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高等部 1年生

これって“乙女ゲーム”のイベントですか!??(後編)

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──突然、苛立った顔をした女性が私の名前を呼んだ。
今“アリア”って言ったよね!?

最近学んできましたよ、はい。
こういう呼ばれ方をした時は、嫌な予感しかない。
……だけど、名前を呼ばれたからなぁ。

「私がアリアですけど?」

仕方なく名前を呼んだ女性の前まで行き、軽く会釈をする。
女性は私の頭からつま先まで観察するようにジーッと見つめた後、大きなため息をついた。

「はぁ~、私と話したいからって冗談はいいわ。《水の魔法》を使うアリアは誰よ?」

いやいや、冗談じゃないから!

「《水の魔法》を使えないアリアなら、ここにいますけど」

もう一度、私がアリアだと女性に伝える。

「……本当に貴方なの!?」
「はい」

だからそう言ってるじゃん。

「さらに魔法を使えないって言った?」
「はい」

だからそう言ったって! 全然話を聞いてないなぁ、この人。

「はっ、私の相手が貴方……」

女性が鼻で笑った。
……なんだろう。久しぶりに聞くこの不快な物言いと態度は。

「本当にこの人たちと幼なじみなの? 他に幼なじみはいないの?」
「はい」

私が返事をすると、女性が豪快にあざ笑った。

「他の7人と比べるとどう見ても劣ってるじゃない。見た目も中、まぁ、よくて平凡ね」

よくて平凡……そんなの自分が一番よく知ってますけど!!?
女性がまた、ジロジロと品定めをするかのように私を見てくる。

「その上、魔法も使えないなんて。対戦相手として華がなさすぎるわ」

対戦って……そっちが勝手に言いだしたのにすごい言われよう。
こちらの気持ちなどお構いなしに、女性が心底バカにした言い方で話を続ける。

「まぁ、いいわ。私はジュリアよ。私が貴方のような貧相な人間と勝負してあげる事を感謝するといいわ!」

何もよくないし、感謝なんてしないし。
言いたい事は山ほどあるけど、まずはこの訳が分からない状況を何とかしたい!

「あの~、対戦ってなんのことか……」
「貴方に断る権利なんてないわ!」

ジュリアと名乗った女性が言葉をさえぎり、私の顔に向かってまっすぐ指を差した。

「ただでさえ、貴方のせいで盛り上がりに欠けているっていうのに。まぁ、少し可哀想だから、私も魔法を使わないで対戦してあげてもいいわよ?」

“超”上から目線で、腕を組んでいる。
先ほどのツインズ達も「イメージと違ったね」「笑ったら悪いよ」と言いながら笑っている。


……初対面の人に、いきなり笑われるような生き方はしていないつもりですけど!!?


このまま黙っていられるかと、ジュリアとかいう女性に言い返そうとした瞬間──
さっきまで興味なさそうに聞いていた幼なじみ達の空気がガラリと変わった。

「貴方! 何がおかしいのかしら!? 全くもって笑えないわ!!」

怒りMAXのセレスがジュリアに声を荒げている。

「……初対面の人をこんなにも不愉快に思ったのは初めてだ」

いつも笑っているエウロも怒りをにじませている。

「アリアへの侮辱は許さない。そんなに倒されたいなら、今すぐにでも倒そう」

ルナがサッと剣を抜き、戦闘態勢に入っている。

「きゃっ、怖~い。私にはこんな下品な笑い方はできないな。うふ、皆さん民度が低すぎるのかしら??」

マイヤが口元に当て、怖がる素振りを見せている。けど、言ってる内容はなかなかの毒舌だ。

「自信満々の中、負けるのは恥ずかしいだろうと思って気を遣ったつもりだったのですが……全く伝わらなかったようで残念です」

オーンから笑みは完全に消え、代わりに冷ややかな表情を浮かべている。

「初対面で対決しろと言ってくるような奴らだ。その意図を汲み取れるほどの知能は持ち合わせていないだろう」

ミネルがバカにしたような表情であざ笑う。

「どれだけ凄い人たちなのかは知りませんが、あなた方がアリアより勝っているところなんて、きっと1つもありませんよ」

カウイが冷酷、冷淡な目で相手を見すえる。


……し、しまった!!
完全に言い返すタイミングを逃してしまった!!!

それにしても、この8人……幼なじみって言ってたよね?
男性4人、女性4人で幼なじみ。
さらには顔が整っていて、オーン以外はみんなと同じ魔法。(私は置いといて)

……こんな偶然ってある??
“乙女ゲーム”のイベントか何か? としか思えない。


険悪な雰囲気が漂う中、動作の大きいユーテルさんが私とジュリアの間に割って入った。

「君たち、アリア嬢に失礼だよ。他の7人と違い、見た目は劣っていたとしてもすごい子かもしれない」

……いや、あなたも大概ですよ。

「アリア嬢! 私の幼なじみ達が失礼なことを言いました」

ユーテルさんが軽くかがんで、私の手を取る。そして、手の甲にそっと口づけをした。

「これで許してくださいますね?」

ユーテルさんが私の手を持ったまま、ニコッと頬を緩ませた。


…………へっ!???

あまりにも予想外の出来事過ぎて、思わず固まってしまった!!
……なぜこの人は、手のキスで許されると思った!?
やばいの? バカなの!??

──いや、違う。自分大好きナルシストだ!!
やっぱり、ついていけない!!!

手を振り払おうとした瞬間、オーンがユーテルさんの肩をポンと叩いた。
振り返ったユーテルさんが手の力を緩めたと同時に、エウロが私とユーテルさんを引き離す。
すぐさまカウイが私の手を取ると、キスされたところをハンカチでゴシゴシと拭き出した。

「余計な芽を早めに摘み取る意味でも、勝負したいと言うならしてやる」

ミネルがユーテルさんを睨みつけるように私の前に立ち、勝負を受ける旨を伝える。
よく見ると、セレス達もすっかりやる気のようだ。

「そうね! 圧勝して、私の大親友を貧相、劣ってる、頼りないなどとバカにした罪を償っていただきますわ!!」

……ん? そんなに言われたっけ? なんか1個多くない??

完膚かんぷなきまでに倒す」
「ルナちゃん、(倒すしか言ってないじゃない)落ち着いてね。……ゆ、友人の為に私も微力ながら頑張るね」

ルナは今すぐにでも倒しそうな勢いだ。
マイヤはなぜか他の人にバレない程度のツンデレが発動している。


というか……えっ! 対決するの!?
それに、またしても言い返すタイミングを逃してしまったんだけど!??

幼なじみ達の返事に、ユーテルさんがふっと前髪をかきあげた。

「男の嫉妬は醜いよ? レディ達も落ち着いて、ね? 私みたいに常に心に美しい余裕を持たないと」

……ついていけないだけじゃなく、だんだんイラっとしてきた。
ジュリアがニヤッと笑い、ユーテルさんに声を掛ける。

「勝負してくれる事になったわね。ユーテル、お手柄じゃない」

ツインズも「勝負、勝負!」と、ハイタッチをして喜んでいる。

うーん……なんか向こうが望む展開になってしまったような?
さらに対決って、魔法で対決だよね??


ど、どうなっちゃうの!!?
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