上 下
56 / 94
第三章 獣隷王国と二人目の嫁

その26 エピローグ その1

しおりを挟む
床に正座するレインズと、それを見下ろすアクサナ。
「……アクサナ、これ、脚が痛いんだが……。」
「龍人族かどこかの種族の座り方じゃ。誠意を示す時にする、と聞いたコトがある。」
「さすが、アクサナ様は博識ですね!」
アレクシィに褒められ、アクサナは無い胸を張る。

「無事に帰って来て欲しいとは言うたがのぉ、主様。」
「はい…。」
「嫁を増やして帰ってくるとはのぉ?」
「面目ございません…。」
「主様は、何しに行ったんじゃったかいのぉ?」
「…セレーテを助けに…。」
「何で娶って帰ってくるんかのぉ?」
「返す言葉もありません…。」
アクサナに責められ、レインズは頭を下げたまま、
彼女の顔も見れない。

「…セレーテに、男装のまま俺が求婚したら、
結婚を許すって言ったのは本当か?」
「主様が気絶している間の話じゃな?
確かに、あの娘に言うたは本当じゃよ?」
「なんで、そんな事を?」
「…主様の悲願成就を思えば、手は多い方が良いからの。」
「アクサナ…。」
レインズはアクサナの真意を知り、嬉しさで顔を上げる。

「じゃが、ちくっと早ぉないか?」
「ひぃっ?!」
レインズの上げた眼前に、緋色の目を爛々と光らせたアクサナの貌が…。
思わず声を上げるレインズ。

「革命軍、獣人族、戦力として取り込むのは悪ぅないと思うて提案したが…。
よもやこんなに早く娶ってくるとは…。予想外じゃ。」
セレーテを焚き付けたのはソッチじゃないかっ!と言いたい所だが、
レインズ自身も驚くスピード婚に、後ろめたすぎて言葉を飲み込む。

「可愛い新妻に向かって、ひぃっは無いですよ、レインズ様っ。」
アレクシィも仁王立ちでレインズを見下ろす。
最早すっかり主従は逆転している。

「良いのじゃアレクシィ、ワシの胸が絶壁なせいで主様を満足させられんから…。」
「嗚呼っ!なんとおいたわしやアクサナ様っ!」
二人抱き合い、よよよと泣き合う。
何度も見た芝居がかったこの光景に、レインズは思わず苦笑いする。

「あっ!レインズ様今笑いましたねっ!」
「どういう神経で笑えるんじゃ、主様はっ!」
「すいません、ごめんなさいっ!悪気はないんだっ!」
レインズが二人に責められていると、奥の部屋からセレーテが現れた。

「それ位にしてやってくれないか、レインズが可愛そうだ。」
「可愛そうなのはアレクサ様ですよっ!
この泥棒猫、いや、泥棒狼っ!」
「ど、泥棒狼っ?!」
アレクシィが今度はセレーテに噛みつく。

「…別れの挨拶は済んだのかぇ?」
「ああ、ありがとう。ゆっくり話せたよ…。」
「セレーテ…。」
アレクシィの問いかけに、セレーテは寂しそうに笑って返す。

レインズは奥の部屋に目をやる。
奥の部屋のベッドには、爺が静かに横たわっている。

セレーテ達革命軍を王国に売ったのは、爺だった。
自分が幼かったセレーテに国の惨状を教え、
その結果彼女を革命軍のリーダーにしてしまったー。
その事を悔いた爺は、彼女の命は助ける事を条件に、
王国を使って革命軍を壊滅させ、
彼女を『革命』と言う、自分が押し付けた『夢』から切り離そうとしたのだ。

彼は、爺は諦めたのだ。
獣人族の自立を、人族との共存を。
だが、彼がその『夢』を諦めた矢先、
彼の夢を実現可能だという、確かな証拠を見せ付けられた。
レインズとアクサナ、アクサナとアレクシィ。
そして、セレーテを助けに行ったレインズ…。
それぞれ違う種族でありながら、
互いに思い合う、その姿を。

結果、彼は自ら命を絶った。
セレーテを裏切り、革命軍を窮地に追いやった自責の念にかられて。
アレクシィがアクサナの看病をする姿を見ながらー。

「爺の手紙にはなんて?」
「…まだ読めてない…読めないんだ。」
「そうか…。」
セレーテが爺からの手紙を握り締める。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

処理中です...