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第28章
第2話
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終業式が終わって、ついに夏休みが始まった。
俺は誘われた通り、補習開始までの一週間を、渡部と遊びまくった。
渡部の人気運動部としての、サル部の幅広い人脈を生かし、男だけじゃなくて、そこには女子も加わった。
カラオケに行って、駅前の巨大ショッピングモールをぶらぶらと歩いた。
体力を持て余した健全な渡部たちは、普段の朝練の習慣を崩したくないと、補習の始まる1時間も前から、学校近くの公園に集合をかけた。
そこでサル部軍団のくせに、なぜか持参してきたおもちゃのプラスチックバットを振り回す。
ボコボコにへこんだその短すぎるバットは、落ちていたペットボトルの蓋を打つのに、ちょうどよかった。
「なんでこんなバット持ってんだよ」
「え? 弟の」
渡部は笑って、その赤いバットを振った。
ペットボトルの蓋のいいところは、飛んできたのを受け取れなくてもいいし、転がってもいかないところだ。
俺は拾った蓋を、投げ返す。
上手く投げられなくてもいい。
だってそれは、ペットボトルの蓋だから。
投げられた蓋を受け取り損ねた渡部は、笑っていた。
「お前、あんがい上手いよな」
そりゃもちろん、運動部の連中には、かなわないことは、分かっている。
お世辞でもそうやって言ってくれることは、うれしかった。
「そんなこと、あるわけねぇだろ」
白い蓋は、カンと安っぽい音をたてて、空に舞い上がる。
実際に補習が始まると、それはまぁ退屈で退屈で仕方がなかった。
渡部たちは遅刻寸前でやって来て、教室に入るなり寝ているし、俺は先生の授業に全くの関係ない無駄話に、内心で突っ込みを入れ続けていないと、前も向いていられなかった。
そのくせ宿題はたっぷり出され、俺は渡部たちと協力して、それを均等に分割し、解いたうえで、その内容を画像で送り合い、しのいだ。
「じゃあな、お疲れ」
そうやって、一週間の特別な時間が終わった。
終わってしまうと、実にあっさりしたもんで、渡部たちはまた、サル部で汗を流し始める。
俺は普段やらない早起きと運動が続いたせいで、3日は家に引きこもり、自室のベッドでごろごろしていた。
あぁ、マシン作りに行かないとな。
覚悟を決め、5千円を出して買った専門書は、結局テスト前までに開いたページで止まっている。
買って来た資材は、全部学校の理科室に置いてきたから、家でどうこうすることも出来ない。
行かないと。
なんでこんなことに巻き込まれたんだろう。
本当に面倒くさい。
鹿島なんて奴が現れなかったら、今頃はのんびりと、平和な夏休みを送っていたに違いない。
俺は山崎と気まずくなったりなんかしなかったし、マシン作りとか、こんなに面倒くさい思いもしなくてもよかった。
本当にもう、あきらめようかな。
俺は誘われた通り、補習開始までの一週間を、渡部と遊びまくった。
渡部の人気運動部としての、サル部の幅広い人脈を生かし、男だけじゃなくて、そこには女子も加わった。
カラオケに行って、駅前の巨大ショッピングモールをぶらぶらと歩いた。
体力を持て余した健全な渡部たちは、普段の朝練の習慣を崩したくないと、補習の始まる1時間も前から、学校近くの公園に集合をかけた。
そこでサル部軍団のくせに、なぜか持参してきたおもちゃのプラスチックバットを振り回す。
ボコボコにへこんだその短すぎるバットは、落ちていたペットボトルの蓋を打つのに、ちょうどよかった。
「なんでこんなバット持ってんだよ」
「え? 弟の」
渡部は笑って、その赤いバットを振った。
ペットボトルの蓋のいいところは、飛んできたのを受け取れなくてもいいし、転がってもいかないところだ。
俺は拾った蓋を、投げ返す。
上手く投げられなくてもいい。
だってそれは、ペットボトルの蓋だから。
投げられた蓋を受け取り損ねた渡部は、笑っていた。
「お前、あんがい上手いよな」
そりゃもちろん、運動部の連中には、かなわないことは、分かっている。
お世辞でもそうやって言ってくれることは、うれしかった。
「そんなこと、あるわけねぇだろ」
白い蓋は、カンと安っぽい音をたてて、空に舞い上がる。
実際に補習が始まると、それはまぁ退屈で退屈で仕方がなかった。
渡部たちは遅刻寸前でやって来て、教室に入るなり寝ているし、俺は先生の授業に全くの関係ない無駄話に、内心で突っ込みを入れ続けていないと、前も向いていられなかった。
そのくせ宿題はたっぷり出され、俺は渡部たちと協力して、それを均等に分割し、解いたうえで、その内容を画像で送り合い、しのいだ。
「じゃあな、お疲れ」
そうやって、一週間の特別な時間が終わった。
終わってしまうと、実にあっさりしたもんで、渡部たちはまた、サル部で汗を流し始める。
俺は普段やらない早起きと運動が続いたせいで、3日は家に引きこもり、自室のベッドでごろごろしていた。
あぁ、マシン作りに行かないとな。
覚悟を決め、5千円を出して買った専門書は、結局テスト前までに開いたページで止まっている。
買って来た資材は、全部学校の理科室に置いてきたから、家でどうこうすることも出来ない。
行かないと。
なんでこんなことに巻き込まれたんだろう。
本当に面倒くさい。
鹿島なんて奴が現れなかったら、今頃はのんびりと、平和な夏休みを送っていたに違いない。
俺は山崎と気まずくなったりなんかしなかったし、マシン作りとか、こんなに面倒くさい思いもしなくてもよかった。
本当にもう、あきらめようかな。
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