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ダンジョン攻略と4人の新人騎士

王都からの来客 その2

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「よーし、皆揃ったな。」
屋敷から少し離れた所にある修練所で、
俺は警備部の面々を見渡す。
ルヴォークの依頼で、俺は警備部の稽古に参加することになったのだが、
少し、困ったことになった。
「…ホントにオマエも参加するのか?」
「お願いします!」
警備部の列の端、神前が勢いよく頭を下げる。
「…どうします?」
ルヴォークが困ったように耳打ちしてくる。
「う~ん…。」

神前が元の世界で剣道部副部長で、
大会でも結果を残しているのは知ってるが、
それとこれとは違うだろう…。
それになぁ、昨夜の告白もあるし、
コイツに剣を持たせるのはどうなんだろう…?

しばらく考えていたが、答えが出ないので、
「ま、ちょっとやらせてみよう。」
「はぁ…。」
結果、ルヴォークに丸投げする形になった。すまん。

「では、リンはサーノと手合わせしてみろ。」
「はいっ!」
ルヴォークの指示で二人が前に出る。
サーノと呼ばれた獣人の少女。ルヴォークと同じ狼人族だ。
俺がこの世界を去ってから入隊したらしい。

俺の領地で軍務を司る警備部は、総勢300名余の隊員を、
1番隊から5番隊の5隊に分けている。
各隊には腕の立つ者2名を隊長、副隊長として配している。
サーノはこの5番隊の副隊長らしい。
つまり、警備部でもかなりの強者ということだ。

いきなり当てるには妥当な相手なのだろうか?
リンが負けても傷つかないよう、という配慮だろうか?
まぁ、怪我したところですぐに魔法で治せる世界だし、
大事はないだろう…。
などと考えている間に二人が修練場の中央で、
木剣を手に見合っていた。

「はじめっ!」
ルヴォークの手が下がり、
瞬きする間もなく、神前が「面」を寸止めしていた。
「…そ、それまでっ!」
慌てたルヴォークは、試合開始を告げた手を、
下げたままで試合終了を告げてしまう。

「え?」
「ちょ…サーノ副隊長…。」
「見えた?」
あちこちから、事態を飲み込めない隊員の声が聞こえる。
正直、俺も神前がこれほどとは思ってなかったので、
動けないでいると、
ーパチパチパチー
「素晴らしいっ!」
俺の後ろから、拍手とともに賞賛の声が。
振り返るとそこには1番隊隊長、猫人族の『カシネ』が満面の笑みで立っていた。
「ご主人様っ!リンさんはすごいんですねっ!」
カシネが俺の肩をバンバン叩きながら話しかけてくる。
コイツは昔から距離が近い。
だが俺はそんなカシネを妹のように思い、
マイヤー達には不遜だと不評なこの態度を許している。
「お、おう。これほどとはな!」
俺も興奮気味に応える。ホントにこれほどとは。

「恐るべきは、リンさんの突進力ですよっ!」
「そうだな…。ほとんど無動作であのスピード…。」
「ふくらはぎ!足の指!どんだけ鍛えてるんでしょうねっ?!」
「突進に横薙ぎで反応したサーノも見事だったが…!」
「その横薙ぎを見切って突進を止め、そこからの面!ですからね、本当に素晴らしいっ!」
俺達は興奮しながら試合内容を振り返る。

すると、
「あ、あの…お二人は今のが見えて…。」
試合内容が見えなかった隊員が、恐る恐る聞いてくる。
気持ちはわかる。昔の俺なら見えてなかったからな。
「当たり前でしょう!今のが見えなかった者は、あとで特訓ですからね!」
「「は、はいっ!」」
多くの隊員が敬礼で答える。
あぁ、カシネのしごきか…。大変だな。

「さて、その前にっ!」
そう言うと、いつの間にか木剣を持ったカシネが、
お互いの健闘を讃え合うサーノと神前の方に向かう。
あ、コイツやる気満々マンだ。
俺の制止は間に合わず、カシネはルヴォークの側へ。
だが、いくらなんでもカシネとでは、
ルヴォークもさすがに止め……ないのかよっ!

「はじめっ!」
ノリノリのルヴォークが試合開始を告げる。
瞬間、中央で土煙が舞ったかと思うと、二人の姿が消え、
修練場のあちこちから木剣で斬り合うような、
何かが破裂するような音だけが。
「…マジか……。」
俺は二人の動きを目で追いながら、驚嘆の声を上げる。
他の隊員達は口を開けたまま固まっている。
この中で二人の動きが見える者が何人いるだろうか。
恐ろしい。
これもこの世界への適応力なんだろうか…。


試合は白熱し、
修練場に音だけが響いて5分は経とうとしている。
これ以上は止めた方が…そんな考えが頭をよぎった時、
ルヴォークも同じ判断を下したのだろう。
「待て!それまでっ!」
両手を交差させ、試合中止を命じるが、
ーカンッ!パァンッ!ギンッ!ー
音は止まない。
集中しすぎているのだろう。

ここは俺が…そう思い腰を上げたところで、
「それまでぇっ!!!!」
大気を震わせるような大声が修練場に響き渡り、
修練場の中央で二人が鍔迫り合いの状態で静止する。
俺は声の主を探し辺りを見回すと、
「あ、姐さん。」
いつからか、俺の対面に剣の師匠『ノイラー』が座っている。
二人の試合に夢中で全然気づかなかった。
しかし、あの試合を声だけで止めるとは、
さすが王国屈指の剣士、傾国のノイラー。気迫が違う。

ーパチ…パチ…ー
ノイラーの大声で我に返ったのか、
隊員達からまばらに拍手が起こり始め、
ーパチパチパチパチー
まばらだった拍手は万雷の拍手へと変わり、
名勝負を繰り広げた二人を賞賛する。
もちろん、俺も手が痛くなるほど手を叩き、二人を労う。
当の二人もにこやかに互いの健闘を讃え……てると思う。
なんか二人とも目が笑ってない気がするけど、きっと気のせいだ。

「…神前、どうしたもんか…。」
これほどの技量を放っておくべきか…。
俺は手汗をズボンで拭きながら困り顔で考え込んでいると、
もっと困り顔でマイヤーが走ってくるのが見えた。

つづく

ーーーご報告ーーーー
読了ありがとうございます。

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投票いただけると嬉しいです!

また、この小説以外にも、
『特別生徒指導室の杏子先生 ー先生っそのち○ぽデカすぎないっ?!ー』
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こちらはエロ中心です。
お読みいただけると幸いです! 
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