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中等部 編
11歳、人気者の弟と平凡な姉
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学校生活も2年目に突入した。
2年目という事は……ついに弟の“エレ”も学校に入学!
入学式も無事に終え、今日からは通常通りの登校となる。
登校初日は緊張すると思うから、少しでも緊張をほぐしてあげなきゃ!
「エレ! えーと……今日から学校が始まるけど、緊張してるよね? きっと。そんな時は深呼吸しよう。うん。深呼吸すると、きっと緊張がほぐれるよ」
「大丈夫? アリアの方が緊張してない? 僕は大丈夫だから。やっとアリアと一緒に学校に行けるから楽しみだよ」
微塵も緊張を感じさせないエレが、いつもと同じ天使の笑顔で答える。
こんなにキレイな顔をしてるんだから、学校でもきっと“注目の的”になるだろうなぁ。
「じゃあ、学校に行こっか」
「うん」
「行ってきまーす!」
「行ってきます」
見送りにきたお母様とメイドさん達に挨拶し、笑顔で手を振る。
エレはお母様に向かって、ぺこりと丁寧に一礼してみせた。
「行ってらっしゃいませ」
メイドさん達が揃って私とエレに挨拶をして頭を下げる。
お母様も軽く手を振りながら、少しだけ心配そうに私達へ声を掛けてきた。
「行ってらっしゃい。気をつけてね……特にアリア!」
お母様の言葉に思わず転びそうになる。
学校初日のエレじゃなく、わ、私!? エレの方がしっかりしていると言われているような……。
お母様はさり気なく毒吐くタイプだよなぁ。
挨拶を済ませ、エレと一緒に“ヴェント”に乗り込む。
“ヴェント”とはこの世界でいう車のような乗り物で、見た目はおしゃれなレトロ車に似ている。
車と大きく違う所は、《風の魔法》を使った魔力で動くというところだ。
“ヴェント”の中には魔力を蓄積しておく“核”のようなものがあり、《風の魔法》が使えない人でも運転できる。
魔力が尽きそうになった場合には、《風の魔法》専門の業者が直接魔力を注ぐか、もしくは“核”を交換する必要があるらしい。
“魔法で動く車”という事実だけでも感動したけれど、私が何よりも興奮したのはタイヤがついていない事!
なんと“ヴェント”はタイヤを使わず、全体が宙に浮かんで走る仕組みになっている。
まあ、浮くと言っても20センチ程度ではあるけれど、それだけでも十分凄い!
生徒のほとんどが、毎日“ヴェント”を使って通学している。
朝は学校の近くにある専用の乗降口まで送ってもらい、帰りも同じ場所まで迎えに来てもらうというのが一般的だ。
私も毎朝、学校付近まで送ってもらい、降りた後は徒歩で学校に通っている。
あ、今日からはエレも仲間入りかな。
渋滞にはまる事もなく、軽快に走った“ヴェント”が学校の近くで停車する。
送ってくれた運転手さんにお礼を言うと、エレと一緒に“ヴェント”を降り、学校に向かって歩き出した。
……そういえば、いつもの癖でエレと手を繋いでるけど、この年齢の姉弟が手を繋いで登校するのは変なんじゃ!?
「ねぇ、エレ。手を繋ぐのやめる? きっと恥ずかしいよね?」
「恥ずかしくないよ。アリアは僕と手を繋ぐのイヤ?」
エレが悲しげな表情になる。
うっ、そんな目で言われてしまうと「イヤなわけないよ!」って言っちゃうよね。
「良かった。じゃあ、このままで行こうか」
「う、うん」
「……アリアは変わらないね。嬉しいけど、僕はそれが心配」
ん? なんで心配されたんだろう?
不思議そうな顔をする私に、エレが優しく微笑みかける。
気にはなるけど、エレが笑ってるからいいか。
学校での過ごし方について色々と語り合いながら登校していると、突然、エレがいつもの“お願い”の目を向けてくる。
「お昼は外で食べてるんだよね? 僕は今週は午前中で終わるからお昼はないけど、来週からアリアと一緒に食べたいな」
「お昼ね、いい……」
「いいよ」と言い掛け、はっと言葉を止める。
忙しい学校生活において、唯一友人とゆっくり話せるのがお昼。
その貴重な時間を私と一緒に過ごしてしまうと、エレに仲のいい友人ができないんじゃ!?
ここはエレの事を考え、心を鬼にしなければ!!
「エレには学校でたくさん友人を作ってほしいから、お昼は友人と食べた方がいいと思うよ」
「……僕は、友人はいいよ」
えっ! いいよって、いらないって事?
「どうして?」とエレに聞く前に後ろから肩をポンと叩かれた。
「おはよう。アリア、エレくん」
「あっ、カウイ! おはよう」
「……おはようございます」
カウイが来た事で、エレと繋いでいた手が自然と離れる。
私とエレの間に入ったカウイは、そのままエレに向かって話し始めた。
「相変わらず仲がいい姉弟だね」
「そうですね。いつもアリアとは一緒にいますからね。とっても仲はいいですよ」
「アリアはエレくんにとって“いいお姉さん”みたいだね」
カウイとエレ、2人だけで会話しているから、私は完全に蚊帳の外だ。
この2人ってこんなに会話するほど仲が良かったっけ?
まぁ、昔から何度も遊んでるし、同性同士なら仲良くもなるか。
それにしても“いいお姉さん”だなんて、照れるなぁ。
……って、お昼!!
「エレ! お昼は友人と食べるんだよ」
「…………」
うっ、エレの悲しそうな顔には弱いんだってー。
「エレくん、アリアが困ってるよ? エレくんだって分かってるよね?」
たしなめるようなカウイのセリフにエレがうつむく。
きつく言いすぎたかなぁ……と反省していると、顔を上げたエレがにっこりと笑ってみせた。
「……アリア心配しないで大丈夫だよ。お昼は友人と食べるよ」
「うん、きっとエレなら素敵な友人ができるよ。もし何か困った事があったら、その時は相談してね」
分かってくれて良かった!
エレは良い子だから、きっとすぐに友人ができるんだろうなぁ。
……って、エレに偉そうな事を言ったけど、よくよく考えると私も友人は幼なじみ達しかいない!!
何てことだ! 2年目にしてやっと気がついた!!
でも、2年目からはクラス替えもあるし、新しい友人ができるといいなぁ。
淡い期待を胸に抱いたつつ、 3人一緒に校門をくぐる。
1年と2年は校舎が分かれている為、途中でエレに別れを告げると、カウイと2人で2年の校舎へと向かった。
新しいクラスが掲示されている廊下には人だかりができていて、すぐに確認するのは難しそうだ。
仕方なく、人が落ち着くまで待っていると、こちらに向かってもの凄い勢いで走ってくる人がいる。
……セレスだ!!
「アーリーアー!!」
「セ、セレス? どうしたの? 何かあったの!?」
明らかに、ただ事じゃない顔をしている。何事かとセレスに尋ねれば、心配する必要もない内容だった。
「私達、 同じクラスだったわ! やったわよー!! やっぱり私の日頃の行いがよすぎるのね」
セレスが思いきりはしゃいでいる……。
こちらが驚くほどの喜びようだけど、私もセレスと同じクラスなのは嬉しい!
「またよろしくね!」
「えぇ、ちゃんと2年目も面倒を見てあげるわ。……ああ、そういえば、カウイも同じクラスだったわよ」
さっきまで興奮気味に話していたセレスのテンションが急に普通に戻った。
相変わらず、セレスは忙しないなぁ(笑)
あからさま過ぎる態度の違いに苦笑していると、隣にいるカウイと目が合った。
私の方を向き、柔らかな笑みを浮かべている。
「アリア、よろしくね」
「うん、カウイもよろしくね!」
「ちょっと、カウイ。 なんでアリアだけなのよ! 私が教えてあげたのよ!!」
「ああ、ごめん」
また3人一緒のクラスなんだ。嬉しいな。
そういえば、他の幼なじみ達はどうなんだろう?
人が減ってきたタイミングを見計らい、貼り出されているクラス分けを見てみる。
Aクラスは、マイヤとルナか。このクラスになった男性陣は大喜びだろうなぁ。
Bクラスは、私とセレス、カウイ。
Cクラスは、エウロ。エウロは友達が多そうだから、1人でも何の問題もなさそう。
Dクラスは、オーンとミネル。Aクラスとは逆に女性陣が騒いでるだろうなぁ。
魔法や武術などの成績を総合して平等なクラス分けにしているみたいだから、さすがに幼なじみ達がみんな一緒のクラスになる事はないか……。
それにしても──
「セレス、オーンとまたクラス離れちゃったんだね」
あれ? 反応がないな……。
不思議に思い、そっとセレスの様子をうかがうと、はっ! と驚いた顔をしている。
セレス、気がついてなかったの!? というか、去年もまったく同じやり取りをしたような……デジャヴ!?
少なからず動揺しているセレスを何とも言えない気持ちで眺めていると、すぐ隣から慣れ親しんだ声が聞こえてくる。
「今年はミネルと同じクラスか」
声の主を目で追うと、そこにはオーンがいた。
「おはよう、オーン」
「おはよう。アリアはまたセレスやカウイと一緒のクラスになったんだね」
「うん、そうなんだ」
「来年は一緒のクラスになれるといいね」
オーンが私に向かって微笑みかける。
誰にでも優しいオーンにとっては社交辞令かもしれないけど、そんな事言われたら普通の子は勘違いしちゃうよ。
私はさすがに大丈夫だけど、だからといって、セレスより先にオーンと同じクラスになるのもなぁ。
何と返せばいいか困っていると、オーンがくすくすと笑い出した。
「ご、ごめんね。アリアなら困るんじゃないかな? って思って、あえて言ってみた」
「えっ! なんで?」
「……なんでだろうね? 僕にも分かんないや」
言った本人にも分からない事が私に分かるはずもない。
首をかしげる私に、オーンが笑顔のまま軽く手を上げる。
「じゃあ、またお昼に。お互い楽しい1年にしよう」
私の返事を待つ事なく、オーンはセレスやカウイとも会話した後、教室へと去って行った。
オーンが告げた「楽しい1年にしよう」という言葉通り、2年目の学校生活は、1年目と比べて平和に過ぎて行った。
入学当初はエレが《闇の魔法》を使える事で、嫌な思いをしないか心配もあったけど、まったく心配をする必要はなかった。
エレ本人から聞いた話だと、《闇の魔法》を制御できる証“オペークプルーフ”を持っていた事が良かったみたい。
むしろ、10歳で“オペークプルーフ”を持っている事の方が特殊らしく、逆に一目置かれる存在になったようだ。
それに加えてエレの容姿や愛想の良さが、同級生達の心をガッチリと掴んだようで、すぐに友人も出来たらしい。
最近では私の方が、同じクラスの女の子から「素敵な弟さんだよね。今度、お家に遊びに行ってもいい?」と、エレ目当ての誘いを受ける事が多くなった。
まあ、なぜか私ではなくセレスが断ってるけど……。
中にはしつこい子もいて、たまに困る事もあるけれど、エレの人気ぶりについては姉として本当に鼻が高いよ。
そうそう、婚約者同士がどうなったかと言えば……
私とカウイの関係はもちろん変わらず、良い友人関係。
変わった事と言えば、カウイは以前と比べて随分と男らしくなった。
優しい所やみんなの前であまり話さない所は変わっていないけど、話す時におどおどしないし、最初に出会った時の弱々しい印象もなくなった。
それにカウイと会う時はエレも一緒にいる事が多くなったような……。 カウイとエレは私以上に仲良くなったのかもしれない。
オーンとセレスの関係も変わらないまま。
というか、セレスは私といつも一緒にいるけどいいんだろうか? と思う時がある。
せっかくオーンの婚約者になれたんだから、もっと一緒の時間を作ればいいのに。
一番進展があるかな? とドキドキしていたエウロとマイヤも、特に進展があるようには見えない。
2人とも話しやすいし、お似合いなんだけどな。残念……。
ミネルとルナに関しては、周りが「会話してる!?」と疑問に思うくらいに話をしてないんじゃ……。
元々、ルナが全然話さないからなぁ。ミネルも特に気にしていないみたいだし。
この2人に進展を求めるのは難しそうだな。
ただ、やはり“婚約者効果”はてき面だったようで、みんな何かと話し掛けられる事は多いみたいだけど、分かりやすいアプローチや告白されたりなどはまだないようだ。
セレス情報だからどこまで本当か分からないけど……。
みんな大人びてるとはいえ11歳だし、まだそこまで露骨なアプローチはないのかもしれない。この先はどうなるか分からないけど。
勉強に関して言えば、1年目の時よりも余裕が出てきたような気がする。
入学してからの1年間はとにかく、授業と出される課題で必死だったから、学校生活を謳歌する余裕なんて全然なかった。
2年目になり、徐々に要領を得てきて、授業も楽しめるようになってきた。もちろん、課題は変わらず大変だけど……。
魔法については、カウイは“例の事件”がきっかけで魔法が使えるようになったので、今や私1人だけが初期魔法の授業を受けている。
先生から「アリアさんは……まだ使える気配はないですねぇ」と言われるくらいだから、1年目からあまり成長がないのかも。
うーん、幼なじみ達はみんな使えるのになぁ。
いくら何でも差をつけすぎじゃ……と“乙女ゲーム”に対して不満を抱く時もあるけど、焦らず地道に頑張っている。
それにまだ同級生の7割が魔法を使えない状況だから、いつかみんなと同じタイミングで使えるようになるかもしれない。
今は魔法が使えない分、武術、剣術を中心に学んでいる。家でもお父様や家庭教師の先生の力を借りつつ、訓練に励んでいる。
将来の為にも、出来る事は多ければ多いに越した事はないしね。
気がつけば、魔法が使えないまま2年目を過ぎ、私は12歳になっていた。
2年目という事は……ついに弟の“エレ”も学校に入学!
入学式も無事に終え、今日からは通常通りの登校となる。
登校初日は緊張すると思うから、少しでも緊張をほぐしてあげなきゃ!
「エレ! えーと……今日から学校が始まるけど、緊張してるよね? きっと。そんな時は深呼吸しよう。うん。深呼吸すると、きっと緊張がほぐれるよ」
「大丈夫? アリアの方が緊張してない? 僕は大丈夫だから。やっとアリアと一緒に学校に行けるから楽しみだよ」
微塵も緊張を感じさせないエレが、いつもと同じ天使の笑顔で答える。
こんなにキレイな顔をしてるんだから、学校でもきっと“注目の的”になるだろうなぁ。
「じゃあ、学校に行こっか」
「うん」
「行ってきまーす!」
「行ってきます」
見送りにきたお母様とメイドさん達に挨拶し、笑顔で手を振る。
エレはお母様に向かって、ぺこりと丁寧に一礼してみせた。
「行ってらっしゃいませ」
メイドさん達が揃って私とエレに挨拶をして頭を下げる。
お母様も軽く手を振りながら、少しだけ心配そうに私達へ声を掛けてきた。
「行ってらっしゃい。気をつけてね……特にアリア!」
お母様の言葉に思わず転びそうになる。
学校初日のエレじゃなく、わ、私!? エレの方がしっかりしていると言われているような……。
お母様はさり気なく毒吐くタイプだよなぁ。
挨拶を済ませ、エレと一緒に“ヴェント”に乗り込む。
“ヴェント”とはこの世界でいう車のような乗り物で、見た目はおしゃれなレトロ車に似ている。
車と大きく違う所は、《風の魔法》を使った魔力で動くというところだ。
“ヴェント”の中には魔力を蓄積しておく“核”のようなものがあり、《風の魔法》が使えない人でも運転できる。
魔力が尽きそうになった場合には、《風の魔法》専門の業者が直接魔力を注ぐか、もしくは“核”を交換する必要があるらしい。
“魔法で動く車”という事実だけでも感動したけれど、私が何よりも興奮したのはタイヤがついていない事!
なんと“ヴェント”はタイヤを使わず、全体が宙に浮かんで走る仕組みになっている。
まあ、浮くと言っても20センチ程度ではあるけれど、それだけでも十分凄い!
生徒のほとんどが、毎日“ヴェント”を使って通学している。
朝は学校の近くにある専用の乗降口まで送ってもらい、帰りも同じ場所まで迎えに来てもらうというのが一般的だ。
私も毎朝、学校付近まで送ってもらい、降りた後は徒歩で学校に通っている。
あ、今日からはエレも仲間入りかな。
渋滞にはまる事もなく、軽快に走った“ヴェント”が学校の近くで停車する。
送ってくれた運転手さんにお礼を言うと、エレと一緒に“ヴェント”を降り、学校に向かって歩き出した。
……そういえば、いつもの癖でエレと手を繋いでるけど、この年齢の姉弟が手を繋いで登校するのは変なんじゃ!?
「ねぇ、エレ。手を繋ぐのやめる? きっと恥ずかしいよね?」
「恥ずかしくないよ。アリアは僕と手を繋ぐのイヤ?」
エレが悲しげな表情になる。
うっ、そんな目で言われてしまうと「イヤなわけないよ!」って言っちゃうよね。
「良かった。じゃあ、このままで行こうか」
「う、うん」
「……アリアは変わらないね。嬉しいけど、僕はそれが心配」
ん? なんで心配されたんだろう?
不思議そうな顔をする私に、エレが優しく微笑みかける。
気にはなるけど、エレが笑ってるからいいか。
学校での過ごし方について色々と語り合いながら登校していると、突然、エレがいつもの“お願い”の目を向けてくる。
「お昼は外で食べてるんだよね? 僕は今週は午前中で終わるからお昼はないけど、来週からアリアと一緒に食べたいな」
「お昼ね、いい……」
「いいよ」と言い掛け、はっと言葉を止める。
忙しい学校生活において、唯一友人とゆっくり話せるのがお昼。
その貴重な時間を私と一緒に過ごしてしまうと、エレに仲のいい友人ができないんじゃ!?
ここはエレの事を考え、心を鬼にしなければ!!
「エレには学校でたくさん友人を作ってほしいから、お昼は友人と食べた方がいいと思うよ」
「……僕は、友人はいいよ」
えっ! いいよって、いらないって事?
「どうして?」とエレに聞く前に後ろから肩をポンと叩かれた。
「おはよう。アリア、エレくん」
「あっ、カウイ! おはよう」
「……おはようございます」
カウイが来た事で、エレと繋いでいた手が自然と離れる。
私とエレの間に入ったカウイは、そのままエレに向かって話し始めた。
「相変わらず仲がいい姉弟だね」
「そうですね。いつもアリアとは一緒にいますからね。とっても仲はいいですよ」
「アリアはエレくんにとって“いいお姉さん”みたいだね」
カウイとエレ、2人だけで会話しているから、私は完全に蚊帳の外だ。
この2人ってこんなに会話するほど仲が良かったっけ?
まぁ、昔から何度も遊んでるし、同性同士なら仲良くもなるか。
それにしても“いいお姉さん”だなんて、照れるなぁ。
……って、お昼!!
「エレ! お昼は友人と食べるんだよ」
「…………」
うっ、エレの悲しそうな顔には弱いんだってー。
「エレくん、アリアが困ってるよ? エレくんだって分かってるよね?」
たしなめるようなカウイのセリフにエレがうつむく。
きつく言いすぎたかなぁ……と反省していると、顔を上げたエレがにっこりと笑ってみせた。
「……アリア心配しないで大丈夫だよ。お昼は友人と食べるよ」
「うん、きっとエレなら素敵な友人ができるよ。もし何か困った事があったら、その時は相談してね」
分かってくれて良かった!
エレは良い子だから、きっとすぐに友人ができるんだろうなぁ。
……って、エレに偉そうな事を言ったけど、よくよく考えると私も友人は幼なじみ達しかいない!!
何てことだ! 2年目にしてやっと気がついた!!
でも、2年目からはクラス替えもあるし、新しい友人ができるといいなぁ。
淡い期待を胸に抱いたつつ、 3人一緒に校門をくぐる。
1年と2年は校舎が分かれている為、途中でエレに別れを告げると、カウイと2人で2年の校舎へと向かった。
新しいクラスが掲示されている廊下には人だかりができていて、すぐに確認するのは難しそうだ。
仕方なく、人が落ち着くまで待っていると、こちらに向かってもの凄い勢いで走ってくる人がいる。
……セレスだ!!
「アーリーアー!!」
「セ、セレス? どうしたの? 何かあったの!?」
明らかに、ただ事じゃない顔をしている。何事かとセレスに尋ねれば、心配する必要もない内容だった。
「私達、 同じクラスだったわ! やったわよー!! やっぱり私の日頃の行いがよすぎるのね」
セレスが思いきりはしゃいでいる……。
こちらが驚くほどの喜びようだけど、私もセレスと同じクラスなのは嬉しい!
「またよろしくね!」
「えぇ、ちゃんと2年目も面倒を見てあげるわ。……ああ、そういえば、カウイも同じクラスだったわよ」
さっきまで興奮気味に話していたセレスのテンションが急に普通に戻った。
相変わらず、セレスは忙しないなぁ(笑)
あからさま過ぎる態度の違いに苦笑していると、隣にいるカウイと目が合った。
私の方を向き、柔らかな笑みを浮かべている。
「アリア、よろしくね」
「うん、カウイもよろしくね!」
「ちょっと、カウイ。 なんでアリアだけなのよ! 私が教えてあげたのよ!!」
「ああ、ごめん」
また3人一緒のクラスなんだ。嬉しいな。
そういえば、他の幼なじみ達はどうなんだろう?
人が減ってきたタイミングを見計らい、貼り出されているクラス分けを見てみる。
Aクラスは、マイヤとルナか。このクラスになった男性陣は大喜びだろうなぁ。
Bクラスは、私とセレス、カウイ。
Cクラスは、エウロ。エウロは友達が多そうだから、1人でも何の問題もなさそう。
Dクラスは、オーンとミネル。Aクラスとは逆に女性陣が騒いでるだろうなぁ。
魔法や武術などの成績を総合して平等なクラス分けにしているみたいだから、さすがに幼なじみ達がみんな一緒のクラスになる事はないか……。
それにしても──
「セレス、オーンとまたクラス離れちゃったんだね」
あれ? 反応がないな……。
不思議に思い、そっとセレスの様子をうかがうと、はっ! と驚いた顔をしている。
セレス、気がついてなかったの!? というか、去年もまったく同じやり取りをしたような……デジャヴ!?
少なからず動揺しているセレスを何とも言えない気持ちで眺めていると、すぐ隣から慣れ親しんだ声が聞こえてくる。
「今年はミネルと同じクラスか」
声の主を目で追うと、そこにはオーンがいた。
「おはよう、オーン」
「おはよう。アリアはまたセレスやカウイと一緒のクラスになったんだね」
「うん、そうなんだ」
「来年は一緒のクラスになれるといいね」
オーンが私に向かって微笑みかける。
誰にでも優しいオーンにとっては社交辞令かもしれないけど、そんな事言われたら普通の子は勘違いしちゃうよ。
私はさすがに大丈夫だけど、だからといって、セレスより先にオーンと同じクラスになるのもなぁ。
何と返せばいいか困っていると、オーンがくすくすと笑い出した。
「ご、ごめんね。アリアなら困るんじゃないかな? って思って、あえて言ってみた」
「えっ! なんで?」
「……なんでだろうね? 僕にも分かんないや」
言った本人にも分からない事が私に分かるはずもない。
首をかしげる私に、オーンが笑顔のまま軽く手を上げる。
「じゃあ、またお昼に。お互い楽しい1年にしよう」
私の返事を待つ事なく、オーンはセレスやカウイとも会話した後、教室へと去って行った。
オーンが告げた「楽しい1年にしよう」という言葉通り、2年目の学校生活は、1年目と比べて平和に過ぎて行った。
入学当初はエレが《闇の魔法》を使える事で、嫌な思いをしないか心配もあったけど、まったく心配をする必要はなかった。
エレ本人から聞いた話だと、《闇の魔法》を制御できる証“オペークプルーフ”を持っていた事が良かったみたい。
むしろ、10歳で“オペークプルーフ”を持っている事の方が特殊らしく、逆に一目置かれる存在になったようだ。
それに加えてエレの容姿や愛想の良さが、同級生達の心をガッチリと掴んだようで、すぐに友人も出来たらしい。
最近では私の方が、同じクラスの女の子から「素敵な弟さんだよね。今度、お家に遊びに行ってもいい?」と、エレ目当ての誘いを受ける事が多くなった。
まあ、なぜか私ではなくセレスが断ってるけど……。
中にはしつこい子もいて、たまに困る事もあるけれど、エレの人気ぶりについては姉として本当に鼻が高いよ。
そうそう、婚約者同士がどうなったかと言えば……
私とカウイの関係はもちろん変わらず、良い友人関係。
変わった事と言えば、カウイは以前と比べて随分と男らしくなった。
優しい所やみんなの前であまり話さない所は変わっていないけど、話す時におどおどしないし、最初に出会った時の弱々しい印象もなくなった。
それにカウイと会う時はエレも一緒にいる事が多くなったような……。 カウイとエレは私以上に仲良くなったのかもしれない。
オーンとセレスの関係も変わらないまま。
というか、セレスは私といつも一緒にいるけどいいんだろうか? と思う時がある。
せっかくオーンの婚約者になれたんだから、もっと一緒の時間を作ればいいのに。
一番進展があるかな? とドキドキしていたエウロとマイヤも、特に進展があるようには見えない。
2人とも話しやすいし、お似合いなんだけどな。残念……。
ミネルとルナに関しては、周りが「会話してる!?」と疑問に思うくらいに話をしてないんじゃ……。
元々、ルナが全然話さないからなぁ。ミネルも特に気にしていないみたいだし。
この2人に進展を求めるのは難しそうだな。
ただ、やはり“婚約者効果”はてき面だったようで、みんな何かと話し掛けられる事は多いみたいだけど、分かりやすいアプローチや告白されたりなどはまだないようだ。
セレス情報だからどこまで本当か分からないけど……。
みんな大人びてるとはいえ11歳だし、まだそこまで露骨なアプローチはないのかもしれない。この先はどうなるか分からないけど。
勉強に関して言えば、1年目の時よりも余裕が出てきたような気がする。
入学してからの1年間はとにかく、授業と出される課題で必死だったから、学校生活を謳歌する余裕なんて全然なかった。
2年目になり、徐々に要領を得てきて、授業も楽しめるようになってきた。もちろん、課題は変わらず大変だけど……。
魔法については、カウイは“例の事件”がきっかけで魔法が使えるようになったので、今や私1人だけが初期魔法の授業を受けている。
先生から「アリアさんは……まだ使える気配はないですねぇ」と言われるくらいだから、1年目からあまり成長がないのかも。
うーん、幼なじみ達はみんな使えるのになぁ。
いくら何でも差をつけすぎじゃ……と“乙女ゲーム”に対して不満を抱く時もあるけど、焦らず地道に頑張っている。
それにまだ同級生の7割が魔法を使えない状況だから、いつかみんなと同じタイミングで使えるようになるかもしれない。
今は魔法が使えない分、武術、剣術を中心に学んでいる。家でもお父様や家庭教師の先生の力を借りつつ、訓練に励んでいる。
将来の為にも、出来る事は多ければ多いに越した事はないしね。
気がつけば、魔法が使えないまま2年目を過ぎ、私は12歳になっていた。
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そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。
「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」
「はい?どちら様で…?」
「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」
(あぁ…!)
今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。
「え、私当たったの?この私が?」
「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」
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