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神前という女

神前という女。 その1

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「紅茶を淹れてもらったんだ。
飲みながら、少し、話さないか。」
ドアを開け、ノックの主が声をかけてくる。
そこには寝間着姿の神前が立っていた。

透ける様に薄い、絹製の黒の寝間着姿。
裾や襟元にレースがあしらわれ、
胸の下を絞る可愛いリボンが、胸を強調するデザインだ。
マイヤーやルヴォークのように、
夜の相手も務めてくれる者に支給している、
そこそこ高級な寝間着だ。
神前はソレを借りているようだ。
マイヤー達が着ているのは見慣れているが、
同級生が夜の相手が着ている寝間着を着ている……。
俺は神前から目が離せず、ぼーっとながめていた。

「高御座?こんな所で立ちっぱなしは恥ずかしいんだが…。」
「あ、あぁ、すまない。紅茶だったな。ありがとう、いただくよ。」
俺は慌てて神前を招き入れる。
紅茶のいい香りが部屋に溢れる。
恐らく、俺を心配したマイヤーにでも頼まれたんだろう。

神前に椅子をすすめ、自分も対面に座る。
神前が持ってきた紅茶をポットからカップに注いでくれる。
「ありがとう、いい香りだ。」
「マイヤーさんに淹れてもらったんだ。」
「そうか…アイツの淹れる紅茶は美味いんだ。」
言いながら、俺はカップに手を伸ばす。
そして、俺たちはしばらく無言で紅茶を味わった。

……気まずい。
戦場で喜々として人を殺しまくった俺を、
彼女達はどう思っているのだろう。
夕食は無言で食べていたし、とてもじゃないが顔を見れなかった。
道祖に至っては、食事にすら来なかった。
明らかに、俺に批判的だ。
まぁ、当然と言えば当然か…。

神前はどうだろう。
彼女も俺を非難するために来たのだろうか。
俺が神前にチラリと目をやると、
「紅茶、美味いな。」
気づいた神前が口を開いた。
気を遣わせてしまった。
「……マイヤーが持っていくよう頼んだのか?」
俺はどうでもいいことを尋ねる。
「いや、私が頼んだんだ。手ぶらではなんだったからな。」
「そ、そうか。ありがとう。」
神前が俺の目をまっすぐ見ながら答えた。
俺は、彼女の視線に、思わず目を伏せてしまった。

神前はわざわざ苦手なマイヤーに頼んで紅茶を淹れてもらい、
わざわざ部屋に来てくれた。
これは彼女の優しさ、誠意だろう。
俺もちゃんと向き合おう。
今日の事をしっかり説明しよう!
そう決意し、顔を上げ、神前の顔を見ると、
心なしかその顔はうっすら上気しているような……。

「?」
「どうした?私の顔に何か付いてるか?」
「い、いや、今日の戦場のことなんだが…。」
「どうでもいい。」
俺が意を決して放った言葉はピシャリ!と遮られた。

「え?いやあのね、戦場でのこととか、この世界の倫理観とか…。」
「だから、どうでもいいんだ、私には。」
「?」
「この世界に召喚された時、適正がどうとか言っていたな?」
「ああ、そうだ。魔法への適正値が高い者が召喚される。
お前や道祖は俺にひっついてたからかもしれないが……。」
「私にも適性があったようだ。」
「!魔法が使えるのかっ?!」
俺は興奮して立ち上がった。

「落ち着け、魔法はまだ試してない。」
「そ、そうだな。そんな時間なかったな。」
俺は椅子に座り直し、
「で、適正とは?」
「…この世界への適正だ。」
「?」
「お前は多分、私がお前の残酷な行為を非難している、と思ってるな?」
「ああ、その事を俺は君たちに説明……。」
「はっきり言おう。私は何とも思ってない。」
「えっ?」
俺は思わず再度立ち上がる。

「だから、落ち着け。座れ。」
「あ、ああ。すまない。」
俺は椅子に座り直し、
「どういう事だ?」
「…無理を言って戦場に連れて行ってもらった時、
マイヤーさんから戦場の事、この世界の倫理観について、
少し説明されていた。
奴隷制や人身売買、死人が出る喧嘩や、夜盗の類も多いこと、
何より、人の命が日本より軽い事を教えられた。
そのせいで、お前が最初に召喚された時に随分苦労した事も、な。」

マイヤーは彼女達をいきなり戦場に連れてきたワケではなかったようだ。
さすがマイヤー、有能だ。
明日礼を言って、可愛がってやらねば。
そんな事を考えながら、
「ウチの領地には、夜盗は多くないがな。」
「それも聞いたよ。立派な領主として領民に慕われていることもな。」
「そうか…。」
俺は平静を装いながら、安堵した。
とりあえず神前には俺を非難する気は無いようだ。
道祖のことは、わからないが…。

「それを伝えるために、わざわざ来てくれたのか。ありがとう。」
俺が神前に礼を言うと、
「ここからは、私の話を聞いてくれ。」
「?ああ、どうぞ?」
「……実は私はな、あの戦場で、無残に死んでいく兵隊たちを見て、
……………興奮していたんだ。」

「えっ?!!!」
俺は大声を上げ再々度立ち上がる。
「まだだ、落ち着け。座れ。」
「あ、ああ。すまない。」
俺は椅子に座り直し、
「……間の悪いコントみたいだな。」
「私の真剣な告白中に茶々を入れるなよ…。」
「……すみません。」
神前に睨まれた俺は、深々と頭を下げた。


つづく

ーーーご報告ーーーー
読了ありがとうございます。

ファンタジー小説大賞に応募してみました。
投票いただけると嬉しいです!

また、この小説以外にも、
『特別生徒指導室の杏子先生 ー先生っそのち○ぽデカすぎないっ?!ー』
『魔族とツープラトンでバトルする ~淫紋褐色少女とバトルしたりイチャイチャしつつ、たまに魔界に行く~』
という小説を投稿しております。

後者は18禁ではないですが、
お読みいただけると幸いです!
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