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第8章
第1話
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なんてことを、誰よりも強く願っているはずなのに、俺の大切な場所が、俺の居場所だったはずの理科室が、すっかり侵食されてしまっている。
1年軍団だ。
部長であるはずの俺が、とにかく部活に行きたくない。
非常に足が重い。
それが仮入部の間の二週間だけだと思っていたから、まだ我慢出来ていたのが、完璧に風向きが変わってしまった。
「おめでとう! 予算がっつりとれたよ! 顧問の先生も、びっくりしてた!」
奥川が追加予算決定の通知書を持って、わざわざ放課後の理科室に登場したときには、その絶望が確定した。
「なんだよ、そんな大事なこと、先に俺に言うべきだろ」
彼女の耳元でそうつぶやいたら、妙に変な顔をされる。
「あんたに言ったって、しょうがないじゃない」
「先に教えてほしかった」
大事な話じゃないか。
それを鹿島たちに伝えずにおいておくことも出来た。
まぁいずれバレるかもしれないけど、その時には予算に手をつけずにおいて、「すいませんでした」って、そのまま生徒会本部に全額を返してしまえばいい。
もしくは予算が下りないことを理由に、参加をあきらめさせることも出来たのに。
突然のそんな大きな追加予算を学校側が許すなんて、俺の大きな誤算だ。
「やったぁ!」
鹿島たちと一緒になって、彼女まで盛り上がっている。
どういう風の吹き回しだ。
うちの部に全く興味もなかったくせに。
しかもお前はまだ部員でもないんだから、関係ないだろ。
そういう特別な話題は、特別な相手にだけ、特別に話してほしい。
隣のクラスとはいえ、廊下でもすれ違うこともあるのに、何も話しかけられなかったのが、少し悔しい。
どうして彼女の方から、声をかけてくれないんだろう。
「じゃあ早速、資材の買い出しに行こうぜ」
1年軍団が立ち上がった。
何を始めようっていうんだ。
これ以上俺を無視して、好き勝手なことはさせない。
「待て。お前らはまだ、仮入部の期間だっていっただろ。なんの権限があってこんなことしてんだ。入部届けを、俺はまだ受け取ってねーぞ」
ぴたりと動きの止まった1年軍団の中で、鹿島は一人振り返った。
「部長、入部届けは、もう書いたはずです」
「まだ仮入部の期間だっつってるだろ。たとえ今ここで入部届けを出したとしても、正式に部員となるのは、週明けだ」
学校の決まりでそうなってるんだ。だろ?
俺は何一つ、間違ったことを言っていない。
「だったら、俺たちはもう部員なんじゃないんですか」
「この活動計画にしたって、本当は部長の俺が書いて出すべきものなのに、そうじゃない人間が書いて認められるなんて、おかしくないか? 生徒会本部は、どういう判断してんだよ。部員でもない新1年が書いた計画案だぜ?」
そう、こんなものに意味はない。
黄ばんだ再生紙の上に並んでいるのは、その数字も文字も、ただのインクの染みだ。
「俺は別にニューロボコンへの参加を否定してるわけじゃない。予算だって、認めてもらえたのはありがたいと思ってるよ」
俺はそこにあった、ただの再生パルプの紙切れを手に取った。
「だけど、勝手な判断は認められない。これは俺たちでどうするのか、今後考える。それに文句のあるやつは、ここから出て行け」
やりたいことがあるのなら、自分たちで新しい部活なりサークルなりを、作ればいいじゃないか。
お前らがここを出て行くといえば、この予算はそっくりそのままくれてやるし、なんならサークルの立ち上げを手伝ってやってもいい。
この理科室がほしいと言うのなら、ここを譲ったって、俺たちに新しい部室を用意してもらえるのならば、それでもいいと思ってるんだ。
1年軍団だ。
部長であるはずの俺が、とにかく部活に行きたくない。
非常に足が重い。
それが仮入部の間の二週間だけだと思っていたから、まだ我慢出来ていたのが、完璧に風向きが変わってしまった。
「おめでとう! 予算がっつりとれたよ! 顧問の先生も、びっくりしてた!」
奥川が追加予算決定の通知書を持って、わざわざ放課後の理科室に登場したときには、その絶望が確定した。
「なんだよ、そんな大事なこと、先に俺に言うべきだろ」
彼女の耳元でそうつぶやいたら、妙に変な顔をされる。
「あんたに言ったって、しょうがないじゃない」
「先に教えてほしかった」
大事な話じゃないか。
それを鹿島たちに伝えずにおいておくことも出来た。
まぁいずれバレるかもしれないけど、その時には予算に手をつけずにおいて、「すいませんでした」って、そのまま生徒会本部に全額を返してしまえばいい。
もしくは予算が下りないことを理由に、参加をあきらめさせることも出来たのに。
突然のそんな大きな追加予算を学校側が許すなんて、俺の大きな誤算だ。
「やったぁ!」
鹿島たちと一緒になって、彼女まで盛り上がっている。
どういう風の吹き回しだ。
うちの部に全く興味もなかったくせに。
しかもお前はまだ部員でもないんだから、関係ないだろ。
そういう特別な話題は、特別な相手にだけ、特別に話してほしい。
隣のクラスとはいえ、廊下でもすれ違うこともあるのに、何も話しかけられなかったのが、少し悔しい。
どうして彼女の方から、声をかけてくれないんだろう。
「じゃあ早速、資材の買い出しに行こうぜ」
1年軍団が立ち上がった。
何を始めようっていうんだ。
これ以上俺を無視して、好き勝手なことはさせない。
「待て。お前らはまだ、仮入部の期間だっていっただろ。なんの権限があってこんなことしてんだ。入部届けを、俺はまだ受け取ってねーぞ」
ぴたりと動きの止まった1年軍団の中で、鹿島は一人振り返った。
「部長、入部届けは、もう書いたはずです」
「まだ仮入部の期間だっつってるだろ。たとえ今ここで入部届けを出したとしても、正式に部員となるのは、週明けだ」
学校の決まりでそうなってるんだ。だろ?
俺は何一つ、間違ったことを言っていない。
「だったら、俺たちはもう部員なんじゃないんですか」
「この活動計画にしたって、本当は部長の俺が書いて出すべきものなのに、そうじゃない人間が書いて認められるなんて、おかしくないか? 生徒会本部は、どういう判断してんだよ。部員でもない新1年が書いた計画案だぜ?」
そう、こんなものに意味はない。
黄ばんだ再生紙の上に並んでいるのは、その数字も文字も、ただのインクの染みだ。
「俺は別にニューロボコンへの参加を否定してるわけじゃない。予算だって、認めてもらえたのはありがたいと思ってるよ」
俺はそこにあった、ただの再生パルプの紙切れを手に取った。
「だけど、勝手な判断は認められない。これは俺たちでどうするのか、今後考える。それに文句のあるやつは、ここから出て行け」
やりたいことがあるのなら、自分たちで新しい部活なりサークルなりを、作ればいいじゃないか。
お前らがここを出て行くといえば、この予算はそっくりそのままくれてやるし、なんならサークルの立ち上げを手伝ってやってもいい。
この理科室がほしいと言うのなら、ここを譲ったって、俺たちに新しい部室を用意してもらえるのならば、それでもいいと思ってるんだ。
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