桔梗の花咲く庭

岡智 みみか

文字の大きさ
上 下
27 / 86
第8章

第1話

しおりを挟む
朝が来て、そっと起き上がった。

衝立の向こうはとっくに空っぽで、そんな光景も、もう見慣れたもんだ。

「おはようございます。朝餉の支度が出来ました」

廊下で正座をして、指先を床につき丁寧に頭を下げる。

晋太郎さんは振り返った。

「今朝は晋太郎さんのお好きな筍を焼かせていただきました」

その人は明らかにムッと眉根を寄せ、難しい顔で私を見下ろす。

「さぁ、参りましょう」

「……。分かりました」

渋々と立ち上がると、ゆっくりと歩きだす。

私はその後ろをしずしずとついて歩いた。

なんて貞淑な嫁だ。

ちらりと晋太郎さんがこちらを振り返ったのを、最大級の微笑みで返す。

私は私なりの努力をすると決めたのだ。

好きにしてよいと言ったのは、晋太郎さん自身なのだから。

「食べ終わったら、私の詠んだ句をみてもらってもよろしいでしょうか。晋太郎さんは、和歌のたしなみもおありとお伺いしたので」

朝餉の席につく。

普通に無視されたって、全然平気。

お茶碗に炊いたご飯をよそうと、そっと差し出した。

「あの……。和歌の手習いをお願いしたいのですが……」

「……。お断りします。私は他にしなければならないことがありますので」

「ですが、晋太郎さんはずっと奥の部屋に籠もりっきりで、私と顔を合わすことはほとんどないではありませんか。もう少し夫婦の絆というものを……」

「志乃さん」

その人は私の言葉を遮った。

じっと見下ろしてくるその目に、私は負けないようにと、ぐっと見上げる。

「私に構う必要はないと、昨夜も散々申し上げました。あなたはあなたの好きなようになさってくださって結構なのですよ。遠慮は不要だと、あれほど互いに確認しあったではないですか。必要なら私の方からお願いするので、それまでは……」

「晋太郎。みておやりなさい」

お義父さまが口を開いた。

その一言にシンと静まりかえる。

お義父さまのすすった味噌汁の音が響く。

「志乃さんの句を、みておやりなさい」

「……。分かりました。では、そういたします」

静かな朝餉の席になった。

食事を終えたお義父さまは、お勤めに出られる。

それを義母と見送った。

「さ、片付けはこちらでやっておくから、あなたは早く行ってらっしゃい」

ぽんと肩を叩かれた。

お義母さまはにこっと微笑む。

「頑張ってね」

「はい」

とは答えてみたものの、実はまともに和歌だなんて詠んだことはない。

とっさに口から出たでまかせだったのに……。

困った。

お義母さまの趣味の会に付き合って、見よう見まねで筆を持ってみたくらいしかしたことない。

教えてもらおうにも、何一つ詠んだ句などないのに……。

「よし、何とかしよう!」

お義父さまにまで言われた以上、ここで引き下がるわけにはいかない。

文台から紙と筆を取り出す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花と娶らば

晦リリ
BL
生まれながらに備わった奇特な力のせいで神の贄に選ばれた芹。 幽閉される生活を支えてくれるのは、無愛想かつ献身的な従者の蘇芳だ。 贄として召し上げられる日を思いつつ和やかに過ごしていたある日、鬼妖たちの襲撃を受けた芹は、驚きの光景を目にする。 寡黙な従者攻×生贄として育てられた両性具有受け ※『君がため』と同じ世界観です。 ※ムーンライトノベルズでも掲載中です。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ

中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。 ※ 作品 「男装バレてイケメンに~」 「灼熱の砂丘」 「イケメンはずんどうぽっちゃり…」 こちらの作品を先にお読みください。 各、作品のファン様へ。 こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。 故に、本作品のイメージが崩れた!とか。 あのキャラにこんなことさせないで!とか。 その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)

処理中です...