上 下
9 / 34

ウサギさんと出会いました

しおりを挟む
 面接先は商業区の中にあった。良い立地みたいだし、パーティーリーダーさんはお金持ちな人かも。

 目的地までの道には、露店が広がる通りがあった。
 昨日も少し見て回ったけど、ここの露店は少額の税金を払えば誰でも自由に店を出せるようだった。フリーマーケットみたいな感じで、趣味で作ったっぽい手作りの雑貨を出している人もいた。

 ――色々あって見てて飽きない。面白いなぁ。ちょっと寄り道していこうかな。

 面接の時間は決まっていないし、急ぐ必要もない。
 私はのんびり露店を見ながら歩いた。そのとき、ふと目に留まるアクセサリーショップがあった。
 繊細な金属細工のネックレスや指輪に、きれいな石がはめ込まれている。

 ……ちょっと待って。これ、ただの石じゃないよ!???

 この世界の私であるレイナは公爵令嬢だ。高価な品を見慣れている。この露店に並べられている宝石は、非常に危険なドラゴンの住む山脈でしか採れなかったはず。で、こっちの金属は、高難度ダンジョンの鉱石……。

「どうだ? 気に入ったのはあるか?」

 目を丸くして商品を見ていると、店主に声をかけられた。私はその店主を見て、さらにびっくりさせられた。

「……ラビットマン?」

 真っ白な身体にピンと伸びた耳、背丈は私の腰くらいまでだろうか。2足歩行のウサギさんだ。真っ白いお顔の中で、Y字のほんのり桜色の鼻が、ときどきヒクヒクと動いている。彼は後ろ足でちょこんと立って、赤い大きな瞳でこちらを見つめていた。かわいい。

「オレはラビットマンのラビリオだ。獣人を見るのは珍しいか?」

「あ、はい。えっと、失礼してたらすみません」

 かわいいから、めっちゃジロジロ見てしまった。

「気にしないぞ。ラビットマンが人間の国に来ることはまれだからな」

 彼、ラビリオ君の言う通り、人間の国に獣人は少なかった。差別とかではなく、種族によって快適な環境が違うから、住む場所が分かれるようだった。

「オレは今売っているみたいなアクセサリーを作るのが好きでな。昔っから色々作っていたんだが、ラビットマンにはあまりこういうのを喜ぶ奴がいなかったんだ。それで、ヒト族はお洒落だから、オレの作るものの価値が分かると思って来た。期待通り、売れ行きは順調だ」

 ふふん、と、自慢げに語るウサギさん。いやでも、この品物の価値が分かってないのは、あなたも同じような……。こんな貴重な宝石類を、飲み屋の代金程度の値段で売るなんて……。

「えっと、この宝石とかはどうしてるの?」

「ああ、綺麗な石が採れる山があるんだ。強いモンスターがいるけど、オレはすばしっこいから捕まらないぞ」

 また、ふふん、と自慢げにするウサギさん。もしかして、無自覚超ハイスペックだったりするのかな。すごい子に会ったかも。
 このアクセサリーを買い占めて、適正価格で売れば、大儲け出来るんじゃ……。

「どうだ? どれにする? どれでも似合いそうだな。お前、ヒューマンでは美人って言われてるんじゃないか? この赤い石なんて、お前の黒髪に映えて良いと思うぞ」

 楽しそうに商品を勧めるウサギさんのもふっもふの白いお手々の上で、赤い宝石のブレスレットがキラキラと光る。
 ウサギさんのつぶらな瞳に、欲深い自分の顔が映っていた。
 ダメ。転売ヤーは、絶対許さないっ!!!

「えと、じゃあ、この赤い石のブレスレットを……」

「まいどあり~♪」

 結局、ウサギさんお勧めのブレスレットを1つだけ買った。
 周りの人たちは今のところ、宝石の価値が分からないみたいで、騒ぎにはなっていなかった。でも、見る人が見たらいずれ気づく。大丈夫かな、あのウサギさん……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二度目の人生で仕返しを(リメイク版)

 (笑)
恋愛
リリアナは、貴族の青年ルーカスとの婚約を果たし、幸福な未来を信じて疑わなかった。しかし、彼女の運命はある出来事によって大きく変わってしまいます。リリアナは、かつての自分とは異なる強さと賢さを持ち、二度目の人生を歩み始めます。彼女は過去の失敗を繰り返さないと決意し、真実の愛と友情を求めて新たな旅に出ることになります。この物語は、リリアナが自らの力で未来を切り開き、幸せを手に入れるために戦う姿を描いた成長の物語です。(リメイク版)

【完結】白い結婚はあなたへの導き

白雨 音
恋愛
妹ルイーズに縁談が来たが、それは妹の望みでは無かった。 彼女は姉アリスの婚約者、フィリップと想い合っていると告白する。 何も知らずにいたアリスは酷くショックを受ける。 先方が承諾した事で、アリスの気持ちは置き去りに、婚約者を入れ換えられる事になってしまった。 悲しみに沈むアリスに、夫となる伯爵は告げた、「これは白い結婚だ」と。 運命は回り始めた、アリスが辿り着く先とは… ◇異世界:短編16話《完結しました》

悪役令嬢に転生したので、ヒロインと王子をくっ付けたいと思います

真理亜
恋愛
転生したら悪役令嬢でした。なので当然、断罪される訳ですが、断罪されたくありません! そのために暗躍します。私はヒロインと攻略対象イチオシの王子との2SHOTが見たいのです! あの神SHOTを見るためには努力を惜しみません! なのに...ヒロインの様子がなんか変です。もしかして!? 以前、別タイトルで掲載していたものを、大幅に加筆修整したものになります。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

婚約して三日で白紙撤回されました。

Mayoi
恋愛
貴族家の子女は親が決めた相手と婚約するのが当然だった。 それが貴族社会の風習なのだから。 そして望まない婚約から三日目。 先方から婚約を白紙撤回すると連絡があったのだ。

自分の嫉妬深さに嫌気がさしたので、あえて婚約者への接触を断ってみた結果

下菊みこと
恋愛
ゾッコンだった相手から離れてみた結果、冷静になると色々上手くいったお話。 御都合主義のハッピーエンド。 元サヤではありません。 ざまぁは添えるだけ。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...