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子どもの頃(入学前)編

弟は、アリアが大好きになりました

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弟「エレ」視点の話です。


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僕の養子になる前の家族は、父と母、兄が2人の5人家族だった。

父と母は、兄2人には普通に接していたが、僕と接するときはいつも何かに怯えているようだった。
2人の兄に関しては、まるで僕が存在していないかのように過ごしていた。

それもそのはずで、僕は外出する事を許されていなかったし、1日の大半を自分の部屋で過ごしていた。
思い返してみると、家族と会話をした記憶もほぼない。

6歳になった時、僕は今の両親の元へ養子に出される事になった。
兄2人は養子に出されていない……。

僕だけ“いらない子供”だったんだ、と知った。

新しいお父さんは穏やかな口調で言った。

「エレはね。まだ分からないかもしれないけど、魔法が使えるんだ。エレのお父さんとお母さんは魔法が使えない。だからエレが大好きで可愛かったんだけど、魔法が使える僕の元に養子に出したんだよ」

すぐに嘘だと分かった。
なぜなら僕は、物心ついた時から人のオーラが見えるから。

でも“嘘をついているオーラ”は感じたけど、いつも見ている“嫌な気持ちになるオーラ”とも違っていた。
その時に『新しいお父さんは悪い人ではないのかも』って思った。

新しいお父さんとお母さんは、戸惑いながらも温かく迎えてくれた。
優しかったけど、新しい家でもすぐに僕の事がいらなくなるかも……と思うと、自分から話す事ができずにいた。

新しいお父さんは、少しずつ魔法の制御ができるようにと僕に家庭教師をつけてくれた。

その時に初めて《闇の魔法》について勉強し、自分が《闇の魔法》を使える事を知った。
《闇の魔法》が使えるから、オーラが見えるという事も分かった。

先生は「魔法が使いこなせるようになるとオーラを見ないようにする事ができる」と説明していた。

魔法は家系によって使える、使えないがあるようで、例えば《水の魔法》が使える家で産まれた人は《水の魔法》しか使えないらしい。

ただ《闇の魔法》だけは特殊で、家系に関係なく、ごく僅かな人にしか使えないらしい。

《闇の魔法》について勉強する内に、なぜ父と母が僕に怯えていたのかが分かった。

オーラが見え、人の汚い心を操る……。
僕は人を怯えさせ、怖がらせてしまう魔法が使えるんだと……。

新しい家族だって、今は優しくても僕に怯える日が来るかもしれない……。
「怖くないよ」と嘘をつかれてもすぐにオーラで分かってしまう。

それなら、以前の生活のように部屋から出ず、会話をせず、一人で過ごした方がいいのかもしれない。



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一人で過ごそうと思っていた頃、アリアの“記憶喪失”事件が起こった。

それまでアリアとの交流は避けていたので、“記憶喪失”前がどんな性格なのかは分からないけど、前とは違い、積極的に僕に話し掛けてきた。

僕が本当の弟だと思っているから、こんなに話し掛けているんだ、と最初は思っていた。

だから「僕は《水の魔法》は使えない」とアリアに伝えた。
後で事実を知って離れていくのなら、最初から伝えてしまえばいいと。

そしたらアリアは「えーと、うん、特に気にならないかな。使えたって、使えなくたって、特に変わる事はないかな」と僕が予想をしていなかった事を言った。

『それは何も知らないからかも』と思った僕は、さらにアリアに言った。

「本当に? 例えば、僕が水以外の魔法を使えたとしても?」

これを聞いたら『なんでだろう? 』って思うはずだ。
そして僕が本当の弟じゃない事、《闇の魔法》が使える事を知って離れていくんだ。

アリアはきょとんとした顔をして「魔法を使える事自体すごいじゃない」と褒めてくれた。

そのオーラに嘘はなかった。
《闇の魔法》が使える事を言ったら、態度が変わるかもしれないけど、それが少しだけ嬉しかった。

本当はその時に《闇の魔法》が使えるって言うはずだった。

……だけど、温かいオーラを持ったアリアと“もう少しだけ一緒に過ごしたい”という気持ちになり、言えなかった。

それから毎日のようにアリアと話をしたり、一緒に遊んだりした。

アリアはすぐ顔に出るからなのか、いつもオーラに嘘はなかった。
それにアリアのオーラはいつも温かく、僕の心を落ち着かせた。

もしかしたら、誰かから《闇の魔法》の事を聞いて、離れていくかもしれない。
だけど、離れる日がくるまで “アリアと一緒にいたい”という気持ちが勝ってしまった。

毎日一緒に過ごして、遊んで、会話して、笑い合う生活は初めてだったから。
笑っているのは、ほぼアリアだったけど……。



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初めて“アリア”の名前を呼んだ日、本当は“お姉様”って呼ぶはずだった。
だけど実際に呼ぼうとすると、なぜか“アリア”を“お姉様”って呼びたくない気持ちが優った。

仲良くしたい、家族の一員になりたいって、アリアと話すようになって思ってきたのに“お姉様”って呼べない自分が不思議だった。

不思議だったけど、アリアと呼んでもお父様もお母様も、そしてアリア自身も怒っていなかったので、アリアと呼ぶ事にした。

実際アリアは怒ってはいなかったけど、少し落胆した表情をしていた。

それが6歳の僕でも分かるくらい落胆した表情だったから、おかしかった。



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ついに僕が養子で《闇の魔法》が使える事を告げた日。

お父様はアリアに伝える前に僕に言った。

「アリアに全てを話してもいいかな?」

僕の楽しかった日々が終わる……と思った。
本当は話してほしくなかった……。

だけど、いずれ知って離れていく事になるなら──お父様の提案を受け入れた。

お父様とアリアの話が終わった後、一緒に散歩をした。

アリアはいつもと変わらなかった。
オーラもいつも通り、温かいオーラのままだ。

実はお父様から話を聞いていない……? と思うくらい、全く変わらなかった。
不安で落ち着かなかった僕は、我慢できずに思わず聞いた。

「……今日、お父様から聞いたよね?」

アリアは聞いたと言い「養子だって聞いて驚いたけど……エレが私の可愛い弟だって事は何も変わらないよ!」と言った。

養子の話よりも《闇の魔法》の方が気になっていたので、魔法について話さないアリアを不安に思った。

言わないって事は聞いてない? 
……いや、お父様は話すって言っていた。

不安でたまらなかった僕は「魔法の事も聞いたよね?」と、自分からアリアに聞いた。

「あぁ、《闇の魔法》が使えるって事ね。聞いた、聞いた。私もまだ魔法が使えないのに、エレはもう魔法が使えるなんてすごいね!」

アリアはいつも通りの口調で、のん気に話すから、あっけにとられた。

「《闇の魔法》はあまりいい事を言われていないから……アリアは怖くない?」

アリアは嘘のないオーラで《闇の魔法》は怖くないと答えた。
それどころか、安らぎをもたらしてくれるステキな魔法だとも言ってくれた。

今まで僕の中にあった不安、寂しい、悲しい、苦しい気持ちは一瞬でなくなった。

それと同時に『一人でもいいから、本当の僕を知って好きになってもらいたい』という諦めて閉じ込めていた気持ちが、心の奥底にはあったんだと気がついた。

初めて感じるなんとも言えない気持ちに戸惑っていると、自然と涙が出てきて無意識にアリアに抱きついていた。

「僕、アリアと……ずっと一緒にいたいな」

僕に“初めて”の気持ちをたくさんくれるアリア。
この気持ちが姉に対するものなのか分からないけど、アリアと一緒にいる為ならなんでもしよう。

僕は、そう心に決めた。
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