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中等部 編

セレスの小話 その参

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皆様、ごきげんよう。セレスよ。

今日はアリアの家に遊びに行く約束をしていたの。
ところが、いざ行ってみたら──

「やあ、セレス」

案内されたテラスには、なぜかアリアではなくエレが!!

「まあ、座りなよ」


……相変わらず、この私に向かって偉そうな態度ね。

「アリアはどうしたの?」
「アリアは、家庭教師の先生と勉強中。本来はもう終わってる時間なんだけど、先生が遅れて来たんだ。“ヴェント”が故障したらしい。だから、30分ほど遅れるって。『その間、エレがセレスの相手をしてー』ってお願いされてね」
「そうだったの」
「アリアの頼みだから……仕方なくね」

相変わらず、一言多いわね!
私と会話をしたいと思う男性は山ほどいるのを分かってるのかしら!?

気に入らない部分もあるけれど、まずはメイドが引いてくれた椅子へと腰を下ろす。

温かい紅茶を一口飲んだ後……なぜかしら?
エレに打ち明けたくなったのよね。

「……明日、オーンと会うの」
「へぇー、良かったじゃん」
「えぇ、初めて誘われたの」

そう、オーンから初めて「明日会えないかな?」と誘われた。
きっと、これが最初で最後だろうという事も分かっている。

「明日、私はオーンと婚約を解消するわよ」
「えっ?」
「アナタはどうするの?」
「なにが?」

とぼけちゃって。
私が気がついていないとでも思ってるのかしら?

「そっかぁ。セレスが僕に言うって事は、オーン殿下は本気なんだ」
「多分ね……」
「邪魔しがいがあるね」
「はぁ~……アナタね、邪魔したからってアナタの想いは実らないのよ?」

小さい頃からエレを見てるけど、本当イライラするわ。
なんで、アリアに想いを伝えないのよ!

「セレスさ、アリアが一番好きな異性って誰だか知ってる?」
「……私が知る限り、いないわ」
「僕だよ」
「そりゃ、家族も入れたらそうでしょうけど……」


……急に話題を変えるなんて、ふざけてるのかしら?

「僕を“本当の弟”だと思って、可愛がってくれてるからね。だから、僕から気持ちを伝える事はないよ」

ニヤニヤしているから、ふざけてるのかと思ったら……本気で答えてたのね。

「いずれ、つらくなるわよ?」
「いいんだ。アリアがつらい思いをするより、自分がつらい方が楽だよ。“つらい気持ち”だって、アリアを想ってるって事だからね」
「アナタって、本当の“ドM”ね」
「あはは。そういうセレスは、“ドS”じゃん」

私が? “ドS”ですってー!!
本当にエレは、なんて事を言うのかしら!!

「ちなみにオーン殿下も “S”でしょ? 最初から、セレスと合うはずないんだよ」
「余計なお世話よ」
「まあ、そうだね。僕には関係のない事だ」

エレは、いつもそう。
アリア以外には冷たいのよね。
でも、媚びへつらうような裏表も、私を前に遠慮する事もないのよね。

「セレスー! ごめん、お待たせー」

あら、アリアじゃない。そんなに急がなくてもいいのに……。

「じゃあ、僕はお役御免だから。明日は楽しんで」

ニヤッと笑って去っていくエレが悪魔のように見えるわ!

なーにが「明日は楽しんで」よ!!
楽しめるはずないでしょう!? 本当に嫌みったらしいったら!

「セレス? どうかした??」
「ああ、明日オーンに誘われて2人で会うのよ」
「そうなの!? うわぁ、良かったね~。明日、ドキドキするね!」

椅子に座った途端、前のめりになって話を聞いてくる。
興味津々といった様子のアリアを見つめつつ、私はある言葉に引っ掛かりを覚えた。


……ドキドキする?

「なぜ?」
「えっ! 好きな人と会うとドキドキしないの??」

……ドキドキ? オーンに??
そういえば、した事がないような……?
まあ、今さら悩んでも仕方ないわね。

アリアとは、久しぶりにゆっくり話す事ができたわ。
最近はルナもいるし、2人きりで話す機会が減ったのよね。


──さあ、明日は絶対に遅刻できないわ。
美容にも悪いし、今日は早く寝ましょう。


---------------------------------------

オーンと待ち合わせしたのは、とある庭園だった。
来たのは初めてだけれど、手入れの行き届いたキレイな場所じゃない。

あら? オーン。もう来ていたのね。

「お待たせしたかしら?」
「いや、今来たところだよ」

気を遣わせない所が、さすがオーンね。

「まずは座って紅茶でも飲む? それとも少し歩く?」
「そうね……少し歩きたいですわ」
「じゃあ、そうしようか」

並んで歩きながら、ふとオーンの顔を見上げる。
こうやって隣を歩く女性は私しかいない、って思ってたんだけど……ね。

「オーン、今日はどうしたのかしら?」
「……実は話したい事があるんだ」
「あら、偶然ですね。私もなんです。私から話してもいいかしら?」
「ああ、もちろん」

オーンと一緒にキレイな花を見るのも、これで最後ね。

「ありがとうございます。では、さっそく……婚約を解消してくださいませんか?」
「…………えっ?」
「で、す、か、ら、婚約を解消してくださいませんか?」

あら? これは貴重ね。オーンが驚いてるわ。

「理由を聞いても?」
「それはオーン自身がよーく分かってるんじゃないかしら?」
「……セレス」

困ったわ。
今にも謝りそうな顔をしているわね。

「ふふっ、そんな申し訳なさそうな顔をしないでくださる? あくまでも私から解消を願い出たのですから」
「でもそれは、僕のことを思ってだよね?」

……オーンなら、気がつくと思っていたわ。

「確かにオーンから婚約を解消した場合、“アナタの想い人”がアナタを好きになる可能性は、絶対と言っていいほどありませんわね。それくらい“アナタの想い人”は私の事が大好きですから」

「…………」

「ただ、勘違いしないでください。私は自分にふさわしいという理由だけで、オーンを選びました。つまり、上辺しか見ていなかった。どうやら恋愛の好きとは違っていたようです。それに気がついたから、婚約解消をお願いしたのです」

そう、私はオーンの肩書しか見ていなかったのかもしれない。

昔の自分だったらそれが当たり前だと思っていたけど、アリアと出会って、私は変わった。
そんな肩書だけでパートナーを選ぶ人生なんて、つまらないと思うようになったのよね。

アリアならきっと、私が普通の一般人でも今と同じように仲良くしてくれたはず……。
まあ、私に普通は似合わないけれど。

それにオーンがアリアの事を好きかもしれないと気がついた時、ショックよりも先に“私とアリアの関係が壊れてしまうかもしれない”という不安の方が勝ってしまった。

私って本当にオーンの事が好きなのかしら?? って、思ってしまったのよね。

極めつけは、昨日のアリアのセリフ。
「ドキドキするね」と言われた時、“ああ、私はやっぱりオーンが好きじゃなかったんだわ”と、改めて実感する事ができた。

「なので、決して謝らないでください」
「……セレスは、かっこいいね」
「あら? セリフが間違ってますわよ。美人の間違いじゃなくって?」
「ははっ、そうだね」

あら? いつもとは違う笑い方ね。珍しいわ。
最初からオーンとこんな会話が出来てたら、結末は違っていたかもしれないわね。
でも、今となってはどうでもいい事だわ。

「オーン、1つだけ絶対に守ってほしいお願いがあります」
「なに? 僕に出来る事なら……」

「他の方と違い、オーンの婚約解消は間違いなく影響力が大きいです。婚約を解消したからといって、すぐに行動へ移すのだけはやめていただけますか?  変な噂で、“アナタの想い人”が悪く言われる事だけは、絶対に避けたいのです。せめて、高等部に上がるまでは待っていただけますか?」

随分と優しい表情。今日は色んな表情を見せてくれるのね。

「分かった。ちゃんと約束は守るよ」

真っ直ぐな瞳で誓ってくださったから、きっと大丈夫ね。

「そうそう。カウイはかなり成長しているらしいですよ? 他国との剣術大会で優勝したと聞きました」

文通しているアリアからの情報ですけどね。
そういえば、カウイったら私には1通も手紙をよこさないわね!
まあ、私も一度も送った事はないけど。

「ライバル達は手ごわいですわよ?」
「小さい頃からの付き合いだからね。分かってるよ」
「そうですか。すみませんが、私は応援できませんわ」
「それも分かってるよ」

なんせ、私はアリアの親友ですからね。
あくまで私が一番でしょうけど、アリアには望む人と結ばれてほしいわ。

「では、お互いの親への報告は後日にしましょう。この後、アリアと会う約束をしていますので、これで失礼します」
「うん。今日は来てくれてありがとう」
「いえ、キレイな庭園でしたわ」


---------------------------------------

オーンと別れ、そのままアリアの家へと向かう。
昨日と同じテラスへ案内されたと思ったら……またいるじゃない!!

「エレったら、またいるの!!」
「いるけど?」
「あっ、セレス。エレがいたらダメだった?」
「……まあ、構わないわ」

とりあえず、座ろうかしら。

「急にどうしたの? オーンと会うんじゃなかったっけ?」
「もう会ってきたわ。今日は報告したい事があって来たのよ」

アリアったら、不思議そうな顔をしてるわね。
エレは何も言わなかったのね。

「オーンと婚約を解消してきたわ」

アリアは、どんな反応をするのかしら?? ……って思ってたら、泣きそうな顔をしてるじゃない!
早く誤解を解かなきゃ、まずいわね。

「違うのよ。私から婚約解消を申し出たのよ」
「……えっ!?  えーーー!! なんで??」

なんで? まあ、そうなるわよね。

「私にふさわしいと思ってオーンを選んだだけで、恋愛感情がないと気がついたからよ」
「そ、そうなの?」
「ええ。好きでもない人と婚約していたら、出会いのタイミングを逃すかもしれないじゃない? だから早めに解消したのよ」

アリアったら、心底ポカーンとした顔をしてるわね。

「まぬけな顔してるわよ」
「へっ?」
「アリアはいつだって可愛いよ。セレスも可愛い顔してみなよ」
「うるさいわね、エレ。私は可愛いというより、美人なのよ!」

本当にエレは生意気ねっ!
怒った所為で、話したい事を忘れちゃったじゃない!!

「……まあ、いいわ。無事に報告できたから、今日は帰るわね」
「も、もう?」
「ええ。親友だから早めに報告を……と思って来ただけだから」

アリアってば、ビックリし過ぎて、頭の整理が追いついていない感じね。
ふふ。いつもは私がアリアの心配をする事が多いから、たまには逆もいいわね。

立ち上がり、歩き出した私を2人が玄関まで見送ってくれる。

アリアに手を振り返し、迎えの“ヴェント”に乗ろうとした瞬間……ん?
エレがこちらを見てるわね。

あら? 近づいてくるわ。どうしたのかしら??

「自分にふさわしいと思って選んだだけでも恋だったと思うよ。今回は頑張ったんじゃない?」

……予想していなかった言葉だわ。

「そ、そう。……ありがとう」
「ん? いつもと違って、やけに素直だね。『エレだけには言われたくないわ!』とか言いそうだけど? てか、顔赤いけど?」
「えっ!?」
「変な物でも食べたんじゃない?」

たしかに変な汗はかいたけど、これは普段のエレなら絶対に言いそうにもない事を言われて、ビックリしただけよ!
これが、あの、ドキドキなはずがないわ!!

「し、失礼ね! 変な物なんて、この私が食べるわけないでしょ!!」


絶っ対に違うわ!!
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