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第三章 獣隷王国と二人目の嫁

その8

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「アレクシィ、俺の側を離れるなっ!
アクサナッ!気を付けろ、来るぞっ!」
レインズは2人に警戒を呼び掛ける。

レインズは剣を構えようと腰に手をやるが、ソコには何もない。
「しまった…。夜風に当たるだけのつもりだったから…。」
レインズの愛剣は船室だ。

取りに戻るか迷っていると、
「レインズ様、コレをっ!」
アレクシィが抱えていたレインズの愛剣を手渡す。

「ありがとう、アレクシィっ!助かった。」
「レインズ様をお助けするのが、メイドの役目ですからっ!」
レインズが剣を受け取ると、アレクシィが満面の笑みで応える。

「主様っ!魔力が近付いて来るぞっ!」
「ああ、1人強いのがいるな。」
『さっき炎の球を使ったヤツか…。
まぁ、強いと言ってもアクサナはおろか、俺より弱いが…。』
油断は禁物、レインズは頭を振り、気合いを入れ直す。

ーヒュンッ!ー
風を切る音と共に何かがレインズの耳を掠め、足元の甲板に突き刺さる。

「気を付けろっ。岸の上から奴等の仲間が射ってきたぞ!」
岸壁の上から矢が雨のように降り注ぐ。

「くそッ!距離を取られちゃ剣ではどうしようも…っ!」
「きゃっ!」
レインズはアレクシィ目掛けて飛んできた矢を剣で切り落とす。

「大丈夫か?アレクシィ。」
「は、はい、大丈夫です!ありがとうございますっ、レインズ様!」
「アクサナも!大丈夫か?!」

「この程度の弓矢、当たった所でどうと言う事もないのじゃが…。」
レインズの少し向こうで、アクサナが踊るような華麗なステップで矢を避けている。

「ダメですよアクサナ様っ!人族じゃないのがバレちゃいます!」
アクサナは回りを見渡す。
甲上では船員達が矢を避けるため、船倉へ向けて我先にと一目散で駆けていく。
「この状況で誰もワシなど見ておらんじゃろ…。
当たっても平気なモノをワザワザ避けるのは煩わしいのぉ。
…いっそ魔法で薙ぎ払おうか?」

「それは最後の手段ー…っ!」
アクサナの声が聞こえたのか、矢の雨がピタリと止んだ。
「スゴイです、アクサナ様っ!」
「ふむ、うてみるもんじゃなぁ。」
アレクシィに褒められ、満足気なアクサナ。

「いやいや、そんなワケー…。」
ーガキィーン!ー
鋭い剣戟の音が甲板に響く。

レインズは背後から現れた賊に斬り付けられたが、
咄嗟に剣で受け止め鍔迫り合いに持ち込む。
「…ーないよなぁ。」
レインズが不敵に笑う。

「主様っ!」
「こっちは大丈夫だっ!他にも仲間がいるハズだ!アレクシィを頼むっ!」
レインズはこちらに助太刀しようとするアクサナを制止する。

ーギリッ…ジャリッ…ー
鍔迫り合いは続く。
レインズは交わった剣の向こう、賊を観察する。
背は小さめ、160cm位か?
ズボンから太くフサフサした、銀色の尻尾が見える。
やはり獣人、犬人族か狼人族だろうか?
筋肉質ではないが、鍛えられた引き締まった腕。
布が巻かれて顔は見えないが、隙間から見える瞳は綺麗な碧眼だ。

「岸からの矢でこっちの気を引いて、海から船に乗り移る…。
悪くない手だったが…残念だったな、俺がいてっ!」
「!?」
レインズは今まで入れていた腕の力を抜き、腰を落としながら少し後ろへ退く。
賊は逆に前のめりにバランスを崩してしまう。
そこへ、レインズが下から上へ剣を振り上げるっ!

「くっ!」
ーガギィンッ!!ー
賊はレインズの逆真向切りを剣で受けようとするが、鈍い音と共に賊の剣が折れる。
が、剣先を逸らす事は出来たようで、賊の鳩尾から顎を狙ったレインズの剣は賊の顔に巻かれた布を切り裂く。

「さすが国王より賜りし名剣ー…っ!」
レインズは息を飲む。

ーパサァァー……ー
切り裂かれた布の下から、銀髪碧眼の美少女が現れた。
長く美しい銀髪が、朝日に煌めきながら宙に舞い広がる。

その様にレインズは思わず、
「…キレイだ。」

ーニコッー
レインズの賛辞が聞こえたのだろうか、
銀髪の少女はレインズに笑いかける。
その笑顔に、レインズの動きが一瞬止まる。
と、少女がその場で、目にも止まらぬ速さで一回転。

ーゴッ!ー
「…!」
鈍い音がしたかと思うと、糸が切れた操り人形の様に、レインズが膝から崩れ落ちる。

少女の手には折れた剣の柄が握られている。
レインズはコレで、アゴに遠心力を利用した一撃を受けたようだ。

「主様っ?!」
「坊ちゃまぁっ!!」
二人が叫びながらレインズの元へ駆け寄るが、
脳が揺らされ、意識を飛ばされたレインズには、二人の声は届かなかったー。

つづく
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