蓬莱皇国物語 Ⅲ~夕麿編

翡翠

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   It Shakes Anxiety Think.

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 昨夜は疲れ果ててシャワーも浴びずに、堕ちるように眠ってしまった。 普段よりやや高めの温度に設定して完全に眠気を取り払う。 

 考えるのは武の事ばかり。 

『ずっと一緒にいる…』 

 その言葉で取り敢えずは安定した。 高辻はそれも一時凌ぎにしかならないと言う。 本格的な治療はやはり武を紫霄学院という檻から出してからになる。 だが夏の特待生卒業式を終えても通常の高校の卒業時期、つまり再来年の3月までは武にはまだ特別室への幽閉の影が付きまとう。 ある意味特別室は自分を信じられない武の逃げ込む場所であり、彼の存在否定を肯定する場所だった。 

 湯を止めてやるせない気持ちでいるとバスルームのドアが開いた。 

「俺も浴びる……」 

 まだ眠そうな顔で武がふらふらと入って来た。おそらくは未だ意識の半分は眠っているに違いない。 

「まだ眠そうですね、武?」 

 武が眠ったのは新幹線の中。 下車して迎えの車に運んでも、帰宅して部屋のベッドに運んでも武は完全に熟睡していた。 先程夕麿が目覚めてベッドから出ても、目を覚ます様子がなかったのだ。 

「まだ眠っていて良いんですよ、武?」 

「ん…夕麿と一緒に起きる…」 

 返事になっていないところを見るとやはり寝ぼけているようだ。 危なっかしさを見かねて、夕麿は手を伸ばして武を抱き寄せた。 

「おはよう…夕麿…」 

「おはよう…」 

 寝ぼけている時の武は幼子のようにあどけなくて可愛い。 武はその時々で様々な顔を見せてくれる。 それにいつも驚かされる。 どの顔も愛しい。 

 温度設定を変えて再びシャワーを出す。 

「気持ち良い…」 

 縋り付いて来る身体を抱き締めて唇を重ねた。 

「ぁン…ン…ンふぁ…」 

 シャワーノズルをフックに戻して再び唇を重ねた。 

「あふ…ンぁ…」 

 たっぷりと唇の甘さを堪能して離すと武の瞳に光が灯っていた。 

「もう…朝から…」 

 恨みがましく呟く唇を指先で撫でる。 

「身体は悦んでいるようですが?」 

「なっ…!?」 

 みるみるうちに頬を薔薇色に染めるのがまた可愛くて仕方がない。 手を腰に回して尻を撫で回す。 

「や…ダメぇ…」 

「何がダメなんです、武? 欲しくなるから?」 

 武の耳に囁きながら指先は既に蕾に触れている。 武は欲望に潤んだ瞳で夕麿を見上げて睨んだ。 

「欲しくないのですか? 本当に止めますよ?」 

 欲情して止められないのは自分の方だ。 紫霄に在学していた頃は休日には、一日中武とベッドで過ごした事もあった。 

「止めちゃヤダ…夕麿…シて…」 

 夕麿はシャワーを止めると武をバスタブの縁に手を付かせた。 こんな時用にバスルームには、ローションタイプの潤滑剤がある。 ボトルを手に取って中を武の蕾に垂らす。 

「や…冷たい…」 

 ローションの温度に武が身を震わせた。 

「すみません…今日は余裕がありません」 

 ローションを指に絡めながら蕾の中へと挿れて行く。 

「はぁン…あッ…あああッ…」 

 武の肉壁が指に絡み付く。 

「夕麿…夕麿…も…欲し…」 

「まだ無理です」 

「大丈夫…早く…」 

 甘く強請られて我慢出来る余裕はなかった。 

「ひィ…あああッ…夕麿…夕麿…」 

 武はまだ固い蕾を押し広げられる苦痛に悲鳴を上げながら仰け反った。 それでも懸命に力を抜こうと、呼吸を繰り返す様がいじらしい。 夕麿は背後から抱き締めて穢れのない白い背中に口付けを繰り返した。 

「や…あぁン…ダメぇ…」 

 乳首に爪を立てると肉壁を収縮させて身悶える。 

「武…武…私の…愛しいひと…」 

 言葉を紡げばそれだけで感じて中の夕麿のモノを締め付けて来る。 抽挿を開始すると甘い声がバスルームに反響する。 

「夕麿ぁ…熱い…」 

「武、あなたの中はもっと…熱い…」 

「ダメ…そこ…ヤぁ…」 

「ここがイイのですね?」 

「あぁン…イイ…夕麿…イイ…もっと…」 

「武、たくさん感じてください。 愛してます」 

「夕麿…夕麿ぁ…俺も…俺も…ぁああッ…ダメぇ…も…イく…イく…夕麿ぁ…一緒に…一緒が…いい…」 

「イってください…私も…もう…」 

「あッあッあぁああ!」 

「武…武ッ…!」 

 ほとんど同時に昇り詰めた。 しばらく余韻を味わった後、夕麿はゆっくりと身体を離すと 武の身体がズルズルと崩れる。 跪いて抱き締め唇を重ねた。 

「愛してます」 

 繰り返し言葉にしても溢れる想いには足りなさ過ぎる。 肌を重ねてもまだ足りない。 けれどもそれ、渇望の不足ではない。 満ち足りた故の不足。 紡いでも紡いでも紡ぎ切れないジレンマ。 愛しているから。 唯一無二の伴侶だから……



「母さん、おはよう」 

「おはようございます、お義母さん」 

「武、昨夜は良く眠っていたわねぇ」 

「あはは…新幹線の途中までしか記憶がない…」 

 苦笑する武を見つめて夕麿はクスクスと声を立てて笑った。 

「お待たせいたしました」 

 武と夕麿の前に朝食が置かれた。 武の前に置いたのはいつもの通り執事の文月だったが…夕麿の前に置いた女性を見て目を大きく見開いた。 

「き…ぬ…? あなたは…絹ですか?」 

 絹と呼ばれた40代くらいの女性は夕麿に深々と頭を下げて答えた。 

「御久しゅうござります、夕麿さま。 何とご立派にご成長あそばされて……」 

 涙ぐむ彼女を夕麿は立ち上がってしっかりと抱き締めた。 

「よく…よく元気でいてくれました」 

 身体の弱かった実母翠子に代わって小等部に入る少し前まで、夕麿を育ててくれたのは彼女だった。 

「武、紹介します。 私の乳母、多治見 絹子たじみきぬこです」 

「夕麿がよく話してくれた人だよね?」 

「ええ」 

「初めまして。 えっと…どっちで挨拶すべき?」 

「そうでした…… 

 絹、私の伴侶、紫霞宮武王殿下であらせられます」 

「小夜子さまからお伺い申しております。 お初にお目もじ申し上げまする。 夕麿さまの乳母、多治見 絹子と申します」 

「こちらこそよろしく」 

 どうやら彼女は武との結婚や彼の置かれている立場について、小夜子に聞かされているらしかった。 

「お義母さん、ありがとうございます」 

「あら、探し出してくださったのは、成瀬さんなのよ? 私は連絡をお取りしただけ。 それにもう一方、いらしてくださる予定よ?」 

「もう一人?」 

「長年、六条家の執事を務めておられた、唐橋 光重からはしみつしげ殿でございます」 

「唐橋!? 彼も六条家を去っていたのですか!?」 

「はい、佐田川一族に追い出されて…」 

「今は…今は誰が六条家を取り仕切っていると言うのです?」 

「佐田川一族が引き入れた万田という者が」 

 夕麿は余りの現状にがっくりと座り込んだ。 

「夕麿!」 

 武が驚いて駆け寄ってしっかりと抱き締めてくれた。 

「透麿の…透麿の…あの性格…皇家への尊崇すらわからない状態…ははは…納得がいきました」 

 涙が頬を零れ落ちる。 追い出されたとはいえ、六条家は自分の生まれた家。 それがここまで目茶苦茶にされていたとは思ってもいなかった。 

「火の車になった挙げ句に破産する寸前まで行く筈です、それでは。 あの女の思うがままになっていたのですね…」 

「夕麿…」 

 悔しかった。 千年の歴史を持つ六条家がわずか10年余りで、名誉も誇りもズタズタに傷付けられたのだ。 追い出され御園生に養子に入って、現在は紫霞宮家に名を連ねていようとも、生家である六条家を愛する気持ちを失ってはいない。 

「ああ…何という事に…」 

 武の肩に頭を乗せて夕麿は啜り泣いた。 父陽麿の体たらくに失望して久しいが、それでも知らされた現実は余りにも夕麿には衝撃だった。 

「夕麿、一度六条家に行って、この目で確かめてみよう?」 

 しかし武の言葉には首を振るしかなかった。 

「私はもう六条の人間ではありません。 干渉は出来ないのです」 

「そんな事ない筈だけど? 少なくとも六条家の土地と家は夕麿のものだし会社の筆頭株主も夕麿だ。 六条家は夕麿が学生の間は一応、御園生が管理してるけど…夕麿は口出し出来る。 

 もしも逆らうなら何とでも出来る。 俺も行くから改革に行こう?」 

「武…」 

 逆らうなら…と武が言うならば、本当にそこまでの権利を彼が押さえているのだ。 

僭越せんえつではごさりますが…」 

「何かな?」 

「小夜子さまからお伺いいたしたのですが…翠子さまの御遺品は六条家に隠してございます」 

「それ…佐田川 詠美に見付かってないの?」 

「場所がわかっても開けられはしない筈です。 鍵は唐橋どのがお持ちです」 

「堂々と乗り込む理由が出来たね」 

 武は片隅に控えていた文月に言った。 

「六条 陽麿氏に連絡を入れて。 本日午後1時に六条家を訪問すると」 

「承知いたしました」 

 文月は早々に動いた。 

「それで夕麿のお母さまの遺品ってどれくらい? ついでに置きっぱなしの夕麿の他の荷物もここへ運んで来ようよ?」 

「ありがとうございます」 

「という事だから母さん、お義父さんに運送部門の車の手配をお願いして」 

「了解よ」 

「話は決まった。 後の相談は唐橋って人が来てからしよう。 さあ、朝ご飯食べよう」 

 武は席に戻って朝食を摂り始めた。 夕麿も絹子に頷いて朝食に手を付けた。



「唐橋、六条を立ち直らせてください」 

「死力を尽くして」 

「もし透麿が当主として相応しくないと判断したなら、迷わずにおもうさんに新たな女性を。 あの人の事だからそれらしい方をお持ちではないでしょう?」 

「万が一、おいでになられた場合は如何いたしましょう?」 

「相手によりけりですね…あの人は押しに弱いから…人柄や家柄を調べて報告してください」 

 何ゆえに父親の再婚相手を息子である自分が、心配しなければならないのか…夕麿は頭が痛かった。 

「あのう…夕麿さま」 

 絹子が気まずそうな顔で夕麿に向かって口を開いた。 

「夕麿さまが六条にお戻りになられるわけには…」 

「それは不可能です。 私は既に紫霞宮家の系譜に名を連ねていますから」 

「それは…宮さまをお救いする為のものでございましょう?」 

 彼女の言葉に夕麿は眉をひそめた。 

「何か勘違いをしているようですね、絹。 私は本当に武さまの伴侶なのです。 その事実に嘘や偽りはありません。 私たちはねやを共にする仲です」 

 恥じるものは何もない。武を愛しているし生涯を共に生きたいと願っている。

「殿方同士でそのような…」

「理解出来ませんか、絹?唐橋、あなたはどうです?」

 夕麿は内心、困った事態になるかもしれないと思った。

「衆道は古よりございますが…それはあくまでも、嗜みの範疇はんちゅうであったと記憶しております」

「私が武さまと結婚しているのを、理解しないと言うのですね…」

 彼らは夕麿にとっては身内同然の存在である。その二人が武との結婚を否定する。夕麿には辛い事実だった。

「今からでも遅くはございません。私どもから宮さまにお話を…」

「僭越は許しません!互いに愛し合っている私たちを引き裂こうと言うのならば絹、あなたにはお母さんおたあさんの遺品回収に協力してもらったら、二度と呼ぶ事はないと思ってください。

 あなたには…ロサンゼルスに来てもらう気になっていたのに。残念です」

「夕麿さま!」

「乳母どの、おやめなさいませ。宮さまとのご縁を私たちが左右するのは僭越。夕麿さまご自身が納得されていらっしゃる。それよりも出来る事を為して、お仕えするのが私たちの筋でしょう」

 唐橋は納得はしていないが事実は事実として受け入れる。

 そう告げた。

 武の不安定さを導いてくれる人間が欲しい。夕麿にとって絹子が自分の傍に戻ってくれた事は嬉しかった。彼女ならば武の心の闇を理解する度量を持っている筈だった。このままロサンゼルスに同行してもらい、学院を卒業して渡米して来る武の支えになってもらおうと考えていた……だが彼女には夕麿の同性婚が理解出来ないらしい。

「どの道私は女性には触れるどころか、近付かれるだけで気分が悪くなります」

 蒼褪あおざめる絹子。顔をしかめた唐橋。夕麿はこれ以上はいたくなかった。

「二人とも積もる話もあるでしょう。私は居間に戻ります」

 立ち上がって廊下に出ると軽く眩暈めまいがした。

「夕麿さま!?」

 ちょうど周を高辻たちの部屋へ案内した帰りの文月が駆け寄った。

「少し…眩暈がしただけです…」

 学院も御園生も当然と言えば当然だが、夕麿と武の同性同士の結婚を普通に受け入れていた。いつも異を唱えるのは夕麿側の身内ばかり。学院に追いやりこんな風にしたのは誰だ?武が救ってくれたと言うのに、夕麿を犠牲か生贄いけにえにして武が生きているかのように言う。

 文月に手を借りて居間に戻ると、先に戻っていた武が声を上げた。 

「夕麿、どうしたの!?」 

「眩暈がしただけです、大した事はありません」 

「何を言ってる! 文月、高辻先生を!」 

「すぐにお呼びいたします」 

 文月が居間から出て行った。 

「武…武…」 

 自分の周りにいる者ばかりが武を苦しめる。 二人の結び付きを否定する。 それが心苦しい。 

 誰にも武を追い詰めさせるようなそんな真似はさせはしない。 そう思う半分で最も信用していた、絹子の言葉は夕麿を深く傷付けていた。 この愛をわかって欲しかった彼女には。 何も知らない他人の偏見ならば、まだ傷付いても浅くて済む。 だが…彼女の偏見は夕麿にとっては最早、自分を否定されたのと同じだった。 

 武を深く想い愛するのが今の自分、夕麿自身のありのまま。 武なくしての自分はないとさえ、思っている心を否定されたのだから。 絹子がどんなに望んでも夕麿は女性に触れる事は出来ない。 同性が腕に触れるのですら武以外は我慢して…の状態だ。 

 それなのに…… 武を救う為に結婚したのではない。彼の置かれている状況を知ったのは愛し合うようになってからだ。 救われたのは自分。 今もなお、武がいなければ生きている意味など存在しない。 

 ぐるぐると考え続けていると次第に気分が悪くなって来た。 眩暈と吐き気が酷くなる。 誰か助けて欲しい。 自分から武を奪わないで欲しい。 武の腕に抱き締められながら、夕麿の意識は混濁こんだくして行った。



 久しぶりの六条家は記憶の中よりも古びて小さく見えた。 一番広い部屋の上座に武と並んで座り、実の父親に頭を下げられるというのは何とも表現し難い心持ちだった。 しかも武も夕麿も直接には言葉を掛けない。 全ては脇に控えた周と雫が行う。 

「本日の来訪理由は、第一に翠子みどりこさまの遺品のお受け取り。 第二に当家の諸費万端を出資なされていらっしゃる武さまが、監査をなされたいとお望みになられている。 第三に当家の人員整理を行う。 なお解雇者には退職金が支払われる。 第四に夕麿さまがこちらに残されたままの物を御園生邸に移動なされる。 

 以上である。 異議はおありになられるか?」 

 周と陽麿は甥と叔父の関係ではあるが、今は紫霞宮家宮大夫の周の方が立場が上である。 しかも武の意志を代弁しているのだ。 

 陽麿は頭を下げて答えた。 

「異議はごさいません」 

「よろしい。 まずは監査を行う。 直ちに書類をこれへ」 

「万田、お持ちしなさい」 

 万田と呼ばれた男は渋々、六条家の帳簿を差し出した。 それを唐橋 光重が改める。 見守る夕麿は頭が痛かった。 

 万田という男。 その風体からして胡散臭く、六条家の執事としては相応しいようには見えない。 と同時に六条家に必要な資金を、武が全部出していた事を知らされ心底驚いた。 全てが武の思い遣りであり、愛情だと思うと胸がいっぱいになった。 

 確かに強制力はある。 流石に5000万円は大きな金額だ。 だが透麿は何と言っていた? お金が余りないから贅沢は出来ないと、そう言っていたではないか。 夕麿がいた頃の半数の使用人で、屋敷の建物を修理した様子はない。 この部屋の畳にしても何年も取り替えていないのがわかる。 5000万円もの金がどこに消えるのだ? 

「終わりました」 

「結果を知らせよ」 

「紫霞宮さまに申し上げます。 宮さまからお伺いいたしましたお金おたからと帳簿は額が合っておりません。 しかし銀行口座に月々預金されているものも不足分には足りません」 

 武が頷いた。 

「陽麿どの、お心辺りはございますか?」 

「申し上げます。 そもそも私は宮さまから御下賜いただくお金が、如何程でごさりますかも存じておりません」 

 夕麿は父親を怒鳴りつけたい気分だった。 いつまで貴族の坊っちゃんでいるつもりなのか、と。 昨今、経済状態を把握出来なければ、どんなに身分が高くても家は成り立たない。 そんな基本的な事すらわからない父親が、六条家を破産させてしまったのだと夕麿はようやく全てを理解した。 

 武が救いの手を差し伸べなければ、今頃は父親も異母弟も使用人たちも路頭に迷っていた筈だ。 

「では、説明してもらえるか、万田。 管理をしていたのはお前だな?」 

 周の口調が変わった。 万田は乱暴にその場に胡座あぐらをかいた。 

「ったく、うるせぇんだよ。 バカ殿さまをだまくらかして甘い汁を吸っていたのに、何で今更帰って来るかな?」 

 その目はまっすぐ夕麿を見ていた。 

正恒まさつねに散々玩具おもちゃにされた上に、宮さまの伴侶におさまったあんたが、この六条に何の用があるんだ? 

 なあ……宮さまと正恒、どっちがイイんだ? 是非教えて……」 

 下品な笑いを浮かべて話す万田の身体が、勢い良く庭まで吹っ飛んだ。 武の気合い弾が直撃したのだ。 

「久我」 

「はい、宮さま」 

「今日はメスは所持してないのか?」 

「生憎と」 

「ふん、くだらないお喋りの口を耳まで広げてやったものを」 

「宮さま、御静まりを」 

「陽麿どの。 あなたには自分の息子への情がないようだな? 何故にいつまでもあんな男を置いておくのだ? それともそこまで無能か、あなたは!」 

 夕麿の代わりに武が怒鳴った。 自分の生家でここまではずかしめを受けるとは思っても見なかった。 

「唐橋」 

「はい、宮さま」 

「人員整理はお前に一任する。 我々の信頼に応えてくれるな?」 

「御意」 

 武が頷くと周が声を上げた。 

「その男は如何なされます?」 

「夕麿、お前はどうしたい?」 

「本来ならば横領で訴えたい所ですが…」 

「そうだな、六条家に傷が付くか…成瀬警視、何か案は?」 

 黙って控えていた雫が、庭の万田を睨み据えて言った。 

「叩けば埃の十や二十は出ますでしょう。 まずは当家に盗みに入ったとして、所轄に逮捕させましょう」 

 雫は良岑刑事局長に連絡を入れ、所轄に覆面パトカーでそっと来て、万田を連行するように依頼した。 

「さて、遺品だよね? どこにあるのかな?」 

 武の言葉に陽麿が答えた。 

「細殿(渡り廊下)の向こうの蔵に」 

「え!?」 

 その言葉に夕麿が驚きの声を上げた。 

「どうしたの?」 

「そこは…私の部屋でした」 

「はあ? 今、蔵って言ったよね?」 

「武さま、本当にそこが夕麿の部屋だったんです」 

 周が忌々いまいましげに言い捨てた。 

「ふふふ…確かにあの女には見付けられませんね」 

 夕麿がここにはもういない女を嘲笑あざわらう。 

「行きましょう、武。 こっちです」 

 知らずに母の遺品の番人をしていた。 その事実が夕麿には愉快だった。 あの女は絶対に探した筈だ。 父陽麿が絹子が持ち去った事にしてしまったので、多分、歯軋りして諦めた筈だ。

  日本家屋は本来、中央に部屋を集中させて廊下が取り巻く構造になっている。 外へ通じるガラス戸と部屋の間に廊下を置く。 その事によって外気温の直接の影響からそれぞれの部屋を守った。 また廊下と外を隔てる戸を全て開け放つか、取り払ってすだれに替える事で、夏場は風通しが良くなり涼風を得られる。 古い家屋でこういう構造に出来たのは、やはりそれなりの資産家や身分のある家柄だった。 現在は貴族の屋敷も洋風敷の便利さもあって、六条家のような伝統的な建築物は数を減らしている。 この六条家でも戦前は現在の倍の敷地を保有していた。 それらは全て税金対策の為に切り売りされてしまった。 

 現代は相続税という高額の税を取る。 その為に両親が残したささやかな不動産を守る為に、ローンを組んだり泣く泣く手放す人が多い。 大量の文化遺産を邸内で代々守って来た貴族すら、それらの資産価値で代々受け継いで来た土地などを切り売りして相続税を払う。 相続税は遺産の半分以上に及ぶ事もあり、現在の収入はさほど多くない貴族たちの首を絞め続けている。 諸外国では相続税は存在しないか極低く保たれている。 ヨーロッパなどではそれによって、文化遺産を保護しているのだ。 実際に日本で相続税が払えなくて、浄瑠璃や歌舞伎の舞台になった森が、売られてなくなる危険にさらされた事がある。 この時はその森がある市が買い取って事なきを得た。 だが私たちの知らない場所でこのような事が当たり前になっている。 


 蔵は細殿ほそどのと呼ばれる渡り廊下の先にあった。 夕麿がここに戻れなくなって久しい故に、扉には錠前が掛けられていた。 それを陽麿が外す。 

「宮さま、暫しお待ちくださりませ。 長い間閉め切っておりましたので、今、軽く埃を払わせます」 

 陽麿はどこまでも武に低姿勢を貫いていた。 夕麿とは決して視線を合わそうとはしない。 自分がして来た事を恥じているのか…それとも夕麿の怒りが怖いのか。 どちらにしても情けない。 

「お待たせいたしました」 

 軋んだ音を立てて蔵の扉が開いた。 中の様子は夕麿の記憶と少しも変わってはいなかった。 多分、ここへ戻れなくなってからこっち、錠前を掛けて誰も踏み入っていないのだろう。 

 武が入って中を見回した。 板敷きの床に梯子で上がる階上。部屋とは呼べないのはここでの生活を強いられた夕麿が一番わかっている。 

「上は何?」 

 武が背伸びして覗く。 

「寝室代わりにしていました」 

「上で寝てたの?」 

 武は室内を見渡して悲痛な顔をしていた。 

「そんな顔をしないでください、武」 

「だって…いくらなんでも…」 

「これでも結構、居心地が良いんです。 夏は涼しいですし、冬は暖かいんです」 

「ばか…やめろよ…強がるな…」 

 拳で強く打たれて夕麿は今まで、押し込めていた感情が関を切って溢れ出すのを感じた。 ここはどんなに灯りを点しても薄暗く、まだ子供だった夕麿の恐怖心を煽るには十分だった。 それに…詠美は度々、扉に鍵を掛けて夕麿を閉じ込めて放置した。 小等部の頃は夏休みなどの長期休暇に、帰って来るのが怖かった程だ。 

 ありありと甦って来た記憶にがっくりと膝をついて武の身体を抱き締めた。 溢れて来る涙を止められなかった。 まるで罪人のようにここに追いやられ閉じ込められた。 自分の家なのに自分の居場所は、この蔵の中だけだった。 

「辛かっただろう? こんな所は…住む場所じゃないよな。 夕麿、よく我慢したな。 お前は頑張った」 

 武の言葉が心に染み込んでいく。 夕麿の孤独はここから始まった。 武が今、その忌々しい呪詛の鎖を断ち切ってくれたのだ。 もう独りぼっちではないのだと。 夕麿は武を抱き締めて泣いた。 幼い子供のように声を上げて。 



 蔵の外では周が同じく涙を流していた。 築地塀を隔てて建つ久我家の周の部屋から、ここの階上の窓が見えるのだ。 そこでいつも泣いていた夕麿の姿を、周ははっきりと記憶していた。 

 助けたかった。 ここから解放してやりたかった。 あの女を追い払ってやりたかった。 だが子供の周には何も出来なかった。 自分の無力さが悔しかった。 悲しかった。 手で口を覆って声を殺していると、雫が抱き締めて背中を撫でてくれた。 

「お前も辛かったんだな」 

 この蔵は従兄であり幼なじみである周にも辛く悲しい記憶の対象だった。 休みに家に帰らなくなった一番の理由は、この蔵を見たくはなかったからだ。 

「僕は…僕は…ここから、夕麿を…解放してやりたかった…」 

 その思いがやがては夕麿を想う恋心へと移り変わって行った。 周にとってもここは一つの原点だった。 



 翠子の遺品は蔵の地下にあった。 壁に仕掛けが隠されており、それを動かすには唐橋が預かっていた鍵が必要だった。 本来、秘蔵品や財宝を隠す為の部屋だった。 

 そこにあったのは翠子の写真や着物。 数々のアクセサリーもあった。 彼女の婚礼用品の一部もあった。 

「凄い…」 

 武が感嘆の声を上げたのは翠子の花嫁衣装だった。 今では入手困難な和絹の打掛は、金銀の糸で美しい刺繍が施され大切にしまわれていた。 

「翠子さまが…いずれは夕麿さまの花嫁になられる方にと…」 

 絹子の呟きに武が俯く。 

「おたあさんには私から謝罪しておきます。 私が花嫁をもらう日はありませんから。 

 これは置いて行きましょう」 

 どんなに素晴らしいものであっても必要でないものに興味はない。 夕麿は武と相談しながら、順番に遺品を運び出して行く。 

 蔵の中の夕麿の物も全て運び出した。 

 空になった蔵を見て夕麿はようやく、ここの悪夢から本当に自分が解放されたのだと実感した。 やっと辛い日々は終わったのだと。 全てを運び出してから夕麿は周に畳紙たとうがみ(着物を畳んで入れる紙)に包んだ、美しい振袖と帯を周に差し出した。 

「これは?」 

「本日のお礼に。 妹君の由衣子さんに」 

 着物は解いて縫い直しをすれば、幾らでもサイズを変えられる。 そうやって何年も何代も着る事が出来る。 

「ありがとうございます。 謹んでお受けいたします」 

 幼い日々に周が築地塀を越えて食べ物を運んでくれた。 独りぼっちの夕麿を久我家へ招いて、食事を出してくれたり遊んでくれた。 その恩をこんな事でしか返せない。 周の想いには応えられないから。 



 こうして夕麿は万感の想いを抱いて生まれた家を後にした。



 互いの想いがすれ違ったまま、時間だけが流れて行った。クリスマスが近付くにつれて、夕麿たちは御園生ホールディングスの方が忙しくなって行った。

 そして23日。

 御園生主催の取引先などを招いてのクリスマスパーティーが御園生関連のホテルで行われた。夕麿たちはもちろん今年は、武や周、高辻や雫も招待された。小夜子と有人は希を御披露目して終始笑顔だった。招待された取引先関係者の女性や、同伴した女性が夕麿たちを一斉に注目した。

「夕麿、女性がいっぱいいるけど、大丈夫?」

「お義父さんが香水を控えてもらえるように、招待状に記してくださったので…余程近くに来られない限り大丈夫だと思います」

「気持ち悪くなったら早めに言えよ?」

「大丈夫です」 

 養子とはいえ御園生の御曹司が4人。 しかも揃って美形。 玉の輿を望む女性たちは、鵜の目鷹の目で夕麿たちに近付こうとする。 それを雫と周が全面的に捌いていた。 

「何だかなぁ…女って怖いな」 

 義勝がげっそりした顔で言った。 

「女性は子供を産んで育てなければなりませんからね。 良き殿方を得られる事は子供の未来を約束される事。 仕方がない事ですけど…うちの息子たちには不必要ですわね」 

 希を乳母の手に委ねて小夜子は苦笑しながら呟いた。 

「武」 

「何?」 

「私はそろそろピアノ演奏に行きますが、あなたはどうしますか?」 

 夕麿と雅久、周、そして特別ゲストである実彦が、それぞれの演奏や歌声を披露する予定になっていた。 彼らは一度別室へ移動して準備を行う。 

「一緒に行くよ? 義勝兄さんだって移動するんでしょ、雅久兄さんに付いて」 

「では行きましょう」 

 さり気なく腰に回した手に武の手が重ねられる。 

「明日は家のパーティーで…夕麿たちはもう一つあるんだっけ?」 

「ええ、社の忘年会があります」 

「まだお酒呑めないのに、パーティーばっかり大変だな」 

「来年はあなたも一緒ですよ?」 

「家のは楽しいけど今日みたいののどこが楽しいのかわかんないよ、俺」 

「こちらは主催者側ですからね、楽しくはないでしょう」 

 廊下に出て夕麿は周囲を見回した。 

「夕麿、どうかした?」 

 不思議そうな顔で見上げて来た。 その頬に指を添えてついばむように唇を重ねて離れた。 一瞬の出来事に武は真っ赤になっていた。 

「…こんな所で…誰かに見られたらどうするんだ…」

「やましい事はしていませんよ?」 

「…恥ずかしいだろ…」 

「誰も見てませんよ」 

 むしろ皆に見せ付けてやりたい。 自分たちは永遠を誓った夫婦なのだと。 武が『今』しか見つめなくなったのを夕麿はなんとなく感じていた。 武の中にはもう自分との未来がない。 それが悲しかった。 来世をも誓ったというのに。 

「演奏が終わったら抜け出しますから、そのつもりでいてください」 

「抜け出す!?」 

「上に部屋を取っていただきました」 

「部屋って…?」 

「早めのクリスマスを二人で過ごしましょう、武」 

 久我家での出来事を耳にした絹子が、夕麿たち二人の時間を侵蝕し始めたのだ。 夕麿は六条家・久我家の訪問から戻った時、母翠子の遺品とそれなりの金額を渡して自分の元から去らせるつもりだった。 ところが武がそれに反対し、彼女に夕麿に従ってロサンゼルスへ行くように要請したのだ。 そして絹子が承諾すると武は準備費として、かなりの額を手渡し自分用の車の使用の許可を出した。 お蔭で武の許可を得たと絹子は勢いを得て、不必要な部分にまで二人に干渉し始めた。 

 朝、ベッドの中で触れ合うのが普通だったが、高辻の指示すら無視して彼女は部屋に入って来る。 前夜、愛し合った余韻すら二人で確かめ合う事すら出来ない。 昼間も部屋で寛いでいても世話をやく名目で割り込んで来た。 夕麿が武を抱き寄せ平然と触れて牽制しても彼女は一向に気にしない。 これには武が悲鳴を上げてしまった。 

 上流階級では使用人はさほど気にしない。 だが夕麿は紫霄で育ち武は庶民育ち。 絹子の行動は迷惑以外の何ものでもなかった。 全ては夕麿の為であり武の許可を得ていると彼女は主張する。 夕麿たちの休暇は残り少ない。 終われば武が卒業するまで逢うのはほぼ不可能。 武の為にも何よりも自分の為に、武と二人で過ごす時間を持ちたかった。 

 今日の演奏は一応、特別業務扱いになっている。 当然、報酬が支払われる。 夕麿は報酬にこのホテルの部屋を望んだのだ。 有人は快く了承し、最上階のインペリアル・スイートが用意された。 夕麿は先程、有人から部屋のカードキィを受け取り、演奏終了後に二人でパーティーを抜けるように言われたのだ。 

「ちゃんと許可はいただいてます」 

 明日、御園生邸でのパーティーがなければ自費で連泊したい程だった。

 武を抱き締めていたい。

 武に抱き締められたい。

 武が心を閉じ、夕麿の為と言って自分の主張で行動する絹子。それは少しずつ夕麿を蝕み始めていたが、この時はまだ誰もそれに気付いてはいなかった。




 地上の星が瞬く摩天楼の一室に夕麿は武の手を掴んで足を踏み入れた。

「うわ~凄い!」

 硝子張りの壁に武が張り付く。

「気に入っていただけましたか?」

「うん! 同じ硝子張りでも寮とは違うね~」

「あそこから見えるのは…夜は、闇しかありませんからね」

「綺麗だね、夕麿、ありがとう!」

 子供のように喜ぶ武を背後から抱き締めて囁いた。

「朝まで離しません」

「うん…俺も離れない」

 武は振り返って腕を差し伸べて来た。

「ン…」

 唇を重ねて互いを求めるが………突然、武のお腹が鳴った。真っ赤になった武を見て夕麿が吹き出した。

「そう言えば下では食べられる状態ではなかったですね。私も空腹です。 ルームサービスを取りましょう」 

「久し振りに二人っきりで食事だね」 

「そうですね…外出も、普段は成瀬さんが護衛に付いてくれてますし…」 

 それだけ武の立場が上がったという事なのだが不便と言えば不便だった。 

「帰ったら部屋には鍵をかけませんか…?」 

「そうだねぇ…絹子さん、張り切り過ぎだものなぁ…」 

 武が笑い転げる。 

「笑い事じゃないでしょう、武」 

「いやだってさ~ある意味、見てて面白いし~」 

「嫌な人ですね…面白がってたなんて… 私はあなたに甘えたくても、そう出来なくて困っていたというのに…」 

 武の耳に囁くと彼の瞳が輝いた。 

「何? 朝まで離さないってそういう意味?」 

 悪戯っぽい眼差しが見つめて来た。 

「両方です…自分でも欲張りだと思うのですが」 

「別に良いと思うよ、俺。 だって…夫婦なんだからさ」 

「では、たっぷり甘えさせてください」 

「任せろ」 

 互いの口から笑い声が漏れた時、ドアを叩く音がした。 有人が二人の為に食事を用意してくれていたのだ。 添えられたカードにはこう書かれてあった。 

『会場では食べるのは不可能だろうから、食事をセッティングして置いた。 明日は15時まで滞在出来るようにしてある。 家の準備は気にしなくて良い。 

 ゆっくり過ごしなさい』 と。 

 それを二人で読んで歓声を上げ水入らずのディナーに舌鼓を打つ。 取り留めのない雑談が楽しかった。 

 食後、ゆっくりとお茶を楽しんでから今度はバブルバスで大騒ぎ。 身体の水気を拭っただけで裸でベッドにもつれ込んだ。

「で、どっちからシたいの?」

 口付けの合間に武が囁く。身の内が熱い。武の熱が欲しい。

「抱いて…ください…武…あなたが欲しい…あなたで…私を満たして」

 紡いだ言葉を聞いた武の瞳が、欲望にゆらゆらと燃え上がるのが見えた。

「ああ…武…」

 その瞳を見ただけで自分の中が欲情に蠢うごめき出す。組み敷かれただけで期待に戦慄わななく身体があった。

「夕麿、まだ何もしてないよ?そんなにシて欲しいの?」

「欲しい…」

 両腕を伸ばして請う。

「わかった。欲しがったのは夕麿だからな?泣いても許してやらない」

 獲物に喰らい付く猛獣の眼差し。これを欲していた。

「許さなくていいから…私を抱いてください…」

 余す事なく喰らい尽くして欲しい。また離れ離れになるから。

「愛してる、夕麿。俺は…何があっても、お前だけを愛し続ける…!」

 その言葉が切ない。

 その想いが悲しい。

 本当は言って欲しい、武だけを見ていろと。

「武…私も、あなただけです。あなたしかいらない…」

 もし誰かが他の誰かに触れろと言うなら生命など惜しくない。どうかその時は…殺して欲しい。言葉として紡げない想いが胸を締め付ける。

 武の愛撫に身を任せて快楽に溺れていく。武の愛撫は常になく執拗だった。指先も爪先もまるで夕麿の形を全て記憶しようとするように。

「武…武…お願いです…もう…もう…ください…挿れて…」

 脚を開いて抱え、自ら受け入れる姿勢をして強請る。

「ふふ、もう限界、夕麿?いやらしい格好だね?」

「欲しい…」

「良いよ?そのまま挿れて欲しい?それとも上になって自分で挿れる?」

「このまま…このままください…」

 告げた言葉の淫らさに視線をそらせば、硝子張りに映る自分の姿があった。

「鏡みたいだね?夕麿の淫らな姿が映ってる。そのまま見てて」

「あッああッ…イヤ…武…武…熱い…熱いのが…来る…」

 身の内を灼き焦がすように、武のモノがゆっくりと体内を広げて挿れられていく。硝子に映った自分が、悦びの表情を浮かべてそれを受け入れる。全てが体内に収まるとすぐに抽挿が始められた。

「あぅ…激し…ああッ…武…武…もっと…ゆっくり…ンぁ…そこ…イヤ…ああン…」

 全てを失って自分は抜け殻だと思っていた。でも武が全てを満たしてくれた。武だけが。もう失いたくない。今度こそ生きてはいられない。夕麿にとって武を失う事は世界を失うも同然。だからこそ今の状態は悲しい。

「あひィ…そこ…噛まないで…」

 突然、左の乳首に歯を立てられて悲鳴を上げた。

「どうして?感じ過ぎるから?夕麿の中、物凄く締まるよ?」

 意地悪く武が言う。

「ダメ…おかしくなる…」

「なって良いよ、夕麿?なれよ…幾らでも」

「ああッ…武…武…も…イく…」

 抱え上げられた爪先が宙を蹴る。

「イって良いよ」

「イヤ…武も…一緒に…一緒じゃなきゃ…ダメ…」

 自分だけイくのは嫌だった。武と共に感じたい。

「ちょっとだけ我慢出来る?」

 武の問い掛けに首を縦に振る。武は蜜液を滴らせて、今にも弾けてしまいそうな夕麿のモノの根元を押さえた。

「ああッ…痛い…許して…」

「痛い?力入れ過ぎかな?我慢出来ない?」

「続けて…ください…」

「ん」

「ンあッ…ああッあン…ひィ…」

 激しい抽挿と共に左乳首を強く刺激され、吐精出来ない欲望が体内で渦巻く。 枕を握り締め身悶えてそれを耐える。 

 熱い…荒れ狂う熱を今すぐに放出したい。 だけど一緒にと望んだのは自分だ。 

「ああッ…武…武…もっと…」 

 苦しくても良い。 武にもっと感じて欲しい。 するりと関止めていた武の指が離れた。 

「夕麿、イって。 俺もイくから…」 

「嬉しい…武…武…ああッあンあああッあ…!」 

「夕麿…!」 

 宙を蹴っていた爪先が快楽にシナる。 夕麿が吐精した次の瞬間、体内を武の放った精の熱が満たした。 絶頂の余韻の中で、夕麿は両手で顔を覆って泣き出した。 

「夕麿?」 

 武の戸惑った声。 だが零れ落ちる涙も溢れてしまう嗚咽おえつも止められない。 

 信じてもらえないという悲しみ。 

 決して裏切ったりしない……裏切る事などできないのに。 

 ただ悲しくて辛くて胸が一杯になっていた。 

「武…私は…私は…あなたを裏切ったりしない…あなただけ…私には…あなただけ…」 

「……」 

 武が悲痛な顔で横を向いた。 

「私の幸せを…願ってくださるなら…今ここで私を殺してください。あなたのその手で! そうすれば私は…一番幸せな今で時間が止まります。 あなたに抱いてもらった今が私の一番幸せな時です。

 さあ…武、私の幸せを願ってくださるなら…殺してください…」

 武の手を取って自らの首に導いた。 

「殺してください…そうすれば私は永遠にあなただけのものになれます。 私の望みも幸せも全て叶えられます」 

 本当に殺されても構わなかった。 武の為だけに生きて死ねるならば……幸せだとさえ感じていた。でももっと望んでいるのは武と共に歩きたいと言う気持ち。 武以外の側にいる事も居させる事も望まない気持ち。 それをわかって欲しかった。 共に未来を見て欲しい。 

 やりたい事がたくさんある。 それは武と共に歩く人生だからこそ叶えられる事なのだ。 この生命がけの切なる願いがどうかその心に届いて欲しい。 一時凌しのぎではなくその魂へと響いて欲しい。 どうか、どうか、この想いを、愛を信じて欲しい。 

 武の手を自分の首に導いたまま夕麿は真っ直ぐに彼を見詰めた。 偽りのない気持ち。 人の心が移ろい行くものであろうともそれでも尚、変わらない想いもある。 二人はまだ10代ではあっても、運命の出会いに年齢は関係ない。 生まれた時から一緒の相手と結び付く者もいる。 年老いてから運命の出会いをする者がいる。 

 昨年の春、あのゲートでの出逢いが自分たちの運命だったと夕麿は思う。 特殊な環境下での特殊な関係だとは思わない、絶対に。 

「あなたを愛しています。 あなたと歩いて行きたいと、私は話したのを忘れてしまったのですか? 私にしてくださった約束を果たせないと言うのでしたら…私にはこの先を生きて行く意味も力もありません。 

 だからここで…終わりにしてください」 

「約束…」 

「一緒に学院を改革しようと、悲劇を繰り返さない学院を造ろうと、約束したではありませんか! 御園生を継いで希に手渡すまで、共に頑張って行こうと約束しました!」 

 一言ひとことを噛んで含めるようにゆっくり、しかし強い口調で武に告げた。 

「果たす気のない約束を、あなたは私にしたのですか? それに…それに…生まれ変わっても私といたいと歌に詠んでくださったのは嘘だったのですか? 

 ………答えてください、武。 あなたの本当の心を今此処で私に聞かせてください!」 

 指先で武の頬を撫でて詰問して哀願する。 

「嘘は…言わない。 でも明日は誰にも見えない… 見えないものをお前に求めるのは俺のわがままでしかない。 俺は…これ以上お前を束縛したくない」

 武の言葉に夕麿は胸が痛くなった。 

「武、人間は皆、未来が見えないものです。 本当は明日など来ないかもしれない。 でも私は今日が訪れたように明日も来ると信じて生きています。 それが希望というものだと思いますし、明日を信じるから私たちは生きていられるのでしょう。 

 あなたに出逢うまで、私には昨日も今日も明日もありませんでした。 ただ毎日という通過点が存在し、私の前を流れていました。 まるで目の前にある事柄を処理する機械のように。 

 遠い未来は確かに不確定で霧の彼方にあるようなものです。 だからこそ人間は未来の約束をするのだと私は思います」 

 明日を待ち望む。 自分の変化を今は嬉しいと思う。それは全て武が教えてくれたものだ。

「私の身内の所為であなたに辛い想いをさせてしまった事を本当に申し訳なく思っています」 

「夕麿の所為じゃない…それにあの人たちの言う事…間違ってない」 

「間違っているでしょう? 神々に誓いを立てて夫婦になった私にあなたを裏切って、子供を作れと言う事のどこが間違っていないと言うんです?」 

 武が偏見にさらされたのは今回が本当の意味で初めてと言える。 ましてや夕麿の身内にああいった言動で示されたら、傷付くなと言う方が難しいだろう。 絹子の日々の態度も武には責められているように感じているのかもしれない。 

 夕麿だって傷付いた。 

 アメリカの生活で偏見には慣れたつもりだった。 しかし身内の…しかも信頼していた乳母の反応は、あまりにもショックだった。 

「叔母夫婦が私の子供が欲しいのは六条家を手に入れたいからです。 家格は六条の方が久我よりも上ですから。 外戚がいせきとして実権が欲しいだけ。 佐田川がやったのとなんの変わりもありません」 

 夫婦仲が険悪なのは周から聞いて知っている。 

「そう…なの?」 

「あの夫婦、物凄く仲が悪いそうです。 周さんはずっとそれが嫌で休みにも家に帰らずに、旅行やホテル暮らしをしていたくらいですから。 

 私たちが仲良しなので、羨ましいのでしょう? 嫉妬と欲の二段重ねをされてはたまりません」 

「それだけ? 夕麿の事や六条家の事は考えてないの?」 

「考えてないでしょう? バレたら大変不名誉になる事を、私に強制しようとしたのですから」 

「不名誉な事って?」 

「私が子供を成してはならない理由がわかりますか?」 

「わからない…何故だろう? 俺が子供を作んなきゃいいだけの筈だよな?」 

「私が子供を成した。 それが本当に私の子供なのか、それともあなたの子供をそう、偽っているのではないか…という疑念が必ず生まれます。 

 DNA鑑定で証明されてもそのような疑念がある事自体が不名誉です」 

「不名誉に何でなるんだ? 俺の子供じゃないって証明されればそれで良いじゃないか?」 

「疑念が起こるのが不名誉なんです 」 

「わけがわからない…」 

「ではいつまでもその疑念が残り続けるとしたら? それを叔母夫婦が私に子供を成すのを強制した結果だとしたら?」 

「あ…」 

「あの二人は私がどうやっても女性に触れられないとなると、人工受精でも体外受精でも実行しますよ?」 

「ちょっと待て。 それって母親になる方の意志はどうなる!?」 

「叔母なりの復讐でしょう、叔父への」 

「酷い…」 

「周さんが怒ったのは私たちを傷付けた上での六条家の乗っ取り…だけではなかったという事です。 異腹の妹とはいえ、彼は彼なりにあの少女を可愛いと思っているのでしょう。

 なのに夫婦揃って道具にしようとした。私が相手では愛情は絶対に育たないとわかっているからです、周さんには」

 夕麿は思っていた。浅子は由衣子が自分が生んだ娘だったとしても平然と犠牲にしそうだと。

「武、それでも私に子供を作れと言いますか?」

「俺は…そんなつもりじゃなかった。俺にはあげられないものを、夕麿にあげられる人がいるなら…って。俺との不毛な結び付きより…」

「そんな風に言うのは止めてください、武。昨今、異性間の結婚でも子供を望まない夫婦はいます。大切なのは私たちが愛し合っているかどうかではないのですか?幸せはそこにある筈でしょう?」

「それはわかってる。でも俺は…俺は…」

「あなたを失う以上の不幸はありません。もし…そんな事はあり得ませんが…もし私があなたを裏切って背を向けるなら最早それは私ではありません。私の姿をした別人です。

 ここにいる私、あなたを愛している私は死んだか消えた事になります」

「………かなわないなあ…夕麿には。生徒会長の時にもそんな風にみんなを説得してたよなあ…」

「いきなりなんです?」

「俺さ…体当たりでやるしか出来なくて…夕麿みたいに説得するの、出来ないんだよなあ…」

「あの…武?」

 話の答えではない武の言葉に戸惑ってしまう。

「俺、夕麿のそういうところ…羨ましくて好きなんだよな」

「なっ……」

 頬に熱が集まるのがわかった。

「もう!憎たらしいですね、あなたは!」

 こみ上げた羞恥を誤魔化すように、夕麿は身体を反転させて武を組み敷いた。

「あッ!」

「人が懸命に話しているのに…あなたという方は…」

「…本当に羨ましいんだから、仕方がないだろ!」

「返事はどうしました?話をそらさないで欲しいですね、武」

 あごをとらえていうと武は一度視線をそらした。だがすぐに真っ直ぐに、青みがかった瞳が見つめ返して来た。

「俺は…今しか信じない。だから今を大切にする。今、目の前にいる夕麿を愛してる。

 ……それじゃ、ダメなのか?」

「……わかりました。では私は今日の今だけではなく、明日も明後日もあなたの今を大切にしましょう」

 今この時。その連続が続いていれば、それが武の想いならば…応えて行くだけだと夕麿は思った。夕麿は答える代わりに唇を重ねた、今度は抱く側として。

「ン…ンふぅ…」

 ジェルを乗せた指を蕾へと移動させる。

「あッ…あン…」

「ふふ、昨夜もたっぷりシたから、まだ柔らかいですね、ココは」

 武の蕾は僅かな刺激で、招くように花弁を開かせた。 導かれるように挿れた指に、中が吸い付くように絡んで来る。 

「ヤぁン…ああッ…そ…な…かき混ぜ…ダメ…」 

 感じ過ぎるのか、両手でシーツを握り締め、浮かせた腰が淫らに揺れる。 

「夕麿…も…欲し…来て…早く…」 

 武が脚を開いて誘いかける。 夕麿は指を抜くと一気に貫いた。 

「あッあああッ!」 

 武の華奢な身体が衝撃に大きく仰け反った。 白い肌が忽たちまちち紅に染まる。 つい今し方まで夕麿を抱いて男の顔をしていた武が、一変して瞳を潤ませ頬を紅潮させた愛らしい姿を見せた。 

 甘い息を吐く唇から舌先が覗く。 誘われるように唇を重ねながら、ゆっくりと抽挿を開始した。 

「ンふッ…ンン…ぁン…」 

 武の手が背中を抱き締める。 離れた唇から絶え間なく嬌声が溢れる。 

「あッ…イイ…そこ…もっと…ああン…夕麿ぁ…」 

 武の中は夕麿のモノを優しく包み込みながら、官能を求めて収縮を繰り返す。 

「ヤぁ…あン…」 

 仰け反る喉に口付けをして、ゆっくりと胸元まで降りていく。 感じる部分に唇が触れる度に、高く声を上げ、肉壁が中のモノを締め付ける。 先程の仕返しとばかりに、乳首を口に含んで甘噛みし吸い上げる。 

「あッ!ああン…ダメぇ…」 

 武の指が夕麿の髪をかき回す。 抱え上げた爪先がピクピクと震えて、快感の強さを示していた。 

「イジ…ワル…」 

 武も仕返しをされていると感じたらしい。 潤んだ瞳と舌っ足らずな口調で抗議して来る。 

「可愛い…」 

 囁きながら今度は耳朶を甘噛みする。 

「ンぁ…ぁあッ…ダメ…ダメぇ…」 

 律動に合わせて腰を揺らして身悶えする様は可愛くて淫らだ。 

「武…もっと感じて…もっと乱れて…」 

 一度イった身体は快楽だけを貪っていく。 

「夕麿…夕麿ぁ…ダメ…ヤぁ…ンぁ…ああ…イイ…」 

 最早武は自分が口走っている言葉すらわからないらしい。 室内に空調の微かな音と、武の甘い声と濡れた音だけが響いていた。 




 朝、夕麿はフロントからのコールで目を覚ました。 昨夜は何度も互いに求め合っていつ眠ったのかすら曖昧だ。 傍らで武がもぞもぞと身体を動かす温もりがホッとした安らぎをくれる。 

 夕麿は武を起こさないようにそっと身を起こして受話器を取った。 

「はい」 

「おはようございます。 朝食をお運びしてもよろしいでしょうか?」 

「お願いします」 

「承知いたしました」 

 時計を見ると9時を少し過ぎたところだった。 

「武、起きてください」 

 食事のセッティングは隣のリビングで行われるが、今から起こさないと武はなかなか目を覚まさない。 

「武?」 

「う…ん…? もう…朝?」 

「朝食が届きますから一緒に食べましょう」 

「ん…」 

 返事をするが縋り付いて来るところから判断して、まだちゃんと目を覚ましてはいないらしい。 

「仕方がない人ですね……ほら、起きてください」 

 頭の下に手を入れて抱き起こすと、細く目を開けて舌足らずな口調で言った。 

「キス…してくれたら…起きる…」 

「今朝は甘えん坊ですね」 

 クスクスと笑いながら唇を重ねて舌先で口腔内を貪る。 

「ンぁ…ン…ふぅン…」 

 途中で武の身体がピクリと震えた。 どうやらちゃんと目が覚めたらしい。 唇を離すと潤んだ瞳が恨めしげに見つめ返して来た。 

「キスしたら起きると言ったのは、あなたですよ?」 

 笑顔で告げると瞬時に真っ赤になった。 

「朝食を食べましょう?」 

「うん…でもその前に…もっとキスして」 


 午後3時。 インペリアル・スイートまで迎えに来た雫は、武の様子を見て胸を撫でおろした。 夕麿も笑顔で雫に頷いた。 

「あ、成瀬さん。 注文してた品物を受け取りに行きたいんだけど…」 

 武が行きたがった場所は御園生系列の百貨店。 

「あの…私もそちらに行きたいのですが」 

 雫はつい先程、やはり注文していた品物が届いたと連絡を受けたばかりだと告げた。 しかも受け取りに行ったのは…同じ宝石店。 挙げ句の果てに貴之と遭遇した。 互いに顔を合わせて苦笑する。 今日はクリスマスイブ。 愛し合う者たちが寄り添い集う日。 

「今年は麗先輩がいないね…元気かな?」 

「元気なようですよ? 藤堂先輩が帰国が許されない身ですからね…彼も帰国しないようです」 

「それってどうにもならない事なの?」 

「国外に出てしまった者は難しいでしょうね…これからの者は救えるかもしれませんが…」 

 どんなに願っても救えない者たちがいる。 わかってはいても哀しいと思う。 麗は中等部からずっと生徒会で一緒だった。 明るくて良く気が付いて…一途だった。 

「麗先輩ってちょうど、成瀬さんと高辻先生と似たような感じだよね?」 

「どういう事です?」 

「麗先輩は藤堂先輩と中等部の時に出逢ったんだって。 藤堂先輩は周さんの時の副会長さん。 麗先輩は去年の生徒会書記で結城和菓子司の人」 

「私たちよりは年齢が近いですね」 

「藤堂先輩は…日本に帰って来れないんだ。 だから麗先輩もフランスに留学して…多分、もう帰って来ない」 

 フランスのどこかで二人、一緒にクリスマスを祝うのだろうか。 夕麿は曇りがちの空を見上げた。 武と気持ちは同じだ。 小柄だけれど魅力に溢れた友に会いたかった。 出会いと別れは世の常。 それはわかっている。 それでも共に過ごした日々が今は懐かしく愛しく感じる。 昨年は特に武を交えての記憶が、胸を過ぎていくのが寂しい。 

「夕麿…?」 

 見上げて来る顔に穏やかな笑顔で返して思う。 どんなに別れの日々が来ようとも、この手だけは絶対に離しはしないと。 指を絡めて手を繋いぎ視線を交わす。 

「用は済みましたか?」 

「うん、終わった」 

「では帰りましょう。 私たちも今夜の準備を手伝わなければ」 

 車に乗り込んで帰路につく。 多事多端な日々も労ってくれる家族がいるから楽しい。 武がいてくれるから子の世界に溢れる色彩を美しいと感じる。 

 夕麿は自分が確かに生きている実感を味わっていた。
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