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高等部3年生

エウロへの返事(前編)

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「ようやく……落ち着いてきたみたいね」
「うん。ありがとね、セレス」

落ち着くまでずっと傍にいてくれた事にお礼を伝える。
すると、セレスがどこか楽しそうに微笑んでみせた。

「これで心置きなく、カウイに返事できるわね」
「……ううん」

予想外の言葉にセレスが目を見開いている。

「なぜ!? オーンやミネルに申し訳ないからって、カウイに自分の気持ちを伝えないつもり!!?」
「いや、そうじゃなくて。エウロに……まだ返事をしていないんだ」

セレスが「ああ」と、今思い出したかのような表情をしている。

「エウロ……エウロ、ねぇ。エウロは、まぁ、いいんじゃないかしら?」

さっきとは打って変わって、セレスが気の抜けた表情で応える。

「えっ! よくないよ!」
「そう? エウロはアリアが結婚するまで気づかないわよ?」


け、結婚!?
……って、今は“そこ”じゃない!!

勢いよく何度も頷く。
私の反応に対し、セレスはどこか不思議そうに首を傾げている。

「ただね、エウロは今、大会のトレーニングをしてて忙しそうなんだよね」
「? ……ああ、“エンタ・ヴェリーノ学校祭”の後にある武術の大会に出場するって話してたわね」

そうなんだよね。
優勝したら、プロポーズをすると言ってくれてたんだけど……。

さすがに、そうなる前に返事はしなきゃいけないよね。
問題はいつ伝えるべきか……うーん。

「どうかして? まさか、エウロに大会で優勝したら、気持ちを伝えるとか言われていたのかしら?」

──!!
どうしてセレスがその事を!?

「エ、エウロから聞いたの!?」
「聞いてないわよ。ただ、いつになくエウロが気合を入れていたでしょう? エウロは分かりやすいのよ。誰でも“何かある!”と思うわ」

……誰でも思うんだ。
何とも言えない気持ちでいると、セレスが私の顔をじっと見つめてきた。

「そして、私の天才的な予想は当たっていたようね」

うっ。
私とエウロは分かりやすいコンビだった。

「大会前に伝えるの?」
「うん。エウロには申し訳ないけど……その方がいいと思ってる。それが原因で、試合に悪い影響が出ちゃうような人でもないと思うし」

セレスが頷き、同意する。

「そうね。もし、それで優勝が出来なかったら、その程度の男だったという事よ」

そんな……身も蓋もない。
言いながら、セレスが「ふふ」と笑っている。

「なんて、ね。そこまで情けない男じゃないわよ、エウロは」

情けない男……と思った事はないけど。

そうだよね。
私もエウロは、私の事に関係なく優勝できる人だと思う!

「今日は……ありがとう。セレスがいてくれて、本当に良かった!」
「そうでしょう、そうでしょうとも」

得意げな顔で、セレスが高笑いをしている。
この控えめじゃない性格ですら、愛おしく思える。

「セレスに何かあったら、私もセレスを助けるからね!」
「…………」

私の言葉に、セレスが何かを考えている。

「そうね。仮に……私が振られるような事があれば、アリアに慰めてもらおうかしら」

振られる?
もしかして、セレスに好きな人ができたって事??

「まぁ、私に限って、そんな事は永遠に訪れないでしょうけど!」

いつも通りの強気な表情で、セレスが笑ってみせる。

うーん……どっちなんだろう?


それから、少しだけセレスと会話した後、別れる事になった。
家に帰る為、待たせてあった“ヴェント”へと乗り込む。

すると、何かを思い出したようにセレスが近づいてきたので、再び“ヴェント”の扉を開けた。

「セレ──」
「アリア! 最後に言っておくわ!!」

……? どうしたのかな?

「“カウイ優先”になるのは、許されないわよ!!」

両手を腰に当て、セレスが真剣な表情で仁王立ちをしている。
その姿に、思わず笑みがこぼれる。

「うん、大丈夫! セレスも同じくらい大好きだから!!」
「それなら、良かった……では、何も良くないわ! カウイより上じゃなければ!!」

同じで納得してくれないとは……。
さすがセレス。超負けず嫌い。

「……じゃ、じゃあ、帰るね!」

セレスの圧に押されつつ別れを告げると、返事を濁したまま“ヴェント”を走らせた……。



──エンタ・ヴェリーノ学校祭 1週間前

オーンとミネルは以前と変わらず、何もなかったかのように話し掛けてくれる。

あれ? 私、伝えたよね??

と思うくらい、いつも通り過ぎる。
こちらが戸惑ってしまうレベルだけど……2人が気を遣わせないようにしてくれてるのかも。

ルナは読めないけど、マイヤは……気がついてそう。
たまに私を見て、ニヤニヤと笑っている。

ルナとマイヤには、まだ私の口からは何も話していない。
カウイに気持ちを伝えたら、2人にも報告しようと思っている。


……と、その前に! エウロだ!!

エウロはかなり忙しいらしく、あの日以降、伝えるタイミングが見つからないままだ。
それもあって、カウイにも返事ができずにいる。

もしかしたら“エンタ・ヴェリーノ学校祭”まで会えないのかなぁ。
……などと諦めていたら、思いがけずエウロと出会う事になった。


「ア、アリア!?」
「エ、エウロ!?」

校内とはいえ、滅多に人の来ない魔法研究室で会うなんて!!

魔法研究室は、主に魔法を使った実験をする為の部屋だ。
“研究室”という名前ではあるけれど、生徒なら誰でもこの部屋を使う事ができる。

ただ、その事実があまり広まっていないのか、先生しか使用できないと勘違いされているらしく生徒は滅多に来ない。

私は今回出場する魔法コンテストの準備で、頻繁に魔法研究室を使用している。
専用の備品が色々とそろっている為、自分でわざわざ用意する必要がなく、非常に効率がいい。


……はっ! これはチャンスかもしれない!!
急いで、きょろきょろと周りを見渡す。

しかも……今、ちょうど2人きりだ!!

「アリア……ごめん。ゆっくり話したいんだけど……今先生に頼まれて、“ポポモ”を探しているんだ」
「エウロ、話したい事が……えっ!? ああ、うん」

うっ。タイミング!!!
まさかの話かぶりとは……。

……ん? んん??
それよりも……希少生物の“ポポモ”を探してるって言った?

“ポポモ”は、ハムスターより少し大きい生き物だ。
色は栗色で、まりものように丸みを帯びていてふわふわしている。

可愛い見た目とは裏腹に、怒ったり怯えている時に口から小さく火を吹くらしい。
警戒心が強く、他の生物の前に現れる事はほとんどない為、一般的に“希少生物”として分類されている。

私自身、本で読んだ事はあったけど、実物に会った事はない。

エウロが部屋の隅々まで丁寧に確認しながら、“ポポモ”を探している。
研究室は意外と広いし、物も多いから大変そうだ。

「私も手伝おうか?」

困っているエウロを放っておけず、思わず声が出てしまった。

「──! 助かる!!」

エウロが笑顔で答える。

そうと決まれば……と、さっそく“ポポモ”の捜索に加わる事にした。
あちこち移動しつつ、エウロと言葉を交わす。

「どうして、 “ポポモ”がこの学校にいるの?」
「なんでも……調査チームの方達が戻ってきた際、偶然にも“ポポモ”が荷物の中に紛れていたらしいんだ」

エウロのお兄さんであるサウロさんも所属している調査チーム!!
恐らく、今回のチームメンバーの中にはいないだろうけど……。

「元の場所へ帰す前に『学校で生態について調べてから戻したい』と一時的に先生が預かったらしい」

ふむふむ。

「先生の話では、この部屋──“魔法研究室”で調べていたらしいんだけど、お昼を食べに席を外して戻ったらいなくなっていた、と。『ケージに入れ忘れたかもしれない』とも言ってた」

何て……ずさんな管理!!

「で、先生が必死に探している所に偶然俺がやって来て『自分の受け持つ授業が始まるから、その間だけでも探してくれないか』と泣きつかれてしまって……」

困った人を見過ごせないエウロは、ここで懸命に“ポポモ”を探していたと。
そして、偶然にも私が魔法研究室に入ってきたと……。

「先生の話では『“ポポモ”は怖がりだから、別な部屋に移動はしていないんじゃないか』って」

なるほど。
そういう事なら──

「1人より2人!! 一緒に探そう!!」
「ありがとう、助かる!」

嬉しそうにエウロが笑う。
やらかしたのは先生だし、エウロがお礼をいう事ではないような。

そこもエウロの良い所だけど、ね。

魔法研究室は“研究室”とだけあって様々な備品が置いてあるから、ある意味“ポポモ”は隠れやすい。
“普通”に探すのは、困難を極めそう。

うーん。何か簡単に探せる方法はないかなぁ?
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