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第四章 アクサナの里帰り

その8

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「見えるか、セレーテ?」
「ああ、ワーウルフだな。」
二人の視線の先、岩陰にワーウルフが徘徊している。

「あれ、お前の先祖なのか?」
「知るかっ!」
「ばかっ!大声出すなっ!」

「ウオォォォンッ!!」
ワーウルフがこちらに気付き、走って来る。
「あ!気づかれたっ!お前が大声だすからっ!」
「御前様の声が大きいんだよっ!」

セレーテの修行のため、ダンジョンに入って今日で5日が経った。
ちなみに、この世界では9日で一週間、
5週で1ヶ月、9ヶ月で1年となる。
ただし、月には大月(4回)と小月(5回)があり、小月は1日少ない。
よって、1年は400日となるー。

「…魔石取るのイヤだなぁ。」
セレーテが倒したワーウルフの死骸を見ながら渋い顔をする。

「なんだ、今までだって取ってたろ!」
「お前が御先祖様とか言うからじゃないか!」
「いや、冗談で緊張をほぐそうかと…。」
「笑えない冗談だよ、まったく!」
「代わろうか?」
「そうしてもらえると、助かる。」

レインズは倒したワーウルフの解体に取り掛かる。
魔物からは魔石が取れるのはもちろん、様々な素材が取れるものもいる。
ワーウルフからは牙や爪、毛皮が取れる。
だが、残念ながら肉は食用には向かない、とされている。

「そろそろワーウルフじゃなく、オークかミノタウルスでも狩らないと、
そろそろ持って来た食料も底を尽きそうだ。」
レインズは背負っていた排膿に目をやる。
アクサナから借りたこの排膿はマジックアイテムで、
見た目より大量の荷物を収納できる。
空間魔法で中の空間を広げているらしい。

「便利な道具だな、これ。」
レインズは排膿の中にワーウルフから取った魔石や毛皮を、
排膿の中へ乱雑に放り込む。
中で勝手に整頓してくれるらしい。

「御前様。」
ワーウルフの解体作業中、辺りを警戒していたセレーテが声を潜めてレインズを呼ぶ。

「魔物か?」
レインズは急いで排膿に素材を詰めながらセレーテに振返る。

「あれを…。」
セレーテが指差す先、レインズ達から20m程先の丁字路状のダンジョンの角から、
ミノタウルスの牛面が顔を出す。

「やったな、御前様。食料調達だ。」
「…待て。」
レインズは今にも走り出そうとするセレーテを引き留める。

「何だよ、ミノタウルス位余裕だぞ?
食料も必要なんだろう?」
「曲がり角の奥、ミノタウルスの後ろに何かいるかもしれない。
少し様子を見よう。」
「ふぅ、わかったよ、御前様は慎重だなぁ。」
逸るセレーテはレインズに諭され、
しぶしぶ岩陰に隠れてミノタウルスを観察する。

「あっ。アイツ、行っちゃうぞ?!」
ミノタウルスはレインズ達の視線の先を横切り、
来た方と反対に進み、姿が見えなくなる。

「あっち行っちゃたぞ?!
いや、こっちに来なかったのは逆にチャンスか…。
完全に行き過ぎた今なら、ヤツの背後を狙えるぞっ。」
「待て。ちょっと落ち着け。匂いで調べてみろ。」
「匂い?」

ークン…クンクン…ー
怪訝な顔をして、セレーテが鼻を鳴らす。
「何もない…ん?!
洞窟の中だからわからなかったけど、
何か土のような岩のような匂いが近づいて…?」

「!」
セレーテは息を飲む。
二人の視線の先、ミノタウルスが来た方から、
ゴーレムがゆっくりと歩いて来た。

「…ゴーレム。」
「あれはまだ、俺達が勝てる魔物じゃない。
特にお前では、あの硬い体にキズ一つ付けられないよ。」
「うぅ…。」
セレーテはミノタウルスを逃がした悔しさと、
ゴーレムと先頭にならなかった僥倖に言葉を失う。
何より、自身の浅慮が恥ずかしく、押し黙ってします。

「危なかったな。」
レインズは動けずにいるセレーテの背中を叩く。

「…御前様は、ゴーレムに気付いてたのか?」
「ああ。俺は魔力が見えるからな。
まあ、ゴーレムとはわからなかったが、
何かが来てるのはわかってたよ。」
「ふっ、普段ならオレも匂いでわかるんだよっ。
でも、岩だらけのこのダンジョンじゃ、
ゴーレムの匂いがわからなくて…。」
ゴーレムに気付かなかったのが悔しいのだろう、
セレーテは弁解する。

しかし、
「わからないなら、尚慎重になるべきだ。
危うく俺達は全滅していたぞ。」
「ぅっ…。」
レインズの正論に、セレーテはぐうの音も出ない。

「戦場では慎重になりすぎて悪い事はない、従軍経験で俺はそう学んだよ。
命のやり取りをしてるんだからな。
そして、それはダンジョンも同じだと思うんだよ。」
俯いたままのセレーテ、その肩をレインズは優しく抱き寄せる。。

「よし、あの道は迂回して進もう。
魔王様に渡された地図によると…。」
「……すまなかった。」
セレーテがポツリと呟く。

ーちゅっ♡ー
「うわっ?!びっくりしたっ!」
突然頬にキスされ、レインズは驚く。

「し、そんなに驚くなよ、傷付くなぁ…。
その、お詫びの気持ちだ…。」
「お前、ホント可愛いな。」
「ま、真顔で言うなっ!恥ずかしいだろ!
ほらっ、早く先を進もうっ!こっちだろ?!」
照れてワタワタしているセレーテを、レインズは楽しそうに見ていたー。

つづく
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