上 下
248 / 261
高等部3年生

アリアの好きな人 1/4

しおりを挟む
幼なじみ達のコンテスト参加も無事……? に決まったある日。
学校へと向かいながら、ケリーがふいに尋ねてくる。

「アリアさんは、コンテストに出場しないんですか?」

……最近、毎朝ケリーに会っている気がする。
それに今日のケリーの服装……私とほぼ同じだ。

最初は『すごい偶然!!』と盛り上がっていたけど、ここまでくると、さすがに真似をされている事に気づいてきた。


この私でも気づくくらい、ケリーの行動はどんどんとエスカレートしている。



──最初の頃は、会うたびに質問攻めだった。

「アリアさんが好きな食べ物は何ですか?」
「アリアさんが普段している事って何ですか? 趣味は?」

この時は「私に興味を持ってくれてるんだな」とか「色々と知ろうとしてくれてるんだな」とか思って、気楽に考えていた。


けれど、暫く経つと、徐々に質問内容が細かくなってきた。

「もしアリアさんがこういう境遇になったら、なんて言いますか?」
「こういう相談をされたら、どうやって返しますか?」

友人に相談されて困っているのかな? と思って、私なりにアドバイスしたけど……内容はバラバラだし、あまりにも質問の量が多かった。

不思議に思い、それとなくケリーに聞いてみた。

「私の意見をよく聞くけど……周りから相談される事が多いの?」
「えっ!? あっ……はい。参考までにアリアさんの意見を聞きたくて……」

随分と歯切れの悪い返事だ。

「私の意見は参考までにして、ケリーの感じた事、思った事を伝えた方が相談した相手も嬉しいんじゃない?」
「……私じゃダメなんです」


……どういう意味だろう?
ケリーの言いたい事がよく分からず、心の中で首を傾げる。

「どうして?」
「……いえ、その……色々と教えてくださって、ありがとうございました」

どこか気まずそうにはぐらかされてしまい、それ以上は聞けない雰囲気になってしまった。


持ち物もそうだ。
私の持っている物、身につけている物を見ると「どこで買ったんですか?」と質問される事が多い。

購入場所を伝えると、後日「私も可愛いと思ったので買っちゃいました」と言って、身につけている。
好みや趣味が同じ事もあるとは思うけど……毎回、同じ物を買う事に違和感はある。


それに……たまに気になる発言もする。

「アリアさんなら、そう言うと思いました」
「アリアさんなら、きちんと話を聞いてくれると思ってました」

ケリーはよく“アリアさんなら”と口にする。
どういったものかまでは分からないけど、ケリーの中には私に対する強いイメージがあるようだ。

ケリーに限らず私もだけど、知り合いはもちろん、顔しか知らないような人に対しても勝手なイメージを持つ事はある。

だけど、ケリーは私に対する理想像のようなものがあるのか、他の人よりもかなり強い気がする。


しかも──

「アリアさんなら、誰に対しても平等ですよね」
「アリアさんなら、困っている人を放っておけないですよね」
「アリアさんなら、我慢しますよね」

正直『どこの神?』、『どこの仙人?』と驚いてしまうくらい立派なイメージだ。

うーん……私のどこをどう見て、そんなイメージがついちゃったんだろう??


“ケリーの中の私”と、“実際の私”は違う。

それを伝えても「そんな事ありません!」と即座に否定されてしまう。
どんどん“ケリーの中の私”が一人歩きしているような……。

どうしたものかと悩みつつも、それ以外は特に気にするような事もない。
疑問は残るけど、突き放したいわけでもないしなぁ。

「──私にコンテストは大役すぎるというか……」
「自分の事になると過小評価だね、アリアは」

多少の気まずさを覚えながらもケリーに返事をしていると、突然、後ろから穏やかな声が聞こえてきた。

「カウイ、おはよう」
「おはよう」

カウイが静かに微笑み、そっと私の横に並んだ。

「俺個人としては、アリアには出場してほしくないかな? みんなも同じ事を思っているかもしれないけど。……ああ、ケリーさんもおはよう」
「……おはようございます、カウイさん」

『なんで?』と私が尋ねるよりも早く、カウイとケリーが挨拶を交わしている。

……聞くタイミングを逃しちゃった。


私とケリーが一緒にいる機会が多い事もあってか、幼なじみたちとケリーも自然と顔見知りになった。
聞くところによると、ケリーは私がいない時も積極的にみんなへ話し掛けているらしい。

驚く事に、他人への関心が薄いあのルナでさえ、ケリーの事はちゃんと覚えている。

とはいえ『話し掛けてくる人がいる』程度にしか言ってなかったので、あまり会話らしい会話はしていないのかも……。

ちなみにミネルは『馴れ馴れしい』と怒っていた。
……そういえば、前にセレスが言ってたな。

『アリアの事をよく聞かれるわよ。あの子……話し方や口癖、顔に出やすい所までアリアと同じなのよね……』

……うーん、ケリーは何がしたいのかな?
さっぱり分からない。

知らぬ間に難しい顔でもしていたのか、カウイが少し気遣うように声を掛けてきた。

「アリア、一緒に行こうか」
「う──」
「そうだ! アリアさん」

返事をしようとした瞬間、ケリーが遮るように私を呼んだ。
声の大きさに驚き、思わずどもってしまう。

「ど、どうしたの? ケリー」
「明日のお昼、一緒に食べませんか?」

明日……かぁ。
正直、断る理由はない。

……けど、すぐに『うん』と返事ができない自分がいるのも事実だ。


「そのお昼、私もご一緒していいかしら?」

返答に迷っていると、背後から私を助けるかのような声が聞こえてくる。
気づいたケリーがパッと表情を輝かせた。

「っマイヤさん! おはようございます!!」
「おはよう、ケリーさん」

にっこりと微笑みながら、マイヤが私たちの元へと歩いてくる。

「そろそろ、"ケリー”って呼んでください。マイヤさん」
「うふ。明日、ご一緒してもいい?」

可愛らしく首を傾げつつ、マイヤが改めてケリーに確認する。
今、ケリーの言った事をはぐらかしたような……?

「もちろんです!」
「ありがとう」

マイヤからの提案に、ケリーが嬉しそうに笑っている。

「ケリーさん、嬉しそうね」
「マイヤさんともご一緒できるのが嬉しくて……。顔に出てました? 私、顔に出やすい性格みたいで……」
「……ふぅん、そうなの。──あら?」

ふと、マイヤが何かに気がついたように声を上げる。

「ケリーさん。ご友人が呼んでるみたいよ。行ってきたら?」
「えっ、あっ、はい。それじゃあ、また明日」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 1/13 HOT 42位 ありがとうございました!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

なろう370000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

我が家に子犬がやって来た!

ハチ助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

処理中です...