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第10章
第1話
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学校生活において、体育の授業というのは特別な時間だ。
いつもは小田っちのゆるゆる指導なので好き勝手やってるけど、今日は用事があって細木が代理を務めるらしい。
あたしたちは体操服姿で校庭に整列させられていた。
「あー。……。本日は……よろしくお願いします」
そう言って細木はペコリと頭を下げた。
そんなこと言われたって、あたしたちもどうしていいのか分からない。
どう反応していいのかも分からず、ただ困って立ちつくしているあたしたちを前にして、あたしたち以上に細木は困っていた。
「えー……っと。……いま何やってんの?」
いつもなら小田っちが授業の始まってすぐ「今日は何するー?」って聞いてくるから、体育館なら「バスケがいい」とか、運動場なら「ドッチボール」とか言って始まるのに。
もちろん「今日はマット運動じゃないとダメだからマットね」とか言われることもあるけど……。
チラリと細木を見上げた。
何かのノートをめくっている。
どうやらそこに細木の探す答えは見つからなかったようだ。
ますます困った顔をしてあたしたちを見下ろす。
「体育の教科担当は?」
「はい」
あたしとさーちゃんが手をあげた。
細木の顔が明らかに極端に曇る。
「なんすか」
「『なんすか』じゃないです。今は授業で何をやっているのですか」
クラスのみんながざわざわとし始める。
あたしは前に出たさーちゃんと目を合わせた。
「どうする?」
「いつも通り、みんなに聞いてみんのがいいんじゃない?」
あたしはくるりと振り返った。
「今日は何するー?」
あれこれと意見が上がるなか、最終的に野球という意見に約30秒でまとまった。
「野球で」
そう言ったのに、やっぱり細木は困っている。
てゆーかこの先生のこと、困っているところしか見たことない。
「ダメ?」
「お、俺は……。先生は、あまり野球が得意ではないんですが……」
あたしとさーちゃんは、全くの同じタイミングと同じ角度で首をかしげた。
「それ、関係ある?」
「いや。多分ない……、です」
「じゃ、野球で」
この先生と話していたら、貴重な体育の時間がもったいない。
「それでいいですか?」
「……はい」
そうとなったら話しは早い。
バットやグローブを運びたい子は運んで、ファウルラインを引きたい子は「一回コレやってみたかったんだよねー!」とか言いながら準備を始めている。
そんなことも全く気にしないでキャッチポールを始めてるのもいれば、出てきたスコアボードへの落書きに夢中なのもいたりする。
「チーム分けはクラス対抗でいいよね」
「5回交代にしよっか」
「ピッチャーの位置、もっと前に出さない?」
細木はずっと何かを言いたげに後ろでうろうろしてるけど、小田っち流でやってきてるあたしたちは、勝手にどんどんルールを決めていく。
細木の小言は全部無視。
「まずは教科書の……って、持って来てないか。キャッチボールの基本の構えとかバッターボックスとか、インコースアウトコースの公式ルールでは……」
「とりあえず、やりながら考えようぜ」
「了解!」
合同で体育やってる一、二、三組の体育係で意見がまとまればそれでOK。
今日の気分が乗らない子は、記録係と公式ルール確認係だ。
最初に一組が審判係を引いたから、二組のうちとさーちゃんのいる三組が試合をすることになった。
「誰がどのポジションにつく?」
そんなのも全部30秒で決まる。
自分のやりたいポジションがある子たちが勝手に集まって交代の順番決めてるし、誰もいないポジションには余ってる子が、適当に気を利かせて入る仕組みだ。
いつもは小田っちのゆるゆる指導なので好き勝手やってるけど、今日は用事があって細木が代理を務めるらしい。
あたしたちは体操服姿で校庭に整列させられていた。
「あー。……。本日は……よろしくお願いします」
そう言って細木はペコリと頭を下げた。
そんなこと言われたって、あたしたちもどうしていいのか分からない。
どう反応していいのかも分からず、ただ困って立ちつくしているあたしたちを前にして、あたしたち以上に細木は困っていた。
「えー……っと。……いま何やってんの?」
いつもなら小田っちが授業の始まってすぐ「今日は何するー?」って聞いてくるから、体育館なら「バスケがいい」とか、運動場なら「ドッチボール」とか言って始まるのに。
もちろん「今日はマット運動じゃないとダメだからマットね」とか言われることもあるけど……。
チラリと細木を見上げた。
何かのノートをめくっている。
どうやらそこに細木の探す答えは見つからなかったようだ。
ますます困った顔をしてあたしたちを見下ろす。
「体育の教科担当は?」
「はい」
あたしとさーちゃんが手をあげた。
細木の顔が明らかに極端に曇る。
「なんすか」
「『なんすか』じゃないです。今は授業で何をやっているのですか」
クラスのみんながざわざわとし始める。
あたしは前に出たさーちゃんと目を合わせた。
「どうする?」
「いつも通り、みんなに聞いてみんのがいいんじゃない?」
あたしはくるりと振り返った。
「今日は何するー?」
あれこれと意見が上がるなか、最終的に野球という意見に約30秒でまとまった。
「野球で」
そう言ったのに、やっぱり細木は困っている。
てゆーかこの先生のこと、困っているところしか見たことない。
「ダメ?」
「お、俺は……。先生は、あまり野球が得意ではないんですが……」
あたしとさーちゃんは、全くの同じタイミングと同じ角度で首をかしげた。
「それ、関係ある?」
「いや。多分ない……、です」
「じゃ、野球で」
この先生と話していたら、貴重な体育の時間がもったいない。
「それでいいですか?」
「……はい」
そうとなったら話しは早い。
バットやグローブを運びたい子は運んで、ファウルラインを引きたい子は「一回コレやってみたかったんだよねー!」とか言いながら準備を始めている。
そんなことも全く気にしないでキャッチポールを始めてるのもいれば、出てきたスコアボードへの落書きに夢中なのもいたりする。
「チーム分けはクラス対抗でいいよね」
「5回交代にしよっか」
「ピッチャーの位置、もっと前に出さない?」
細木はずっと何かを言いたげに後ろでうろうろしてるけど、小田っち流でやってきてるあたしたちは、勝手にどんどんルールを決めていく。
細木の小言は全部無視。
「まずは教科書の……って、持って来てないか。キャッチボールの基本の構えとかバッターボックスとか、インコースアウトコースの公式ルールでは……」
「とりあえず、やりながら考えようぜ」
「了解!」
合同で体育やってる一、二、三組の体育係で意見がまとまればそれでOK。
今日の気分が乗らない子は、記録係と公式ルール確認係だ。
最初に一組が審判係を引いたから、二組のうちとさーちゃんのいる三組が試合をすることになった。
「誰がどのポジションにつく?」
そんなのも全部30秒で決まる。
自分のやりたいポジションがある子たちが勝手に集まって交代の順番決めてるし、誰もいないポジションには余ってる子が、適当に気を利かせて入る仕組みだ。
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