上 下
227 / 261
高等部2年生

決着 1/3

しおりを挟む
えっ!!?


突如、目の前でジメス上院議長が魔法を唱えだした事に驚いてしまう。
ジメス上院議長の事だから、冷静に言い逃れをすると思っていた。

これは……状況的に、もう言い逃れが出来ないと思ったという事?

危険を察したお父様達が、急いで街の人たちを非難させている。
さっきまでジメス上院議長への怒りに燃えていた人たちも、もはやパニック状態だ。

正直なところ、私自身もジメス上院議長の巨大な魔法の色を目の当たりにして震えが止まらない。
ジメス上院議長がこんなにも強大な魔力を持っているなんて……。


……けど、私が魔法を封じなきゃ!!
手にギュッと力を込め、自分に『大丈夫』と言い聞かせる。

なんとか気持ちを落ち着かせ、再びジメス上院議長と向かい合おうとした瞬間、どこからともなく現れた霧が周囲の景色をかき消した。


──えっ!!!
誰がどこにいるのか、周りが見えない。

これは……上級者が使える《水の魔法》だ。
しかも危険を伴うから、禁断の魔法に入っていたはず……。

どちらにしても、ジメス上院議長はこの一瞬で霧を作り出したんだ。
霧が濃く、自分の立っている場所すらも霞んでいる。


でも、魔法の色は……見えた!
大体の位置を把握すると、即座にジメス上院議長の魔法を封じ込めようと動き出す。


「──アリアさん!」

この声は──ジメス上院議長だ。
恐らく、私の行動を読んでいるに違いない。

「これは忠告です。私の魔法を封じない方がいい」

……どういう事だろう?
私の力を知りながら、あえてそんな事を言うなんて……嫌な予感がする。

まずは状況を確認する為、何もせずにその場へと立ち止まった。

「誰も歯向かうことができない、巨大な魔力を手に入れるまで……こんなにも時間が掛かってしまいました」

少しずつ、霧が晴れてきた。
姿を隠して攻撃してくると思ったけど、そうではなかったらしい。

「はぁ……どいつもこいつも役に立たない。やはり、自分以外は信用できない」


徐々に広がっていく視界の中、ジメス上院議長が──見えた!

特に変わった様子は特にないけど……ん? 
あれは何だろう?

ジメス上院議長の周りに氷の像のようなものが並んでいる。
ジッと目を凝らせば、すぐにその正体が分かった。

「ノレイさん!!」

氷の像の中にノレイさんが閉じ込められている!
間違いなく、ジメス上院議長の仕業だ!!

「私の魔法を封じたら、ここにある氷像を全て割ります」

そう告げると、ジメス上院議長は私を見てにっこりと微笑んでみせた。


“氷像を全て”……?

含みのある言い方に、慌てて周りを見渡す。
そこには……ノレイさんと同じように閉じ込められた、お父様達の氷像があった。


っ! なんてひどい事を!!
そうか、さっきの霧はこの為の……お父様達の動きを封じる為のものだったんだ!

あまりの状況にショックを受けながらも、幼なじみ達の姿を探す。
霧が完全に晴れた事もあって、時間を掛ける事なくみんなの姿を見つけた。

良かった! みんなは無事だったんだ!!

どうやら、ジメス上院議長の近くにいたお父様達だけが閉じ込められたようだ。

……ううん。
お父様達が近くにいたからこそ、言い逃れせずにこの行動に……出た?

「全員閉じ込めたかったが、さすがに人数が多すぎた。ただ一番厄介な奴らは、始末できて良かった」
「ぃやぁ!! お父様が!!!」

自分の父親の凍りついた姿に、マイヤが叫んでいる。
かく言う私も、急な事に現実を受け止める事ができない。

始末……?
それは……お父様が亡くなったという事?

「さて、と」

っ!!?
にやりと笑みを浮かべたジメス上院議長と視線が重なる。
含みのある眼光に警戒するよりも早く、その指先が私の方へと向けられた。


「──アリア!  危ない!!」

すぐさまエレが庇うように私の前に立つ。
その瞬間、冷たい風がエレを覆うように吹き荒れ、その体をみるみるうちに凍らせていった。

「そ、そんな……エレーー!!!」


私を庇ったからだ!
私を庇ったせいでエレが……!!

お父様達の変わり果てた姿を見た時からずっと不安定だった心が、ここにきて完全に折れそうなる。
現実をなかなか受け入れる事ができず、ただ、涙が溢れ出て止まらない。

頭では返事をしない事を分かっているにもかかわらず、ひたすらにエレの名前を呼び続ける。

「エレッ! エレ!!」
「良かった。アリアさんが凍ってしまったらどうしようと思っていました。貴方には頼みたい事があったのでね」

その場に崩れ落ちる私に対し、ジメス上院議長が淡々と話し続ける。

「いつもアリアさんの一番近くにいるエレさんは、アリアさんを“必ず”庇うと思っていました。さすがの私も《闇の魔法》 だけは警戒しなくてはなりませんからね」
「っ……エレがいないと、私……」

今は嘆いている場合じゃない。
やらなくちゃいけない事があるのは分かっているけど……どうしても自分の感情がコントロールできない。

「エレさん本人だと避けられる可能性が高かったので、アリアさんを狙ってみましたが……正解でした」

ジメス上院議長が終始ご機嫌な表情を浮かべている。

エレの名前を何度も繰り返していると、私の肩にポンと優しく手が置かれた。

「アリア、大丈夫だから。まだ生きている」

動揺している私の後ろにいたオーンがそっと囁いた。
私の中にオーンの言葉が心地よく響く。

その声で我に返った。
呼吸を整えながら、自分に『大丈夫』と言い聞かせる。

……少し落ち着いてきた。
涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。

「──ただ、時間が経てば経つほど危険な事は間違いない」

つまり、ジメス上院議長の魔法を封じ込める事さえできれば、お父様達を助ける事ができる。
でも……私が《聖の魔法》を使えば『氷像を全て割る』と言っているし、どうすれば……。

場が混乱している中、ジメス上院議長だけは饒舌じょうぜつに話し続いている。

「まさか、こんな事になるとは夢にも思っていませんでしたよ。計画通りに進んでいれば、もっと穏便に国を手に入れる事ができたはずなんですがね」

残念そうに目を伏せる姿が、妙に芝居掛かって見える。
こんな話し方をする人間だったろうか。

考えると同時に嫌な感覚が全身へと広がり、ゾワっと鳥肌が立った。

「他の誰でもなく、私こそが民衆から“愛される王”になろうと思ったが……難しいものですね」

愛されるどころか、とんでもない事をしているのというのに、その表情は驚くほどに穏やかだ。

「一番身近にいた娘と執事に足をすくわれるとは……」

そこで言葉を区切ると、ふぅー、と大きく息を吐いた。


「──無理なら、力で国を手に入れるしかない」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前ら、何でスキルを1度しか習得しないんだ?ゴミスキルも回数次第で結構化けます

もる
ファンタジー
生まれも育ちも村人のゲインは15歳。武器と鎧の世界に憧れて、冒険者に成るべく街に向かうのだが、生きてるだけで金のかかる、街での暮らしが出来るのか?スキルだってタダじゃない。村人知識で頑張ります。 ひとまず週一更新しますがストック次第で不定期更新となります。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

私の婚約者が完璧過ぎて私にばかり批判が来る件について

下菊みこと
恋愛
家柄良し、顔良し、文武両道、そんな婚約者がいるせいで他の人たちに「なんであんな奴が」だの「顔しか取り柄がないくせに」だの言われる私。しかし困ったことに婚約者は私を溺愛しています。私を悪く言う人皆に制裁しようとする婚約者の暴走を止めるのに必死で嫌味なんていちいち気にしてられない!これはそんな私の日常の話。小説家になろう様でも掲載しています。 *途中から数話ほどGL要素入ります!苦手な方は読み飛ばしてください! すみません、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ書き直してます。皆様がストレスなく読める感じになっているといいのですが…。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

ヒロインに転生したけど私貴方と婚約したくないのです

みぃ/現お仕事多忙中
恋愛
【メイン完結】 「マリア!お前とは婚約破棄をして、キャットユー子爵令嬢のリリィと婚約をする!!!」 夜会の中、突然響く私の名前 …………なぜ私のお名前が? ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ その場で思いついた処女作 設定?そんなもんは知らん← あ、誤字脱字の報告や、言葉の間違いなどは受け付けております\(´°v°)/んぴッ 設定めっちゃくちゃなのは知ってるから 非難中傷は受け付けぬ⸜( ⌓̈ )⸝

7周目は嫌われでした〜別エンディングはバッドエンドで!〜

荒瀬ヤヒロ
恋愛
まただ。また戻った。今回で七回目だ。 第二王子アクセルが魔獣に襲われて命を落とすたびに過去に戻るルイゼル。 (今度はアクセルを死なせないわ!) 恋人であるアクセルを守るために頑張るけれど、いつも失敗して七回目のやり直し。 だけど、七回目の今回はいつもと様子が違っていて—— ハッピーエンドを目指すルイゼルの奮闘の行方は?

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...