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第9章
第1話
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その光景を見たのは、単なる偶然だった。
昼休み、なんとなく自販機のフルーツ・オレが飲みたくなって、ふらりと教室を出た。
校内でも限られた自販機にしか装備されていないそれを、わざわざ買いに行った帰りの廊下で、俺はそれを見た。
背が高くて、肌も髪も天然で色の薄い鹿島は、とにかく目立つ。
中庭を挟んだ向かいの校舎に、そいつはいた。
鹿島に駆け寄る女子の制服が見えた。
お仲間の1年女子の一人かと思ったら、それは奥川だった。
鹿島は彼女を見かけるとすぐに立ち止まって、それに耳を傾けた。
彼女は俺に見せたことのないような笑顔で、彼に話しかける。
鹿島がゆっくりと歩き出すと、その歩調に合わせて、彼女も歩き出した。
奥川の手が鹿島の肩に伸びその腕に触れたとき、鹿島は驚いていたように思う。
そんな彼を見て、彼女は笑った。
またか。
と、俺は思った。
「今日さ、昼休み、鹿島となにしゃべってたの?」
「は?」
そうやってただ聞いただけなのに、彼女は眉間にしわをよせ、怒ったような顔をする。
「いや、別になにがどうこうって話しじゃないんだけどさ、たまたま見かけたから」
放課後の廊下を歩調の速い彼女に合わせて、いつものように追いかけるように並んで歩く。
もしここで俺が立ち止まったら、彼女はどうするんだろうか。
そう思って立ち止まってみたら、奥川は全く気にとめる様子もなく、先を急ぐ。
俺は仕方なくまた後を追いかける。
「別に怒ってるとか怪しんでるとかじゃなくて、たまたま見かけたことを、そのままただ純粋に聞いただけだろ」
「純粋に偶然会ったから、ただ純粋に、なんとなく声をかけただけだよ」
「そっか、なら別にいいんだけど。ちょっと気になったから聞いてみただけ」
俺は一度は彼女を追いかけたものの、今度は自らの意志で足を止めた。
奥川はそんな俺を一瞬ちらりと見上げただけで、そのままどこかへ消えていく。
まぁ、いいんだ別に。
俺と奥川の関係は、そんな簡単に切れるようなもんじゃないし。
俺は廊下で、体を反転させた。
ずっと小学校の時から一緒にいて、お互いのことはよく分かっている。
好きなもの嫌いなもの、好みも性格も。
どうすれば相手が喜ぶかも知っているし、忘れ物や遅刻するタイミングのクセだって、分かってる。
だから奥川は、俺を助けてくれるし、世話も焼いてくれる。
ずっとずっとそうしてきたんだから。
お互いに、俺たちは。
鹿島なんて年下の、いかにもモテそうなイケメンなんて、奥川、お前の相手はしてくれないぞ。
昼休み、なんとなく自販機のフルーツ・オレが飲みたくなって、ふらりと教室を出た。
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鹿島に駆け寄る女子の制服が見えた。
お仲間の1年女子の一人かと思ったら、それは奥川だった。
鹿島は彼女を見かけるとすぐに立ち止まって、それに耳を傾けた。
彼女は俺に見せたことのないような笑顔で、彼に話しかける。
鹿島がゆっくりと歩き出すと、その歩調に合わせて、彼女も歩き出した。
奥川の手が鹿島の肩に伸びその腕に触れたとき、鹿島は驚いていたように思う。
そんな彼を見て、彼女は笑った。
またか。
と、俺は思った。
「今日さ、昼休み、鹿島となにしゃべってたの?」
「は?」
そうやってただ聞いただけなのに、彼女は眉間にしわをよせ、怒ったような顔をする。
「いや、別になにがどうこうって話しじゃないんだけどさ、たまたま見かけたから」
放課後の廊下を歩調の速い彼女に合わせて、いつものように追いかけるように並んで歩く。
もしここで俺が立ち止まったら、彼女はどうするんだろうか。
そう思って立ち止まってみたら、奥川は全く気にとめる様子もなく、先を急ぐ。
俺は仕方なくまた後を追いかける。
「別に怒ってるとか怪しんでるとかじゃなくて、たまたま見かけたことを、そのままただ純粋に聞いただけだろ」
「純粋に偶然会ったから、ただ純粋に、なんとなく声をかけただけだよ」
「そっか、なら別にいいんだけど。ちょっと気になったから聞いてみただけ」
俺は一度は彼女を追いかけたものの、今度は自らの意志で足を止めた。
奥川はそんな俺を一瞬ちらりと見上げただけで、そのままどこかへ消えていく。
まぁ、いいんだ別に。
俺と奥川の関係は、そんな簡単に切れるようなもんじゃないし。
俺は廊下で、体を反転させた。
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どうすれば相手が喜ぶかも知っているし、忘れ物や遅刻するタイミングのクセだって、分かってる。
だから奥川は、俺を助けてくれるし、世話も焼いてくれる。
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お互いに、俺たちは。
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