桔梗の花咲く庭

岡智 みみか

文字の大きさ
上 下
16 / 86
第5章

第4話

しおりを挟む
そうやって腹をくくり、構えて待っているというのに、いつまで経ってもやって来る気配はない。

夜はとうに更けた。

絶対に起きて待っていようと思っているのに、眠気に押されてしまっている。

やがてウトウトとしてきた。

話す内容をもう一度復習する。

今日の夕餉で美味しかったと思ったところと、明日の朝餉のこと。

それなら毎日聞けるし、返事にも困らないだろうから。

朝餉に添える漬物の話しをすれば、ちゃんとあの人の望み通りに出来るし。

白菜と大根の漬物があるから、それのどっちが好きかを聞いて、お義母さまや台所を手伝う奉公人さんたちにはバレないように、こっそり多めに皿に盛ってあげれば……。

そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまっていて、目を覚ました時にはすでに朝日が昇っていた。

私の上には布団が掛けられていて、衝立の向こうのあの人の布団は、なに一つ乱れていないままだ。

朝餉になっても、食事に現れない。

「晋太郎さんは、どうしたのでしょうか」

空席のままになっている隣の席で、味噌汁はすっかり冷めてしまった。

「さぁ、私に聞かれても分かりません」

いつも元気なお義母さまは、今日は味方になってくれないらしい。

助けてくれるって言ったのに……。

「あの、私が行ってみても、大丈夫でしょうか?」

「どこへ?」

「奥の部屋へ……」

義母はあっけにとられたような顔をする。

「そんなこと、私に聞く?」

義母は一番に朝餉を食べ終えると、ため息をついた。

「行きたいなら、行ってきなさいよ。夫婦なんでしょ?」

今朝のお義母さまは素っ気ない。

滅入りそうな私を見て、お祖母さまが口を開いた。

「晋太郎は優しい子だから、志乃さんのことも悪くは思ってないはずですよ。気にせず行ってらっしゃい」

そうだ。そうだよね。

遠慮はいらないと言ったのだから、私だって遠慮する必要はないのだ。

どうすればいいのかなんて、考えたって分からない。

分からないことは考えてもしょうがないので、考える必要もない。

正直、待っているのは私の性に合ってないんだった! 

「はい! では、行って参ります!」

私と晋太郎さんは、ちゃんとした夫婦なんだから! 

お義母さまとお祖母さまの応援を受けて、気合い入れに帯をバシバシ叩く。

あの人の好物だという籠八屋のあん餅を武器に、いざ敵地へと赴かん!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

戦国の華と徒花

三田村優希(または南雲天音)
歴史・時代
武田信玄の命令によって、織田信長の妹であるお市の侍女として潜入した忍びの於小夜(おさよ)。 付き従う内にお市に心酔し、武田家を裏切る形となってしまう。 そんな彼女は人並みに恋をし、同じ武田の忍びである小十郎と夫婦になる。 二人を裏切り者と見做し、刺客が送られてくる。小十郎も柴田勝家の足軽頭となっており、刺客に怯えつつも何とか女児を出産し於奈津(おなつ)と命名する。 しかし頭領であり於小夜の叔父でもある新井庄助の命令で、於奈津は母親から引き離され忍びとしての英才教育を受けるために真田家へと送られてしまう。 悲嘆に暮れる於小夜だが、お市と共に悲運へと呑まれていく。 ※拙作「異郷の残菊」と繋がりがありますが、単独で読んでも問題がございません 【他サイト掲載:NOVEL DAYS】

鈍亀の軌跡

高鉢 健太
歴史・時代
日本の潜水艦の歴史を変えた軌跡をたどるお話。

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

不屈の葵

ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む! これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。 幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。 本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。 家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。 今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。 家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。 笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。 戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。 愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目! 歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』 ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

戦後戦線異状あり

一条おかゆ
歴史・時代
欧州大戦に勝利した多民族国家、二重帝国。アンゲリカ・ミッターマイヤーは秘密兵科である魔術師として大戦に従事し、現在は社会主義者や民族主義者を鎮圧する『防禦隊』の中隊長。 しかし、そんなアンゲリカは戦時下に摂取した、魔力を魔元素へと変えて魔術の行使を可能にする石、第四世代魔石の副作用に苛まれていた。 社会主義と民族主義が蠢く帝都ヴィエナで、彼女は何を見て何を感じていくのか── 賞に投稿いたしました作品です。九万字前後で終わります。

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

処理中です...