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高等部3年生

エウロへの返事(後編)

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──そうだ!!

「ご飯で釣る!」

先生が置いて行った“ポポモ”の餌を部屋の中央に置き、エウロと机の陰に隠れる。
お腹を空かせた“ポポモ”が出てくるまでの間、2人で待つ事にした。

「……出てこないな」
「そうだね」


──はい! 次!!

「大声で騒いでみる? 驚いて出てくるかも!」
「よし! やってみよう!!」

部屋の中を歩き回りながら、2人で「ああー! たいへーん!!」、「出てこーい!!」と大声で叫ぶ。
傍から見れば、頭がおかしくなったように見えなくもない。

「……出てこないな」
「そうだね」


──よし! 次!!

「死んだふりをしてみるか。部屋が静かになれば、“ポポモ”が安心して出てくるかもしれない。きっと、出てきた“ポポモ”が倒れている俺たちに近寄ってくるはずだ!」

斬新なアイディア!!

「うん! やってみよう!」

すぐに2人並んでその場に倒れこむ。
なるべく呼吸もせず、動かず、死んだふりを続ける。

「……出てこないな」
「そうだね」


声を潜め、ボソボソと会話をする。

「……ねぇ、エウロ」
「なんだ?」

私は気がついてしまった。

「死んだふりじゃなくても、ただ静かにしてるだけで良かったんじゃない?」
「はっ!」

『部屋が静かになれば、“ポポモ”が安心して出てくる』だけで、“ポポモ”を捕まえられたんじゃ……。
さらに“ポポモ”は出てきてないし。


──さぁ! 次!!

「そうだ! 《風の魔法》を使って、魔法研究室に風を起こしてみたらどうかな? “ポポモ”が驚いて出てくるかも」
「それだ!!」

私の案に、エウロが笑顔で応える。
4度目の正直! お願いだから成功して!!

エウロが《風の魔法》を使い、部屋の中で風を起こす。
想像よりも風が強く、私まで驚いてしまった。

と、驚いている暇はなかった!
エウロが魔法を使っている間、“ポポモ”が出てきていないか入念に辺りを見渡す。

「──ああ!」

見つけたっ!!

「いたー!!!」

急いで“ポポモ”の元まで走り、ダイビングキャッチする。
私の叫ぶ声を聞いたエウロが魔法を止め、すぐさま駆け寄ってきた。

「エウロ! やったよ!!」
「やったな! アリア!!」

2人で喜びながら、“ポポモ”を無事にゲージへと入れる。

「俺のせいだけど、部屋……散らかっちゃったな」
「うん。……先生に片付けてもらおう」

先生も怒らずにやってくれる事でしょう。
しれっと私が言うと、エウロが笑いだした。

「あはは、そうだな。それがいい!」

2人で笑い合いながら、もう見る事ができないかもしれない希少生物“ポポモ”を2人で眺める。
すると、隣にいたエウロがふいに口を開いた。

「最近は学校祭の準備や武術大会の練習で忙しいから、アリアとあまり話せていなかったよな」
「そうだね」

エウロの言う通り、2人でゆっくり話すのは久しぶりかも。

「俺、武術大会の練習……その、頑張ってるから!」

照れたような表情を浮かべつつ、エウロが胸を張る。
その姿に、急に胸が痛みだす。


──だけど、伝えなきゃいけない。

「その事なんだけど……ご、ごめん、エウロ! 私、自分の本当の気持ちに……自分が誰を好きなのか気づいてしまって」
「ん? そうかぁ、好きな人に気がついたのかぁ」

いつも通りの表情で、エウロが笑っている。

……あ、あれ? 私に気を遣ってくれている??
それとも、オーンやミネルのように気がついてたとか!?

反応に困っていると、その数秒後、エウロの顔から突然笑みが消えた。

「えっ!? えーーーーっ!!!!」

エウロの大声に、私もついつい驚いてしまう。

「好きな人ができたって、言ったのか!!?」
「う、うん」

もしかして、私の言った事をちゃんと理解できていなかっただけ……なのかな?
私の返事を聞いたエウロが、どこか悩ましげな表情を浮かべている。

「ごめん……という事は、俺ではない……よな?」
「う、うん」

少しだけ気まずい空気の中、返事をする。

「そっか……」

独り言のようにエウロが呟く。
エウロがどういう心境なのか、全く読み取れない。

「……こういうのって、聞いていいのか?」
「何を?」

エウロが言いづらそうに私を見る。

「その、アリアの好きな人って誰なのか……いや、でもなぁ。聞きたいような、聞きたくないような」

言いながら、エウロが……床の上でのたうち回っている。
これは伝えた方がいいのかな? 伝えない方がいいのかな?

──ううん。
きちんと伝えるべきだよね。

「やっぱり、教えてくれ!!」
「私、カウイが好きなんだ」

うっ。本日2度目の話かぶりが、このタイミングとは!!

「カ、カウイ!?」

かぶってはしまったけれど、私の声はしっかりとエウロに届いてたらしい。
驚いたように目をパチパチと瞬かせた後、エウロが考えるように自分の手を顎の下へと持っていく。

「そっか、カウイかぁ。カウイなら……いや、幼なじみの誰かなら納得だ! 安心してアリアを任せられる!!」

晴れ晴れとした顔で、エウロが笑う。
嘘が一つも感じられない温かな言葉に、胸がギュッと締めつけられる。

「……カウイに気持ちは伝えたのか?」
「ううん……まだ」

私の言葉に、エウロが怪訝そうな表情を見せる。

「俺に遠慮して言えてない、言わないとかじゃないよな?」
「あっ、うん。きちんと気持ちは伝えるつもり」

素直に答えると、ばつが悪そうにエウロが笑いだした。

「ごめん。早とちりした上に俺はなんて自惚れた発言を……」
「いや、なんか……私もごめん」

お互いに謝りつつ、気まずそうに笑い合う。

「……残念な気持ちがないわけではないし」

ふと、エウロがぽつりと話し始めた。

「もしかしたら……あとで実感が湧いてきて、落ち込むのかもしれない」

何かを探すように、エウロが視線を上へと向ける。
それから、まるで自分自身を納得させるかのように、こくりと頷いた。

「だけど……アリアを好きになってからの日々は、アリアの事を考えるだけでドキドキして楽しかった! 何より幸せだった!!」

私もエウロといる時はいつだって楽しいと思ってたし、今も思ってるよ。
今は、少しつらい気持ちもあるけど。

「ありがとな、アリア」
「私も……エウロの気持ち嬉しかった。ありがとう」

明るい声で感謝を告げるエウロに、私も精一杯の『ありがとう』を伝える。
しばらく沈黙した後、エウロが言いづらそうに口を開いた。

「その、アリアが嫌じゃなければ……大会には来て応援してほしい。……もちろん、カウイと一緒に!」

無理して笑ってくれているようにも見える。

「俺、アリアの事も好きだけど、カウイの事も好きだからさ! このまま2人と気まずくなって、話せなくなるのだけは絶対に嫌だから!!」
「……ありがとう。行かせてもらうね」

エウロは……どんな時でもエウロだ。

「うん。俺、絶対に優勝するから!!」

自分自身を鼓舞するかのようにエウロが話している。
やっぱりエウロは優しいなぁ。

次の授業までの間、2人で色々な話をしていると、エウロがふいに尋ねてくる。

「──それで、カウイにはいつ伝えるんだ?」
「そうなんだよね。早く伝えるべきだとは思ってるんだけど……」

……ん? 待てよ。
聞かれたから話しているけど、エウロの前で普通に話していい内容なのかな?

「ん? ああ、俺の事は気にしなくていいぞ。今はまだなんていうか、頭がついていってないというか、夢の中にいるような状態だから」

それは……どういう状態??
さっきエウロも言ってたけど、実感が湧いていないという事かな?


カウイに気持ちかぁ、うーん。
エウロに返事をしてから……と思っていたから、いつ伝えるとかは考えてなかったんだよね。


とはいえ、いつでも伝えられる状況になったわけだけど……逆に困った。

せっかくならカウイを喜ばせるような伝え方をしたい! という欲がふつふつと湧いてきてしまった。
返事をするだけでも喜んでくれそうだけど、それだけというのもなぁ。

時期については……学校祭が近い事もあって、「エンタ・ヴェリーノ ナンバーワンコンテスト」に出るみんなは準備で忙しそうだからなぁ。
出場するカウイも然りだし。

私も魔法コンテストの準備が終盤に差し掛かってるし、って……。


──こ、これだ!!!
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