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中等部 編

12歳、幼なじみの旅路(後編)

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──それから2週間が過ぎた。

いつもと同じように幼なじみ達だけで集まってお昼を食べていると、エウロが不意に交換留学の話題にふれた。

「みんなは交換留学の件、どうした? 俺は希望だしたよ」
「実は……私も。お父様は乗り気じゃなかったんだけど、お母様がいい経験になるから行った方がいいって言われて……」

エウロは元々行きたいって言ってたから特別驚いたりはしないけど、まさかマイヤまで留学を希望するとは思わなかった!

でも、待てよ。
そういえば昔、セレスが「マイヤのお母様のスパルタ教育ぶりは、なかなかのものよ」と言ってたような……。

「私はものすごーく迷った結果、やめたわ」
「行かない」

事前にセレスから『今、お父様の仕事をサポートしていて、何もない土地の開拓をやってるのよ。一から話を進めて、実際に動き出すまでに1年以上はかかる長期戦なの。自分の仕事を投げ捨てて、留学する事はできないわ!』と熱弁されていたので、今さら驚くこともない。

ルナだって最初の段階から「行かない」って断言してたもんな。

「僕は行く事に決めたよ。選ばれたら、だけど」

カウイもこの前、『留学の希望をだした』って教えてくれてたからなぁ。
そういえば、ミネルからは何も聞いてないけど、どうする事にしたのかな?

「ミネルは?」
「検討した結果、行かない事にした」
「そっかぁ」

ミネルの事だから、検討に検討を重ねた結果、行かないって決めたんだろうな。

エウロとカウイ、マイヤの3人が交換留学の希望をだしたのかぁ。この時点で1人は行けないって事だよね……。

「いつ決まるんだっけ?」

私の質問にエウロが答える。

「交換留学に行くのが、確か……半年後の4年になったタイミングだから、準備もかねて1ヶ月後くらいには決まるみたいだぞ」

多分、幼なじみが1人も選ばれないという事はないだろう。そう考えると、3人の内の誰かとは2年間も会えなくなるのかぁ。
希望を叶えてあげたいと思う反面、少し寂しいな……。



さらに1か月後、ついに交換留学生が発表された。

3年生からはカウイとマイヤが選ばれた。

留学を希望をした人が何名いたのかは知らないけど、3年生についてはカウイとマイヤ、そしてエウロの3人の中から誰を選ぶかで、協議に協議を重ねたらしい。

たまたま、5年生の交換留学生の中に《風の魔法》を使う人がいたようで、魔法の種類が被らないようにする為、残念ながらエウロは選ばれなかったそうだ。

エウロは少しだけ落ち込んでいたようだったけど「まあ、自分で行けばいいだけだから」とすぐに気持ちを切り替えていた。

……前から何となく感じていたけど、エウロの考え方って私とちょっと似ている所があるな。



3年も終わりに近づき、カウイとマイヤの旅立つ日がやってきた。

我が家は家族総出で見送りに行く事になり、遅れないよう、少し早めに“ヴェントサタ”のある“ペルポラー”へと向かった。

“ヴェントサタ”とは、通学に利用している“ヴェント”よりもさらに大きな乗り物の事で、私がいた世界でいう飛行機みたいなものだ。

“ペルポラー”は“ヴェントサタ”に乗って他国へ渡る為の、いわば空港のような場所であり、敷地も広く、ショッピング用の商業施設まで併設されている。

私達が2人の乗る“ヴェントサタ”の近くまで行くと、そこにはカウイとマイヤの家族の他に、幼なじみ達の家族がみんな来ていた。
サール国王はさすがに来れないだろうと思っていたけど……オーンとお妃様は見送りに来てるんだ!

2人に対し、みんなが口々に激励の言葉を掛けている。パンナさん(マイヤの父)は娘との別れが寂しいらしく、見るからに涙ぐんでいる。

みんなの挨拶が終わるまで待っていると、私が来た事に気がついたのか、 カウイが私たち家族の元へやってきた。

「アリア、行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい。 手紙書くからね!」
「僕も書くよ」

カウイがうなずき、私の隣にいるエレの方を向く。

「エレくん。僕が戻ってくるまでの間、アリアをよろしくね」
「……カウイさんによろしくされなくても、ちゃんと僕がアリアを守りますから」

私ってそんなに心配掛けちゃうタイプの人間なんだろうか……。
うーん、もっとしっかりしないとなぁ。

エレと話した後、カウイが再び私の方へと顔を向けた。

「アリアに1つお願いがあるんだけど……」
「な、何!?」

早速、頼られるチャンスがきた! と思い、張り切って返事をする。

「僕の留学が終わるまでは、婚約を解消しないでほしいんだ」
「???」
「“婚約者”っていう形があるだけで、頑張れる気がするから」

特に私から婚約解消とかは考えていなかったんだけど……急にどうしたんだろう?
留学でみんなと離れるから、少し寂しくなったのかな?

2年の間に好きな人が出来る可能性も低いし、カウイがそれで安心できるなら、まあいっか。

「うん、分かったよ! 」
「ありがとう」
「……ぬかりないですね」

ん? エレが何か言ったような……?
エレの方を見ると「カウイさん行ってらっしゃい」と笑顔で手を振っている。

そうだ! ぼーっとしている場合じゃない! 
私もカウイを見送らなきゃ!

「カウイ、行ってらっしゃ……」

エレにならって手を振ろうとした瞬間、カウイが不意に私を抱きしめた。

「行ってくるね」

私の耳元でささやくと同時に満面の笑みを浮かべ、手を振りながら去っていく。

驚きあまり硬直状態となった私の周りでは「ふふ、さすが私の息子ね」やら「カウイとアリアってそうなの!?」やら、みんながテンション高く盛り上がっている。

騒がしい中、お父様が焦って私に聞いてくる。

「えっ? えっ? アリア今のは!?」
「……わ、私にも分からない」

混乱している私の目の前にエレが現れる。
いつもの天使の顔でにっこりと微笑むと、諭すように話し始めた。

「アリア、よく考えてみて。僕とアリアがいつもしている事だよ? ほら、パンナさん(マイヤの父)とマイヤさんも抱き合って別れてたし、深い意味はないと思うよ?」
「そ、そうだよね。ああー、ビックリした」


抱きしめられた時、ふと気がついた。
私より小さかったカウイの背は、いつの間にか同じくらいになってたんだ。
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