上 下
68 / 120
第23章

第2話

しおりを挟む
「そりゃね、話しにくいのも分かるよ。遠慮しちゃうのも。だけどさ、私は別にそういうの、気にしてほしくないし、気にしたくないから……」

ふいに言葉が途切れて、また静かになった。

ゴトリという音がしたのは、俺がパイプを机に置いたせい。

彼女の口から、ため息がもれた。

「何でこんなんなんだろ。上手くいかないもんだよね」

座っていたテーブルからひょいと飛び降りると、開かない窓に手をついた。

「私の何が悪いのかな。それが全然分かんない」

そこからまた動かなくなった彼女の、背中を見つめている。

近いようで、遠い背中。

奥川はいま、一人で何かを考えているんだ。

そこに俺は入っていくことが怖くて、踏み込めば何もかも終わるような気がして、それが触れたくても触れることが出来ない俺の、ちょうどいい言い分けにもなっているような気がする。

「誰かと、ケンカしたの?」

「……。そう」

静かにじっと考える彼女とはうらはらに、俺の頭は猛スピードで高速回転を始める。

ケンカをした相手は誰か、何でもめたのか、それはいつなのか。

それで奥川は、何を思い、どうしたいのか……。

奥川は窓枠にもたれて、じっと外を見ていた。

それを聞き出さないことには、俺に返事のしようがない。

「何が、原因?」

とにかく彼女の機嫌を損ねないように、地雷を踏まないように、何度も何度も学習を重ねているはずの、一度も成功したことのないルートを、今度こそ探り当てに行く。

そうやって聞いたのに、彼女は横を向いたままで、動かない。

当たりか外れか分からない道を、慎重に進む。

「何か、言われたの?」

俺はいつだって、彼女の味方にあるし、そうなるつもりでいる。

何か一言でも、言葉を発してくれたのなら、俺は無条件で彼女の意見に全面的かつ、全方位的に賛同する。

そう、これはある意味チャンスなのだ。

彼女からの、厚い信頼を得るための。

「い、1年、か、鹿島?」

「もういい」

奥川は急に振り返ると、何をするのかと思えば、部のパソコンをのぞき始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

暗い話にはしたくない

岡智 みみか
ライト文芸
ねぇ、この世界がいま、少しずつ小さくなってるって、知ってる? 変わりゆく世界の中で、それでもあなたと居たいと思う。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

手紙屋 ─ending letter─【完結】

Shizukuru
ライト文芸
終わりは突然、別れは必然。人が亡くなるとはそう言う事だ。 亡くなった人の想いの欠片が手紙となる。その手紙を届ける仕事こそ、黒須家で代々受け継がれる家業、"手紙屋"である。 手紙屋の見習いである黒須寧々子(JK)が仕事をこなしている時に、大事な手紙を白猫に取られてしまった! 白猫を探して辿り着いた神社で出会ったのは……金髪、カラコン、バチバチピアスのド派手な美形大学生だった。 顔はいいが、性格に難アリ。ヤダこの人と思ったのに……不思議な縁から始まる物語。

宇宙桜

津嶋朋靖(つしまともやす)
ライト文芸
頭山 正は、髭をそっている時に頭頂部に妙な物体があることに気が付く。 それは小さな木だった。 医者に行ってみるが、医者の頭には正よりも大きな木が生えていたのだ。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

パドックで会いましょう

櫻井音衣
ライト文芸
競馬場で出会った 僕と、ねえさんと、おじさん。 どこに住み、何の仕事をしているのか、 歳も、名前さえも知らない。 日曜日 僕はねえさんに会うために 競馬場に足を運ぶ。 今日もあなたが 笑ってそこにいてくれますように。

処理中です...