上 下
6 / 261
子どもの頃(入学前)編

8歳、オールマイティーなヒロインがやってきました(後編)

しおりを挟む
翌日、宣言通りセレスがやってきた。

なんか、普通にセレスが来ただけなんだけど、まるでセレスの下にレッドカーペットがあるんじゃ!? と思うくらい、華やかで美しく見える。

昨日と同じ庭にあるテラスへ行くと、さっそくセレスが話し始めた。
自分がどれだけすごいか……簡単に言うと、自慢話だ。

確かにセレスの話を聞いていると、この年齢で羨ましい事に《土の魔法》が使えるみたいだし、実際に魔法を使って大地を豊かにするなど、色々と社会貢献? もしているようだ。

私と同じ年齢なのに、一歩も二歩も先を行くセレスはすごいなぁって、純粋に思う。

すごいなぁとは思うけど……。
今日1日、セレスの話を聞いて終わるのもどうなんだろう……。

そんな事を思いながらセレスの話を聞いていると、申し訳なさそうな顔でエレがやってきた。

「お友達が来ていると聞いたけど、昨日はアリアと一緒に遊んでいないし、寂しくなって来ちゃった」

寂しくて来たって……なんて可愛いの!
そして、むしろ嬉しい! ありがとう、エレ!!

このままの状態がずっと続くのは苦痛だと思っていたので、喜びを隠しきれないままセレスに尋ねてみる。

「セレス、弟のエレです。エレもご一緒してよろしいですか?」
「もちろん。そういえば、弟が出来たってお父様から聞いていたけど、初めてお会いするわね。セレスよ。よろしくね。あら、とても可愛い顔をしているのね」

セレスはチラッと私とエレを見て、軽く微笑んだ。

「ありがとうございます」

エレはお礼を言って、にっこり笑ったけど……。
なんか、エレの笑い方がいつもと違うような? 気のせいかな??

ふとテーブルの上に目をやると、エレの分のお菓子がない!!

「お菓子が足りてないので、持ってきますね。エレは座って待ってて!」

私はそう言い残し、足早にお菓子を取りに行った。



---------------------------------------

アリアがお菓子を取りに行っている間、セレスとエレの間ではこんなやり取りがされていた。

セレスはお菓子を取りに行ったアリアを見て、あきれた顔で言った。

「ちょっと離れた所にいつでもメイドはいるんだから、メイドを呼んで頼めばいいのに……アリアは記憶がなくなる前より、さらに落ち着きがなくなった気がするわ。要領も悪いし、不器用だし、いまだに魔法も使えないみたいだし……困ったものね」

エレは『セレスのオーラを見なくても、なんとなくどんな人か分かるけど、一応見てみるか』と、ふぅっと息を吐いた。

張っていた気を抜き、セレスのオーラを見る。

笑っていたエレの顔つきが、一変、冷たい目に変わった。
予想通り、セレスはアリアを見下している。

『さっきも僕が挨拶をした時、アリアは気づいていなかったようだけど(そこがアリアの愛おしい所だけど)、分かりやすく僕とアリアの外見を見比べた。アリアに会いに来ているのだって、自分よりアリアは下だから、扱いやすいと思ってるんだ。アリアはこんな僕に“いい子”だって、何度も何度も言うくらい、優しいから僕がちゃんと守ってあげないと』

そう思ったエレは冷めた目つきのまま、セレスに言った。

「アリアはお前と違って優しいんだ」

セレスは予想もしていない言葉に驚き、パッとエレを見た。

「なっ」

エレは続けて言った。

「ブス、お前なんかアリアの友達と認めない」

セレスは驚いた後、すぐにしかめっ面になり、怒りで震えながら言った。

「ブスですって!? なんて失礼な! どんな教育を受けているの? 私に対してそんな事言う人なんていないわ!!」

エレは鼻で笑った。

「へぇ、みんな目が悪いんじゃない? ちなみに僕は《闇の魔法》が使えるから、態度には気を付けた方がいいよ」

セレスが「何ですってー!」と怒ったタイミングで、何も知らないアリアが戻ってきた。



---------------------------------------

私が戻るとセレスが遠くからでも分かるくらい、明らかに怒っていた。

「どうかしましたか?」

そう言うとセレスではなく、エレが可愛らしい涙目で答える。

「ごめんなさい。僕の言葉が足りなかったせいで、セレス様に失礼なことを言っちゃったみたいで……」

失礼な事、失礼な事……何を言ったんだろう?

『セレス様、話が長いですね』とかかな。
それはね。私も思っているよ……とか、思っている場合じゃない。

どんな事を言ったのかは分からないけど、エレが非を認めているという事は、そういった類の失礼な事を言ってしまったんだろう。

失礼な事を言ってしまった以上、姉である私も謝らなきゃ。

「そうだったの。ごめんなさい、セレス。エレの非礼をお許しください」

私が深々と頭を下げると、隣にいたエレも一緒に頭を下げた。

まさかその時、エレが下げた頭を少しだけ上げて、セレスに向かって“あっかんべえ”と舌を出してるとも知らず……。

頭を上げセレスを見ると、明らかに怒った顔はしているが、ぐっと怒りを抑えているようだった。

そして、一言。

「相当、失礼な弟君のようで……」

それ以上、セレスは何も言わなかった。
許してくれたのかな? でもまだ怒っているような雰囲気が漂っている。

この場の空気が悪い……。
どうにかして場の空気を変えないと。

んー、んー、そうだ!!
やっぱりこんな時は体を動かして遊ぶのが一番だろう。

「鬼ごっこをしましょう」

セレスの怒っていた顔がだんだんと「それは何?」と言わんばかりの不思議そうな表情に変わった。

「鬼ごっこ?」

私はセレスに“鬼ごっこ”の説明をした。

セレスは頭がいいから、理解も早い。
すぐに“鬼ごっこ”のルールを把握した。

「そんな遊び聞いた事がないわ。有名な遊びなの?」

いや、有名じゃないでしょう。

そもそも、この世界には“鬼ごっこ”に似たような遊びもないようだし。
私は“記憶喪失”の時に思いついた? 浮かんだ?? 浮かんできた??? とごまかした。

セレスは走る事に抵抗があるようで、明らかに乗り気ではなさそうだ。
そんなセレスを見て、エレはにっこり笑った。

「セレス様は遊ばないみたいだよ。僕とアリアで遊ぼうよ」

セレスは“鬼ごっこ”をした事がないから、実際に“鬼ごっこ”を見せてから遊んだ方が分かりやすいかな?

「そうだね」

私はエレに同意した。

その後『私とエレが遊ぶのを見てから、一緒に遊びましょう!』と言うつもりだったんだけど、仲間外れにされたと勘違いしたセレスがすぐに「やるわ!」と返事をした。



---------------------------------------

最初は私が鬼で“鬼ごっこ”スタート!!

運動神経がいいはずのセレスだけど、服装のせいなのか、今まで全速力で走った事がないからなのか、すぐに捕まえる事ができた。

「よしっ! 次はエレ!!」

私は元気よく、エレを追っかける。

エレもセレスと同じで運動神経がいいようだが、さすがに小さい頃の1歳差は大きい。
しばらくして、エレも捕まえる事ができた。

セレスは負けず嫌いな性格のようで、すぐに「もう一度やるわよ!」と言った。

捕まる度に「もう一度!」、「もう一度よ!」と何回も“鬼ごっこ”をした。

いつの間にかセレスは、服装なんて気にせず、髪が乱れるくらい全速力で走っていた。
みんなが疲れて倒れこむまで、何回も何回も遊んだ。

セレスは「はぁはぁ」と息を切らしながら「こんなに、疲れる、はぁ、遊びは初めてよ」とぐったりしながら言った。

「……だけど、とても楽しかったわ」

セレスは軽い微笑みではなく、表情を崩してにっこり笑った。
その姿を見た私は無意識に思ったままの気持ちをセレスに伝えていた。

「やっぱり、セレスはすっごく可愛いね」

セレスは「えっ」と驚き、誰にも聞こえないくらい小さい声でつぶやいた。

「髪もドレスも乱れて、スカートの裾なんて少し汚れているわ。そんな私を可愛い……なんて」

あっ、セレスに敬語を使うの忘れてた!

「あっ、可愛いですね」

焦って言い直したけど、焦っている私の姿が面白かったのか、遊び疲れて笑いのツボがおかしくなってしまったのか、セレスが大声で笑った。

大声で笑った後、少し照れたように言った。

「友達なんだもの、敬語を使わなくていいのよ。こんなに笑ったのは久しぶりだわ。……すっかり遅い時間になってしまったから、そろそろ帰るわね。先ほど話していた“かくれんぼ”? も今度やってみたいから、また遊びに来てもいいかしら?  もしくはアリアが私の家に遊びに来るといいわ」

セレスはにっこり笑い、その後、チラッとエレを見た。

「……よければ、エレも遊びに来ていいわよ」

エレの方を見ると、ふぅっと息を吐いてセレスを見ている。
しばらくして、エレはセレスの近くまで行き、小さな声で何かつぶやいていた。

「やっぱり、失礼な弟ね」

セレスは、先ほどとは違う穏やかな口調で少し笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

転生幼女の愛され公爵令嬢

meimei
恋愛
地球日本国2005年生まれの女子高生だったはずの咲良(サクラ)は目が覚めたら3歳幼女だった。どうやら昨日転んで頭をぶつけて一気に 前世を思い出したらしい…。 愛されチートと加護、神獣 逆ハーレムと願望をすべて詰め込んだ作品に… (*ノω・*)テヘ なにぶん初めての素人作品なのでゆるーく読んで頂けたらありがたいです! 幼女からスタートなので逆ハーレムは先がながいです… 一応R15指定にしました(;・∀・) 注意: これは作者の妄想により書かれた すべてフィクションのお話です! 物や人、動物、植物、全てが妄想による産物なので宜しくお願いしますm(_ _)m また誤字脱字もゆるく流して頂けるとありがたいですm(_ _)m エール&いいね♡ありがとうございます!! とても嬉しく励みになります!! 投票ありがとうございました!!(*^^*)

貧乏男爵家の四男に転生したが、奴隷として売られてしまった

竹桜
ファンタジー
 林業に従事していた主人公は倒木に押し潰されて死んでしまった。  死んだ筈の主人公は異世界に転生したのだ。  貧乏男爵四男に。  転生したのは良いが、奴隷商に売れてしまう。  そんな主人公は何気ない斧を持ち、異世界を生き抜く。

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...