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第23章
第4話
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ふいに廊下からにぎやかな足音が響いて、理科室の扉が開いた。
声が聞こえていたから、来ているのは鹿島たちだと分かっていたけど、もうなにも誤魔化したり隠したりする気分にもならなかったから、雑然とした作業台の上を、そのままにしている。
「こ、こんにちは」
入って来た鹿島は、俺を見るなりぎこちなくそう言った。
「……なに?」
「いえ、ちょっとお伺いしたいことがありまして……」
彼の視線が、散らかった作業台の上をさまよう。
俺のマシンの進行具合が気になる?
なんにも進んでないから、心配するようなことは何にもないぜ。
安心しろ。
「どうかした?」
立ち上がって、工具を棚から取り出すフリをしながら、背を向ける。
鹿島の顔が、コイツはやっぱり自分の敵ではないと、俺に対するあざけりの表情を浮かべ、バカにするような笑みを浮かべながら、安心する瞬間を見たくはなかった。
「あ、あのですね……」
背を向けている俺の後ろで、相変わらず遠慮がちな声をつまらせる。
「ちょっとパソコン貸して!」
その鹿島の後ろから、山崎が顔を出した。
他の1年どもは、鹿島の背中に隠れるようにして大人しく横一列に並んでいる。
もちろん愛想笑いなんだろうが、山崎の登場にムッツリとした鹿島とは対照的に、他の1年どもの、にやついた表情がしゃくに障る。
山崎はテーブルに開きっぱなしにしておいたパソコンの、マウスを動かした。
「ねぇ、純、どれ?」
純って誰だ? と思ったら、鹿島が動いた。
俺の真横を通り過ぎて、山崎の隣で画面を見る。
「ちょっと貸してください」
山崎の背中から、マウスを動かして何かをしている。
純か、純ねぇ~。
俺もそこをのぞきこんだ。
カチカチという音をさせて、鹿島はフォルダーを順番に開いていく。
何を探しているんだろう。
そう思っていたら、俺のマシン制作のために集めた資料フォルダーを、彼は偶然開いた。
「あ、あった……じゃ、ないですね」
鹿島はすぐにそれを閉じる。
俺は俺のマシンの秘密を暴かれたような気分になる。
鹿島の顔が赤くなって、ますます腹が立つ。
「あ、これです。ありました」
鹿島が探していたのは、自分たちのマシン作成のために集めた資料フォルダーだった。
そんなものがこのパソコンの中にあったんだ。
それを知ってたら、さっさと見てやったのに。
鹿島はUSBを差し込むと、そのフォルダーを移動させる。
俺が一度も中を覗き見ないまま、その貴重な資料集は移動させられてしまった。
「何か困ってたの?」
「ちょっと。前に調べたので、もう一度確認したい内容があったので」
「言ってくれれば、送信したのに」
そんなこと、俺に頼むわけがないよな。
何を考え、何をしようとしているのかが分かるような大切な資料だ。
マシンの性能や中身の秘密を、俺になんかバラしたいワケがない。
そういえばコイツら、奥川とケンカしたんだっけ?
声が聞こえていたから、来ているのは鹿島たちだと分かっていたけど、もうなにも誤魔化したり隠したりする気分にもならなかったから、雑然とした作業台の上を、そのままにしている。
「こ、こんにちは」
入って来た鹿島は、俺を見るなりぎこちなくそう言った。
「……なに?」
「いえ、ちょっとお伺いしたいことがありまして……」
彼の視線が、散らかった作業台の上をさまよう。
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なんにも進んでないから、心配するようなことは何にもないぜ。
安心しろ。
「どうかした?」
立ち上がって、工具を棚から取り出すフリをしながら、背を向ける。
鹿島の顔が、コイツはやっぱり自分の敵ではないと、俺に対するあざけりの表情を浮かべ、バカにするような笑みを浮かべながら、安心する瞬間を見たくはなかった。
「あ、あのですね……」
背を向けている俺の後ろで、相変わらず遠慮がちな声をつまらせる。
「ちょっとパソコン貸して!」
その鹿島の後ろから、山崎が顔を出した。
他の1年どもは、鹿島の背中に隠れるようにして大人しく横一列に並んでいる。
もちろん愛想笑いなんだろうが、山崎の登場にムッツリとした鹿島とは対照的に、他の1年どもの、にやついた表情がしゃくに障る。
山崎はテーブルに開きっぱなしにしておいたパソコンの、マウスを動かした。
「ねぇ、純、どれ?」
純って誰だ? と思ったら、鹿島が動いた。
俺の真横を通り過ぎて、山崎の隣で画面を見る。
「ちょっと貸してください」
山崎の背中から、マウスを動かして何かをしている。
純か、純ねぇ~。
俺もそこをのぞきこんだ。
カチカチという音をさせて、鹿島はフォルダーを順番に開いていく。
何を探しているんだろう。
そう思っていたら、俺のマシン制作のために集めた資料フォルダーを、彼は偶然開いた。
「あ、あった……じゃ、ないですね」
鹿島はすぐにそれを閉じる。
俺は俺のマシンの秘密を暴かれたような気分になる。
鹿島の顔が赤くなって、ますます腹が立つ。
「あ、これです。ありました」
鹿島が探していたのは、自分たちのマシン作成のために集めた資料フォルダーだった。
そんなものがこのパソコンの中にあったんだ。
それを知ってたら、さっさと見てやったのに。
鹿島はUSBを差し込むと、そのフォルダーを移動させる。
俺が一度も中を覗き見ないまま、その貴重な資料集は移動させられてしまった。
「何か困ってたの?」
「ちょっと。前に調べたので、もう一度確認したい内容があったので」
「言ってくれれば、送信したのに」
そんなこと、俺に頼むわけがないよな。
何を考え、何をしようとしているのかが分かるような大切な資料だ。
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