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子どもの頃(入学前)編

8歳、オールマイティーなヒロインがやってきました(前編)

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お父様からエレが養子だと聞いた日を境に、エレはよく笑うようになった。
元々天使のように可愛かったけど、表情が豊かになり、さらに可愛くなった。

そして気のせいじゃなければ、スキンシップが多くなった。

庭を歩く時は手をつなぐのが当たり前になったし、寝る前の「おやすみ」の挨拶では、ギュッと抱きついてくる。


極めつけは、朝の挨拶。

ある日の朝、仲のいいお父様とお母様は、多分、無意識だったんだろう。

私とエレの前で、お父様がお母様の頬にキスをした。
長年働いているメイド長のヘレさんは「んんっ」と分かりやすい咳払いをした。

お父様とお母様は「ハッ」と2人の世界から我に返ったのか、私とエレを見て“しまった”という顔をしていた。

海外なら(そもそもこの世界を海外扱いしていいのか分からないけど)、そういう挨拶もあるだろうくらいに思っていた。
すると2人を見ていたエレは「僕もアリアにしたい!」と言い出した。

「えっ!」

さすがに私も焦った。
だって、私は元々日本人。挨拶でキスをする習慣はないから。

エレはすがるような“お願い”という目で私を見てきた。

んーーーー、可愛い。

そういえば以前、エレと一緒に庭を歩いていた時──

「前の家族とは、ほぼ話をした事がないし、こうやって外を一緒に歩いた事もなかったんだ。だから手をつないで歩いてみたいな」

エレが寂しそうに言っていた事を思い出た。
それをきっかけに一緒に歩く時は手をつなぐようになったんだっけ。

愛情を受けて育つ年齢の時に愛情をもらっていなかったから、愛情に飢えているのかも……。
そして何より、エレのすがるような“お願い”という目に私は弱い。

「んー、いいよ」

それから、毎朝「おはよう」の挨拶と一緒にエレが私の頬にキスをするようになった。

まぁ、大きくなるにつれて、姉離れもしてスキンシップも減ってくるよね。
それに最近はこの“海外式”挨拶にも慣れてきたしね。

自分で思った事だけど、姉離れは…………寂しいな。

魔法の方はというと、日々、訓練&勉強に励んではいるけど、8歳になっても魔法は使えない。
使える気配すらない。

そんな私とは異なり、エレの方はめきめき魔法が上達している。
実際、普段気を張っていれば、人のオーラを見る事もなくなったと話していた。

魔法を教えてくれる先生は「多分、来年には普通にオーラを見る、見ないを制御できるようになるだろう」と感心していた。


魔法が使える年齢は、人によってそれぞれ違うらしい。

早い子だとエレの様に物心ついた頃から使えるし、18歳になるまで使えない子もいるらしい。

なぜ18歳という年齢が出てきたかというと、18歳になっても魔法が使えない子は“魔法が使えない体質”という事で、一生魔法が使えないと先生が言っていたから。

私の場合、両親共に《水の魔法》が使えるサラブレッド! との事なので、魔法が使えないという可能性は低いらしい。

“アリア”は平凡キャラなので、早くもなく、遅くもない年齢に魔法が使えるようになるかもしれないな。

焦らずに行こう! と部屋でのん気に思っていると、メイドのサラが私の元へやってきた。

「お嬢様、セレス様がいらっしゃいました」


…………セレス?
セレス、セレス……オールマイティーヒロイン!!

「私に会いに?」と聞くと、サラが頷いている。

「はい、さようでございます。お嬢様は覚えていらっしゃらないかもしれませんが、小さい頃からのご友人“セレス”様でございます。お嬢様が“記憶喪失”という事は、旦那様がご友人の方達にはお伝えしているようです。ですので、お嬢様がセレス様の事を覚えていないという事もご存じかと思います。その上で、お会いしたいそうです」

そうか。
幼なじみという設定だから、私が転生する前からセレスとは知り合いなのか。

セレスは上品なブロンドのロングヘア。
少し気が強めな顔つきだけど、整った顔だったな。

「今日は天気がよいので、お庭にあるテラスでお茶でも如何でしょう?」

提案してくれたサラに従い、庭へ向かった。

テラスへ向かうと、既に座って紅茶を飲んでいる1人の女の子がいる。

あっ、あの子が幼なじみの“セレス”。
私はエレと違ってオーラは見えないけど、この子は普通の子とは違うなっていうオーラを感じる。


これが、非平凡ヒロインか…………。

セレスは私に気がつき「アリア、お久しぶり。元気そうでよかった」とイメージ通りの上品な挨拶をした。

「ええと、セレス様? 今日はお越しいただき、ありがとうございます」

当たり障りのない挨拶をすると、セレスは一口だけ紅茶を飲み微笑んだ。

「セレスでかまわないわ。アリアが記憶喪失になってから、約1年経ったでしょ? お父様とお母様が『そろそろ会いに行っても大丈夫じゃないか』と言ってくださってね。様子を見に来たの」

エレにせよ、セレスにせよ、この世界の子供は小さい頃から英才教育を受けているからか、やけに大人びている。

普通さ、これくらいの年齢の子は紅茶ではなく、オレンジジュースでも飲んで「今日は何して遊ぶー?」とかだと思うんだけど。

遊びだって、本を読む、散歩をする、お茶を飲む、チェスをする……など、全然、年相応の遊びじゃないし。

エレに「かくれんぼをしよう!」と言った時は、“かくれんぼ”を知らなかったみたいで、不思議な顔をされた。

そういえば、“鬼ごっこ”だって、“だるまさんが転んだ”だって知らなかったな。
今ではエレと遊ぶ時は“かくれんぼ”とかで遊ぶけど。

私がそんな事を思っている内に、セレスはどんどん話を進める。

「アリアの家族は欠席したから、聞いてるか分からないけど……この前ね、みんなで集まってお茶会をしたのよ。“マイヤ”は相変わらず、人によく見られたいのか、手作りクッキーを作ってきたし、“ルナ”は“ルナ”で私が気を使って話し掛けても反応が悪いし。散々なお茶会だったわ! まぁ、“オーン”が来なかったら行ってなかったわね」

……話についていけない情報が多すぎる。

整理をすると…………。
手作りクッキーを作ってきた“マイヤ”さんは『女の子らしく、可愛い守ってあげたくなる』ヒロイン。

反応が悪いと言っていた“ルナ”さんは『クールだけど、たまに見せる笑顔によっていつの間にか周りを虜にしてしまう』ヒロイン。

そして、“オーン”って誰?
女の子のヒロインは、私を含めて全員名前が出てきたって事は、幼なじみの攻略対象キャラか!!

なるほど。
話している内容から察するにセレスは、“オーン”がお気に入りなのかな?

“みんなで集まったお茶会”は、男の子4人、女の子4人(私は行ってないから3人か)の幼なじみで集まったお茶会って事かなぁ。

私が考えている間もセレスは止まる事なく、話を続けていた。

幼なじみってみんながみんな仲がいいわけじゃないんだ。
少なくともセレスは、“マイヤ”、“ルナ”の事は良く思っていないようだ。

まぁ、親同士が仲よしだからといって、子供同士も仲良くなるわけじゃないしね。

セレスは“アリア”の事はどう思っているのかな?
会いに来るって事は、嫌いじゃないとは思うけど……。

その後もセレスの話は止まる事なく、お茶会への不満、オーンの素晴らしさ、自分だってお菓子を作る事はできるが、お茶会に出てくるお菓子があるからという配慮の元、お菓子を作ってこなかった……などなど、1時間に渡りずーっと話し続けていた。

セレスは私が“記憶喪失”だって知っているのにどんどん話を進めていくな。
ただ単にお茶会に参加しなかった私に話(愚痴)を聞いてほしかっただけなのかもしれない。

ヒロイン候補の1人だから、オールマイティーを鼻にもかけない顔も性格も完璧な女の子なのかな? って、勝手に想像していたけど、どうもそうではないようだ。

4人のヒロイン候補の中から1人選んだ段階で、ヒロインは1人? 後はサブキャラ??

……そもそもこの世界にヒロインはいるんだろうか。
いるとしたら、ヒロインは誰なんだろう?

少なくとも私は違う。
恋愛以上に魔法を頑張りたいし、幼なじみとか関係なく、好きな人と結ばれたいし。

……話している内容を聞く限り、セレスもヒロインじゃない様な(笑)

私は“触らぬ神に祟りなし”という事で、ただ、ただ「ははっ」と心ここにあらずの愛想笑いでセレスの話を聞いていた。

セレスは自分の言いたい事を言って満足したのか、ようやく私の話を始めた。

「アリアは覚えていないと思うけど、私がアリアにお茶会の作法を教えたのよ。後、勉強を見てあげた事もあったわ」

再び、1時間に渡り、ずーーっと話し続けていた。(結局、セレスの話のような??)

ようやく話に満足したのか「アリアは多忙な私と違って、お暇でしょう? また明日も来るわ」と言い残し、帰って行った。


嵐が去った…………。
……って、えっ!
明日も来るの!? 
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