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想望~周
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しおりを挟むこの想いが恋だと気付いたのはいつだったろうか。 数年前だった筈だが、もう遠い昔のように感じてしまう。
最愛の相手を得て、穏やかで優しい微笑みを浮かべるようになったお前を見る度、良かったと思う気持ちと、それが自分ではないジレンマに胸が刺すような痛みに襲われる。
あの方がお前を想いみつめる眼差しに、僕は3歳も年上なのに勝てないと感じてしまう。 無邪気で真っ直ぐでお前を守る為には、鬼にでもなってしまおうとするあの方の激しさに。
僕は一体これまで何をして来ただろう?
小等部の夏休み、殆どまともに食事をもらっていなかったお前に、お菓子をやるくらいしか出来なかった。
ずっと早くおとなになりたいと思っていた。
中等部になってお前との距離が離れしまった時、自分の想いが同情でも兄の気分でもない事がわかって…僕は心底戸惑った。
あの女の虐待はエスカレートするばかりで、僕はどれだけ母にお前を助けてくれと嘆願した事だろう。 でも考えてみればそれだけだった。
きっと何も出来ないままの自分への後ろめたさだったんだろうな。 中等部に上がって来たお前に、もう向き合う事が出来なくなってしまったのは。
再会したお前は可愛い面差しが綺麗に大人びて来ていて、僕には眩しくて…もう近付けなかった。 心を持て余した僕は、清方さんとずっとそういう関係を続けていたから。
清方さんは…去って行った恋人への思慕を捨て切れず、僕はお前への想いを持て余していた。 不毛な関係なのはわかっていたさ。 だけどあの頃の僕には、他に逃げ道を知らなかったから。
なあ…夕麿。 あの頃に僕がお前と向き合っていたら、この気持ちを受け入れてくれたか?
IFを言っても意味がないのはわかってる。 あの事件の前でも後でも、僕はお前の従兄にすぎないと。 僕ではダメだったんだと。
お前がずっと求めていたものを、僕は持っていないとわかっているから。
あの方の真っ直ぐさも形振り構わない激情も僕は持ち合わせてはいない。 命懸けでお前を守ろうとする強さもない。
それでも身体を抱き締めれば少しは僕を、見てはくれないかと浅はかな事を求めた。 どんなに触れても冷めた瞳はそのままだった。 傷付けるだけの愚かな行為だったと気が付いた時には遅かった。
「つまらないからやめた」
その言葉に無言で起き上がり衣服を整えたお前の頬が、濡れていたのを僕は気が付かなかったふりをするしか出来なかった。
後で慈園院 司に激しく非難されたよ。 もっと打ちのめされた僕は逃げ道を探しまわった。 お前の身代わりを求めた。でも代用品は代用品でしかなかった…虚しさと、お前を得られない苦しさから僕は次の代用品を探した。
お前の眼差しはどんどん冷たくなった。 それでも良かった。 無視されるよりは嫌われる方がまだ良い。 だってそれはまだ、お前が僕を見ているって事だろう? お前は僕を忘れてしまわないでいてくれるだろう?
昨年の冬休み、あの方と一緒にいるお前を見て僕は驚いた。
でもお前が気まぐれで何人かと付き合ったのは知ってたから、またそういう相手を見つけたのだと思った。
だがからかいの言葉を口にした僕は本気でお前に殴られた。
そして…僕の心は絶望でいっぱいになった………
あれから僕は考え続けた。 お前とあの方の為に何が出来るだろうかと。 報われないならそれでも良いと、ただお前の笑顔を見ていたいと。
あの方に向けられる笑顔でも良い。 夕麿、お前が幸せならば…… 僕はこの痛みに耐えられる。
お前が留守の間は僕では何の助けにも、ならないかもしれないがあの方の笑顔を守ろう。
そうすればお前は笑っていられるだろう?
僕はもう誰も身代わりを求めたりはしない。 ここでお前とあの方の幸せな姿を見守っている。 あの方が来年、学院を卒業すれば、僕の任も終わりを告げる。
僕がこの国から出るのを両親は喜ばない。 如何なる手を使っても阻止するだろう。 そうしたら多分、僕はお前との接点を失うだろう。
………僕は、それでも生きて行けるだろうか?
夕麿。
僕はお前以外に想う人はいらない。
痛みと一緒にこの想いを抱き続けていこう。
報われないからこそこの想いは僕だけのものだから。
………夕麿。
……………愛している。
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