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第5章
第4話
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そうやって腹をくくり、構えて待っているというのに、いつまで経ってもやって来る気配はない。
夜はとうに更けた。
絶対に起きて待っていようと思っているのに、眠気に押されてしまっている。
やがてウトウトとしてきた。
話す内容をもう一度復習する。
今日の夕餉で美味しかったと思ったところと、明日の朝餉のこと。
それなら毎日聞けるし、返事にも困らないだろうから。
朝餉に添える漬物の話しをすれば、ちゃんとあの人の望み通りに出来るし。
白菜と大根の漬物があるから、それのどっちが好きかを聞いて、お義母さまや台所を手伝う奉公人さんたちにはバレないように、こっそり多めに皿に盛ってあげれば……。
そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまっていて、目を覚ました時にはすでに朝日が昇っていた。
私の上には布団が掛けられていて、衝立の向こうのあの人の布団は、なに一つ乱れていないままだ。
朝餉になっても、食事に現れない。
「晋太郎さんは、どうしたのでしょうか」
空席のままになっている隣の席で、味噌汁はすっかり冷めてしまった。
「さぁ、私に聞かれても分かりません」
いつも元気なお義母さまは、今日は味方になってくれないらしい。
助けてくれるって言ったのに……。
「あの、私が行ってみても、大丈夫でしょうか?」
「どこへ?」
「奥の部屋へ……」
義母はあっけにとられたような顔をする。
「そんなこと、私に聞く?」
義母は一番に朝餉を食べ終えると、ため息をついた。
「行きたいなら、行ってきなさいよ。夫婦なんでしょ?」
今朝のお義母さまは素っ気ない。
滅入りそうな私を見て、お祖母さまが口を開いた。
「晋太郎は優しい子だから、志乃さんのことも悪くは思ってないはずですよ。気にせず行ってらっしゃい」
そうだ。そうだよね。
遠慮はいらないと言ったのだから、私だって遠慮する必要はないのだ。
どうすればいいのかなんて、考えたって分からない。
分からないことは考えてもしょうがないので、考える必要もない。
正直、待っているのは私の性に合ってないんだった!
「はい! では、行って参ります!」
私と晋太郎さんは、ちゃんとした夫婦なんだから!
お義母さまとお祖母さまの応援を受けて、気合い入れに帯をバシバシ叩く。
あの人の好物だという籠八屋のあん餅を武器に、いざ敵地へと赴かん!
夜はとうに更けた。
絶対に起きて待っていようと思っているのに、眠気に押されてしまっている。
やがてウトウトとしてきた。
話す内容をもう一度復習する。
今日の夕餉で美味しかったと思ったところと、明日の朝餉のこと。
それなら毎日聞けるし、返事にも困らないだろうから。
朝餉に添える漬物の話しをすれば、ちゃんとあの人の望み通りに出来るし。
白菜と大根の漬物があるから、それのどっちが好きかを聞いて、お義母さまや台所を手伝う奉公人さんたちにはバレないように、こっそり多めに皿に盛ってあげれば……。
そんなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまっていて、目を覚ました時にはすでに朝日が昇っていた。
私の上には布団が掛けられていて、衝立の向こうのあの人の布団は、なに一つ乱れていないままだ。
朝餉になっても、食事に現れない。
「晋太郎さんは、どうしたのでしょうか」
空席のままになっている隣の席で、味噌汁はすっかり冷めてしまった。
「さぁ、私に聞かれても分かりません」
いつも元気なお義母さまは、今日は味方になってくれないらしい。
助けてくれるって言ったのに……。
「あの、私が行ってみても、大丈夫でしょうか?」
「どこへ?」
「奥の部屋へ……」
義母はあっけにとられたような顔をする。
「そんなこと、私に聞く?」
義母は一番に朝餉を食べ終えると、ため息をついた。
「行きたいなら、行ってきなさいよ。夫婦なんでしょ?」
今朝のお義母さまは素っ気ない。
滅入りそうな私を見て、お祖母さまが口を開いた。
「晋太郎は優しい子だから、志乃さんのことも悪くは思ってないはずですよ。気にせず行ってらっしゃい」
そうだ。そうだよね。
遠慮はいらないと言ったのだから、私だって遠慮する必要はないのだ。
どうすればいいのかなんて、考えたって分からない。
分からないことは考えてもしょうがないので、考える必要もない。
正直、待っているのは私の性に合ってないんだった!
「はい! では、行って参ります!」
私と晋太郎さんは、ちゃんとした夫婦なんだから!
お義母さまとお祖母さまの応援を受けて、気合い入れに帯をバシバシ叩く。
あの人の好物だという籠八屋のあん餅を武器に、いざ敵地へと赴かん!
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