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高等部3年生

強気なミネル

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「そろそろ、僕の事を好きになったか?」

隣に立つミネルが、ふいに尋ねてくる。

「えっ!!?」

予想もしていなかったミネルの言葉に、頭が追いついてこない。

「えっ、と」
「その様子だと、まだのようだな」

動揺する私の姿に、ミネルが不満げな表情を見せる。


明日はマイヤとサウロさんの婚約パーティーだ。

ウィズちゃんに『準備した会場(ミネルの家)を見に来て』と言われたから来たんだけど……。
まさか速攻で、こんな話題になるとは。

「そ、そういえば……マイヤとセレスが、後ろ姿が私に似ている人を見たって話してたんだ。ミネルは何か知ってる?」

一旦話題を変えようと、2人から聞いた話をミネルにする。
それに《知恵の魔法》を使うミネルなら、生徒の情報をすべて管理してそうだ。

「話題をそらしたな」

うっ、バレてる。

「まぁ、いい。……アリアに似ている?」

ミネルが顎に手を当て、思案している。

「後ろ姿か……あえて言うなら、1人だけ思い当たる人がいる」
「──そうなんだ!」

やっぱりミネルは知っていたんだ。

「1つ下の学年にいる“ケリー”という女性だ。アリアと同じ髪型で、身長も同じくらいだったはずだ」

なるほど。
2人が話していたのは……その人の事かな?

「ただ、顔は似ていないぞ。アリアより年下だが、大人しいというか、落ち着いた顔立ちをしている」
「…………」

幼なじみの説明は、いつも一言多いような……。

「それでも僕はアリアの方がいいぞ」

私を見て、ミネルが片方だけ口角を上げた。

「それは……誠にありがとうございます」
「ああ、構わない」

反応に困りつつもお礼を伝えると、ミネルが笑みを浮かべたまま返してくる。
『構わない』って……それはそれで反応に困ってしまう。

「ルナにも聞いたけど、『見た事ない』って言ってた」
「それはそうだろう」

すぐにミネルが答える。

「ルナは“アリアか、アリア以外”、“リーセさんか、リーセさん以外”でしか見ていない。気づくはずもない」

そっか。
ミネルの言う通り、元々ルナは人の顔をきちんと見ていなかった。

「なるほど」

私が妙に納得していると、ミネルが怪訝そうに私を見た。

「そこは納得するんだな。ルナの気持ちは重くないのか? あれは重症だぞ?」
「全然! 私、見かけによらず力持ちだから!!」

ルナを可愛いとは思っても、“重い”なんて考えた事もなかった。

「力持ち……そういう事じゃないが。なら、良かった」

……んん? 良かった?? 何が???
私が首を傾げていると、ミネルがニヤッと笑ってみせる。

「僕の愛は、アリアが想像している何十倍も重いからな」
「っ!?」
「力持ちなら余裕で受け止められるな」

見るからに、さっきよりも楽しそうだ。

「……ミネルは、そういう事を言う人じゃないと思ってた」
「残念だったな。アリアの面白い顔を見たいという気持ちの方が勝つんだ」

くくっと声を立てて笑うと、ミネルが私に向かって手を伸ばしてきた。

私の右頬に触れると同時に表情が真剣なものへと変わる。
そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。


えっ!? この流れって、まさか──


……と、咄嗟に顔を横に向けようとしたところ、ミネルが突然、私の頬を軽くつねった。

「……へっ!!?」

驚きのあまり目を見開いたまま、ミネルを見上げる。

「はっ! ははっ。その顔……」

ミネルが前かがみになり、お腹を抱えて笑っている。

「だ、だって!!」
「キスでもされると思ったか?」


……くっ、くっ、悔しいーーーー! !
ええ、ええ! 思いましたともっ!! 

だって、真面目な顔をしてたし、顔を近づけてくるし!
図星なだけに余計に悔しいーーー!!!

私が悔しがっていると、ミネルの手が再び私の右頬に触れた。
自然な動きに、ついつい反応が遅れてしまう。

「では、お望み通りに」

そう告げると、ミネルが私にキスをした。


──えっ!!

ほんの一瞬触れただけの唇を離すと、ミネルが私に背を向けた。
耳が赤い気もするけど、何事もなかったかのように会場を見渡している。

「さて、本題に入るか」
「…………」

……あれ? いまいち思考が追いついてないけど……私、ミネルとキスしたよね?

キスした? と疑問に思うほど、ミネルが普通に話してるんだけど……。

「どうだ? 明日の会場はこんな感じでいいか?」
「…………」

……あれ? やっぱり夢でも見てた!? 
いつも自分の世界に入ってしまう私なら、あり得る話だ。

確かめるように、そっと唇に触れる。

……って、いや! 間違いなく感触が残ってる!! 夢じゃない!!!

「ミネル……今、キスしたでしょー!!!」
「大きい声で言うな」

大きい声にもなるよ!

キスしたんだよ!? 
急にキスされたら、誰だって驚きすぎて大声にもなっちゃうよ!!

「こういうのは……合意じゃないと良くないと思います!」
「なんだ? その口調は……まぁ、いい」

こっちは怒ろうしてるのに『まぁ、いい?』って、 何がいいの!?
キッと睨みつけていると、ミネルが軽く息を吐いた。

「お前……アリアはバカか?」
「な、なんで“バカ”呼ばわりされないといけないの!?」

悪いのはミネルなのに、納得できない!!
あまりの言いように憤る私を、ミネルが真面目な表情で見つめてくる。

「よく考えてみろ。僕がアリアを好きな事はすでに伝えてある。そうだろう?」
「う、うん」
「何もしないと思っている方がおかしい」

えっ!? そ、そうなの?
でも……そう言われてしまうと、そうかもしれない。

「アリアは他人との距離感が近い。隙が多すぎる」
「う、うん」
「他の男性だって同じだぞ? もう少し注意深くなるべきだ」
「う、うん」

……ミネルの言う事はもっともだ。

それに、ミネルや他の幼なじみ関しては小さい頃から一緒という事もあり、どうにも気が緩んでしまう。

「分かったなら、僕以外の男性と2人きりで会わない方がいい」
「う、うん」


…………ん? 

思わず『うん』と言ってしまったけど、今のは『うん』で正解だった?
さらに別な方向に話がいったような??

「この話は、これで終わりだ。話を戻すぞ。明日の会場はこんな感じでいいか?」

……んん? 終わらせていいんだっけ?
なんかミネルの話術にはまっているような……。

「明日だからな。時間もない」

確かに時間はない!!
若干……いや、かなり納得はいかないものの、時間がないのは事実だ。


んー……とりあえず優先すべきは会場!! 
一旦頭を切り替えて、ミネルが準備してくれた会場を見渡す。

「可愛い! まさにマイヤのイメージ!! この装飾を考えてくれたのって……メーテさん(ミネル母)?」
「よく分かったな」

ミネルが感心した表情で私を見た。

うん、分かるよ。
ミネルもウィズちゃんも、選びそうにない物ばかりだし。

細かい部分をチェックしながら、明日の料理についてもミネルと話す。

「今更だけど、ミネルの家のシェフやメイドさん、大変だよね? 大丈夫??」
「ああ、それは問題ない。久しぶりのパーティーで張り切っている」

この後、私がプレゼントの時計を受け取りに行き、花束は明日届けてもらう手配になっている。
サウロさんに渡すお酒はオーンが持ってきてくれるはずだ。

ケーキもルナとエレが探して頼んでくれたし……。

「そうだ。ドレスは? セレスが『本気を出してしまったわ。マイヤには勿体ないくらい素敵なドレスよ』と言ってたけど……」
「ああ。夕方にエウロが持ってくると言っていた」

前日に仕上がったのか……。そう聞くと、本当にギリギリだったな。
間に合って良かったぁ。

「わかった! じゃあ、そろそろ時計を取りに行くね……って、その前に!」

話を戻さないと!!
でも……話を戻すにしても、何から言えば……。

私が迷っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
開いた扉の前にはウィズちゃんが立っている。

「ウィズちゃーん!」
「あーちゃーん!」

数年ぶりに再会したかのように、ひしっと抱き合う。

「あーちゃん。明日はウィズも参加していい?」
「もちろんだよ! マイヤも喜ぶと思う」
「……そうですね、あーちゃん」

あぁ、ウィズちゃんは本当に可愛いなぁ。
できれば、もう少し一緒にいておしゃべりしたいけど……。

別れを惜しみながらもウィズちゃんから離れ、立ち上がる。

「ごめんね。今日は時間がないから帰るね」
「なんだ、帰るのか? 僕に言いたい事があるんじゃないのか?」

少し離れた位置に立つミネルが、腕を組みながら私に尋ねてくる。
傍にいるウィズちゃんにチラッと視線を送った後、悩みつつも質問に答える。

「もう……ああいう事はやめてよね、ミネル」

……としか、ウィズちゃんの前では言えないよ。
しかも時間が経ってしまったせいで、怒りのピークが過ぎてしまった。

それにしても ……言えないという事を分かってて聞いてきたな、ミネル!

帰り際、外まで見送ってくれたミネルが、私に向かって満足げに笑いかけて来た。


「先ほどの返事だ。約束はしない。では、明日」
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