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高等部 1年生

オーンの動揺~そして、試合が始まる~

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オーン視点の話です

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試合の説明も聞き終えた事だし、みんなと合流でもしようかな。
アリアは僕の次か。……待ってたら、会えるかな?


でも……アリアに会うと反応が可愛くて、つい困らせるような事ばかり言ってしまう。
さすがに試合前に2人きりで会うのはやめておこう。

アリアに会いたい気持ちを抑え、幼なじみ達の元へと向かう。

ふと、歩きながら別館の人たちが対決を挑んできた日の事を考える。
僕たちと比較されているのが嫌、自分たちが一番だという事を証明したい……ただそれだけのプライド、想いという感じがした。


──ただ、ジュリアさんの目的だけが分からない。

彼女だけは、優劣をつける為にアリアと対決したい……という感じではなかった。
思い出したくもないが、アリアを罵倒していたくらいだ。自分の方がアリアより優秀だと勘違いしているだろう。


……何だろう? ジュリアさんだけ、違和感が残る。



──試合が始まる1時間前

会場は“テスタコーポ”大会で使われていた第5グラウンドか。

今回の魔法祭は、あくまで学校の行事。
外部の人間は参加できないから、観客は生徒だけになる。

アリアの弟“エレ”が僕に《雷の魔法》が使えるユーテルさんの弟を紹介してくれた日、 分かりやすいくらいのプレッシャーを掛けられた。

「勝つのは当然ですから、いいですよね?」

恐らく、アリアから対決に至るまでの事情を聞いたのだろう。
顔は笑っていたけど、自分が仕返しをしてやりたいという気持ちが溢れ出ていた。
その事を思うと、きっとエレは……今日という日を誰よりも見に来たかったに違いない。


もちろん、ユーテルさんには勝つつもりだ。
アリアを悪く言った別館の人たちを許す気はない。

それに……これ以上、必要以上にアリアに関わってほしくないという気持ちもある。
アリアと深く関わると興味を持って、きっと惹かれてしまうから。
ライバルは、幼なじみ達とエレだけで充分だ。

自分の独占欲には気がついていたけど、こんなにも強い闘争心があるとは思わなかったな。
アリアと一緒にいると、次々と自分の新たな一面に気づかされて本当に面白い。


それにしても──本来いるはずのアリアの姿がない。

なにか妙な胸騒ぎがする。
杞憂で終わるといいが……。

マイヤ達もアリアがいない事を心配している。

マイヤ……。
以前のマイヤは優しく、いつも笑顔ではあったけれど、『本当に信用してもいい人物なのか』という点については迷いがあった。

だけど今は……アリアの影響なのだろう。
表面上は昔のままだけど、ずいぶんと“いい意味”で変わったな。
もう僕に対して、一切の興味がなさそうだ。

そんな事を考えていると、ジュリアさんが僕たちの方に向かって歩いてきた。

正直、アリアの事を悪く言ったジュリアさんとは会話もしたくない。嫌悪感しかない。
ただ、こちらに向かってくる表情が気になる。
……嫌な予感がする。

セレスと言い合いをしているのを眺めているとジュリアさんが「ふふっ」と含みのある笑顔を見せた。

「今から言う事を黙って聞いてくださる? もし反論を唱える人がいたら、その時点でアリアさんは二度と戻ってこないと考えてくださっても構わないわ」

──!!?
衝撃過ぎる発言に理解が追いつかない。

「ど、どういう事かしら?」

セレスもかなり動揺している。
素早くセレスの横まで移動すると、ジュリアさんの真意について問い掛けた。

「ジュリアさん、今の話を具体的に教えてくださいますか?」

平静を装っているが、自分でも驚くほどかなり動揺しているな。

「アリアさんが今いないのは私が関係しているという事よ」

どういう事だ?
アリアには僕と同様、今は警護の人がついてるはずだ。
すると、カウイが珍しく焦ったように声を上げた。

「さっき、緊急招集があるとかで30分ほど警護の人がいなくなったんだ。多分、アリアの警護の人も……」


──妙な胸騒ぎは、これか!!
彼女は自分の父親の──上院議長の権力を使ったのか!!


この国の政治の中枢ちゅうすうは‟上院”だ。
国家を動かす上での重要な決定は、すべて“上院”によって審議、採決されている。
僕の父は国王という地位に就いてはいるが、他国と違い、政治の全権を担っているわけではない。

“王は君臨すれども統治せず”
──言葉どおり、この国の政治は例外を除き、“立憲君主制”を主体としている。

それに対し、ジュリアさんの父親は上院のトップである上院議長。要はリーダーだ。
言い換えれば、政治に関して国王以上の権力を有している。

つまり、彼女の父親の権力を使えば、警護の緊急招集を掛けるくらい簡単な事だ!!
“上院”メンバーの令嬢、子息であるアリアやカウイを放っての招集なんて普通では絶対に有り得ない。
もしそんな事があるとするなら、もはや国家レベルで何かが起こった時だけだ。

ところが、僕についている警護には緊急招集はおろか、その連絡すら来ていない。
恐らく、僕の警護まで呼び出してしまうと、僕が不審に思うと分かっていたのだろう。

彼女の父親とは、僕の父を通して何度か会った事がある。
父は一国の王という事もあり、アリアの親たちと仲はいいが、国の事となれば身贔屓みびいきや差別は一切しない。
それでも彼女の父親と僕の父との間には、何か不穏な空気が流れている事を薄々感じてはいた。

まさか娘の為だけに、こんな公私混同をするような人物だったとは!!


「そういう事よ。アリアさんが戻ってくるか、こないかは貴方たちの試合次第よ、という事を伝えに来たの」

ジュリアさんを除いた他の幼なじみ達は、僕たちと勝負する事で、単純に優劣をつけたいだけのように感じた。
……だとしたら、今回の事は恐らく、ジュリアさんの単独行動。
とはいえ、なぜ、そこまでして勝ちたいのかが分からない。

「あと、ここにいる誰かがアリアさんを探しに行くような素振りを見せた場合も、アリアさんは戻ってこない」

表情を取り繕うのは得意だったはずだが、今はそんな余裕すらない。
自分でも表情がどんどん険しくなっていくのが手に取るように分かる。

「もちろん、試合を棄権する、わざとらしい負け方をする、アリアさんがいない事を不審に思わせる……といった、他人に気づかせるような行動をとった場合も同じよ」

なるほど。
あくまで試合はするが、僕たちが『きちんと試合をした結果、負けた』という事にしたいのか。

「頭のいい貴方たちなら、私が何を言いたいのか分かるわよね?」

アリアに言った『 “ジュリア”さんは少し危険な雰囲気が見受けられた』は間違いではなかった。
普段は冷静沈着なミネルが、動揺混じりの声でジュリアさんに尋ねる。

「質問だ。アリアは無事なのか?」
「無事よ、今はね」

ジュリアさんの言葉に我慢できず、自分の気持ちを声に出してしまったのだろう。
青ざめたルナがつぶやいた。

「いやだ」
「いや? それは反論とみなすわよ?」

ま、まずい!!
急いでルナの元へ行き、ジュリアさんに伝える。

「今のは反論ではありません。アリアがいない事を嫌だと言っただけです。そうだよね? ルナ?」

ルナを見つめ、必死に訴える。
今、ジュリアさんの機嫌を損ねるわけにはいかない。

今までいろいろな人物に会ってきたからこそ分かる。
これはただの脅しではない。ジュリアさんは、本当に実行に移せる人だ。
もしかすると、今までも親の力を使って、自分の思い通りにしてきたのかもしれない。

何度も何度も、ルナが今にも泣きそうな顔で頷いている。

「まぁ、私は心が広いから、今のは見逃してあげるわ。試合は通常通り行いたいもの。これから来る観客を落胆させないためにもね」

大切に想ってる人が捕まっているのに何もできないなんて!!
セレスが必死に怒りをこらえながら、ジュリアさんに確認している。

「貴方の言った事を守れば、アリアは必ず無事に戻ってくるのね?」
「ええ、守ればね。最後の──私との試合の時には戻すと約束するわ。それでは、いい試合にしましょう」

そういうと、ジュリアさんは去って行った。



ミネルがチラッと時計を確認する。

「さて、どうしようか」

ぞくぞくと観客も入ってきた。
アリアを探しに行くこともできない。ただ言いなりになるしかないのか……?

「俺は……悔しいけど、もちろん言う通りにするよ。俺の中ではアリアが無事でいる事が、何よりも重要だから」

第1試合を戦うエウロが迷いのない眼で断言する。
試合開始30分前、メロウさんが僕たちの所へとやって来た。

「もうそろそろ準備に入ってほしいのですがー、アリアは?」

動揺を見せたらだめだ。
大丈夫。仮面をつけるのは、僕の得意分野のはずだ。

「珍しく緊張しているようで、試合直前まで集中したいと別な場所にいます。アリアの試合までには間に合わせますので」

メロウさんの眼がカッと見開いた。

「へー、アリアが!? 意外ですねー! わっかりました!」

大丈夫、怪しまれていない。
こんな時に限って、自分の嫌だと思っていた部分に救われるとは……ね。


さらに30分後、試合会場の中心に立つメロウさんが大きな声で叫ぶ。

「時間になりました!! 私は、本日試合の実況をするメロウです! それではさっそく、本館 VS 別館の幼なじみ対決スタートでーーす!!!」


──試合が始まった。
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