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高等部2年生

グモード王とカリーナ王妃(前編)

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「にわかに信じがたい話かもしれない。正直どこまでが想像で、どこまでが真実なのかは誰も分かっていない」

そう前置きした後、オーンが本の内容について語り始めた。

「“サール国王”が保管している先々代の王と王妃が書いた本は、先々代の王妃が覚えている記憶を元に書かれたらしい」

王妃の記憶??

「先々代の王の名前は“グモード”、先々代の王妃の名前は“カリーナ”。ここからはグモード王、カリーナ王妃と呼ばせていただくよ」

全ての内容を話すと時間が足りないので、オーンが大切そうな箇所を掻い摘んで説明してくれる事になった。

オーンの手元にメモなどはない。
……という事は、全て暗記してくれたんだ。

「カリーナ王妃はこの国の上流階級の子女として生まれた。だが、王妃本人は『自分は違う国の生まれだ』と話していたらしい。『本を執筆……書き終え、気づいたらこの国に来ていた』と言っていた、と本には書かれている」

本を執筆……あれ?

「グモード王とカリーナ王妃は元々婚約者だったが、王は王妃の“この国ではない記憶”の話に惹かれ、恋に落ちたようだ。そして、そのまま結婚……王妃になった」

みんな黙って話は聞いてるけど、真実として聞くべきなのか、物語──想像として聞くべきなのか迷っているようにも見える。

でも、私には“この国ではない記憶”がある。
だからこそ、心のどこかに“もしかして……”という考えがよぎってきている。

「本はカリーナ王妃の結婚までの話を中心に書かれている。その部分は、今回の話には関係ないと判断して割愛するよ」

オーンは考える素振りすら見せず、スラスラと話し続ける。
まるで一言一句、暗記しているかのようだ。

「カリーナ王妃が覚えている記憶では、この国の魔法は“光”、“火”、“水”、“風”、“緑”、“土”、“知恵”、“癒やし”、“闇”、“聖”の10種類とある」

……?
ここで言う『カリーナ王妃が覚えている記憶』というのは……何の記憶なのかな?

「ところが、グモード王との会話の中でカリーナ王妃は《聖の魔法》が存在しない事を知る。ただ、グモード王は《聖の魔法》の話が面白かったようで、本に残したようだ」
「なぜカリーナ王妃は《聖の魔法》の存在を知っていたんだ?」

話の途中、誰もが疑問に思っていた事をミネルが尋ねる。
その質問に少し戸惑った様子を見せながらも、オーンがゆっくりと答えた。

「……この話を聞いたら余計に混乱すると思うけど、カリーナ王妃が“執筆した本”の中で覚えていた魔法らしい」

途端にミネルが怪訝そうな表情を浮かべる。

「カリーナ王妃は預言者なのか?」
「全てではないだろうけど、私も王妃は預言する力を持っていたのだと思っている」

オーンもミネルの意見に同意している。

「すでに聞いている話ではあるが、《聖の魔法》は魔法を封じ込めるのはもちろん事、封じ込めた魔法を元に戻す事もできる」

私がこくんと頷く。

「その他にも、“封じ込めるに値する人物”の“魔法の色”を見る事ができるらしい」

封じ込めるに値する人物……。


──そうか! きっとノレイがそうなんだ!!

ぱっとミネルの顔を見ると、ミネルも私の顔を見て頷いている。
……とはいえ、“封じ込めるに値する人物”の基準が曖昧過ぎる。

ジュリアの“魔法の色”が見えなかったのは?

私利私欲の為に魔法を使うジュリアは、“封じ込めるに値する人物”に該当するような気がするんだけど……。
《聖の魔法》に目覚めたのと同時にジュリアの魔法を封じ込めたから??

それに、ノレイの“魔法の色”は?
頭をフル回転させ、ノレイを見た時の事を必死に思い出す。


──あっ!

真っ黒だった。
あの時、始めて使った魔法に疲れていたから、眩暈めまいかな? と思ってたけど、彼の周りを覆った色は真っ黒だった。

「黒かった! ノレイさんは黒で覆われていた!!」

思い出した記憶をみんなに伝える。

「……《闇の魔法》の可能性が高そうだな」

私の言葉を聞き、ミネルが呟いた。

念の為、みんなの周りも確認する。
うん、“魔法の色”は見えない。

エレも“魔法の色”は見えなかった。
だから《聖の魔法》を試した時に効かなかったんだ。

オーンと私の話を聞き、エウロが不可解そうに口を開く。

「それにしても“封じ込めるに値する人物”、“魔法の色”って、なんか曖昧過ぎないか?」

エウロの言葉を聞いて、オーンも納得したような表情をしている。

「私も本を読みながら同じ事を思ったけど、そこまで預言できなかったのかもしれない」

預言、執筆した本……。


──ああ!!
もしかして、ジュリアが言ってたアレって……。

『“魔法を封じ込める”のは、本の話でゲームの設定にはない』

突如、パズルのピースが埋まったかのように話が繋がってくる。
カリーナ王妃が覚えている記憶は、自分で書いた本の事なんだ!

“この国ではない記憶”があるカリーナ王妃。

本を執筆中に、私と同じようにこの世界へ転生したのだとしたら!?
しかも、カリーナ王妃が書いた本がゲームになったのだとしたら??

“childhood friendsの本”で転生したのが“カリーナ王妃”

“childhood friends”のゲームで転生したのが私“アリア”

“childhood friends2”のゲームで転生したのが“ジュリア”

……と、いう事になる。


んー、あくまで想像だからなぁ。
本の事も知っていたジュリアの方が色々と詳しそう。
ジュリアが見つかれば、もっと細かい話が聞けるのかもしれない。

もし“カリーナ王妃”が生きていたら、話を聞く事もできたんだろうけど……もう確かめるすべはない。

この国は若くして子供を産んでいる人が多い。
だから、先々代といっても生きてたら……70代後半か80代くらい??

どうにもならない事を1人で悶々と考えていると、カウイが優しく問いかけてきた。

「ねえ、アリア。アリアは学校で“魔法の色”を見た事はある?」

うん??

そっか。学校には大勢の生徒や先生がいる。
見ている可能性は高い!!

そういえば……思い当たる節がある。

「たまにすれ違う人の周りの色が“赤”や“青”に見えた事があった気がする。あまり気にしてなかったけど」
「気にしろ」

間髪入れず、ミネルがツッコんだ。

「“封じ込めるに値する人物”の条件が曖昧だな。考えられる条件は、まず『単純に性格がよくない』。それ以外だと『魔法を悪い事に利用している、もしくは利用する可能性がある』とかか?」

腕を組みながら、ミネルが考えている。

「それなら、後者じゃない? 性格の面なら、身近な人でも見える可能性があるし」

ミネルとか。
声には出さなかったけど、何かを察したらしいミネルが私の顔をキッと睨んだ。

「なんだ? 言いたい事があるなら言え」
「ううん……調子に乗りました」

ミネルにぺこっと頭を下げる。

「楽しそうだね」

オーンがにこやかに私とミネルを見ている。
……にこやかなんだけど、ちょっと圧を感じる。

「アリア」

そんな中、カウイが穏やかに話し掛けてくる。
カウイはマイペースだなぁ。

「今度、“魔法の色”が見えた人がいたら、特徴などを覚えておいて。どんな人物か調べてみよう」

そっか! そうだよね!!

「そうだな。少なくとも“魔法の色”が見えたのであれば、ジメス上院議長と繋がっている可能性も考えた方がいい」

カウイの意見にミネルも同意している。

でも、それなら……。

「遠くからでもいいから、ジメス上院議長を見る事はできないかな?」

できれば、“魔法の色”が見えるのか確認しておきたい。
(多分、見えると思うけど)

「ジメス上院議長のスケジュールを確認しないとな」
「ルナちゃんを通して、リーセさんに頼んでみるのがいいかもね」

ミネルとカウイが話している。

「ユーテルさんの事もあるから、私からルナに話してみるね」

寮の部屋なら、ゆっくり話せるし。
私の提案にみんなが頷く。

「──さて、話を戻すか」
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