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第9章
第1話
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無事校長決裁も下り、ようやくサークルとしての活動が正式に認められた。
体育科準備室に細木から呼び出される。
その細木は腹の底から深く長く重いため息をついた。
「ねぇ、なんで俺?」
「知らないよ」
「それはうちらのセリフだっつーの」
細木の顔はどこまでも暗く青く沈んでいる。
「サークルとして認められはしたけど、まだまだ課題は山積です。活動実績がないと、予算はつかないよ」
「予算っているの?」
「金とか別によくない?」
「お前らは二人だけで、一生この調子でやっていく気か」
「いや一生って」
「高校生何年やる気だよ」
細木の周囲の空気だけは、いつだってどんよりと曇っている。
咳払いをした。
「予算がないと、せっかく新設が認められても続きません。来年3月、いや2月までに実績つくって予算つけてもらわないと、事実上の自然消滅だね。別に俺はそれでいいんだけど」
あたしは青白いやせっぽちの細木をギロリと見下ろす。
いっちーだって負けてない。
細木はまた咳払いをした。
「先生風邪引いてんの?」
「顔色悪いのはいつもじゃね?」
「うちの学校にはかつて鬼退治部があったし、昔その顧問をやってたのが小田先生で、この学校の卒業生で元主将の堀川先生がいたから、スムーズに許可されたけど……」
「堀川先生が?」
「そんなことも知らなかったのかよ」
また重く長いため息をつく。
「この先は本当にお前ら自身の問題だよ。部員もこんな確定幽霊部員ばっかでさ。本気で鬼の首一つでもとってこないと、冗談とか意地悪とかじゃなくて、マジで無理だから。そもそもお前ら、ホンモノの鬼を見たことあんのかよ? 鬼退治なんて言ってんの、何年前の話だ。今はもう時代が違うんだって」
どうせコイツには分からないのだろう。
あたしといっちーの体についた傷の痛みを。
先生はまたため息をついた。
「なんにせよ、サークルのままじゃあやりにくいよ。学校の支援が少ないからね。部に昇格させたかったら、自分たちで頑張れ。俺は知らん。以上」
突然呼び出されてそんなことを一方的にまくし立てられても、どうしろって言うんだ。
そもそもコイツにあれこれ言われる筋合いはない。
あたしはじっと細木を見下ろした。
「問題起こしても責任は取らないからな! こんなサークル、すぐにぶっ潰してやる!」
なぜかキレられる。
「はーい。分かりましたー」
「じゃあ失礼しまーす」
あたしといっちーは体育科準備室を出た。
分厚い扉で仕切られたから、もう大丈夫。
「なんなのアイツ?」
いっちーはブツブツと文句を言い始めた。
「イヤなら顧問辞めるか黙って放っとけばいいのに。なんでイチイチ言ってくるかな」
「文句言ってもしょうがないよ」
細木の言うことも一理はある。
「間違ったことは言ってないもん。自分たちでどうにかするしかないよ」
今日は演武場を使える日じゃない。
結局自分たちの教室に戻る。
窓からは秋の空が高く澄んでいた。
「鬼退治行くか」
気は重い。
いっちーの顔にも陰りが浮かぶ。
「鬼検索アプリ、もう今月末で運用が終わるんだよね。元々死んでたけど」
書き込みは半年に一度あるかないかのペースになってしまっている。
それも出没情報などではなく、「頑張って鬼退治を続けましょう」的な励ましの言葉が並ぶだけ。
たまに降って湧いたように勢いだけいいのが入ってくるけど、タイムラインをちょっぴり荒らすくらいですぐに消えていなくなる。
「最近、いっちーの傷は痛んでる?」
「……そんなの、なくなるわけないじゃん」
熱を少し下げた風は校舎の外を吹き抜ける。
「じゃ、行こっか。鬼退治」
顔を上げると、彼女はニッと微笑んで見せた。
「よし。腕章つけて行こうぜ」
それでもあたしたちは、まだ鬼はこの世界にいることを知っている。
小田っちが倉庫に保管していた段ボールから、かつて鬼退治巡回中につけていた腕章も見つけた。
それを制服の袖に通す。
「なんかカッコよくない?」
「うん! すっごくいい!」
腰にはこん棒がぶら下がる。
先のことは気にしたって仕方がない。
いまやれることをやるしかないんだ。
正門に並んだあたしたちは、ビシッとそろって腕組みをする。
外をにらみつけた。
「よし、行くか!」
「おう!」
体育科準備室に細木から呼び出される。
その細木は腹の底から深く長く重いため息をついた。
「ねぇ、なんで俺?」
「知らないよ」
「それはうちらのセリフだっつーの」
細木の顔はどこまでも暗く青く沈んでいる。
「サークルとして認められはしたけど、まだまだ課題は山積です。活動実績がないと、予算はつかないよ」
「予算っているの?」
「金とか別によくない?」
「お前らは二人だけで、一生この調子でやっていく気か」
「いや一生って」
「高校生何年やる気だよ」
細木の周囲の空気だけは、いつだってどんよりと曇っている。
咳払いをした。
「予算がないと、せっかく新設が認められても続きません。来年3月、いや2月までに実績つくって予算つけてもらわないと、事実上の自然消滅だね。別に俺はそれでいいんだけど」
あたしは青白いやせっぽちの細木をギロリと見下ろす。
いっちーだって負けてない。
細木はまた咳払いをした。
「先生風邪引いてんの?」
「顔色悪いのはいつもじゃね?」
「うちの学校にはかつて鬼退治部があったし、昔その顧問をやってたのが小田先生で、この学校の卒業生で元主将の堀川先生がいたから、スムーズに許可されたけど……」
「堀川先生が?」
「そんなことも知らなかったのかよ」
また重く長いため息をつく。
「この先は本当にお前ら自身の問題だよ。部員もこんな確定幽霊部員ばっかでさ。本気で鬼の首一つでもとってこないと、冗談とか意地悪とかじゃなくて、マジで無理だから。そもそもお前ら、ホンモノの鬼を見たことあんのかよ? 鬼退治なんて言ってんの、何年前の話だ。今はもう時代が違うんだって」
どうせコイツには分からないのだろう。
あたしといっちーの体についた傷の痛みを。
先生はまたため息をついた。
「なんにせよ、サークルのままじゃあやりにくいよ。学校の支援が少ないからね。部に昇格させたかったら、自分たちで頑張れ。俺は知らん。以上」
突然呼び出されてそんなことを一方的にまくし立てられても、どうしろって言うんだ。
そもそもコイツにあれこれ言われる筋合いはない。
あたしはじっと細木を見下ろした。
「問題起こしても責任は取らないからな! こんなサークル、すぐにぶっ潰してやる!」
なぜかキレられる。
「はーい。分かりましたー」
「じゃあ失礼しまーす」
あたしといっちーは体育科準備室を出た。
分厚い扉で仕切られたから、もう大丈夫。
「なんなのアイツ?」
いっちーはブツブツと文句を言い始めた。
「イヤなら顧問辞めるか黙って放っとけばいいのに。なんでイチイチ言ってくるかな」
「文句言ってもしょうがないよ」
細木の言うことも一理はある。
「間違ったことは言ってないもん。自分たちでどうにかするしかないよ」
今日は演武場を使える日じゃない。
結局自分たちの教室に戻る。
窓からは秋の空が高く澄んでいた。
「鬼退治行くか」
気は重い。
いっちーの顔にも陰りが浮かぶ。
「鬼検索アプリ、もう今月末で運用が終わるんだよね。元々死んでたけど」
書き込みは半年に一度あるかないかのペースになってしまっている。
それも出没情報などではなく、「頑張って鬼退治を続けましょう」的な励ましの言葉が並ぶだけ。
たまに降って湧いたように勢いだけいいのが入ってくるけど、タイムラインをちょっぴり荒らすくらいですぐに消えていなくなる。
「最近、いっちーの傷は痛んでる?」
「……そんなの、なくなるわけないじゃん」
熱を少し下げた風は校舎の外を吹き抜ける。
「じゃ、行こっか。鬼退治」
顔を上げると、彼女はニッと微笑んで見せた。
「よし。腕章つけて行こうぜ」
それでもあたしたちは、まだ鬼はこの世界にいることを知っている。
小田っちが倉庫に保管していた段ボールから、かつて鬼退治巡回中につけていた腕章も見つけた。
それを制服の袖に通す。
「なんかカッコよくない?」
「うん! すっごくいい!」
腰にはこん棒がぶら下がる。
先のことは気にしたって仕方がない。
いまやれることをやるしかないんだ。
正門に並んだあたしたちは、ビシッとそろって腕組みをする。
外をにらみつけた。
「よし、行くか!」
「おう!」
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