上 下
21 / 120
第8章

第1話

しおりを挟む
なんてことを、誰よりも強く願っているはずなのに、俺の大切な場所が、俺の居場所だったはずの理科室が、すっかり侵食されてしまっている。

1年軍団だ。

部長であるはずの俺が、とにかく部活に行きたくない。

非常に足が重い。

それが仮入部の間の二週間だけだと思っていたから、まだ我慢出来ていたのが、完璧に風向きが変わってしまった。

「おめでとう! 予算がっつりとれたよ! 顧問の先生も、びっくりしてた!」

奥川が追加予算決定の通知書を持って、わざわざ放課後の理科室に登場したときには、その絶望が確定した。

「なんだよ、そんな大事なこと、先に俺に言うべきだろ」

彼女の耳元でそうつぶやいたら、妙に変な顔をされる。

「あんたに言ったって、しょうがないじゃない」

「先に教えてほしかった」

大事な話じゃないか。

それを鹿島たちに伝えずにおいておくことも出来た。

まぁいずれバレるかもしれないけど、その時には予算に手をつけずにおいて、「すいませんでした」って、そのまま生徒会本部に全額を返してしまえばいい。

もしくは予算が下りないことを理由に、参加をあきらめさせることも出来たのに。

突然のそんな大きな追加予算を学校側が許すなんて、俺の大きな誤算だ。

「やったぁ!」

鹿島たちと一緒になって、彼女まで盛り上がっている。

どういう風の吹き回しだ。

うちの部に全く興味もなかったくせに。

しかもお前はまだ部員でもないんだから、関係ないだろ。

そういう特別な話題は、特別な相手にだけ、特別に話してほしい。

隣のクラスとはいえ、廊下でもすれ違うこともあるのに、何も話しかけられなかったのが、少し悔しい。

どうして彼女の方から、声をかけてくれないんだろう。

「じゃあ早速、資材の買い出しに行こうぜ」

1年軍団が立ち上がった。

何を始めようっていうんだ。

これ以上俺を無視して、好き勝手なことはさせない。

「待て。お前らはまだ、仮入部の期間だっていっただろ。なんの権限があってこんなことしてんだ。入部届けを、俺はまだ受け取ってねーぞ」

ぴたりと動きの止まった1年軍団の中で、鹿島は一人振り返った。

「部長、入部届けは、もう書いたはずです」

「まだ仮入部の期間だっつってるだろ。たとえ今ここで入部届けを出したとしても、正式に部員となるのは、週明けだ」

学校の決まりでそうなってるんだ。だろ? 

俺は何一つ、間違ったことを言っていない。

「だったら、俺たちはもう部員なんじゃないんですか」

「この活動計画にしたって、本当は部長の俺が書いて出すべきものなのに、そうじゃない人間が書いて認められるなんて、おかしくないか? 生徒会本部は、どういう判断してんだよ。部員でもない新1年が書いた計画案だぜ?」

そう、こんなものに意味はない。

黄ばんだ再生紙の上に並んでいるのは、その数字も文字も、ただのインクの染みだ。

「俺は別にニューロボコンへの参加を否定してるわけじゃない。予算だって、認めてもらえたのはありがたいと思ってるよ」

俺はそこにあった、ただの再生パルプの紙切れを手に取った。

「だけど、勝手な判断は認められない。これは俺たちでどうするのか、今後考える。それに文句のあるやつは、ここから出て行け」

やりたいことがあるのなら、自分たちで新しい部活なりサークルなりを、作ればいいじゃないか。

お前らがここを出て行くといえば、この予算はそっくりそのままくれてやるし、なんならサークルの立ち上げを手伝ってやってもいい。

この理科室がほしいと言うのなら、ここを譲ったって、俺たちに新しい部室を用意してもらえるのならば、それでもいいと思ってるんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

稀代の大賢者は0歳児から暗躍する〜公爵家のご令息は運命に抵抗する〜

撫羽
ファンタジー
ある邸で秘密の会議が開かれていた。 そこに出席している3歳児、王弟殿下の一人息子。実は前世を覚えていた。しかもやり直しの生だった!? どうしてちびっ子が秘密の会議に出席するような事になっているのか? 何があったのか? それは生後半年の頃に遡る。 『ばぶぁッ!』と元気な声で目覚めた赤ん坊。 おかしいぞ。確かに俺は刺されて死んだ筈だ。 なのに、目が覚めたら見覚えのある部屋だった。両親が心配そうに見ている。 しかも若い。え? どうなってんだ? 体を起こすと、嫌でも目に入る自分のポヨンとした赤ちゃん体型。マジかよ!? 神がいるなら、0歳児スタートはやめてほしかった。 何故だか分からないけど、人生をやり直す事になった。実は将来、大賢者に選ばれ魔族討伐に出る筈だ。だが、それは避けないといけない。 何故ならそこで、俺は殺されたからだ。 ならば、大賢者に選ばれなければいいじゃん!と、小さな使い魔と一緒に奮闘する。 でも、それなら魔族の問題はどうするんだ? それも解決してやろうではないか! 小さな胸を張って、根拠もないのに自信満々だ。 今回は初めての0歳児スタートです。 小さな賢者が自分の家族と、大好きな婚約者を守る為に奮闘します。 今度こそ、殺されずに生き残れるのか!? とは言うものの、全然ハードな内容ではありません。 今回も癒しをお届けできればと思います。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

女装男子は百合乙女の夢を見るか? ✿【男の娘の女子校生活】学園一の美少女に付きまとわれて幼なじみの貞操が危なくなった。

千石杏香
ライト文芸
✿【好きな人が百合なら女の子になるしかない】 男子中学生・上原一冴(うえはら・かずさ)は陰キャでボッチだ。ある日のこと、学園一の美少女・鈴宮蘭(すずみや・らん)が女子とキスしているところを目撃する。蘭は同性愛者なのか――。こっそりと妹の制服を借りて始めた女装。鏡に映った自分は女子そのものだった。しかし、幼なじみ・東條菊花(とうじょう・きっか)に現場を取り押さえられる。 菊花に嵌められた一冴は、中学卒業後に女子校へ進学することが決まる。三年間、女子高生の「いちご」として生活し、女子寮で暮らさなければならない。 「女が女を好きになるはずがない」 女子しかいない学校で、男子だとバレていないなら、一冴は誰にも盗られない――そんな思惑を巡らせる菊花。 しかし女子寮には、「いちご」の正体が一冴だと知らない蘭がいた。それこそが修羅場の始まりだった。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多
ライト文芸
 恋人に振られて独立を決心!  尊敬する先輩から紹介された家は庭付き駐車場付きで家賃一万円!  庭は畑仕事もできるくらいに広くみかんや柿、林檎のなる果実園もある。  さらに言えばリフォームしたての古民家は新築同然のピッカピカ!  そんな至れり尽くせりの家の家賃が一万円なわけがない!  古めかしい残置物からの熱い視線、夜な夜なさざめく話し声。  見えてしまう特異体質の瞳で見たこの家の住人達に納得のこのお値段!  見知らぬ土地で友人も居ない新天地の家に置いて行かれた道具から生まれた付喪神達との共同生活が今スタート! **************************************************************** 第6回ほっこり・じんわり大賞で読者賞を頂きました! 沢山の方に読んでいただき、そして投票を頂きまして本当にありがとうございました! ****************************************************************

薔薇紳士の興じ事

世万江生紬
ライト文芸
ここは悩み事を抱える人だけが訪れることの出来る、古いけれど綺麗で落ち着く喫茶店『Rose』。この喫茶店の店主、薔薇紳士はお客様のお悩みを紳士に解決する――。

黄昏の恋人~この手のぬくもりを忘れない~【完結】

水樹ゆう
ライト文芸
高校三年生の優花は、三年前の交通事故以来『誰かと逃げる夢』を繰り返し見ていた。不意打ちのファーストキスの相手が幼馴染の晃一郎だと知ったその日、優花の運命は大きく動き出す――。 失われた記憶の向こう側にあるのもは? 現代学園を舞台に繰り広げられる、心に傷を負った女子高生とそれを見守る幼馴染の織りなす、恋と友情と切ない別れの物語。 2019/03/01 連載スタート 2019/04/11 完結 ★内容について 現代の高校を舞台に、主人公の優花が体験する運命を変える長い1日の物語です。恋愛(幼馴染との淡い初恋)、ファンタジー、SF、サスペンス、家族愛、友情など、様々な要素を含んで物語は展開します。 ★更新について 1日1~5ページ。1ページは1000~2000文字くらいです。 一カ月ほどの連載になるかと思います。 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。 ★ライト文芸大賞に参加中です♪

男女差別を禁止したら国が滅びました。

ノ木瀬 優
ライト文芸
『性別による差別を禁止する』  新たに施行された法律により、人々の生活は大きく変化していき、最終的には…………。 ※本作は、フィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

処理中です...