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第四章 アクサナの里帰り
その15
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乾坤一擲、レインズのドリルの様に石礫を拳にまとわせた一撃に、
さしものラウルも地面に叩き付けられ、ピクリとも動かない。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
レインズは肩で息をしながら天を仰ぐと、膝から崩れ落ちるが、
なんとか片膝を突いて倒れ込むのを免れる。
「レ、レインズっ!大丈夫かっ!」
レインズの勝利を確信したセレーテは、
足元で動かないラウルを踏まないように避けながら、レインズの元へ走る。
が、
「しゃがめっ!」
「えっ?」
ーブンッ!!ー
咄嗟にしゃがんだセレーテの頭上すれすれを、ラウルの手刀が空を切る。
その鋭さはもしセレーテが立っていたら、上半身と下半身が断ち切られていただろう。
「き…っ。」
セレーテは恐怖に息を飲み、思わずその場にへたり込む。
ーむくり…ー
ゆっくり、ゆっくりとラウルが上体を起こす。
「ひっ?!」
セレーテはラウルの顔を見て短い悲鳴を上げる。
石のドリルで掘削された血だらけのその顔は、
穿ち砕かれ、もはやドコがドコだかわからない…。
「…人間風情が…随分好き勝手してくれましたね…。」
「…お前、どこから声出てるの?
しかし…お互いヒドイ顔になったなぁw」
「えぇ…本当に…。これでは…姫様にお会いするに顔がないですよ。」
「ホントに無いしな、顔。…体張った冗談だなぁ。」
「ふっ…。」
ラウルが思わず吹き出す。
「はは…。」
それに釣られて、レインズも笑い出す。
「ふふふ…。」
「ははは…。」
「「ははははははははははっっっ!!!!!」」
ーっぐちぃぃ…ぃー
2人が和やかに笑い合った刹那、目にも止まらぬ素早さでレインズとの間合いを詰めたラウルは、
片膝立ちのレインズの膝を踏み台に、強烈な膝蹴りをレインズの顔面に叩き込んだ。
認識出来ない速度、認識の外からの衝撃に、一瞬で意識を断ち切られたレインズは、
糸を切られた操り人形のように、そのままバタリと後ろへ倒れた。
「レ…レイ…レインズ?おいっ、レインズっ??!!」
セレーテは白目を剥いて倒れているレインズに駆け寄る。
「…人族にしてはよくやった方でしょうが…所詮人族でしたね…。
さて、しっかりトドメを刺しましょうか。姫様に見つかると面倒ですからね。」
ラウルはゆっくりと、倒れたまま動かないレインズに近づく。
だが、セレーテはレインズとラウルの間に入ると、
両手を広げ、その背にレインズを庇った。
「…邪魔です、どきなさい、駄犬。」
冷徹に言い放つラウルの声色に、セレーテの背中に噴き出した冷や汗が、滝の様に流れる。
だが、セレーテは首を左右に激しく振ると、
「ぜ、絶対にどかないっ!!
レインズはっ、今度はっ、オ、オレが守るんだッ!」
太い尻尾の毛を逆立て、獣人特有の少し大きめの犬歯をむき出しに、
勇気を振り絞ってラウルに啖呵を切る。
「ふん…。」
瀕死の飼い主の側で震える忠犬のようだ、ラウルは鼻で笑うと、
「では…一緒に殺してあげましょう。それなら文句もないでしょう?
あの世でお幸せに…あぁ、なんて慈悲深い私…。
そうか、姫様っ。これが、この心こそが慈悲の心なのですねっ。
あぁ…私も貴女様の御心を今っ、理解いたしましたよっ!」
おかしな悟りを開いたラウルは、ブツブツと呟きながら上機嫌だ。
楽し気にユラユラと揺れながら、怯えるセレーテに近づく。
セレーテはラウルのその異様さに恐怖し、恐怖で泣き出したいのを我慢して身を硬くする。
ー今すぐ逃げ出したいー。
そんな考えが、脳裏をよぎる。
だが、そんな考えは一瞬で消え去る。
『この愛しい人を置いてなど出来るワケがないっ!』
セレーテはココを動かない、その意思を改めて強固にする。
「…ごめんな、レインズ…守ってやれなくて…。
でも、ずっと…ずっと一緒だからな。
あの世でもどこでも…絶対に離れないからな…。」
セレーテは瞳に涙を浮かべながら、肩越しにレインズに微笑みかける。
「人族と獣人族信ずる神は違えども必ず一緒になれるよう毎日お祈りいたしましょう毎日毎日毎日……。
それこそ慈悲の心慈悲慈悲慈悲慈悲………。」
ラウルは愉悦の表情で手刀を振りかぶり、セレーテ目がけ振り下ろす。
「レインズっ愛してるっ!!」
セレーテは最後にレインズへの愛を叫ぶと、目を硬く瞑り最後の瞬間に備える。
「そこまでじゃ、ラウル。」
聞き覚えのある声がダンジョン響き、セレーテの眼前でラウルの手が止まる。
「…はい。」
ラウルはその声に大人しく従い、手刀を収める。
「…?」
セレーテは硬く瞑った目を恐る恐る開いていき、声のした方へ目を凝らすとー。
「えっ、あ、アクサナっ?!」
ダンジョンの暗闇から姿を現した声の主は、誰あろうアクサナだったー。
つづく
解説っていうか、補足です。
最後のレインズのパンチは、ロシアンフックの事だと思ってください。
好きなんです、アレ。
さしものラウルも地面に叩き付けられ、ピクリとも動かない。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
レインズは肩で息をしながら天を仰ぐと、膝から崩れ落ちるが、
なんとか片膝を突いて倒れ込むのを免れる。
「レ、レインズっ!大丈夫かっ!」
レインズの勝利を確信したセレーテは、
足元で動かないラウルを踏まないように避けながら、レインズの元へ走る。
が、
「しゃがめっ!」
「えっ?」
ーブンッ!!ー
咄嗟にしゃがんだセレーテの頭上すれすれを、ラウルの手刀が空を切る。
その鋭さはもしセレーテが立っていたら、上半身と下半身が断ち切られていただろう。
「き…っ。」
セレーテは恐怖に息を飲み、思わずその場にへたり込む。
ーむくり…ー
ゆっくり、ゆっくりとラウルが上体を起こす。
「ひっ?!」
セレーテはラウルの顔を見て短い悲鳴を上げる。
石のドリルで掘削された血だらけのその顔は、
穿ち砕かれ、もはやドコがドコだかわからない…。
「…人間風情が…随分好き勝手してくれましたね…。」
「…お前、どこから声出てるの?
しかし…お互いヒドイ顔になったなぁw」
「えぇ…本当に…。これでは…姫様にお会いするに顔がないですよ。」
「ホントに無いしな、顔。…体張った冗談だなぁ。」
「ふっ…。」
ラウルが思わず吹き出す。
「はは…。」
それに釣られて、レインズも笑い出す。
「ふふふ…。」
「ははは…。」
「「ははははははははははっっっ!!!!!」」
ーっぐちぃぃ…ぃー
2人が和やかに笑い合った刹那、目にも止まらぬ素早さでレインズとの間合いを詰めたラウルは、
片膝立ちのレインズの膝を踏み台に、強烈な膝蹴りをレインズの顔面に叩き込んだ。
認識出来ない速度、認識の外からの衝撃に、一瞬で意識を断ち切られたレインズは、
糸を切られた操り人形のように、そのままバタリと後ろへ倒れた。
「レ…レイ…レインズ?おいっ、レインズっ??!!」
セレーテは白目を剥いて倒れているレインズに駆け寄る。
「…人族にしてはよくやった方でしょうが…所詮人族でしたね…。
さて、しっかりトドメを刺しましょうか。姫様に見つかると面倒ですからね。」
ラウルはゆっくりと、倒れたまま動かないレインズに近づく。
だが、セレーテはレインズとラウルの間に入ると、
両手を広げ、その背にレインズを庇った。
「…邪魔です、どきなさい、駄犬。」
冷徹に言い放つラウルの声色に、セレーテの背中に噴き出した冷や汗が、滝の様に流れる。
だが、セレーテは首を左右に激しく振ると、
「ぜ、絶対にどかないっ!!
レインズはっ、今度はっ、オ、オレが守るんだッ!」
太い尻尾の毛を逆立て、獣人特有の少し大きめの犬歯をむき出しに、
勇気を振り絞ってラウルに啖呵を切る。
「ふん…。」
瀕死の飼い主の側で震える忠犬のようだ、ラウルは鼻で笑うと、
「では…一緒に殺してあげましょう。それなら文句もないでしょう?
あの世でお幸せに…あぁ、なんて慈悲深い私…。
そうか、姫様っ。これが、この心こそが慈悲の心なのですねっ。
あぁ…私も貴女様の御心を今っ、理解いたしましたよっ!」
おかしな悟りを開いたラウルは、ブツブツと呟きながら上機嫌だ。
楽し気にユラユラと揺れながら、怯えるセレーテに近づく。
セレーテはラウルのその異様さに恐怖し、恐怖で泣き出したいのを我慢して身を硬くする。
ー今すぐ逃げ出したいー。
そんな考えが、脳裏をよぎる。
だが、そんな考えは一瞬で消え去る。
『この愛しい人を置いてなど出来るワケがないっ!』
セレーテはココを動かない、その意思を改めて強固にする。
「…ごめんな、レインズ…守ってやれなくて…。
でも、ずっと…ずっと一緒だからな。
あの世でもどこでも…絶対に離れないからな…。」
セレーテは瞳に涙を浮かべながら、肩越しにレインズに微笑みかける。
「人族と獣人族信ずる神は違えども必ず一緒になれるよう毎日お祈りいたしましょう毎日毎日毎日……。
それこそ慈悲の心慈悲慈悲慈悲慈悲………。」
ラウルは愉悦の表情で手刀を振りかぶり、セレーテ目がけ振り下ろす。
「レインズっ愛してるっ!!」
セレーテは最後にレインズへの愛を叫ぶと、目を硬く瞑り最後の瞬間に備える。
「そこまでじゃ、ラウル。」
聞き覚えのある声がダンジョン響き、セレーテの眼前でラウルの手が止まる。
「…はい。」
ラウルはその声に大人しく従い、手刀を収める。
「…?」
セレーテは硬く瞑った目を恐る恐る開いていき、声のした方へ目を凝らすとー。
「えっ、あ、アクサナっ?!」
ダンジョンの暗闇から姿を現した声の主は、誰あろうアクサナだったー。
つづく
解説っていうか、補足です。
最後のレインズのパンチは、ロシアンフックの事だと思ってください。
好きなんです、アレ。
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