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中等部 編

12歳、ルナと同じクラスになりました(前編)

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3年目の学校生活がスタートした。

想像よりも2年目が早く過ぎたのは気のせいだろうか……?

いや、まあ、うん……それはともかくとして、ついにセレスやカウイとクラスが離れてしまった。
むしろ2年連続、一緒のクラスになれただけでも奇跡かな?

セレスはオーンと同じクラスになった。
念願? 叶って喜ぶかと思いきや「アリアとクラスが離れたわぁぁぁー」とこの世の終わりみたいにショックを受けていた。

私もセレスとクラスが離れて悲しいけどさ……そこはもっと喜ぶべきなのでは……?
セレスとは幼なじみ達の中でも仲がいい方だと思ってるけど、まだまだ分からない事が多いなぁ。

カウイはマイヤと、エウロはミネルと同じクラスになった。
そして、私は今までほとんど絡んでこなかったルナと同じクラスになった。


新しいクラスになってから1ヶ月、魔法以外の授業は全てルナと受けているので、自然と一緒にいる時間が多くなった。

だからこそ、分かった事がある。
ルナは私同様、 クラスで特別、仲のいい友人がいない。(自分で言ってて悲しいけど)

クラスメイト達は明らかにルナを意識しているみたいだけど、勇気がないのか、誰かと話している姿を見た事がない。
確かにルナは表情をあまり外に出さないし、口数も少ないから話し掛けづらいと思われてるのかも。

だけど、私は他の面も知っている。

お母さんとお兄さんが《知恵の魔法》 を使うから、同じ魔法を使えるミネルを婚約者に選ぶ家族思いなところ。
私が話し掛けると、言葉は短くても必ず何かしらの返答はくれるところ。

それに“乙女ゲーム”の説明書には、ルナについて『クールだけど、たまに見せる笑顔によっていつの間にか周りを虜にしてしまう女の子』と記載されていた。

つまり、本来のルナは思いやりがあって、もっといろんな表情を見せてくれる子なんじゃないかな? 
笑うのはたまにかもしれないけど……。


──そんなある日の事。
私とルナは剣術の授業を受ける為、“剣術場”と呼ばれる体育館のような場所へと向かった。

先生の「各自、自由にペアを組んでください」という指示のもと、一緒に組んでくれる相手を探す。
キョロキョロと周りを見渡すと、私同様に1人でいるルナの姿が目に入った。

「ルナ。良かったら一緒にペア組まない?」
「いいけど」

さっそく向かい合うと、お互いに剣を構える。
今日はこれまでに学んだ剣術の基礎を取り入れた、実戦形式の訓練だ。

魔法が使えない分、学校に通う前からずっと剣術や武術に力を入れていたので、実はわりと自信はある。
もちろん、魔法を使える、使えないの時点で差はあるけど、剣術ならルナに勝てるかもしれない。

そう意気込み、ルナと剣を交える。すると……あれ? ルナって……私より強い!?

えーっ! ルナってセレス並みにオールマイティーなの!?
魔法だけでなく、剣術まで負けるとは……まだまだ私の練習は足りていないようだ。

練習量をもっと増やそう……。
15分ほど休まずに手合わせしていると、剣術場に先生の声が響き渡った。

「10分ほど休憩します!」

ふぅ。休まずに15分動き回るのはさすがに疲れた。
気を緩めると相手にケガをさせてしまう可能性もあるから、集中しっぱなしで精神的にも疲れる。
額の汗をタオルで拭きながら、ルナの隣へと腰掛けた。

「はぁっ……ルナって剣術が得意なんだね」
「小さい時からやってたから」
「そうなんだ。それは私もだけど……元々立ち振る舞いが綺麗だからかな? 無駄な動きがないし、 剣の扱い方も綺麗だよね」
「……そう」

か、会話が終わってしまった……?
確認する意味も込めてルナの様子をうかがうと、少しだけうつむきながら汗を吹いている。

……あれ? ちょっと嬉しそう?
気のせいじゃなければ、喜んでいるようにみえる。

もしかして……? ふと浮かんだ疑問を確信に変えるべく、ルナに問い掛ける。

「家族に教えてもらったの?」
「……うん。兄さまに」

やっぱり! 家族の人に教えてもらってたんだ!
そっか、家族を褒められたから嬉しかったのかな。

「ルナのお兄さん、すごいね! しっかりと基本が身についてるし、無駄のない動きも、お兄さんが教えてくれたんだね。お兄さんは剣術が得意なの?」

お兄さんを褒めた瞬間、ルナの顔つきが今まで見たことのないくらいに輝いたものへと変わった。

「そうなの。兄さまの剣術は誰にも負けないくらい強くて美しいの!」

タオルをギュッと握り締め、目をキラキラさせながら話し続ける。

「去年、学校で行われた高等部(15-19歳)の剣術大会でも、年上の人を倒して優勝したし、武術大会も準優勝だったの!」
「年上を倒して優勝!? それはすごい!! ルナのお兄さんって、確か《知恵の魔法》を使うよね? だとしたら、きっと頭も良いだろうし、まさにオールマイティー!!」
「そうなの! 兄さまは文武両道、なんでも出来る人なの!」

ルナの目の輝きを見れば分かる。お兄さんの事が大好きなんだな。
私がほっこりした気持ちで聞いてると、我に返ったのか、ルナの顔が急に無表情になる。

あっ、いつものルナに戻っちゃった。

「……こんな話つまらないよね」
「えっ! つまらなくないよ? ルナから家族の話をちゃんと聞くのは初めてだから、新鮮で楽しかったよ。それに、私も弟の“エレ”の話なら、ずーーっとできるし」

ああ、そっか。
ものすごーーく分かりづらいけど、ルナは無表情なんかじゃないのかもしれない。

さっきは『いつものルナに戻っちゃった』と思ったけど、少し興奮気味に話してしまった自分が恥ずかしくなっただけなのかもしれない。

現に、私が「楽しかったよ」と伝えた時、微かにだけど優しい眼に変わった気がする。
楽しかったって言われて、嬉しかったのかも。

「年上に勝ったって言ってたけど、お兄さんはいくつなの?」
「17歳」
「優勝が去年という事は……16歳で優勝したの!? すごすぎる……」
「《知恵の魔法》は《火の魔法》や《水の魔法》とかと違って攻撃魔法がないから、その分、剣術や武術を頑張ってるみたい」

確かに《水の魔法》は水を自由に操れるから、氷に変化させて攻撃する事もできる。
《火の魔法》だって炎を使えば攻撃する事もできるけど、《知恵の魔法》にはそういった攻撃的な要素がない。

それで剣術や武術かぁ。
……今のところ魔法が使えない私も、やはりそっちを頑張った方がよさそうだ。

ルナのお陰で、改めて剣術や武術を頑張ろうって思ったよ、うん。
それにしても、お兄さんの事を話すときのルナはいつもと全然違うな。

「ルナってお兄さんの事大好きなんだね!」

私の言葉にルナがこくんとうなずく。

「……尊敬してる」
「兄妹で尊敬っていいね! 私ね、実は剣術は小さい頃からやってたから、ちょっと自信があったんだ。だからルナの強さに驚いたし、少し悔しかった。でも、そんなにすごいお兄さんが近くにいて一緒に稽古をしてるんだったら、それは強くなるね!」

ルナの強さに納得した私が笑いながら話すと、途端にルナが無表情になる。
先ほどの経験を活かし、またもや、ものすごーーくルナを観察してみると、何か考え込んでいるように見える。

「アリアは、私が今まで手合わせした中でも強い方だと思う」
「あは、ありがとう。ルナ」

ルナってセレス同様、お世辞を言うタイプには見えないから、そう言われると本当に嬉しい!
それに初めて名前を呼んでくれた!!

ひっそりと喜びを噛みしめていると、先生の大きな声が再び耳へと届いた。

「休憩終わり! 続けて、15分始め!!」

よし! ルナの言葉で俄然ヤル気が出てきた!

「ルナ、よろしく!」
「うん」

立ち上がり、再度ルナと一緒に剣術の練習を始める。

ヤル気は出た! 出たけど……やっぱ強いなぁ……。
押されながらも必死に剣を振るっていると、不意にルナが声を掛けてくる。

「今の返し、肘をもう少し締めた方がいいんじゃないかな。その方が安定する」

ひ、肘? なるほど! 確かにルナのアドバイスの方が攻撃を受けてもあまり剣がブレないし、次の動作までの時間が短縮できる!!

「もう一度、同じ事をやってみていい?」

お願いすると、嫌がりもせずにうなずいてくれる。
言われた事を反芻しながら、もう一度、同じように剣を振るう。

うん、今の方がさっきより自然に動けた。

「教えてもらった通りに動いた方がやりやすかった! ありがとう」
「そう」

ルナの表情をよくよく観察してみると、上手くできた私を見て喜んでくれた……気がする。
無事に授業が終わり、ルナと一緒に教室へ戻る間も色々な話をした。

「ルナってお兄さんと仲良しなんだね」
「 私が小さい頃からお父さまもお母さまも働いていて忙しかったから、 兄さまが私の面倒を見てくれたの」
「へぇ、そうだったんだ。親代わりでもあるんだね」
「うん」

ルナの表情を見逃さないよう、ジーっと見つめる。
もしかして、ちょっと寂しそう?

「あまり嬉しくなかったの?」
「……そのせいで、兄さまはあまり友人と遊べなかったと思うから」
「お兄さんがそう言ったの?」
「ううん、そう思っただけ」

お兄さんの事、本当に大切なんだなぁ。
家族思いだって感じたのは間違いじゃなかったな。

「ルナの話を聞いただけだから何とも言えないけど、そんな事を思うお兄さんじゃなさそうだけど?」
「うん」

寂しそうな表情は変わらないか……。
まあ、お兄さんを知らない私が言っても説得力はないよね。

「お兄さんって今は寮に住んでるの?」
「うん」
「そっか、じゃあなかなか会えてないんだね」
「ううん。学校休みの時とかに帰って来てくれるから」

ん? そうなんだ。じゃあ……やっぱり。

「きっとルナに会いたくて帰ってきてるんじゃない? ルナがお兄さんの事が大好きなように、お兄さんもルナの事が大好きなんだね。うん、やっぱりさっきの事は心配しなくていいよ! ルナがいたから遊べなかった、なんて思う人が、そんな頻繁には帰ってこないよ」

「そうかな……?」
「うん! お兄さんに会った事ないけど、これは自信あるよ!」

自信たっぷりな顔で告げた後、引き続きルナの表情を観察する。ルナはどこか嬉しそうな顔をしていた。
うん、やっぱり思った通りだ。

「ルナって表情豊かだったんだね」

私の発言に、ルナが心底驚いたように顔を見せる。

「な、なんでそう思ったの?」
「ルナを見てて思ったんだけど……違った?」

素直な気持ちを伝えただけなんだけど、そんなに驚かれるとは思わなかったから、ついつい私の方がびっくりしてしまった。
私の顔をジッと見つめながら、ルナがゆっくりと首を横に振る。あってたみたい。

「……今まで出会った人の中で、そのセリフを言ったのは兄さまだけよ」

わずかに声を弾ませたルナがくしゃっと笑う。
……こんな笑い方されたら、女の私でも虜になっちゃうよ。
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