるは、臣下はやりたい放題…。
王国はガタガタです。」

クサムが眉間にシワを寄せ、力なく首を振る。
たしかに問題が山積みだ。
だが、俺には内政で手を貸せることは無い。
俺はガトフの方を見る。
そう、俺に出来るのはこの少女を鍛える事と、
魔王をどうにかするだけだ!

「クサム、少しでも時間が惜しい。
ガトフを鍛えるためのダンジョンを教えてくれ。
難易度は中級位がいいだろう。手頃なダンジョンに案内してくれ。」
「初級じゃなくて大丈夫ですか?」
「カシネもいるし、中級からスタートしても大丈夫だろう。」
「任せてくださいw」
少し心配そうなチェーレにカシネが笑いかける。
うん、頼もしい。

「どうだろう、クサム?」
俺がクサムに改めて問いかけると、クサムは少し申し訳なさそうに、
「実は…ダンジョンで訓練されるなら、
攻略していただきたいダンジョンがありまして…。」
「攻略?まぁ、乗りかかった船でもあるし、
訓練に問題がなければ構わないが…。」
俺はこの国の役に、モータル国王の恩に報えるならと、
そんな気持ちで答える。

意を決したのか、クサムが話す。
「ここから南にあるモステウス山をご存知ですか?」
「あ!魔鉱石が採れるっていう山ですよね!」
カシネが嬉しそうに答える。
うんうん、昨夜チェーレが教えてくれたもんな。
「よく覚えてたな。」
「えへへw」
俺はカシネの頭を撫でてやると、カシネは嬉しそうに笑う。
それを見たガトフは顔を赤くして目をそらした。

「??ガトフ?」
俺はガトフの方を見…、
「そこから採れる魔鉱石が、モータル国の経済を支えているのですが…。」
クサムは少し言いよどんでから、
「魔王はその…モステウス山のダンジョンから来るんです。」
「ええ~。」
「そのため、採掘が滞り、現在は貯蔵している魔鉱石を市中に流し、
経済を維持しています。
ただ、それもいつまで保つか…。」
クサムは山積みの問題に頭を抱えている。
意気揚々と修行に出ようとしていた俺も、
出鼻をくじかれた気がして、俺も頭が痛くなってきた。

『………この国終わりじゃない??』
ノドまで出かかったその一言を、
俺は何とか飲み込んだ。


つづく
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