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高等部3年生

ルナのつぶやき  高等部編(前編)

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ルナです。

大迷惑な事が起きました。
珍しく家族全員が揃い、食事をしていた時のことです。

「リーセ、ツクイさんのご息女に会ってみない?」

お母様が兄様に聞いています。
ツクイ……誰だろう? お母様の職場の人?

「急にどうしたの?」

兄様が笑いながら答えてます。
素敵な笑顔です。

「実はツクイさんのご息女がリーセに一目惚れしたみたいなの。それで『一度会って話せば、娘を気に入るはずだから会わせてくれないか』って。断ってたんだけど、何度もお願いされてね」

表情も変えず、お母様がとんでもない事を言い出しました。

格好よく完璧な兄様に、この手の話は多いです。
でも兄様は全部断ってきました。

当然、今回も断るだろうと思い、私は気にせず食事を続けていました。
ところが──


「分かったよ。一度会ってみるよ」


兄様が驚愕の返事しました。

……話を受けた。
兄様もツ、ツ……クさんのご息女に興味がある?

その人はアリアよりも魅力的……?


……セレスみたいな単純な事を考えてしまった。
アリアより魅力的な女性なんて、この世にいなかった。

優しい兄様はきっと、お母様の顔を立てる為に一度だけ会う事にしたに違いない。


……と、思っていました。
それなのに、ある日、お母様が耳を疑うような事を言い出しました。

「来週も“モレ”さんに会うそうよ。リーセも気に入ったみたい」
「“モレ”?」
「ああ、ツクイさんのご息女よ」

あの、ツ……クさんのご息女と? また?

「本当?」
「ええ、本当」
「ほんとのほんと?」
「ええ、本当」

兄様が“モレ”さんを気に入った?
アリアがいるのに?

確認したいけど、兄様は仕事が忙しい時期。
邪魔をしたくない。

それに……本当に兄様が望んだ人なら、祝福しないといけない。

だけど、だけど……兄様の結婚相手はアリア以外いないと思っている。
少なからず、兄様もそう思ってると思ってた。

いや、思っている。
兄様が興味を持って気に入ってる女性は、アリアだけ。これは絶対の絶対。

もし、兄様と“モレ”さんが結婚する事になったら……お母様を一生恨む!!



とにかく、この不安な──モヤモヤとした気持ちを聞いてもらいたい。

そう考えて、部屋の前でアリアが帰って来るのを待った。

「兄様が……結婚しちゃうかもしれない」

突然の言葉にアリアが驚いている。

「結婚? リーセさんが!?」

私がこくんと頷く。

「と、とりあえず、私の部屋へ入って」

約束もなく来たのに……アリアが優しく私を部屋に招き入れてくれた。
アリアが私を椅子に座らせ、メイドのサラさんに飲み物をお願いしている。

落ち着いたところでアリアが私の向かい側に座り、ゆっくりと口を開いた。

「ええと……リーセさんが結婚してしまうかもしれない、というのは?」
「兄様を気に入った女性がいて──」

今までの経緯をアリアに話す。

「そっか。モレさんは、元々リーセさんを気に入ってるんだもんね。リーセさんも気に入ったなら、結婚する……と思うかぁ」

話しながら、不思議そうにアリアが頭を傾けている。

「うーん……でもなぁ。そんな大事な話をリーセさんがルナにしないかなぁ? ルナには真っ先に話しそうだけど??」

そう言われてみると……そうかもしれない。
兄様がお母様に話して、私に話さないはずがない。


これは……確かめる必要がある。

「アリア、週末見に行こう」
「何を?」

アリアがきょとんとした顔をしている。

「兄様とモレさんが会う所を」

状況が飲み込めたのか、アリアが大きく目を見開いた。

「ええ!? 邪魔はできないよ!!」
「大丈夫。遠くで見守るだけだし」

兄様が本当にモレさんを気に入ったかどうかは、顔を見れば分かる。

「一人だと心細いから、アリアもついてきてほしい」
「ええ!?」

アリアが驚いた後「んー、んー」と、必死に頭を悩ませている。

「んー、分かった! ただし遠くから眺めるだけ、ね。ルナがリーセさんの様子を確認したら帰るよ?」
「分かった。任せて」

渋々ではあったけど、アリアも付き添う事を了承してくれた。
これで真実を確かめる事ができる。



──そして、迎えた週末。
兄様とモレさんが約束している時間よりも早く、レストランへと入る。

この場所で会う事は、事前にお母様から聞いている。
一番目立たない隅の席に座らせてもらい準備万端。

あとは、アリアの到着を待つだけ。
すると帽子を深く被り、きょろきょろと周りを見渡しているアリアが現れた。

私に気づいたアリアが、こっちに向かってゆっくりと歩いて来る。

「アリア、(挙動不審だけど)どうしたの?」
「あっ、ルナ。バレないように周りを警戒しないと」

余計、目立つような……。
アリアが私に顔を近づけ、小声で話し掛けてくる。

「リーセさんは?」
「30分以上早く来てるから、まだ来ないと思うよ」

安堵の表情を見せると、アリアは被っていた帽子を脱ぎ始めた。

私の向かい側に座り、その隣に帽子と荷物を乗せている。

「リーセさんとモレさんが会う所を見たら、気づかれないようにそっと帰る。いい?」
「うん、それで大丈夫」

私が頷くと、アリアも一緒に頷く。
アリアが飲み物を注文し、一息ついたところで、ぱっと私の顔を見た。

「今更だけど、わざわざ会う所を見なくても……直接リーセさんに確認すれば、解決だったんじゃ」

「うん」

私が返事をすると、アリアが驚いている。
表情がころころ変わって面白い。

「えっ、んん? 気がついてたの??」
「うん。でも……確認して『気に入ってる』と言われた場合の(心の)準備が出来なくて」

アリアが小さく笑った。

「そっか。大好きなお兄さんだもんね」

こんな時『兄離れしなさい』と言わず、私の気持ちを汲んでくれるアリアが好きだ。

「それに兄様が弱みを握られてるなら、その場でアリアと一緒に助けようと思って」
「なるほど。その可能性もあるんだ?」

それは……まだ分からない。
兄様に限って、弱みを握られている可能性は低いけど。

アリアと会話をしていると、兄様が予定より早くレストランに入ってきた。
さすが兄様だ。

「アリア、兄様が来た。兄様は女性を待たせたりしないから」
「う、うん?」

アリアには兄様の良い所を伝えておかないと。

うん、大丈夫。兄様の位置から、私とアリアの席は見えない。
気づかれる心配はなさそうだ。


暫く待っていると、モレさんらしき女性が入ってきた。

「アリア、来た」
「モ、モレさん?」

私が黙ったまま頷く。
2人にバレないよう、お互いに小声で会話をする。

「ルナの場所から、リーセさんの顔は見える?」

再び、黙ったまま頷く。
そうか。アリアは私の向かいに座ってるから、兄様とモレさんの顔が見えないのか。

視線の先では、兄様とモレさんが何やら話している。

兄様のこの表情は……。

「アリア、出よう」

10分も経っていないけれど、兄様の気持ちはよく分かった。もう充分だ。
私の言葉にアリアが頷き、またしても持っていた帽子を深く被った。

やっぱり余計、目立つような……。
死角の位置だから、まぁ大丈夫か。

アリアと2人、一言も会話せずにレストランを後にする。
外へと出た瞬間、アリアが「ふぅー」と大きく息を吐いた。

「バレなくて良かったね」
「うん」

実はレストランを出る際、兄様がチラッとこちらを見たような気もする。
もしかしたら、気がついたかもしれない。

でも、アリアとの約束通り、邪魔はしてないし。

「……で、どうだったの?」

アリアが緊張した面持ちで私に尋ねてくる。

「うん。違った」
「違った?」
「うん、兄様が気に入った女性ではない」

そう。兄様は明らかに愛想笑いをしていた。

……という事は気を許していないし、気に入った女性でもないという事だ。

「そうだったんだぁ」

私の答えに納得しつつも、アリアが「うーん」と悩んでいる。

「リーセさんの気持ちを考えると“残念”なのかな? でも私はルナの友人だから“良かったね”でいいのかな?」
「そうだね」

良かったね……か。
確かに良かったけど……ある意味、残念な事にも気がついちゃった。
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