上 下
202 / 261
高等部2年生

アプローチ ( ダンス )の時間 ~エウロ、そして~

しおりを挟む
「うん……」

私が言うのもなんだけど、大丈夫かな?
これから戦いに挑むような気合の入りようだけど……。

エウロの緊張が伝わる中、ダンスの輪に入って踊り始める。

踊りも……緊張しているのか、少しぎこちない。
だけど──

「エウロも私と同じでダンスが苦手だって話してたよね? それなのに普通に踊れるなんて……」
「『踊れるなんて?』……なんだ?」

私の言葉に、エウロが少し興奮気味に聞き返してくる。

「さすがだなぁと思って」
「……そっか、そうだよなぁ」

んん? 少し落ち込んでいる?

「アリアなら、そう言うよなぁ。俺はまだまだだな」

んん? まだまだ??


「アリアをドキドキさせれないなんて、まだまだだ」


……それを面と向かって言われると、ドキドキしちゃうのですが……。
戸惑っていると、エウロがきょとんとした顔で私を見つめてきた。

「どうした? 俺、何か変な事を言ったか?」

さらに無自覚ですか。

「ううん、変な事は(多分)言ってないよ」
「そうか、良かった。もっと上手くアリアをリードして踊る予定だったんだけどなー」

エウロが肩を落としている。
……そうだったんだ。

「ぎこちなさはあるけど、ちゃんとリードできてるよ?」
「アリアが驚くくらいのダンスを見せたかったんだ!」

驚くくらいのダンスって、どんなダンスなんだろう?

エウロが少しテンパってるからかな?
多分、無意識に何でも話しているエウロが少し面白くもあり、可愛くも見える。

「エウロは向上心が高いよね。いつも現状で満足していない気がする」
「そうか?」

エウロの問いに、こくりと頷く。

「うん。実は幼なじみの中で一番向上心が高いのかも。それって、すごく素敵な事だよね」
「えっ!?」
「えっ!?」

そんなに驚かれるとは思っていなかったので、私まで驚いてしまった。

「まさか想像していた事を言われるとは思っていなかった」
「想像?」

私が聞き返すと、エウロが「うんうん」と何かに納得している。

「いや、こっちの話だから気にしなくていいんだ。……俺、もっと頑張るから!」
「うん!?」

明るいエウロの声につられて、つい返事をしてしまった。
だけど……一体、何を頑張るんだろう?

途中からは緊張も解け、無事に踊り終える事が出来た。

エウロと楽しく会話をしながら戻っていると、壁沿いにリーセさんが立っているのが目に入った。
誰かを待っているようにも見える。

「どうしたんですか? リーセさん?」
「ああ、ルナを待っているんだ」

ああ、ルナ?
そういえば姿を見かけないけど、どこに行ったのかな?

「どうやら、もう少し時間が掛かりそうでね。もしよければ、ルナを待っている間、私と踊ってくれるかい?」

リーセさんが優しく口元を緩める。

「あっ、はい。エウロ、行ってくるね」
「なんて自然な誘い方なんだ……」

エウロがなぜか感心したように、リーセさんを見つめている。

そのままエウロと別れ、リーセさんにエスコートされながら広間の中央へと向かう。
上手くリードされながら踊っていると、リーセさんがゆっくりと口を開いた。

「ルナがね……『アリアと踊れるのが男性陣ばかりでずるい』とずっと話していてね」
「は、はぁ?」

突然どうしたんだろう?
珍しくリーセさんが、口を濁している。

「『準備が終わるまで、兄様は必ずアリアと踊ってて』と言われたんだ」
「ああ、なるほど。それでダンスを申し込んでくれたんですね」

ルナの準備って、何だろう?

「ごめん、ごめん。誤解される言い方をしてしまったね。ルナに頼まれなくてもアリアにはダンスを申し込んでいたよ」

申し訳なさそうに肩をすくめつつ、リーセさんが柔らかく目を細める。

「あ、ありがとうございます。それで、ルナはどうしたんですか?」
「ああ、うん。ルナが信じられない計画を思いついてね」
「は、はぁ??」

信じられない計画……?
困惑する私に対し、リーセさんは苦笑いを浮かべている。

「うーん、アリアならきっと笑ってくれると思うんだけど……」
「あのー、先ほどから何の話をしているのか……」

状況がさっぱり呑み込めずに首を傾げていると、ふいにリーセさんが私の奥へと目を向けた。

「──あっ、きた」

きた??

踊りながら、リーセさんの視線の先を追う。
その先には髪を後ろで1つに束ね、黒のタキシードに黒の蝶タイをつけた人が立っていた。


──えっ!!
ま、まさか、あれって……ル、ルナ!?

いや、まさかじゃなく、ルナだ!!
んん? さっきまで、キレイなドレスを着ていたよね??

「……ルナが来たから、行こうか」
「あっ、はい?」

踊るのを止め、2人でルナの所まで歩いて行く。
ルナを見に来たのか、いつの間にか幼なじみ達も集まっていた。

「ルナ、どうしたのよ? その格好は!?」

呆れた表情で、セレスがルナに話し掛けている。

「アリアと踊ろうと思って、2着持ってきた」
「ほ、本当に踊るの? 男性のパートを?」

マイヤは驚きすぎて、“表の顔”を完全に忘れている。

「うん、完璧だし」

一見無表情に見えるルナだけど、(私から見ると)得意げな顔をしている。

うん!
遠目でも思ったけど、スタイルがいいからタキシード姿も似合ってる!

「ルナは、何でも着こなすね」

笑顔で褒めると、ルナが(分かりにくいけど)嬉しそうに頷いた。

「アリアなら、そう言ってくれると思った。私も兄様とは踊り終わったから、後はアリアだけ。アリア、私とも踊って」

なるほど。
リーセさんの歯切れが悪かった理由はこれかぁ。

すごい! こんな事、全然思いつかなかったよ!
ルナって……発想が面白い!!

「あはは。踊ろう、踊ろう」

ルナの手を取り、歩き出す。
すると、ルナが一度足を止め、後ろにいる幼なじみ達を見た。


「アリアと最後に踊るのは、“私”だから」


ルナの口角が微妙に上がった(ように見えた)。

後ろから、ミネルとオーンの声が聞こえてくる。

「あいつを参加させたのが間違いだった(家に閉じ込めておけば良かった)」
「……これがルナの作戦だとしたら、やられたね(アリアの印象に残るのがルナになってしまう)」

エレとミネルの妹ウィズちゃんの可愛い声も聞こえてくる。

「ちなみに最初に踊った……アリアの初めては“僕”ですから」
「じゃあ、ウィズは最後、あーちゃんに抱きつきます(兄さまを巻き込んで抱きつくので、任せて下さい)」
「……させないよ」

驚いているエウロと冷静なカウイの声も聞こえる。

「えっ? あ、あれは、ルナなのか!?」
「気がつかないなんて、エウロらしいね」

心底悔しそうなセレスと、呆れ返ったマイヤの声も聞こえる。

「悔しいわ! こんな手があったなんて!! ……知らない男性と踊るより、“心の友”と踊る方が……!! 」

「もう何からツッコんでいいのか、分からないわ。ここで悔しがるセレスちゃんもおかしいわよ。何より誰もルナちゃんの行動について、ツッコまないのがおかしいわよ(そして、エウロくんは、いつもずれてるのよ!!)」


本日何度目かのダンスホールへと戻り、早速ルナと踊り始める。

背が高い上にあまりにも堂々としているせいか、周りはルナが女性だと気づいていないらしい。
顔の整ったキレイな男性と思っているのかな??


いや、そんな事より……な、なんと完璧なダンス!
リードも完璧です!!

「面白い事を考えたね、ルナ」
「うん。ミネルより……じゃなかった。ミネル達より、私と兄様の方がアリアを好きだし。仲もいいし」

ミネルの強調が強い(笑)

「それなのに踊れないのはズルいと思って(邪魔したかったし)」

そう言って、少し拗ねるルナが可愛い。

「あはは。貴重な体験というか、私もルナと踊れて嬉しい。友だちと踊るのも楽しいね!」
「うん、私も楽しい」

ルナがくしゃっと顔を綻ばせた。
私の大好きな笑顔だ。


それにしても、まさかラストに踊る人がルナになるとは……。
予想外の結末ではあったけれど、パーティーは何とか無事? に終了した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前ら、何でスキルを1度しか習得しないんだ?ゴミスキルも回数次第で結構化けます

もる
ファンタジー
生まれも育ちも村人のゲインは15歳。武器と鎧の世界に憧れて、冒険者に成るべく街に向かうのだが、生きてるだけで金のかかる、街での暮らしが出来るのか?スキルだってタダじゃない。村人知識で頑張ります。 ひとまず週一更新しますがストック次第で不定期更新となります。

完結 お飾り正妃も都合よい側妃もお断りします!

音爽(ネソウ)
恋愛
正妃サハンナと側妃アルメス、互いに支え合い国の為に働く……なんて言うのは幻想だ。 頭の緩い正妃は遊び惚け、側妃にばかりしわ寄せがくる。 都合良く働くだけの側妃は疑問をもちはじめた、だがやがて心労が重なり不慮の事故で儚くなった。 「ああどうして私は幸せになれなかったのだろう」 断末魔に涙した彼女は……

私の婚約者が完璧過ぎて私にばかり批判が来る件について

下菊みこと
恋愛
家柄良し、顔良し、文武両道、そんな婚約者がいるせいで他の人たちに「なんであんな奴が」だの「顔しか取り柄がないくせに」だの言われる私。しかし困ったことに婚約者は私を溺愛しています。私を悪く言う人皆に制裁しようとする婚約者の暴走を止めるのに必死で嫌味なんていちいち気にしてられない!これはそんな私の日常の話。小説家になろう様でも掲載しています。 *途中から数話ほどGL要素入ります!苦手な方は読み飛ばしてください! すみません、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ書き直してます。皆様がストレスなく読める感じになっているといいのですが…。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

ヒロインに転生したけど私貴方と婚約したくないのです

みぃ/現お仕事多忙中
恋愛
【メイン完結】 「マリア!お前とは婚約破棄をして、キャットユー子爵令嬢のリリィと婚約をする!!!」 夜会の中、突然響く私の名前 …………なぜ私のお名前が? ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ その場で思いついた処女作 設定?そんなもんは知らん← あ、誤字脱字の報告や、言葉の間違いなどは受け付けております\(´°v°)/んぴッ 設定めっちゃくちゃなのは知ってるから 非難中傷は受け付けぬ⸜( ⌓̈ )⸝

7周目は嫌われでした〜別エンディングはバッドエンドで!〜

荒瀬ヤヒロ
恋愛
まただ。また戻った。今回で七回目だ。 第二王子アクセルが魔獣に襲われて命を落とすたびに過去に戻るルイゼル。 (今度はアクセルを死なせないわ!) 恋人であるアクセルを守るために頑張るけれど、いつも失敗して七回目のやり直し。 だけど、七回目の今回はいつもと様子が違っていて—— ハッピーエンドを目指すルイゼルの奮闘の行方は?

とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと

未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。 それなのにどうして連絡してくるの……?

迅英の後悔ルート

いちみやりょう
BL
こちらの小説は「僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた」の迅英の後悔ルートです。 この話だけでは多分よく分からないと思います。

処理中です...